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冬の女王の結婚式  作者: 番場すぐる
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中編

「いったいどういうつもりなの?」


 ガタゴトと揺れる馬車に乗って遠くの村に移動中、夏の女王が秋の女王に聞きました。


「なにがかしら」

「なにが、ではないでしょう。もし本当に冬の女王の想い人が結婚する気になってしまったらどうするつもり?」

「そんなの決まっているではありませんか。その方に王様を説得していただくのです」

「賛成できないわ。王様が気分を損ねたら、その方が危険ですもの」


 あの恐ろしい王様のことです。冬の女王の想い人が目の前に現れたら、なにをするかわかりません。二人をお祝いして、幸せになるように手を貸してくれる。そんな前向きな想像を夏の女王はできませんでした。


「……そうでしょうね」

「一つの命が危険にさらされるかもしれないというのに、どうしてそんなに落ち着いていられるの?」

 秋の女王が笑みを作ります。「わたしは冬の女王を信じていますから」

「冬の女王を?」

「ええ。わたしのお友達が選んだ殿方なら、王様を説得できると信じているのです」


 秋の女王は冬の女王の想い人を信じる理由があるかもしれませんが、夏の女王にはありませんでした。冬の女王は仲間ですが、特別親しいわけでもないからです。加えて、会ったこともない人を信じることなどできませんでした。

 冬の女王が二人でお願いすると言ったとき、即座に『できるとは思えない』と秋の女王は返しました。なぜこの短時間で反対の意見になってしまったのか、夏の女王にはわかりませんでした。


「どうしてもあなたの考えには賛成できないわ。ですから、その方を試させてもらいます」

「ご自由にどうぞ」


 秋の女王が余裕たっぷりに笑います。なぜそこまで信じることができるのか、夏の女王には不思議でたまりません。


「こちらも一つ聞いていいかしら?」秋の女王が首を傾けながら夏の女王の目を見ます。

「ご自由にどうぞ」

「では遠慮なく」秋の女王は夏の女王の悪意を知らんぷりしてつづけます。「なぜあなたはわたしの考え方に賛成できなのに、おとなしくついてくるのですか?」


 その通りです。夏の女王はひとりで他の三人の女王を相手にしても勝てるほど強いですから、いざとなれば力で押さえつけることもできるのです。


「わたしはその殿方が結婚を断ると思っているからです。だってそうでしょう? 小さな村に住む名もなき一人の国民が、周囲からの妬みを買ってまで身分違いの恋を成就させようだなんて、いったいだれが思うというの?」

「わたしと冬の女王と、春の女王ですね」

「あなたたちは夢の見すぎです」

「あなたが愛の力を侮っているだけよ」


 夏の女王から見て、秋の女王は愛の力など信じる人間ではありません。それなのに、いったいどうしてしまったのでしょう?

 夏の女王が秋の女王の変化に戸惑っていると、急に馬車が止まりました。何事かと思い二人が外に出ると、離れたところから乗馬した若者が猛スピードでやってくるではありませんか。


「あの方ではないですか?」と秋の女王。

「間違いありませんね」夏の女王は同意します。「さて、先ほど言ったとおり、あの方を試させていただきます」


 夏の女王が手に力を込めます。すると、手のひらから光のロープが飛び出ました。ロープが若者と馬を縛り上げ、地面に倒しました。


「なにをする!」若者が怒声を上げます。

「この無礼者!」夏の女王が怒鳴り返します。「わたしたちをだれだと思っているのです! 季節を司る夏の女王と、秋の女王であるぞ!」

 短くて逆立った髪をした若者は、目をぱちぱちさせてから顔を伏せました。「……大変申し訳ございません」


 この国では王様が一番偉く、その次に偉いのが季節を司る女王たちです。小さな村の若者とは身分が違うのです。理不尽があっても、納得できなくても、頭を下げなくてはなりません。怒声を上げるなどもってのほかです。


「わかればよろしいのですよ」秋の女王が若者を安心させるように柔らかい声を出します。「夏の女王、解いてあげて」

「解きませんわよ」夏の女王は若者を冷たい目で見降ろします。「言ったでしょう? わたしはこの方を試させてもらうと」

 野蛮なまねはしないと思っていた秋の女王は、夏の女王に非難の目を向けます。「いったいなにをする気ですか?」

「あなたは少し黙ってなさい」


 夏の女王が秋の女王を突き刺すように睨むと、秋の女王は深く息を吐きながらかぶりをふりました。あまり逆らうと実力行使されてしまう恐れがあったがために、これ以上強く出ることができませんでした。


