第20話
今日も三話更新で頑張ります('ω')
翌日。
昨日の騒ぎを見ていた商人から差し入れられたスープを啜っていると、石垣の上に建てられた見張り台から、けたたましい金属音が鳴り響いた。
それを聞いた周囲に緊張が走るのがわかったが、その音が何を示すのかよくわからない僕は、緊張感なく周囲を見回す。
「南東方向! 大暴走だ!」
城壁の上から憲兵の大声が広場に響いた。
「開門! 検問待ちの者はすぐに中へ入れ!」
掛け声とともに鉄製の大きな門が引き上げられていく。
おそらく魔法か魔法道具を使っているのだろう。
なかなか壮観だ。
「おい、兄ちゃん! 早く入ろうぜ」
「いやぁ……事情があって入れないんだ」
「バカ言ってんじゃないよ! 死んじまうぞ!」
スープを振舞ってくれた屋台のオジサンは僕を心配そうに見ながら、門に逃げて行った。
「おい、そこの! 早く入れ!」
城壁の上から憲兵の怒声が響く。
……僕に言ってるのか?
「僕はいいんで閉めて下さい」
「何言ってるんだ! 早く入れ!」
轟音をあげながら近づく土煙と僕を交互に見ながら、憲兵が声を張り上げる。
とはいえ、勝手に入ったと難癖をつけられてはたまらない。
これまでの経験からして、あの手の人間はそう言うところを徹底的につついてくる。
「早く! 民を助けるのは我々の使命だ!」
音が近づくにつれて、あの宿屋の親子のことを思い出した。
自分のために怒ってくれたミッサや、小さなマーサのために、少しくらい街の役に立ってもいいんじゃないだろうか。
「気遣い無用です。市長に入国拒否された身なので、見捨てても怒られやしませんよ」
「くそ……ッ! できるだけ反対方向に逃げ込むんだ! 命を無駄にするなよ!」
こうして僕の事を心配してくれる憲兵さんだっている。
部下はまじめに仕事してるのになぁ、あの領主ときたら。
大きな音と共に、扉が閉じられた。
土煙は目の前だ。
見えてきたその姿は、やけに大型の猪のような生物だった。
猪を熊ほどに大きくすればこうなるかって感じ。
……食いでがありそうだな、などとやくたいないことを考えながら、僕はショートソードを抜く。
「魔力活性──魔力維持──術式描写──魔力赤活──魔法構成開始……<焼き穿つ熱線>」
まず得意の赤魔法の熱線で横なぎにする。
先頭集団が崩れて勢いがやや削がれたが、止まらない。。
焼ききられてしまったヤツ、転倒するヤツ、熱におびえて立ち止まるヤツ。
反応はそれぞれだが、やや速度が緩まった。
「魔力活性──魔力維持──術式描写──魔力赤活──魔法構成開始……<野火>!」
続いてに広域を炎と熱で攻撃する赤魔法を唱える。
足を止めた集団の足元からにわかに煙が上がり、ぱっと光った瞬間、高熱の衝撃波を発した。
じゅうじゅうと肉が焼けるいい匂いが立ち込める。
見える範囲のまだ動く個体には、個別に<火の矢>を連射して始末していく。
しばしすると、動かなくなった猪の山の後ろから、のそりと巨大な影が姿を現した。
大きさは小型のトラックほどもある。
これがボスかな、と一目でわかる風格だ。
そいつは「ボエエエエエェェ」と、見た目と違って甲高い鳴き声を上げると、僕に向かって一直線に突進してきた。
大きさの割に敏捷な動きをするやつだ。
しかも、あの質量だ。
生半可な攻撃では止まらないだろう。
まずいな……避ければ背後の石垣が破壊される可能性が高い。
城壁を背にしたのは失敗だった。
ならば。
──ならば、正面からこれを仕留めよう。
ショートソードを投げ捨て、僕は身構える。
「“我、全ての戦場で活き、全ての戦場で殺し、全ての戦場で勝つモノ也”」
武技誓句の完了とともに、体の奥底から溢れ滾る何か……重力、空気圧、筋肉、鼓動、血流……これら全てが僕の体を通して回転し、螺旋し、直線の力に変えていく。
これこそが、伏見の誇る『命を喰らう拳』。
「────伏見流交殺法殺撃……『喰命拳』」
相手が鎧武者であろうが、防弾チョッキ着用であろうが、打ち貫き確実に殺す。
放たれた『撃』に触れたその瞬間が、相手の最期となる一撃。
ボッと空気を裂く短い音と、『敵』が拳に触れる衝撃。
『撃』を正面に受けた巨大猪が、文字通り血の雨を降らせながら派手に吹き飛ぶ。
ちょっとグロい。
「ふう……」
息を整えて、緊張を解く。
初めて『追憶』以外での完全な『殺撃』に成功した。
ちょっと突き指してしまったが、上々の初戦だったように思う。
しかし、鍛錬が足りない。肉体面が強化された分、技術面もさらに発展させなければ。
きっとこの先、力押しでは勝てない相手も出てくるだろうし。
「さて」
拳を握り直し、猪の集団へ向き直る。
しかし、群れの七割と統率者とを失った暴走猪たちは、僕に向かってくることなく一目散に森の中へと消えていった。
すこし、肩透かしを食らった気分だ。
とはいえ、これで当面の危機は去ったはず。
ミッションコンプリートだ。
ふと自分を見る。
体は返り血でべとべと、初めての戦闘で背中にヘンな汗もかいてる。
綺麗好きな現代日本人としてこれは看過できない。
「よし、帰ろう」
僕は火のショートソードを拾い上げ、汚れを落とすべく【安息の我が家】を作る場所を探しに森の中へと踏み入る。
妙に疲れたので、こんな日はさっさと休もう。
撃退の一部始終を見ていた城壁の上の憲兵が、僕の姿を探していたことなどまったく気が付かずに、僕は【安息の我が家】へと引っ込んだ。
いかがでしたでしょうか('ω')
次は17時更新の予定です。
お楽しみに('ω')ノシ