第13話
本日ラストの更新('ω')
ちょっぴり少な目です。
「よいか? 魔法は魔力によって起こすものと、竜魔法のような生得的、あるいは種族的に使えるものがある」
アナハイムの言葉にうなずく。
「呪文と触媒を用いて魔力を活性化させ現象を引き起こすのが、五大魔法じゃ。これは五大魔法と呼ばれ、大雑把に色で大別されておる。黒、白、赤、青、緑の五つがそれにあたり、どの色の五大魔法を巧く扱えるかは種族差や個人差……つまり才能によるところも大きい。全て使えるものもおれば、我のように白と緑の五大魔法をまったく扱えぬ者もおる」
「死霊魔法は……イメージ的に黒ですか?」
「左様。死と腐敗、汚染、闇や恐怖などを由来するのが黒魔法じゃ。特性上もっとも忌み嫌われる魔法じゃの」
ふわりと魔力を纏わせたアナハイムが指先を一振りすると、熱線が放たれて壁に穴をうがった。
「これが赤魔法。熱や炎、あるいは純粋な破壊などの暴力的な力を司るのが赤魔法じゃ」
惚れ惚れとしてアナハイムが魔法を使う仕草を見ていたが、次の瞬間……アナハイムの姿を見失った。
「そして、時間と空間の神秘を操り、幻惑し、魔力の流れを最もよく知るのが青魔法と呼ばれておる」
いつの間にか僕の背後に姿を現したアナハイムが、蒼い炎を片手に得意げに笑う。
「五大魔法ではない魔法であれば、この竜魔法がそうじゃ。これは、竜族が生来的に習得する魔法というよりも『能力』じゃな」
炎を掻き消して、アナハイムが終わりとばかりに手を広げる。
だが、これでは説明が合わない。
「五大魔法には呪文と触媒がいるんじゃなかったんですか?」
「我の原典版による魔術で誤魔化しておる」
見ると、指先に小さな傷があり真っ白の肌に赤く映えている。
「原典版ですか?」
「そうじゃ。『自傷魔術』と呼ばれておる。これは己を自ら傷つけることを儀式とし、己が血を触媒として魔法を使う。正確には魔法ではなく、儀式による魔法現象。故に魔法でなく『魔術』なのじゃよ。……儀式手順は自分で自分に傷をつけること、たったそれだけじゃ」
竜の再生能力か、瞬く間に指先の傷が消える。
「どれなら僕にも使えますかね?」
「五大魔法は適性がなければいかんともしがたい。竜魔法は我の竜血が入っておるためいくつかは修練すれば使えよう」
わざと話を逸らしているように思えたので、こちらから尋ねる。
「自傷魔術は?」
「やめておけ、善い術とは言えぬ」
「アンに使えて僕が使えないのは……なんだか残念じゃないですか」
「その理屈は我にはわからんのう」
美少女黒竜王は少し困った顔をする。
「使えるようになるのに、どのくらいかかりますか?」
「五大魔法はであれば二週間もあれば基礎は可能じゃろう。竜魔法は本来、幼竜の頃から慣らすものじゃから修練方法だけ教えておく」
「自傷魔術は?」
「やけにこだわるの?」
いよいよ困ったという顔で、僕にジト目を向ける黒竜王。
視線の奥からは心配が滲んでいる。
「おそらくですけど、あれが一番僕にとって覚えやすいと思うので」
「何故じゃ?」
「……アンと、同じだから」
僕の言葉に、アナハイムが自嘲気味に笑う。
彼女自身、お互いが似ていると思っていたのだろう。
僕はさっき拾っておいた黒竜王の牙で親指を切り、拇印のように押し当ててから放り投げた。
「surgere」
言葉を通して魔法道具を使うような痺れる感覚があった。
小気味いい音がして、見る見るうちに牙が少しばかり不格好ながら、『竜牙兵』へと変化していく。
唖然とする黒竜王に、僕は「ほらね」とドヤ顔をしてみせた。
「む……なぜ……!」
「これって、自分を貶める魔術ですよね。自分を無価値として、相対的な価値を引き上げて……その差分を媒介として使う」
竜の血が、いや、黒鱗竜である黒竜王が無価値であるはずなどないのだ。
その客観的価値と、自分の主観的価値を無理やりに乖離させて『触媒』の価値を上げる。
それによって、世界に魔法現象を引き起こすために払うべきいくつかの代価を、その差分で相殺するのがこの技術の本質だろう。
何故か、それが直感でわかってしまった。
黒竜王の血が、体に随分馴染んだからだと思う。
「ユウ、この魔術は……」
「わかっています。でも、僕にとっては得意分野だよ、アン。これも使い方もちゃんと教えてほしい」
「お主というやつは……。まあ、よい。じゃが、まずは使える五大魔法を調べねばならんの」
いかがでしたでしょうか('ω')




