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第18話

夕方の更新です('ω')!

「では、これで終わりにしましょう。自衛以上のことをするつもりはありませんから」


 思いのほか、早くカタがついてよかった。

 百人隊長とやらも息はしているのだから、死にはしていないだろう。


 うっかり、殺人しちゃうと禍根が残るだろうし。

 それでも「戦場において、殺意には殺意をもって応じるのが流儀」である伏見を継いでいるのだから、殺人(それ)をことさらに避けるつもりはないけど。


 静まり返る中、はっとした様子の憲兵達が一斉に動き出す。

 百人隊長を担架に乗せて運んだり、けが人を介抱したりと様々だが、その視線の端にずっと僕を捉えている。


 これは……あまり気持ちのいいものではないな。

 気持ちはわからないでもないが。

 かと言って、一般市民に武器を向ける野盗まがいの人間を傍観など許されることではないし、命の危険があれば反撃もする。

 そして、伏見の反撃とは殺すことに他ならない。

 下手人が生きてるだけ感謝してもらわないといけないくらいだ。


「僕のせいですみませんでした」


 親子に向き直り、頭を下げる。


「いいんだよ! お礼を言うのは私の方さ! それに驚いた! ……あんたの強さといったら! 見た目によらずに鍛えてるんだねぇ」


 ……と、おばさんは笑って僕の背中をバンバン叩いてみせた。

 ときどきオマケしてくれる近くの惣菜屋のおばちゃんに似てる。


「お兄ちゃんすごいね! ありがとう!」

「私はミッサ。この子はマーサ。ネルキドの噴水広場のそばで宿をやってるんだ。よかったら立ち寄っておくれ!」

「僕は、ユウといいます。旅人で、冒険者になるためにネルキドに来ました」

「じゃあ、ユウは防衛に参加してくれるんだね? アンタみたいに強い子がいれば私達も安心できるってもんさ」


 防衛?

 そういえば魔物が増えるんだったか。

 こんな高くて丈夫そうな石垣で囲んでも、まだ警戒しないといけないようなことが起きるのか?

