第26話
今日も三話更新で参ります('ω')!
前回に引き続きミリィ視点かつ短めです。
※猫族の戦士ミリィ視点です
「少年は我々に敵意がないならこれ以上は敵対するつもりはない、と言っていた。俺は今回の侘びも含めて少年の使命に協力すべきだと考えている」
バッソが隊長格を見回しながら言葉を紡ぐ。
さっきまで白目をむいていたとは思えない、凛々しい横顔に思わず笑いがこぼれそうになるがぐっとこらえる。
「私も彼と話をしたけど、私達に敵意を向ける様子はなかったわ。むしろ自分の攻撃で命を失った人を気にかけていた。彼は悪しき魔族ではなく、崇高で善良な人物だと思う」
バッソ大隊長の意見を後押しすべく、私も意見を挙げておく。
私達の言葉を聴いていた隊長達も、「二人がそう言うのであれば」と納得した様子だった。
しかし、問題はあった。
「バッソ大隊長。その件は了解しましたが……」
挙手して、百人隊長のベルググが切り出す。
「作戦に参加した百人中、後衛部隊であった約半数が重傷で行動不能です。また街の防衛に携わる予定の冒険者と、武装僧兵にも多数の怪我人が出ました。おそらくネルキド市の防衛依頼に大きな支障が出るでしょう」
『鬼灯兵団』は、冒険者のよく組む五人組を一部隊として、それを組み上げていく形で部隊を形成する。
二部隊を指揮する十人隊長。
十人隊長十人を配下に持つ百人隊長。
百人隊長十人を千人隊長が指揮する。
その千人隊長を束ねるのが『鬼灯王』と呼ばれる盟主である。
今回はネルキド防衛に来ているのはバッソ千人隊長と配下の三人の百人隊長、つまりは三百人での大規模な依頼であったが、その二割程が今回のことで機能しなくなっていた。
しかもやられたのは貴重な後衛役ばかりで、私の直接の上司である百人隊長、オウデも血の槍に貫かれて重傷。
回復魔法の使い手もことごとく謎の呪いにかかっていて、動けるものは少数だ。
いま、大型の大暴走がはじまれば、町に被害が出る可能性は大きい。
バッソ大隊長がいなくては、指揮系統も上手く成り立たない状態で、この魔大陸の大接近を乗り切れるのかといった不安がある
ここぞとばかりに手練ばかりを組み込んだことが、逆に裏目に出た。
「そうだな、それはとりあえず今居る人員でなんとかまわせるように編成しなおそう」
バッソ大隊長は部隊表を広げ、正確な状況の把握に乗り出した。
「その『勇者』様の力を借りるわけにはいかないのですかな?」
もう一人のドワーフ百人隊長が、立ち上がり意見する。
「使命に協力する代わりに、我々を助けてもらうというのはどうじゃろうか?」
「ゲムレット。それは俺も考えていたが、そればっかりは彼次第になる。急ぐ旅だといっていた」
彼次第というか、正確には断られている案件だ。
「いずれの神の使徒にしても、『神聖変異』を受けるような御仁が、民衆を見捨てるはずないと思うのじゃが」
ドワーフは大地の神である『ド=エルグ』を信仰しているものが多い。
『ド=エルグ』は過去にドワーフ王国とゴブリン王国の戦争の際、ある鍛冶師の少年に『神聖変異』を授けたことが、史実として伝えられている。
このドワーフの勇者への一方的な信頼はそこからきているのであろう。
ユウにしてみれば迷惑な話だろうけど。
「それもあわせて、明日確認してみよう。ミリィ、事情を把握しているお前にこの場のとりまとめを任せる。一時的に百人隊長昇格、かつ副大隊長扱いとする」
いきなり出世したが、手放しで喜んではいられない。
すなわち、いきなり現地雇用した百人の兵を運用し、ユウのことを含めて取りまとめてみせろ、というのだ。
丸投げにも程があるが、信頼されるのは悪くない気分。
「大隊長はどこへ?」
「領主に事情を説明してくる。彼の入国許可は許可をもらっているが、『神聖変異』所持者となれば話が違ってくる。こちらからお願いして手助けをお願いする立場だ。……ともなれば、平伏して頭を下げるのは、俺達とテイラーズ卿というワケだ」
ため息交じりにバッソ大隊長は笑う。
あのチョビ髭に頭を下げさせるのは至難の業だろう。
「そうね、わかったわ。意見のとりまとめをしておきます。他の隊長方もそれでよろしいかしら」
私の言葉に隊長達も頷く。
武装僧兵が駐留できるほどの教会を置く領主のことだし、『神聖変異』の話をすれば、実際のところはどうあれ、特例での期間外入領許可が引き出せるだろう。
この期に及んで許可が出せないというならば、『鬼灯兵団』を引き払うとバッソ大隊長が脅すにちがいない。
私個人としても、強力な『渡り歩く者』との縁を、ここで確実にしておきたい。
なまじ協力を断られたとしても、入国許可を取り付けたという押し付けのような一方的な貸しを作ることもできる。
「じゃ、会議をはじめましょ」
バッソ大隊長が出て行った会議室で、私は副大隊長としての責務を果たすべく、気合を入れた。
いかがでしたでしょうか('ω')