第12話
夕方の更新です('ω')
【探索の羅針盤】の使い方はいたってシンプルだった。
青い砂の入った針のない懐中時計に見え、ストップウォッチのようなスイッチがついている。
探したいものの名前と像を具体的にイメージし、スイッチを押すと砂が線のように変化し方向を指し示す。
試しにアナハイムを思い浮かべてみたが、正確にその位置を指した。
次に元の世界にいるはずの有名人を探してみたが、砂は変化せず、この世界に存在していないことを示した。
その結果がミカちゃんでも同じことを祈って、僕はスイッチを押す。
「……」
結果──青い砂は北北東に向かって細い線を作った。
絶望に近い落胆。
やはり、彼女は『次元重複』に巻き込まれていたのだ。
寝椅子に座り込んだ僕の背中を、アナハイムがそっとさすってくれる。
「どうやら、アンの予想通りの事態だったみたいだ」
「うむ、そうか」
「方向だけで距離はわからないんですね……」
「うむ。これはあくまで方向を示すだけじゃ。高さもわからんから、この者が今何層目にいるのかもわからぬ」
延々その方向に歩いていっても層が違えば見つけることができないということだ。
しかも大陸以外の島もあるため、方向だけがわかっても探し出すのは難しいかもしれない。
「むやみやたらに歩き探すよりも、どこぞ大きな都市部に出たほうが見つけやすいかもしれぬな」
「どうしてです?」
「ユウの様な場合はともかくとして、普通人の子は巣に集まって生活するものじゃろう? こちらに来てすぐならいざ知らず、生活のために都市部にいる可能性は高かろう。それに……異郷の者は目立つからの」
「なるほど。ここ……えーと、第四層大陸はそういった都市は?」
「千年前はドワーフの高山集落があったが、今はわからぬの」
千年もたてばもっと発展している可能性だってあるが、逆に完全に滅んでる可能性もある。
そもそも、この第四層大陸は『黒海』に最も近く、階層世界でも最も過酷といわれている大陸らしい。
その過酷さを物語る最たる例が、色鱗竜をはじめとする竜族である。
そう、この大陸は竜の支配地域なのである。
「ここは人が大規模な都市を作って住めるような環境ではないからの。じゃから気候の穏やかな第二層大陸にまず向かうのがよいじゃろう」
「上層に上るためには『塔』を使うのでしたっけ?」
「昔とどう変わっておるかによるの。ただ、塔は存在しておるだろうよ。アレだけは我ら色鱗竜ですら壊すことはできないからの」
──『塔』。
そう呼ばれるその建造物は、四つの大陸を結ぶ魔法の迷宮である。
『塔』そのものが古代遺物であり、全二百層で構成されている、といわれている。
数ヶ月から数日でその内部を変化させ、出現する魔物は世界各地どころか、次元と時間すら超えて現出し、罠もニアデスなものが多い。
千年前からその難易度はかなり高いと知れ渡っていたらしい。
しかし、それらを突破し、五十層昇るか降りるかすれば、どれだけ大陸間の距離が離れていようとも、必ず大陸間を移動できるとアナハイムは説明した。
「それ故に塔の周りには当時から大規模な都市があっての。まずはそこを目指すのが最善の手じゃろう」
「その、『塔』って……僕でも上れるものですかね」
「運にもよるが、あまりオススメはできぬの」
「運もですか……」
頭をひねる。
「しばし待て。ユウよ。そうすれば季節柄、第三層大陸が接近してくる。その時を狙って、かの大陸に取りつくのが良かろう」
「簡単に取りつけるものなんですか……」
「何か考えておくとしよう」
どことなく寂しそうな表情のアナハイムの手を握る。
そう心配しなくとも、すぐに戻ってくるつもりだ。
さて、僕としてはこの雰囲気を少し変えたい。
「ところで、アン。なんでも一つ言うことを聞いてくれるんでしたっけ?」
「む……?」
僕の笑顔を不審げに見つめる美少女黒竜王。
「実はずっと考えていたんですよ……」
そう言って、じりじりとアナハイムに近寄る。
寝椅子に座り込んだままのアナハイムを、追い詰めるかのように。
じっとりと、熱を帯びた目で、舐め回す様にアナハイムを見やる。
「なんぞ目が怖いぞ、ユウ」
「ハハッ、怖くないですよ?」
笑顔をなお一層強くして、さらに近寄る。
「まさか……」
「言うこと……なんでも聞いてくれるんですよね?」
「そういうつもりでは……」
美少女黒竜王の額を、汗が伝う。
「黒竜王ともあろうお方が約束を反故にするんですか?」
なおもにじり寄る。
その距離はもう鼻と鼻が触れそうなところにまできている
「むぅッ……ええい、好きにせよ!」
「では、魔法を教えてください」
色々とイケナイ覚悟をしたらしいアナハイムが、目をぎゅっと瞑ったのを確認してお願いしてみる。
ちょっとしたイタズラだ。
「えっ」
「えっ」
「いや、魔法を。ひょっとして僕には使えないものですか?」
「どうじゃろう、いや、わからんが、えっ」
うろたえる美少女黒竜王を見て萌えていたが、少々からかいすぎたようだ。
「ユウよ……これが竜魔法で最も基本的な魔法、<竜息>じゃ」
ぷるぷると体を震わせた美少女黒竜王がゆらり立ち上がり、その口に青い炎を灯した。
「その目に焼き付けるがよい」
「ノオオオオーーー!」
美少女黒竜王の口から青い炎が放射され、それを僕はギリギリのところで避ける。
床には、ちりちりと青い炎が揺らめいていて、いまだに熱い。
「アン! アナハイム! 冗談、冗談だよ!」
肩で息をしながら恨みがましい目を向けるアナハイムに、五体投地する勢いで謝っておく。
消し炭になりかねない。
「ユウよ……黒竜王たる我に、恥辱に満ちた決意をさせたことを後悔させてやろう!」
「そんな決意をさせて悪かったってば!」
「本当に悪いと思っておるのか?」
「思ってる思ってるッ! 悪かったよ!」
「まったく」と呟くと、美少女黒竜王は腕をひいて僕を引き寄せ……そして、そっと唇を合わせてきた。
「あまり我をその気にさせるな」
おかげで、今度は僕が赤面することになってしまった。
次は20時に更新します('ω')
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