第22話
本日ラストの更新('ω')!
勘違いって恐ろしいんですよ……?
「早速の呼び出しですね。何を聞きたいんですか?」
早朝に呼び出された僕は、門扉前広場に立っている。
正面には完全武装のバッソ。
重そうな装備だ。
魔物相手だと、やはりあのくらい重装備するべきだろう。
僕の場合は、動きが制限される方がマズいけど。
「まず、うちの団員のことは謝っておく。あいつらはやりすぎた。退団することになるだろう」
「そうですか。それじゃあ、この件はおしまいってことで大丈夫ですね」
思ったよりも早い判断。
そうなると、僕への事情聴取とやらも終わりでいいだろう。
とっととこの場を離れて『塔』へ向かおう。
「いや、まだある」
バッソが手を一振りすると、門扉から完全武装の人間がぞろぞろと出てくる。
武装に統一性はなく、種族も様々。
さらに、石垣の上には弓や杖を携えた者もずらりと並んだ。
見送りにしては少し物々しい。
「もう一度、正確に名乗っておくことにする。俺は『鬼灯兵団』の千人隊長バッソ=ブレッソだ」
「なるほど、偉い人? ですね」
少しおどけた感じで僕は返す。
それに舌打すると、バッソは僕を睨みつけた。
「質問は昨日のテイラーズ卿と一緒だ」
バッソは腰の剣を引き抜き、自然体に構えた。
ふわりと風が流れるのがわかる。
魔法武器。
おそらく、風をどうこうするタイプの武器だろう。
バッソの抜刀に伴い、後方に控える集団も武器を構え、石垣の弓兵は矢をつがえ、魔術師たちは杖を掲げて集中に入る。
まるで戦闘準備をしているように見えるが、どういった訳だろうか。
「お前は何者で、何が目的だ」
「旅人のユウで、目的は友人を探すことです」
ウソではなかった。
質問に対する完全な要件を満たした解であるといえるだろう。
しかし、どうやらバッソにとっては納得いく答えではなかった様だ。
「冒険者でもないやつが、この第三層大陸を一人で旅すること自体がすでに妙なんだよ。それに、この辺にはエルフの氏族しかいない。これより西の集落はないんだ、ユウ。冒険者になりにきた、なんてヤツは北門から入ってくるモンなんだよッ!」
それは知らなかった。
あまり考えずに行動したことが悔やまれる。
「しかも、そういう得体の知れない輩が大暴走を単身で殲滅したって情報があがったら、この市の防衛を依頼された俺らとしては警戒しなきゃならない。わかるか?」
親切心でやったことが、かえって警戒心を煽ってしまった結果になったようだ。
小さな親切は、大きな疑心に化けてしまったらしい。
「黙ってないで何か言ったらどうだ。魔族野郎」
魔族。
主に第四層大陸の南部や古代遺跡群などに住む、禍々しい姿をした強力な生物群の総称。
一体一体が非常に強力な上に、高い社会性を持った種族。
一部の貴族と呼ばれる高位魔族は色鱗竜に比肩する力を持つとされ、また積極的に他の生物に敵対する脅威として怖れられている。
ドラゴンの支配地域である第四層大陸で王国を築けるだけの実力を持った生物といえば……それだけでどれほどの強さなのかが伺い知れるというものだろう。
「僕、魔族に見えますかね?」
しかし、軽くショックだ。
人並みの容姿をしているつもりだったが、魔族に間違えられるなんて。
「人に化けてるとすれば合点がいく」
なるほど、そういうこともあるのか。
僕はため息をついて、どう言えば納得してもらえるか考える。
すでに確信を持ったかのような口ぶり。
おそらく、何を言っても信用してもらえないだろう。
そういうのは経験がある。
孤児だから。
両親がいないから。
そんな置かれた状況だけで僕という人間の全てを決めつけてくる奴はいくらでもいた。
考えていると、ドス黒い感情が湧き上がってきた。
ここでも“そう”なのかと、諦観が僕の心を黒く濡らす。
「……今すぐ出て行くというのに?」
僕は感情を抑えて搾りだすように問うた。
なまじ魔族と判断されていたとして、どうせここをすぐに去るのだ。
追い払ったことにして、放っておいてくれないだろうか。
そもそも、ここに留まる理由などないのだから。
彼らが僕を脅威に感じるなら、自ら彼らから離れれば問題解決だろう。
理解しあえないならば、お互いに距離をとるしかない。
かつての、元の世界の僕と、周囲がそうであった様に。
「他の町に被害が出ないように、ここで食い止めるのも俺らの仕事だ。魔族じゃないならその証拠を見せろ」
「何を見せればいいんです?」
それは悪魔の証明というやつではないだろうか?
魔族だけにって?
バカバカしい。
「大人しく捕縛されろ。本当にお前が魔族でないならこの状況、どうにもならんだろ?」
バッソはチラリと周囲に目配せする。
「抵抗するなら少々痛い目を見てもらうが、死にはしないように手加減してやる」
「本当に勝手ですね。入国させないといった翌日に今度は行かせない、ですって? こう見えて急ぐ旅なんですよ」
イラつく。
本当に、何がしたいんだ。
食い止める?
僕があなた達に一体何をしたというのか。
このような勝手な思い込みで僕を足止めして、暴力を振るって拘束するという。
そんなことをしている間に、ミカちゃんに何かあったらどうするんだ?
このような勘違いの茶番に巻き込まれて、孤独な黒竜王をどれだけ待たせるのか?
「このまま、行かせてくれませんか?」
イライラのせいか、つい目つきを鋭くしてしまう。
「やはり本性が出てきたな。高位魔族とはいえ爵位もちでもなければこの布陣は突破させはせん! メンツにかけてこの街には一歩も入れさせんぞ!」
「あなた方にも、この都市にも興味はありません」
「だからといって、他の都市に行かせるわけにもいかんがな! ここで確実に仕留めさせてもらう」
次の瞬間、僕は周囲を六角形の透明な壁に阻まれた。
壁にはうっすらと白い紋様が浮かびあがっていて、妙な圧迫感を感じる。
触れてみると、バチリッと電撃が走った。
「【捕縛結界】発動確認!」
城壁の上でシスターのような服を着た女性が叫ぶのが見えた。
それを聞いた千人隊長が剣を振り下ろす。
それを合図に、石垣の上から僕めがけて一斉に矢が放たれた。
マントを使って、これを防ぐ。
防御魔法が付与されたマントは矢を通すことはない。
しかし、攻撃はこれで終わらなかった。
五大魔法の各色の遠隔魔法が降り注いだのである。
火の矢、茨の槍、光弾、神秘の杭、瘴気の波動などの魔法が波状攻撃で紡がれる。
一撃一撃はたいしたことないが、こうも飽和攻撃をされればダメージは蓄積する。
移動を阻害しての遠隔飽和攻撃。
確かに、魔族だってこれは堪らないだろう。
普通の人ならとっくに倒れている。
僕がまだ、立っているということに確証を得たのか、さらに攻撃が向けられる。
──そう、僕は今、明確な殺意を向けられているのだ。
いかがでしたでしょうか('ω')
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