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4. 荷揚げ

 ドルイとルーガーはマーカンに連れられ、荷揚げ担当の五人組に引き合わされた。彼らは山賊の一味で、それぞれが勝手な服をばらばらに着ていたが、ドルイとルーガーは彼らが工兵だと当たりをつけた。その五人組が、運ぶべき荷物を見せてくれた。それは木枠の台に載せられた巨大な構造物で、正面から見ると半円形をした屋根のついた背の低い小屋のように見えた。大きさはドルイたちが乗ってきたトラックと同じぐらいに見えた。防水布が掛けられ、ロープで縛り付けられていたので中身が何なのかルーガーにはぴんとこなかった。しかし、しばらく眺めていたドルイは察しがついたようだった。ドルイはあざ笑うようにこう言った。


「こいつは無理だ、重すぎて運べないぜ!」


 荷揚げ班の班長はレトニという名前の女だった。彼女がこう言った。


「それを何とかしなくちゃならないの」


 しかしドルイは首を振った。


「無理なもんは無理だ。そもそも荷台に入らないぞ……。いやまてよ」


 ドルイはトラックの方へ戻ると顎に手を当てながら、ぐるりと一周した。トラックには多くの荷物が積み込めるように金属製の荷室が作られていた。後部は両開きの扉になっていて、荷を入れるにはこの扉を通す必要があった。しかし巨大で重い荷を、この扉を通して入れるのは到底無理に見えた。ドルイは扉を開き、荷室を覗き込みながら言った。


「鉄板を切るのにうまい工具はあるか? 金属パネルと柱を切らなきゃならない。金鋸で切るのはイヤだぞ」

「ガストーチならある。溶接も出来る。荷台を露出させるぐらいの工作なら簡単だよ」

「へえ、上出来だ。じゃあ計画はこうだ。まず荷室の天井をとっぱらう。それから荷物を吊り上げて、トラックの荷台に上から降ろすんだ。これなら真横に動かす必要はないから、載せられるはずだ。その後、切り取った壁を溶接しなおせばいい」

「なるほどね、それならできるかも」


 レトニとドルイは荷室に上がると、内側から柱やパネルの構造を確認した。それは単純なつくりになっていて、荷台の四隅に柱が立っており、(はり)が巡らせてあるだけで、あとは金属パネルが覆っているだけだった。フレームはそれほど太くはなく、金属パネルも薄い。ドルイとレトニはあちこち寸法を測りながら相談を続けた。


「天井だけ切り取って、上から入れるって訳にはいかないのか? それとも梁が無い方がいいってことか?」

「もちろん梁は無いほうがいい。持ち上げるにしたって、天井までの高さと、床までの高さでは全然違うからね」

「そりゃそうだが、剛性の問題もある。フレームを減らしすぎると荷台が歪んで飛べなくなるぞ」

「時間との兼ね合いよ。時間さえもらえれば高く持ち上げられるけれど、今のところは床までが限界ね」

「それって平台にしないとだめって意味か? 柱も残せないのか?」

「できればね。悪いけど、ここでは物資が足りないの。使える柱は全部木材だし、数も充分とはいえない。まさかあれほどの重量物を扱うとは思っていなかったから。自信を持って持ち上げられるのは、せいぜいこれぐらいね」


 レトニは自分の目のあたりを示した。荷台に上げるのが精一杯という意味だった。ドルイは腕組みをして唸った。


「うーん……。そうだな、いったんフレームを取っ払ってから、もう一度溶接しなおす手がある。フレームの方なら上げ下げできるだろ」

「そうねえ、あれならそんなに重くなさそうだし、人手で動かせるかも」

「よし、そうしよう。まずはパネルを切り取るから、それを支えられるようにしてくれ」


 レトニたち荷揚げ班はてきぱきと準備を始めた。ガストーチが運ばれてきて、素早く用意が整えられた。ドルイは自らガストーチを使って、右の壁から切り取り始めた。フレームとパネルを留めている部分を大雑把に焼き切ると、パネルが浮いて外れてきた。ドルイは下敷きにならないよう、また車台を熱と重みで歪ませないように注意しながら、どんどん作業を進めていった。手伝いの数も充分にあったので、右の壁はあっという間に取り払われた。


「次はどっちがいいかな? 壁か天井か?」

「天井かしらね。つっかえ棒をするからちょっと待って」


 軍隊式の的確な指示で、天井を支える丸太が五本用意された。準備が整ってから、ドルイがガストーチを振るって天井パネルを切り取った。浮き上がったパネルは、ロープを使って壁の方へスライドさせ、下へ降ろされた。残った壁は、最初の壁と同様に切り落とされた。


 作業は長時間に及び、時刻は深夜になっていた。周囲は真っ暗闇で、あちらこちらに松明(たいまつ)がほのかに照らしているだけだった。そんな暗がりの中で、ドルイたちは作業を続けた。


 ドルイは背面の扉も取り去り、最後にフレームの根本を車台から切り離した。レトニが手の空いた者に声をかけ、十人ほどの手伝いがやってきた。掛け声を合わせてフレームを持ち上げ、えいっと投げ下ろしてしまった。


