第2話
本日は1話/hで5話分投稿していきます('ω')b
出だしの流れがゆっくりなので、気長に読んでください。
そのうち暴れます……
黒竜王との初邂逅から数時間。
なんとか僕は、体を自由に動かせるようになった。
蘇生の際、何やら希少で強力なアイテムをふんだんに使ってくれたらしく、体の調子は死ぬ前よりずっといい。
生まれ変わったような気持ちにすらなる。
雑用として最初の仕事……片付けに早速仕事に取り掛かったものの、予想以上に黒竜王の玉座は広かった。
もしかすると、学校のグラウンドよりも広いのではないだろうか。
そこに満遍なく、かつ乱雑に物が散乱し、時に小山を作ったり……それが崩れたりしている。
金貨が積み上げられているかと思えば、そのすぐ隣にネズミの白骨死体があったり、その白骨死体が起き上がって走って逃げたりするのはこの世界では普通なのだろうか?
下手をすればこの骨ネズミとアンデッド仲間になったんだな、などと碌でもないことを考えながら、僕は黙々と片付けを敢行した。
「それは、重要なものじゃ」
「これは?」
「覚えておらぬ、ゴミでよい」
アナハイムはときどき僕に話しかけながら、僕の後をずしんずしんとついて回る。
そのたびに、積み上げられた金貨の山が崩れ広がり、僕の仕事を増加させ、時には、骨ネズミ先輩が下敷きになり、粉々になったりした。
……見て見ぬふりをしたが。
「アナハイム様? ついて来られなくても大丈夫ですよ」
いよいよもって仕事の増加を看過できなくなった僕は、後ろを見上げながら声をかける。
いや、正直に言おう。ついて回られると、かえって迷惑だ。
「む、そうかの? ちなみに……今お主が持っているのは何かわかるかの?」
「古いカギ束ですね。当ててみましょう……ゴミですね?」
僕の答えに、ニヤリとして見せる黒竜王。
そのクイズ番組みたいな溜め、やめて欲しい。
「ハズレじゃ。かつて鍵人と呼ばれる一族が作った、『墳墓迷宮の鍵束』という魔法道具よ。今は使えぬ鍵もいくつかあるが……ここ、黒竜王の墳墓迷宮の扉から宝箱にいたるまで、ほとんどがその鍵束一つで対応可能な優れものよ」
「超重要アイテムじゃないですか」
「このように、一見見分けがつかぬもの多いでな。確認には我の目が必要じゃろ? 中には呪いのかかったものもあるのでな、我が確認せぬと、またうっかり死んでしまうやもしれん」
そんなニアデスな仕事だったのか!?
そういう注意事項はもっと早くに教えておいて欲しい。
どうやら、もっと慎重に行わないといけないようだ。
これは困った。確かに逐一確認してもらう必要がある。
かと言って、このままでは仕事が片付かない。
「一応、念のため確認しますけど……もう少しサイズを小さくしたり、人型になったりって……できませんよ、ね?」
「できるの」
「えっ」
「えっ」
じゃあ、なぜあの巨躯でついて回っていたのか?
甚だ疑問だが、これで骨ネズミ先輩の死は無駄死と確定した。
いや、そもそもにして死んでるんだけど。
「……じゃあ、人型になっていただけると助かります」
「難儀なことよな、小さきものは小さきことに拘る」
ぶつくさと文句を言いながらも、見る見るうちに黒竜の巨体が収縮していき、次第に人型に変異していく。
数秒後、美しい少女が金色の双眸で僕を見据えていた。
腰まである艶やかなストレートの黒髪、透き通る白磁ごとき肌、さくら色の唇。
全体的にスレンダーだがはっきりした体のライン。
そして、幼さの残るつつましやかな、胸。
白い肌に映える黒いドレス風ワンピースも相まって大変によろしい。
──とても素晴らしい!
そう叫びだしたくなるほどに、その姿は僕の好みに完全に合致していた。
これがご主人様でなければ「食べちゃいたい!」といけない妄想を膨らませるくらいにはパーフェクトな少女の姿に、思わず息をのむ。
「……アナハイム様は、随分と可愛いんですね」
「喜ぶがよい。お主の嗜好にドンピシャであろう?」
「えっ」
「えっ」
「なぜ、僕の好みだと……?」
「蘇生させるときにちょーっと記憶を、の……?」
「「……」」
そもそも静かな墳墓迷宮の最奥が、ことさら静かになる。
「悪気はなかったんじゃ、許せよ。……反省もしないし、機会があればまたやるが」
麗しの美少女黒竜王は威風堂々としたものである。
まぁ、見られて困る記憶なんて……いっぱいあるな。
「詫びと言ってはなんじゃがの、これをお主にやろう」
……と、黒竜王は鍵束から3つの鍵を抜き去り僕に投げて渡した。
「銀色の鍵は【安息の我が家】、金の鍵は【隠された金庫室】、青い石のついた鍵は【開錠の魔法鍵】と呼ばれておる。説明はおいおいするとして……どれもこれも一級品の魔法のアイテム……魔法道具じゃ」
「もらってもいいんですか?」
「やるといっておる。どれも人の身であるお主にとっては、助けとなるものゆえ」
正直、魔法のアイテムという言葉には心が踊った。
「金の鍵……【隠された金庫室】はここでも役に立とう。どれ使ってみよ」
「どうやって使うのか皆目見当がつきませんが……」
「お主の居った世界には魔法道具はなかったのかえ?」
「なかったですね。魔法自体存在しません」
もしかしたらあるのかもしれないが、それは一般人の目に触れるものではないのだろう。
「どれ、こうするのよ」
戸惑う僕の手を、黒竜王が後からそっととって重ね、鍵の先端を洞窟の壁に向けて見せた。
支えられた右手からはひんやりとした温度が伝わってきたが、滑らかで、それでいて柔らかな手の肌触りにドキリとしたが、なされるがままに鍵を構える。
「イメージせよ。鍵に問いかけるように魔力を流し込むのじゃ。あとは鍵が勝手に構成してくれるじゃろう。いいかの……?」
じわり、と重ねた手に得体の知れない感触を感じた。
触覚や熱感覚のようなものではなく、流れるような、痺れるような独特な感覚が手から指先へと流れ、鍵が鈍く輝く。
そして……カチリ、と硬い音がした。
僕が初めて魔法に触れた瞬間であった。