第33話
夕方の更新です('ω')
怒号のような大声が、『踊るアヒル亭』に響いた。
声の主──少女のなりは小さい。
立ち上がった足元に、やや脚が高めに調節された椅子が転がっているくらいには。
顔にはありありと怒りの感情が浮かび、僕とマーサ、そしてミッサを睨みつけている。
「どういうことやねん! 昨日の時点で部屋はもう余ってない言うてたやんけ! おかげでわざわざこの街まで防衛の為に来たったのに野宿や」
ああ、バッソが言ってた外縁部でテントを張ってるっていう……。
こんな若い子まで冒険者なのか。
「それはアンタが宿を探しきれなかっただけのことじゃないか。あたしに当たらないでおくれ」
ミッサが腰に手を当てて、毅然として言い放つ。
なかなか迫力あるカードだが、さっきから僕の周りに注目が集まりすぎではないだろうか。
『ステルス気味に目的を果たすレムシータ生活』瓦解の危機だ。
「せやから、部屋は余ってたんやんけ! なんで先に聞いたアタシが野宿で、今日ふらっと来たそいつが部屋使えんねん! おかしいやろ!」
少女の怒りは収まらないようだ。
「そもそもあんた、猫人の十人隊長連れてたってことは、『鬼灯兵団』の人間やろが! 拠点で寝ぇや! 『鬼灯兵団』やからって、どいつもこいつもでかいツラしよって鬱陶しいねん」
今度は机を引き倒し、床に置いてあった大型の戦斧に手をかける。
「ねえさん、俺の店で暴れるんなら飯も酒も遠慮してくれや」
そんな少女の背後に音もなく立っていたのは黒いエプロンをつけた壮年の男だった。
最近、戦いに小慣れてきた僕ですら、気配を上手く追えない動き。
まちがいなく手練れだ。
「なんやねんオッサン、料理人は厨房にこもっとk……」
最後まで言うことなく、少女は勢いよく店外に放り出される。
エプロンの男が放ったのは、まるで背負い投げのような投げ技。
まったく無駄のない滑らかな動きだ。
「アンタ! やりすぎじゃないかい」
流石にミッサが顔をしかめる。
「武器に手をかけた時点でウチの客じゃねえ」
それだけ告げると、僕をちらりと一瞥して厨房に戻っていった。
「そーかい。マーサ、ユウを案内したら、そこ片付けといておくれ」
「マーサ、さっきの人は?」
「おとうさん! 昔は冒険者をやってたんだって。すっごく強いの」
なるほど、それであの膂力か。
冒険者なんかの荒い人間を相手にする商売だ、あのくらい強くないとダメなんだろう。
しかし、すごい。
技術的には、間違いなく僕が数段劣っている。
あのような美しい一連の動きを出すことなど、今の僕にはできやしない。
仮に体術だけでやりあえば、きっと負けてしまう。
「うぇぇえええ……うえええぇぇ」
そんなことを考えていると、外からは大声で号泣する少女の声。
かなり強烈に放り投げられていたけど、大丈夫だろうか。
「ああ……入り口であれじゃ商売にならないよ……丁度一席あいたからあんたは先に食事しておきな。憲兵に事情を言って引き取ってもらうよ」
ミッサは入口を見やり、大きくため息をつきながら店の出入り口に向かおうとする。
「ミッサさん、僕も行きますよ。彼女、武器を持ってましたから」
「あんた、ひょろっこいのにホント、男らしいね、惚れちまうだろ」
ミッサとともに酒場の外に行くと、あひる座りになった件の少女が人目もはばかることなく大泣きしていた。
それはもう、これ以上ない『ザ・号泣』といった様相だ。
「あんた、うるさいよ! 商売の邪魔だからさっさと行きな! 警邏に突き出されたのかい?」
尚も泣き続ける少女は、泣いたまま立ち上がると、しゃくりあげながら斧を引きずって去ろうとする。
肘は擦りむけて、血がにじんでいるし、足も引きずり気味だ。
「待って」
なぜかは自分でもわからないが、少女の後姿に妙な危うさを感じた。
「待って、ほら。汚れてるし、怪我もしてるし、ね」
どう声をかけていいかわからず、しどろもどろになりながら少女を止める。
ミッサは「あーあ」という顔をしていたが、特に僕をとがめなかった。
再び、ぐずり出した少女におろおろとしていると、ミッサがため息をつきながら僕に訊ねる。
「あんた、その子どうするのさ」
「ど、どうしましょう……でも、こんな時間にケガした女の子を放り出すわけには行かないし……」
「しょうがないねぇ。まぁ、あんたがそういうなら仕方ないね。とりあえず連れて入ってきな」
ミッサが苦笑をもらしながらも、優しげな眼で僕を見た。
ヒロインさん候補、登場です('ω')
褐色!
小さい!
巨乳!
──関・西・弁!
ピンと来た人は評価ボタンをどうぞ……('ω')b