第30話
夕方の更新です('ω')
招かれた部屋の中には、いかにも歴戦の勇士然とした二十人ほどがずらりと座っていた。
一番上座の三席が空いており、そこにバッソが腰を下ろす。
ミリィに促され、僕はバッソの隣に緊張しながら座った。
「見ての通り魔法使い殿の協力を得ることができた。昨日の戦闘に参加したヤツにはわだかまりもあると思う。しかし、事情は昨日に話したとおりだ。今後はネルキド防衛の助力をしていただく客分として、この俺──千人隊長あずかりとなる。いいか?」
異議なし、との意思表示であろう沈黙と小さな頷きが見て取れた。
「ユウ、何か一言頼む」
ほら来た。
こういうの苦手なんだよなぁ……。
内心、盛大にため息をつきながら、咳払いを一つしてから挨拶をする。
「紹介されました、魔法使いのユウです。昨日はお互いの大きな勘違いから命のやり取りを交えることになりましたが、今、この瞬間からみなさんと一緒に仕事をする仲間となります。今日から一ヶ月間、よろしくお願いします」
深々と頭を下げる。
これに関して全員が大きな安堵のため息を心の中でついていたことなど、僕は知る由もなかったが「勘違いをして一方的な攻撃を加えた『鬼灯兵団』が許されるはずがない」と多くの者達が内心怖れていたために、僕の自己紹介はおおむね好意的に受け入れられたようだ。
「次に対価となるユウの依頼だが、すぐにでも『猿』を各都市に飛ばして開始したいと思う。情報屋のツテがあるやつは後で俺に申し出てくれ」
『猿』が何かはよくわからないが、おそらく何かしらの情報伝達手段だろう。
「以上だ。何か質問は?」
数人から手が上がる。
「なんだ?」
バッソが問う。
手を上げたうち、最も手前に居るエルフらしい男が立ち上がって、こちらに向き直った。
「ユウ殿はどこの隊に?」
「客分として俺が預かるのだから、俺の直下に置く。当分はミリィを世話役兼指導役としようと考えているが。それで答えになっているか?」
「はい、了解しました」
優雅に一礼してエルフらしい男は座った。
学級委員長のように規則正しい動きでとても好感が持てる。
これで女性だったらキュンとくるんだけど。
おっと、今のはオフレコで。
──黒竜王が僕の心を監視する魔法をかけていないことを願おう。
「他は?」
もう手を上げるものが居ないのを確認したバッソは立ち上がり、「ではいつもどおりに頼む」と会議を締めた。
ガヤガヤとした喧騒の中、仕事の支度をする者や雑談に興じる者の間をすり抜けて、僕はバッソとミリィに促され退出する。
扉を出て、僕が大きなため息をつくのをみたミリィが苦笑する。
「ああいう雰囲気って苦手なんですよね」
「あら、意外だわ。ずいぶん堂々としている様に見えたけど」
「固まっていただけですよ」
軽口が出る程度には緊張がほぐれたところで、バッソが僕の肩を叩く。
「さぁ、お次は市長のところだ。忙しなくてすまないな」
「いえ、トラブルのあった人ですからね。早めに済ませてしまいましょう」
屋敷の中をきょろきょろと見ながら廊下を歩く。
かなり挙動不審だが、初めて入るレムシータの町である上に、こんな状況が初めてだ。
周囲で交わされる会話の内容や、働く人々の立ち振る舞い。
興味は尽きない。
そういえば、この商館の雰囲気はなんだか学校に似ている。
レムシータにきてそれほどたっていないというのに、妙になつかしく思えて仕方なかった。
「あそこが市長の館だ」
市長宅はやや町外れにあったが、商館からは比較的近い位置にあった。
時間にして徒歩十五分ほど。
青い屋根が美しい、いかにも貴族のお屋敷といった風の建物。
周囲は塀に囲われており、格子門の前には憲兵が二人、警備にあたっていた。
バッソが兵士に軽く手を振って見せると、兵士の一人が駆け寄ってきた。
「バッソ千人隊長殿、今日はどういったご用件で?」
「話を通してあったはずだが……今日から『鬼灯兵団』で客分として預かることになった大魔法使いユウ殿の滞在の件で報告に来た」
憲兵が後ろを振り向き、もう一人の憲兵に視線を送る。
門の前で控えていた憲兵はコクリとうなずいて、門の中を巡回中の憲兵に走り寄り、何かを伝える。
そして僕たちが門にたどり着いた頃、館から件の貴族……テイラーズ市長が息を切らして出て来た。
「まさか『勇者』さまであったとはいざ知らず、失礼をいたしました!」
ダイナミックドゲザもかくやという勢いで、頭髪の薄くなった頭を下げ始めた。
他の兵士達も同様に、である。
僕は「ほら、面倒ごとになった」と困り顔でバッソを少し恨むことになった。
いかがでしたでしょうか('ω')