「さて、一応確認しておきますが、あなたが冬の女王の?」

「はい」若者が夏の女王を見上げます。「お触れのことを知り、いてもたってもいられなくなって、村を飛び出してきたのです。彼女になにかあったのではないかと」

「あなたは冬の女王にあってどうするつもり?」

「おそらくですが、塔から出られなくなっているか、出たくない事情ができてしまったと思われますので、私に手助けできることなら、どんなことでもするつもりです」


 どうやら頭は悪くないらしい、と夏の女王は判断しました。秋の女王も同意見なのか、うんうんと首を縦にふっています。

 冷たい風がぶわっと吹いて、周りの木々がざわりとしました。


「……実は、冬の女王は王様と結婚することになっています。ですが、あの子はそれを拒否しているがために、塔にこもってしまっているのです」

「……名誉あることなのに、どうして拒否しているのでしょう?」

 秋の女王が答えます。「どうやら冬の女王には想い人がいるらしいのです」夏の女王の顔が不機嫌になりましたが、秋の女王はつづけます。「わたしたちはその方に会いに行く途中だったのです。……もちろん、あなたのことですわ」

 若者が驚いたように目を見開きます。「冬の女王は、王様よりも私を選ぶというのですか!?」

「ええ」夏の女王が少し投げやりに言います。「ですから、いまこのような面倒なことになっているのです」


 夏の女王が疲れの色を隠せない溜息を吐いて、「冬の女王はあなたと結婚したがっていますが、あなたは応えることができますか?」と若者尋ねると、すぐさま「もちろんです!」と力強い返事が返ってきました。


「私は冬の女王と心を通じ合わせたつもりでしたが、あまりに身分が違うがために諦めておりました。しかし、ここまで想われているのに袖にするのは、男がすたれます」


 迷いのない、決意を秘めたまなざしに、夏の女王は危うくときめきそうになってしまいました。正気に戻るために、素早く頭をふります。「しかし、あなたの言う通り、あまりに身分が違いすぎます。もしあなたと冬の女王が結ばれたとしても、お城でも生活は、快適なものではないでしょう。あなたは差別的な目で見られ、冬の女王は身分の低いものにたぶらかされた女として低く見られるでしょう。……わたしのような結婚に反対するものから、いまのような理不尽もたくさん受けることになるはずです。王様からの不興も買ってしまうでしょう」


 悲観的な展望を告げられても力強さを失わないまなざしに、夏の女王は問いかけます。


「それでもあなたは冬の女王と結婚しますか?」


 少し間があって、若者が答えます。


「もちろんです。数々の悪意が襲い掛かろうとも、必ずやふり払い、冬の女王をお守りすることを誓います」

「よくぞ言いました!」秋の女王が手を握って若者を称賛します。「それでこそ我が国の誇るべき男児です!」

「はしたないですよ、秋の女王」夏の女王が呆れた声を出しました。そして、若者を見据えます。「あなたの決意はわかりました。今度は実力を見せてもらいます」

「実力、ですか?」

「本当にあなたに冬の女王を守れる力があるか、試させてもらいます。いま縛られている状況から脱して見なさい。それができれば、あなたを冬の女王に会わせてあげましょう」


 夏の女王は一方的にしゃべったあとに、縛る力を強くしました。若者が呻きます。


「やりすぎです、夏の女王!」

 夏の女王は抗議してきた秋の女王も縛り上げ、口もふさぎました。「わたしのやり方でやらせてもらいます」若者を見下ろして、「早くしないと骨が折れてしまいますわよ?」


 若者は震える手で土をつかみ、歯を食いしばいながら抵抗します。しかし夏の女王の縛り上げる力にはかなわず、徐々に徐々に、身体に光のロープが食い込んでいきます。


 夏の女王が諭すように言います。「冬の女王を諦めなさい。あなたは弱い。その程度の強さでは、彼女を守れません」

「絶対に諦めぬ!」若者が必死に口を動かします。「なにがあっても絶対に諦めぬ! 彼女の想いに、必ず応えるのだ!」


 そのときです。ぱあんと破裂音が響いて、若者を縛っていた光のロープがはじけ飛びました。


「……よくやりました」夏の女王が秋の女王の拘束を解きながらしゃべります。「その強さがあればきっと大丈夫でしょう。ついてきなさい」


 夏の女王が馬車に向かって歩きます。後ろで秋の女王が若者の痛んだ身体を気遣っているのを見て見ぬふりをして歩きます。

 これでよかったのか。自分の判断は間違っていないだろうか。自問しますが、答えは出てきません。

 答えはきっと、あの若者が出してくれるのでしょうね。そう結論づけて馬車で待っていると、二人がやってきました。


「出してちょうだい」


 夏の女王が声を出すと、馬車が来た道を引き返し出しました。

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