 これで荷台を平らにすることができた。今度は荷揚げ班の出番だった。彼らはドルイが荷台の改造に取り掛かっている間に、荷物の横に丸太で作った(やぐら)を二つ作っていた。そして荷台の準備ができると、滑車を使って荷物を持ち上げた。息を合わせて二つの櫓で重量物を持ち上げるのはかなり難しい作業だったが、彼らは慣れているのか苦もなくやり遂げた。


 荷物が持ち上がると、ルーガーがトラックを後ろ向きに移動させて、荷台を荷物の下に滑り込ませた。ルーガーは用心のために、いったんトラックを着地させた。ゆっくりと荷物を荷台の上に降ろすと、車台が重みを受けてぎりぎりと軋む音を立てた。ルーガーは荷が固定されるのを待ってから、動力を入れなおしてトラックを浮上させた。計器に目を走らせてルーガーが言った。


「これはダメかも」

「重量オーバーか?」

「うーん、動力系の負荷が限界に近いし、これ以上重量をかけたら冷却が間に合わなくなるかも……。今はなんとか飛べるけど、フレームを載せるのは無理じゃないかな」

「離陸はできてるんだぜ、飛べるんだったらフレームは無しでいいんじゃないか」

「剛性が要るって言ってたのはドルイだよ」

「車台の剛性だけでなんとかなるなら、それでいいんだ」

「なんだかいい加減だなあ。まあどっちみちギリギリだよ、これ。膝ほどの段差も越えられないよ、これじゃ」


 ルーガーは不安そうに言ったが、ドルイは肩をすくめるだけだった。


「仕方ない、そしたら梃子(てこ)でも持ってきて持ち上げるさ」


 二人の会話を聞いていたレトニが、念を押すように言った。


「それで? もう大丈夫なの?」

「ああ、なんとかな。あとは出たとこ勝負だ」

「出発できるの?」

「ああ行けるよ。ってか、今すぐ出発する気か?」

「いいえ。明日の朝までは休めるから」


 レトニはそれだけ言うと、櫓の分解作業を始めた部下たちの監督へ戻っていった。ルーガーは操縦桿を前に倒し、櫓の間からトラックを前に動かした。そして元の空き地へ移動して、そこへ停車させた。そして運転席で頬杖をついて、ぼんやりとレトニたちの仕事ぶりを眺め始めた。


 ドルイが運転席の横に上がってきて、同じように座るとルーガーに話しかけた。


「なんだよ、もう疲れたか?」

「朝になるまで、少しは寝ておきたいね……」

「なんだよ、つまんなそうな顔すんなよ」


 ドルイにそう言われて、ルーガーは本当に詰まらなそうな顔になった。


「こんなところで、なんでこんな事やってるのか、ホントに分からないよ」

「なんだよ、連中の手伝いが嫌か?」


 ドルイにそう尋ねられて、ルーガーは下を向いた。あたりは暗くてほとんど何も見えなかったが、それでも周囲の山賊たちの目が気になったのだ。ドルイはそれを見て、眉を上げてこう言った。


「まあそりゃそうだろうな……。だがな、かといってここで意地をはってもいいことは何もないだろう?」

「そうかもしれないけど、だからって言いなりはないんじゃないかな」

「そう言うなよ。取引ってのは、常に公平って訳にはいかないのは、お前にだって分かるだろ」

「これって取引なのかな? それに公平性とも関係ないように思うけど」

「取引と思った方がいいぜ。そう考えたら楽になるさ。さもなければ、奴らにいいように使われてボロ屑のように捨てられるか、鉱山奴隷にされて一生ザイーツから出られなくなるぞ」

「それはまったく公平じゃない」

「だろう?」

「まあ選択の余地がないのは確かだよ」


 ルーガーが頬杖をついてふて腐れてしまったのを見て、ドルイはにやにやしながら腕組みをした。ドルイもルーガーには色々言ってやりたいことがあったが、彼も思ったままのことを言うことができずにいたのだ。二人はしばらく黙っていたが、やがてそのまま運転席で眠り込んでしまった。


 翌朝二人が目を覚ますと、キャンプの撤収がかなり進んでほとんどのテントが片付けられ、多くの物が破壊されたり燃やされたりしていることに気づいた。すでに多くの者が、それぞれにフライヤーに跨ったり、小型のトラックの荷台に乗り込んだりして、出発の準備を整えていた。レトニがやってきて、ここで取る最後の食事になるからと、皿に盛られた料理を食べるように言った。それは蒸した芋に煮豆をかけたものだった。二人は皿を片手に、がつがつと口に押し込んだ。


 そうしているところへ、ディカースがマーカンを連れてやってきた。


「まもなく出発だが、大丈夫か?」


 ドルイは目を上げて文句を言った。


「人使いが荒いな、もうちょっと休ませろよ」

「もう撤収は始まっている。ぐずぐずしてはいられないんだ」

「そうらしいな」ドルイは皮だけになった芋を皿ごと投げ出して言った。「さて、いったいどこへいく?」

「道案内は私がする。ついて来てくれ」


 ディカースはマーカンに何かを告げると、足早に立ち去った。マーカンはレトニと相談して、レトニがトラックに同乗することになった。


 ドルイは助手席をレトニに譲ると言った。彼はふらりといなくなったかと思うと、毛布を三枚ほど持って戻ってきた。そしてそれを抱えてトラックの荷台の上に這い上がり、荷物と運転台の間に隙間を見つけ、丸くなって寝入ってしまった。ルーガーは操縦席に座って、トラックを前に進め始めた。


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