第27話
夕方の更新('ω')
今回も改稿の影響により少し短い目です
『鬼灯兵団』が帰った後、僕は一人で情報を整理していた。
今回の騒動は、これで手打ちと見ていいだろう。
問題は、提案のあった捜索の依頼をどうするべきかである。
バッソの言うとおり、この三次元に広いレムシータを【探索の羅針盤】片手に一人で歩き回るよりも、大規模な集団の情報を利用できるほうが圧倒的に効率はいいと思われる。
詳細な人相書きでも回しておけば、各都市に仕事で訪れるであろう彼ら『鬼灯兵団』が、ミカちゃんや他のクラスメートを見つけてくれる可能性は高い。
それに、迂闊に自分のような異世界人の情報を、むやみやたらと周囲に晒さなくてすむ利点がある。
『鬼灯兵団』との契約──というより自分が『渡り歩く者』であると知っているバッソ達との契約──に留め、【探索の羅針盤】である程度の方向を示せば、人海戦術的にミカちゃんを発見できるかもしれない。
金銭面のことはわからないが、かなり大量の金貨を【隠された金庫室】に詰めてきているし、何とか足りる……はずだ。
「よし」
ならば、利用できるものは利用させてもらおう。
直感だが、あの猫族の女性は信頼に足ると感じたし、バッソもあの後きちんと僕に謝罪をしてくれた。
彼らは『いい大人』であると判断できる。
すべて話すわけにはいかないが、情報を開示して手伝ってもらうことにしよう。
そう考えた僕は、翌日答えをもって広場へと向かった。
城門前で、朝から僕を待っていたらしいバッソとミリィへ、昨晩考えたことをかいつまんで伝えた。
「依頼のことは請け負った。安心してくれ、俺の名前でキチンと上に話を通しておくし、俺の傘下にいる部隊にだけじゃなくて、他の千人隊長にも依頼を通しておく」
「ありがとうございます」
依頼料のことを尋ねる前に快諾されてしまった。
「ただ、ちょっと困ったことになって……な。手を貸して欲しい」
「というと?」
「有り体に言うと、これは『鬼灯兵団』から冒険者ユウへの依頼だ。この街の防衛を手伝ってほしい」
いささか驚いたが、考えれば納得もできた。
『ドラゴンすら討伐できる戦力』とやらを、僕が一気に削いでしまったためだ。
まき散らした呪いや毒は強力で、まだ動けない者も多いとバッソは僕に説明した。
そこまで被害が出るとは。まき散らすだけまき散らしておいて、自分では治療できない。
心苦しい限りだ。
「昨日の戦いで『鬼灯兵団』は大きな被害を出してしまった。でも、それに関してはあなたを責めるつもりはまったくないわ。こちらが全面的に悪かったと思っている」
ミリィは耳を伏せて、心底申し訳なさそうに言う。
顔が猫でも表情は読み取れるものなんだな、などと思いながら逆に依頼された事柄について、どうしようかと考える。
そんな僕の表情を察してか、バッソが口を開く。
「まず、このネルキド市への入市許可を領主から取り付けた。期間外の特別許可だ。それこそ、今すぐにでもネルキド市へ入れる。次に……これは常識だから知っているかもしれないが、『塔都市』も魔大陸の最接近を理由に扉を閉ざしてるはずだ。向かっても中に入れない」
「そうなんですか?」
それは予想外だった。
いや、予想してしかるべきだったか。
僕の言葉に、「やはりか」……と半ばあきらめ顔をしたバッソが説明する。
「ああ、この都市だけじゃない。殆どの西部の主要都市は一ヶ月ほど出入禁止が続く。さらにもう一つ……これは俺の予想だが、塔を通って第二層大陸へ渡る算段をしているんじゃないか?」
「ええ。それ以外のルートがあるなら、それでもいいんですが。一番早いのはそれだと聞いて」
バッソは、ため息ともとれるような大きな息を吐きだし、首を振った。
「『塔』の入口を冒険者ギルドと探索者ギルド、及び商業ギルドが管理しているのは……知らなさそうだな」
「もしかして……入れないんですか?」
「冒険者ギルド登録の、素性のハッキリした冒険者としてある程度実績がないと、入塔許可が下りないだろうな。塔は危険だから、Cランクか最低でもDランクないと許可が下りないだろう」
「いろいろあるんですね……」
ぼやく僕を見てミリィが苦笑する。
「常識の範疇よ。『渡り歩く者』で隠遁魔術師の元にずっと居たなら知らないのも当然でしょうけど、それも含めて今回の依頼はあなたの為になると思うわ」
なるほど、この世界で僕は驚くほど世間知らずなのだろう。
それが今回の事態を招いたといえなくもない。
僕は、二人の要求をのむことにした。
いかがでしたでしょうか('ω')




