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駆出し陰陽師と夏に降る紅葉  作者: 宗谷 圭
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 いずれの御時かはわからねど、平安の代。蝉の声がそこかしこに轟く、夏の事である。

 人を射殺すかのような夏の日差しを浴びながら、疲れ切った表情で大路を歩く青年が一人。直衣に冠姿なので、恐らく仕事帰りなのだろう。

 青年は角を何度か曲がり、四条の小路沿いにある邸へと足を踏み入れた。今をときめく藤原氏の邸とは比べ物にならないが、それでもそこそこに広くて立派な邸だ。

 門をくぐり、青年はため息を一つ吐く。そしてとぼとぼと階を上り、渡殿を渡り、簀子縁を歩く。そして、ある一角まで来ると下ろしてあった御簾を掻き上げて体を中へと滑り込ませた。ここが、青年が自室として使っている区画なのだろう。隅に置かれていた脇息にもたれかかり、青年はほっと息を吐く。

 ……が、安らぎを得たのも束の間。

「若君、帰っておいででしたら、すぐに参るように、との姉君様からの言伝でございます」

 御簾の外から女房に声をかけられ、青年はがくりと項垂れる。そして

「わかったよ」

 力無く返事をすると、手早く狩衣と烏帽子姿に着替えた。そして、再び御簾を掻き上げて南庇に出、簀子縁に下り、西の方角へと歩き出した。ここは邸の東対屋。先ほど彼を呼び付けた姉がいるのは、西対屋だ。

 西対屋で一部、御簾が下りている場所がある。ここが、姉が普段自室として使っている区画だ。

「姉上、お呼びでしょうか?」

「随分と時がかかりましたね。一体何をしていたら、こんなにも時がかかるのですか? 待っている間に、絵を五枚も描き終えてしまったではないですか」

 目的の場所へ辿り着き、御簾の前で声をかけた瞬間に、御簾の向こうから真っ先に飛んできたのは、そのような非難の言葉だった。

 決してのろのろとしていたわけではない。寧ろ、かなり手早く全ての行動をこなしたつもりだ。

 しかし、姉の言う「絵を五枚も描き終えた」というのも誇張表現ではないらしい。床に、絵が五枚、散らばっている。墨がまだ黒々としているので、待っている間に描いていた、というのは嘘ではなさそうだ。

 どれも非常に丁寧に描かれており、着彩まで済んでいた。一体、何をどうやったら、あれだけの短時間で、これだけの絵を描けるのか……。

 そう、疑問を頭に浮かべ。そして、彼――豊喜(とよきの)季風(すえかぜ)は姉に知られぬよう密かにため息を吐いたのだった。

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