番外編 ある少年についての独白
初恋だったの。
意識し始めたのは中2の5月だったかなぁ。今まで何度か告白されたことはあったけど、自分から好きになったのは彼だけ。高校生になった今でもそうなの。女子校だから、っていうのも理由なんだけど。
どこが好きだった? って聞かれると……うーん。優しいところかな。あと、誰にでも分け隔てなく接するとこ。ちょっと無愛想だったけどね。
告白も……したんだ。同じ年の12月にね。でも、断られちゃった。『そんな時間はない』、だって。それっきり何もなかった。むしろ、嫌われちゃったみたい。
理由は分からなかったし、正直、今でも分からないんだ。避けられてたのかなぁ、卒業までほとんど話せなくて、高校も別々になっちゃったから聞く機会もなかったの。
だから……一度会って、謝りたかった。
こんなことになるなら、もっと早く勇気を出しておけば良かったな。
◯
転校してきた時から、不思議なやつだなあって思ってた。
取ってつけたような澄まし顔で、2年になってもいつもクラスの中心から離れてて。かと思えばたまに普通に笑ったり、思春期特有の馬鹿騒ぎに乗じたり、鬼教師と名高い社会の佐々木の授業で平然と爆睡したりしてた。
中2の正月明けぐらいだったか、今にも死にそうな表情をしていた時もあったなあ、うん。
俺も人のことは言えないけど、よく分からない人間だったよ。
頭が良いって噂があったから、俺とは違って隣の市の高校に行くんだろうなー、と思ってたらしれっと同じ入学式にいてさ。めっちゃ驚いたよ。クラスも同じになったけど、そんなに喋らなかったなー。同中だから、他のやつらよりは話したけど。
バイトやってるみたいで、いっつも一番最初に帰ってた。この前もそうだったよ。
まさかあれが最後になるなんて、誰も思わなかったよ。
◯
親同士の付き合いで、俺たちはまあいわゆる“幼馴染”だった。
毎日のようにお互いの家を行き来してたし、枕投げだって何度もやった。鼻水垂らしてたぐらいちっさい頃に、真奈美ちゃんと3人で一緒に風呂に入ったことだってある。
ちなみに、この話をすると必ず頭を狙ってくるから要注意な。……もう、そんな心配は要らないけど。
でも小3の時、あいつのお袋さんの転勤の関係で引っ越して、一度疎遠になった。
お袋さん、めっちゃ頭が良くて仕事ができる人でさ。最初は単身赴任の予定だったらしいんだけど、親父さんと兄妹の要望で着いていくことになったっぽい。まあ寂しかったけど、あそこん家がおしどり夫婦で家族思いなのはよ〜く知ってたから、仕方ないと思ってた。
4年後、まさかひとり欠けて帰ってくるなんて、思いもしなかったけどな。
お袋さんは病気抱えてたし、あいつの目は死んでたし、真奈美ちゃんの笑顔もなんだかぎこちなくて。正直、見てられなかった。
まあでも、何とか笑顔が見せるようになってくれたよ。昔のあいつに元通り、じゃあないけど。近頃は、真奈美ちゃんといると爆速で距離詰めてくるぐらいの元気があったんだ。
──でも、でもな。
お袋さんの葬式の時から、何となく予感はしてたんだ。あいつがいつか、消えてしまうんじゃないかって。
◯◯◯
『─次のニュースです。
◯◯県□□町で、帰宅途中の男子高校生が車に撥ねられ死亡しました。死亡したのは□□男子高校に通う仁科健二さん、16歳。
車の運転手は、△△市の✕✕銀行で強盗事件を起こし、逃亡中だった──』