 ……なかなかとんでもないな。


「すまないが、同行願う。従わない場合は捕縛させてもらう」


 ミッサ親子と話をしていると、憲兵が僕に声をかけてきた。

 半ば震えた声で、である。


「ちょっと、兵隊さん! 見てるだけで助けてくれなかったあんたらが……何でこの子に大きな顔してるんだい!」


 ミッサが食ってかかる。

 周囲からもそれに同意する声が聞かれたが、憲兵は憮然とした顔でただ僕を詰め所に促した。


「大丈夫ですよ。お話ありがとうございました」

「気をつけるんだよ。宿を探してるなら寄っておくれよ! 部屋を空けて待ってるからね!」


 返事代わりに会釈して、ミッサと手を振るマーサに別れを告げ、憲兵の後をついていく。

 門とは別の入口から入り、内部の詰め所へと通された。


「武器と荷物を預かる」


 入り口でそう言われたため、腰に下げたショートソードと細々とした旅用の雑貨が入ったショルダーバッグを渡す。


 ショートソードは安物の鞘に入れてはいるが、赤属性の魔法剣だ。

 ちょっと何かに着火したりするのに便利なので没収されないといいんだけど。


 詰め所の奥の部屋に通された僕は、促されて木製の簡素な椅子に座った。

 警察の取調室に似ているが、おそらくカツ丼は出してくれないだろう。

 あれにしたって、有料らしいと何かで読んだけど。


 しばらく待っていると、見るからに上等な出で立ちの貴族然としたちょび髭の中年男性と一目で歴戦の勇士とわかるあご髭の男が入ってきた。

 ちょび髭の男は、部屋に入るなり僕を疑わしげな目でねめつけながら、唐突に口を開いた。


「名前と所属、それと何が目的か簡潔にはなせ」

「先にあなたのお名前と、拘束した理由をきかせてもらえますか?」

「誰が質問を許可した! お前をこの場で処断してもいいのだぞ!」


ちょび髭の男が放った言葉に、案内役としてここにつれてきた兵士がギクリと身体を強張らせるのがわかった。

 話も聞かずに暴力に訴えた件の男たちがどうなったかをその目で見たからには、平常心ではいられまい。

 そして、その結果があの惨状であるにもかかわらず、目の前のこのちょび髭は同じことを僕にやらかそうとしている。


「テイラーズ卿、抑えてください」


 僕が、どうしようか考えていると、あご髭の男が割って入った。


「俺はバッソ。君にやられた『鬼灯兵団』の……まぁ、それなりに偉い人だ」

「僕は、ユウと言います。孤児の旅人で、この町には冒険者登録をするために来ました」


 エルフの時同様、あらかじめ決めておいたウソを並べる。

 死体でこの世界に産地直送されて魔法道具(アーティファクト)で蘇生した異世界人です、なんてことを馬鹿正直に答えて得られるものなんて何もない。

 失うことは多そうだけど。信用とか。


「君に来てもらった理由はいくつかあるが、一番は今回のあらましを正確に知ることだ。下っ端とはいえ、団員(みうち)が怪我をしている。正確なことがわからないと他のヤツに示しがつかないんだ。わかるな?」

「メンツがどうのと言って仕掛けてきたのはそっちです。あなた方のメンツとやらは人の命よりも重いんですか?」


 困ったようにため息一つついて、バッソと名乗った男は答える。


「メンツのために命を懸けなきゃならん時もある」

「素行の悪さを指摘されただけで命のやり取りをしようってのは、軽すぎるんじゃあないですかね、あなた方のメンツってヤツは」


 少しばかり先ほどの事を思い出して苛立ちを覚える。

 いつだってああいった連中はそうだ。

 弱者とみるや容赦なく蔑み、奪う。


「そこだよ、少年。どうしてこんなことになったのか俺に教えてくれ」

「わかりました」


 誘導された感がないでもないが、僕は包み隠さず事実だけを端的に説明した。

 それを遮ることなく、二、三の質問を交えながらバッソは相槌をうったり、うなずいたりしている。


「つまりはウチのモンが一般人に手を出して……得物を抜いたからやらざるを得なくなった、ってことで間違いないな?」

「その辺の事情は、そこにいる兵隊さんも、待っていた他の人たちも見てるはずですよ」


 バッソさんが見やると、憲兵は首を縦に細かく振った。

 憲兵の態度からして、この『バッソ』という人物は『鬼灯兵団(ゲスト)』の中でも相当上の地位にいるようだ。


「あと信じられないのは、君みたいな若い子供がウチのヤツらを相手取って簡単に倒したってコトくらいだが……」

「こう見えて少々護身術を嗜んでましてね。あと、彼らの油断と慢心が結果を生んだだけでしょう」


 そのせいでうっかり殺してしまうところでしたよ、という言葉を飲み込む。


「いや、ありがとう……参考になったよ。申し訳ないが、今回のことは『鬼灯兵団』の中できちんと精査した上でキミに謝罪することになると思う」

「いえ、こちらとしても怪我人を出すつもりはありませんでした。あまりに手練であったので力が入り過ぎたようで、申し訳ないことです。なので、これで手打ちにしていただけるなら謝罪は結構です。」


 心にもないリップサービスをして、距離をとる。

 騒ぎになってしまった以上、これ以上関わりあいになるつもりはない。

 ミカちゃんに関する情報収集をし、何も得られなければ次の層に行くか、あるいは東側を見に行くかしよう。


 長逗留する気はさらさらない。


「しばらくここに留まるのだろう?」

「いいえ、もともと流れ者ですから。用が終わればすぐにでもまた旅へ」


 ここにきて黙っていたテイラーズと呼ばれていたちょび髭男が口を開いた。


「用が済む済まざるに関わらず、お前のような胡散臭いヤツは街に入ることを許可せんぞ!」

次は夜。20時に更新ですよ('ω')ノシ

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