第17話
今日も更新頑張ってまいります('ω')
翌日。
太陽が中天に昇りきる前に、僕はネルキド市の入口に到着していた。
三日の行程を半日に短縮する方法を、体よく思いついたからである。
【隠された金庫室】に収納されていた、魔法道具──【羽ばたき翼機】。
これは本来高い場所から低い場所への滑空飛行を可能にする魔法道具で、例えば今回のように大陸間が最接近した際に下層の大陸や島への渡航を可能にする物である。
ぱっと見はグライダーそのものだが、体を固定するベルトと、左右の手で翼を操れるギミックが存在し、滑空時間を延長し、機動性を上昇させる工夫が随所に盛り込まれた逸品だ。
昨晩、その性能と安全性を確認した僕は、日も昇りきらない早朝に【安息の我が家】を閉じて、周囲で最も背の高い木を探した。
その木をロープでもってしならせ、【羽ばたき翼機】を装着した自分を投石機よろしく上空へ放り投げて……そのまま空中を滑空して、うねる街道を一気に直進したのだ。
初めての空の旅は実に爽快で、ますます<竜飛翔>が欲しくなった。
そのためには、まず翼を生やすところから頑張らないといけないけど。
ともあれ、あまり目立ちすぎるのもよくないと考えた僕は、都市手前で着陸して、何食わぬ顔で、ネルキド市の入口前に到着し、検問の列に紛れ込んだ。
ネルキド市は比較的大きな都市のようで、周囲を石垣で覆った堅固な城塞都市のような印象を受ける。
まだ昼前だというのに検問前は人で溢れ、がやがやとした喧騒に包まれており、中には脇で露天を開いている者もみられた。
入門を待つ人々の種族構成は多種多様。
最も多くみられるのが、僕と変わらない容姿の人間と思しき人たち。
ついで、背は低いがやけにマッチョな髭を蓄えた者たち──おそらく、ドワーフ族。
他にも、エルフや獣の特徴を持った者などもいる。
まさにファンタジー。
しかし、その半数以上が武装しているとなると、いやがおうにもこの世界が危険な場所なのだと思い知らされる。
ミカちゃんは大丈夫だろうか?
「次の人どうぞ!」
考えてるうちに列が進んだらしく、声がかかる。
検問所へ向かおうとしたところで、後ろから来たガラの悪そうな数人の武装集団が僕を押しのけて先に行ってしまった。
……どこにでもいるんだなぁ、横入りする人って。
ま、そういうこともあるだろう。
僕の素性だと騒ぎはごめんだし、気にしないでおこう。
そう考えて気にも留めなかったが、それを見ていた憲兵は公正な人物だったらしく、それを見咎めた。
「あなた方の順番はまだです。並びなおしてください!」
憲兵は毅然とした態度で対応していたが、咎められた男の一人が「うるせえ!」と、とてもありがちなセリフを吐きながら憲兵を殴ってしまった。
瞬く間に詰所の奥から数人の憲兵が出てきて、男たちを取り囲む。
「おめーら、俺が誰だかわかってんのか? 『鬼灯兵団』の百人隊長様だぞ?」
よくわからない名乗りだったが検問兵には効果抜群だった様だ。
じりり、と憲兵達が後ろにさがるのが見て取れた。
事情が分からないので、後ろに並んでいた人に少し話しかけてみることにする。
恰幅のいい中年女性と、小さな女の子。
女の子にキャンディ(実はこれも魔法道具だったりする)を手渡しつつ、話を振ってみる。
「あの、田舎者で恥ずかしいんですけど『ほーずきへいだん』って何ですか?」
「なんだ、あんた知らないのかい? 『鬼灯兵団』は超大型の傭兵団だよ」
いかにも肝っ玉母さんといった風の女性は、僕の問いかけに不思議そうな顔で答えてくれた。
だって、千年前にはなかったですよね、それ。
「ふむふむ」
「今の時期は魔大陸の大接近で魔獣が活性化しやすいから、領主様が防衛依頼を出したのさ。それで派遣された人たちだよ」
魔大陸ってなんだろう?
