第37話
本日ラストの更新('ω')!
ヤールンの荷物は件の男達が張り込んでいた為か、逆にまったく荒らされていなかった。
奇しくも愚連隊の皆さんは警備員の役目を果たしていたわけだ。
そもそも、ヤールンのテントには物が極端に少なかったということもあるが。
「ヤールンさん、テント畳み終わりましたよ。荷物は大丈夫ですか?」
「あ、ああ……大丈夫や」
ヤールンの様子が少しおかしい。
昨日の恐怖を思い出したのだろうか?
手早く『踊るアヒル亭』に引き返すとしよう。
少し汗をかいたので風呂に入りたいが、この世界の一般的な宿屋に風呂はないそうだ。
頼めば、お湯を張った桶を持ってきてくれるらしいが。
いざとなったら、こっそり【安息の我が家】をどこかで使って風呂に入ろう。
テントなどの大きな荷物を僕は担ぎ上げる。
ドワーフとはいえ、重たいものを女の子に持たせるのは気が引けるし。
「あ、あのな、にーさん」
「なんです?」
『踊るアヒル亭』への道すがら、先程からちょっとうつむき加減なヤールンが、僕を見上げながら声をかけてきた。
「その……ありがとう」
「どういたしまして。ヤールンさんの荷物が無事で一安心ですよ」
「せ、せやな」
「帰ったら服を着替えてくださいね。今、着てるの結構ボロボロですよ」
着の身着のまま、武器だけ振り回して逃げてきた、というヤールンの服は目のやり場に困るほどに傷んでしまっている
「大変でしたね。ま……今日からは安心してぐっすり眠れますよ」
「えらい自信やな」
「『踊るアヒル亭は』一階部分が食堂ですし、部屋は鍵もかかりますからね。いざとなったら店主のジャブローさんは相当強いみたいですし」
それに僕だって、いざとなったらそこそこにヤールンを守ってやれるだろう。
「そうやなくて」
「はい?」
「男女が云々いうてたやん」
ヤールンが寝てる間は夜の町を散策するか、街の外に出て【安息の我が家】を使えばいいだけの話だ。
「ヤールンさんは気にせずにベッドを使ってくださいね。僕、こう見えて魔法使いなんで多少眠らなくても大丈夫ですし」
「え……」
「安心してください。僕は寝込みを襲うようなことは絶対にしませんよ」
こんな事件の後だ、男性不信に陥っても仕方あるまい。
安心して休める場所が、ヤールンには必要だろう。
そもそも、竜人になってから、睡眠はそれほど必要なくなったらしい僕は、三、四日くらいは平気で起きていられる。
もっとも、眠ろうと思えば簡単に眠ることはできるのは、僕の怠惰な性格のせいに違いないけど。
ミッサへの義理もあって同部屋を承諾したが、いざとなれば領主の館に逗留することもできる。
……恐ろしく気は進まないけれど。
「アタシはそこまで魅力のない女なん?」
「え」
半ば涙目のヤールンが、僕を見上げている。
「ちょっと、いや、まって……なんで涙目ッ」
おろおろするしかない僕。
実に情けない限りである。
「ちょ、泣かないで。ヤールンさん。ね、ほら、帰ったら一杯おごりますから」
「自分のもんや言うたり、眼中なし宣言したりなんなんやー……うぁーぁぁぁぁん」
意外と泣き虫なのか、ヤールンは座り込んで泣き始めてしまった。
僕にしても、どうしていいのかおろおろするばかりで埒が明かない。
ぼっち上等だった高校生男子に泣く娘の相手は難題過ぎる!
「ユウ?こんなところで何してるのよ」
聞いた声がかかる。
猫族の女戦士が、猫らしく足音もなく姿を現した。
渡りに船。
地獄に仏。
困ったときのミリィさん。
正直助かった。
「ああ、ミリィさん。すいません、ちょっと知り合いがいろいろあって……」
「ああ、もう女の子泣かせて。だめよユウ。ほら、立って立って」
ミリィがヤールンを支えるように立ち上がらせる。
「歩ける? とりあえず、落ち着けるところにいきましょう?」
ミリィに伴われて、『踊るアヒル亭』に戻ってくる。
ずいぶん遅い時間であるはずだが、一階には煌々と明かりが灯り、中はまだ賑やかであった。
ミリィは給仕をしているミッサに目配せして、一番奥の空いてる席へ僕たちを誘導する。
すぐにミッサが注文を取りに来て、ミリィは「オススメ3つくらいとエール3つ」とアバウトな注文をした。
僕は酒を飲めないんだが。
「折角だから私も今日はここで食べようと思ってね。で……どういうことか説明してもらえるかしら?」
ここまでの経緯をかいつまんでミリィに話す。
ミリィは特に遮ることなく、料理をつまみながら頷いて聞いていた。
ヤールンはというと、しばらくぐずりながらエールをあおっていたが、途中から僕の分のジョッキもつかみ、自棄酒のようにペースが早くなった。
水のように酒を飲むドワーフというイメージ通りの姿がそこにあって、軽く感動したのはヒミツだ。
「それで、この子が泣くようなことしたんでしょ? おねーさんに正直にいってみなさいな」
「いえ、それが皆目見当つかなくて」
僕が頭をかきながらいつもの苦笑をしてみせると、ミリィも苦笑いして「しかたないわね」と言った。
「わかったわ、ちょっと部屋に帰って待ってなさいな。こういうのは女同士のほうがわかりあえるものよ」
そう、ミリィが僕にウィンクして見せた。
猫ってウィンクできるんだ……などと、どうでもいい感想を抱きながらも、言われたとおり僕は部屋に戻ることにした。
ああ言われてしまえば、僕があの場所で出来ることはほとんどない。
ここは頼れるお姉さんにまかせてしまおう。
さて、ヤールンには、このやけに広いベッドを使ってもらうとして、僕は床で寝るか、なんとか誤魔化しながら【安息の我が家】を使うか……迷いどころである。
ただ、これ以上余計な騒ぎを起こすのは避けたい。
一ヶ月間、夜間に姿を消していては流石にバレそうだし、戦力が必要な時に見当たらないでは、僕が戦力的客分である意味がない。
おそらく、『鬼灯兵団』や警備の兵士達は夜間にこそ神経を尖らせて襲撃を警戒しているはずだろう。
いっそ、【安息の我が家】のことを言ってしまって宿の敷地内に設置してしまうか。
そうすれば、誰にも怪しまれないしミッサ達の好意も無駄にしないで済むだろう。
迷っていると、ノックの音。
「どうぞ」と返事をすると、ヤールンを伴ったミリィが扉を開けて入ってきた。
「事情は聞いたわ。ユウ、ヤールンときちんと話をしてあげてね。今日のところは引き上げるから。また明日、話を聞かせてもらうわよ」
「え、は……はい」
ミリィがなんだかニヤニヤしている気がする。
手を振ってさっくり帰ってしまったミリィ。
残されたのは、気まずい雰囲気の僕とヤールンである。
明日も三話更新で頑張ります('ω')
おっとこの空気は……ワンチャンあるか!?
って思った人は、是非うなぎに燃料を注いでください……