まぁ、とにかく危険らしいことはわかった。
「なるほど。都市にとっては重要なお客さんってワケですね」
「でもあの人たち、怖いし乱暴だから私はキライ! ……この間だって──」
女の子が不満を口に出した瞬間、ヒュッと音がして何かが飛来した。
憲兵を殴ったのとは別の、背が低くやせぎすな男がこちらに向かって礫を放ったらしい。
僕が掴み止めたので、女の子にも誰にも怪我はなかったが……金属製の礫なんかを当てられたら怪我じゃすまないところだぞ。
「危ないですよ? 人に……ましてやこんな小さい子に向けるべきモノじゃないでしょう?」
思わず、男を睨みつける。
「ガキは黙ってろ! コケにされて黙ってるわけにはいかねーんだよ!」
「僕があなた方を知らなかったので、質問していただけですよ。順番の件は気にしていないので、どうぞ先に済ませてください」
手のひらを上に、どうぞどうぞとジェスチャーして見せる。
「ナメてんのか? バカにされて黙ってられっかよ。メンツってもんがあんだよ」
どんなメンツだ。
こうやって小さいことをグチグチいうほうがメンツにかかわると思うぞ?
そうこうしてる内に騒ぎに気づいた、件の憲兵を殴った男もこちらに向かってくる。
「この小僧とババァが『鬼灯兵団』の名誉を汚しました! 制裁が必要ですぜ!」
背の低い男がキンキンした声でリーダーらしき男──さっき憲兵をなぐったヤツ──に報告する。
誰かに似てると思ったら、こいつ担任の三宅に似てるんだ……。
それで妙にこの礫男が気に障るんだな。
教師のくせに散々に僕を貶めた三宅。そう考えると、ちょっと苛々してきた。
「それじゃあしかたねーなぁ……ここは都市の外だし、事故があってもしかたねーよなぁ」
百人隊長を名乗った男が、腰に下げた長剣を抜く。
それに倣い、やせぎすの男も他のメンバーらしき三人の男たちも各々得物を抜く。
ちらりと検問所をみやるが、憲兵達は目を逸らしてそれに答えた。
見て見ぬふりとは。
いや、仕方ないのか?
「そ、そんなつもりじゃなかったんだよ! 許しておくれよ!」
震える声で、男たちに懇願する女性。
しかし、返答の代わりに放たれたのは、またしてもやせぎすの放つ鉄礫であった。
これ、人に向けるモノじゃないと思うんだけど。
再度それを掴み止める。
龍血で強化され、伏見の継承で散々に鍛えられた僕の体は、こんなものをつかみ取るのだって容易だ。
「すいません、ホントにそんなつもりじゃなかったんです。勘弁してくれませんか」
「そういう言い訳は死んでから言え!」
僕の謝罪むなしく、百人隊長は斬りかかってきた。
『竜牙兵』の攻撃に比べれば、あくびが出るような斬撃。
しかし、うかつに避けると母娘に当たりそうだったので、念のため硬質化した左腕で受け止め、軽い掌打を腹部に向かって打つ。
「あが……ッ」
僕が力加減を誤ったのか、それとも単純に男の腹筋が足りなかったのか。
男はくの字に折れ曲がりながら吹き飛び、地面に転がる。
倒れた場所で口から血を吐いきながらしばらくのた打ち回っていた男だったが、しばしして軽い痙攣を繰り返すようになった。
内臓、いっちゃったかなぁ……。
僕、回復魔法使えないんだからヘンにケガしないで欲しい。
「てめ、隊長になにを──」
セリフが終わる前に、やせぎすには礫を投げ返しておいた。
二発とも。
一発は外れて城壁に深めの穴を穿ち、もう一発はやせぎすの右耳を削り取りながら、後方で弓を構えた男の右腕をへし折った。
どうやら僕の投擲コントロールはあまりよくないみたいだ。
ずいぶん体を鍛えたからもう少し上手になったかと思ったんだけど。
ノーコンはノーコンのままだった。
驚きの新事実。
人間って脆い。
「まだ、やりますか?」
問うてみたものの、誰も応えなかった。
周囲のギャラリーも静まり返り、先ほどの喧騒が嘘のようだった。
仕方ないので、やせぎすのところまで歩いていき、肩に手を置いて残っている左耳にささやいた。
「まだ、やりますか? ……と聞いているんです」
やせぎすの男はそのまま膝をついて、ただ首を横に振った。
その股間を、臭い液体で濡らしながら。
頑張って更新した……('ω')