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冬の女王の結婚式  作者: 番場すぐる
1/3

前編

 あるところに、春・夏・秋・冬、それぞれの季節を司る女王様がおりました。

 女王様たちは決められた期間、交替で塔に住むことになっています。

 そうすることで、その国にその女王様の季節が訪れるのです。


 ところがある時、いつまで経っても冬が終わらなくなりました。

 冬の女王様が塔に入ったままなのです。

 辺り一面雪に覆われ、このままではいずれ食べる物も尽きてしまいます。


 困った王様はお触れを出しました。


『冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。

 ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。

 季節を廻らせることを妨げてはならない』




 王様はお城にある自分の部屋で、家来に淹れさせたおいしいお茶を飲んでいました。


「これで冬の女王も出てくることだろう」


 お触れを見たたくさんの人が冬の女王を塔から出そうとするはず。そうしたら、冬の女王は出てくるだろう、と王様は考えています。

 多くの人が「このままでは食べるものがなくなってしまいます」と涙を流す姿が、王様には想像できます。それなのに、塔にこもっていることなど、心優しい冬の女王にできるわけがないからです。

 そのことを王様はわかっていました。


「しかし、冬の女王も困ったものだ」


 冬の女王が塔から出てこない理由も、王様にはわかっていました。

 国中のだれにも教えていませんが、王様と冬の女王は結婚することになっています。しかし、冬の女王は王様と結婚したくないのです。だからずっと塔のなかにいれば結婚しなくて済むと考えているのです。

 塔のなかには季節を司る女王たちと、その伴侶と子供たちしか入れませんから、王様が無理やり冬の女王を外に出すことはできません。


「まったく世話の焼ける……」


 どうして冬の女王は自分と結婚したくないのだろうか。王様にはわかりませんでした。

 王様は優秀です。国民を飢えさせることもなく、他の国とも仲良しです。前の王様のときよりも、ずっと平和で安全な国にしています。

 ですが、王様に欠点がないわけではないのです。


「……なんだ? やけに騒々しい」


 冬の女王との結婚が思い通りにいかなくてイライラしていた王様は、いつもなら気にならない鳥の鳴き声に気分が悪くなってしまいました。

 窓から外を見ると、鳥が木に二羽並んでいました。


「気に入らん」


 自分は冬の女王に隣にいてもらえないのに、なぜ鳥ごときが。

 王様は杖を掲げました。すると杖についていた赤い宝石が光りました。そして、二羽の鳥も赤く光り、消えてしまいました。


「これで静かになった」


 王様は満足そうにうなずきます。気に入らないものは消してしまえばいい。もし消せないものだったなら、権力を使って思い通りしてやればいい。

 冬の女王は王様のこういった性格が恐ろしくて結婚したくないのです。しかし、王様は自分のなにが悪いのかがわかりません。


「おい、今日の私の仕事はなんだ」


 ベルを鳴らして呼んだ家来に王様は尋ねます。どうやら今日は国を守る騎士たちの訓練を見に行って、「これからも訓練に励むように」とやる気を失わせないようにしなければならないようです。


「さっそく取り掛かろう」


 騎士たちのなかで一番強い人と王様はお友達です。お仕事で忙しい王様はなかなかお友達と会えません。ですからたとえお仕事でも、お友達に会えることはとてもうれしいことでした。


 こうして今日という日が始まりました。



   ※   ※   ※



「すごいことになっているわね」


 秋の女王がお触れのことを知って塔についたころには、それはそれはたくさんの人々が詰めかけていました。ざわざわと騒がしいものの、騎士たちのおかげでなんとか国民は暴れ出さずに済んでいます。なにしろ食べ物がなくなってしまう危機なのですから、いつ暴れ出す人が出てもおかしくありません。


「秘密の入り口を使いましょう」


 あまりの人の多さに普段使っている入り口は使えないと判断した秋の女王は、女王たちしか知らない秘密の入り口から塔の中に入りました。

 塔のなかでは、冬の女王がうつむいていました。美しい顔に、暗い影を落としてしまっています。


「いったいどうしたの?」秋の女王が尋ねます。

「わたし、外に出たくない」

「どうしてよ」

「外に出ると、わたしは王様と結婚させられてしまうわ」

「まあ! それは本当なの!?」


 秋の女王の驚いた声に、冬の女王は弱々しくうなずきます。秋の女王は王様と冬の女王の結婚を知りませんでしたから、本当にびっくりしたのです。

 びっくりしたのと同時に、冬の女王が塔から出ない理由を理解しました。


「王様と結婚したくないのね?」


 秋の女王が微笑みかけると、冬の女王はさめざめと涙を流し始めました。いままでだれにも言えなかった悩みを聞いてもらえて、ひとりで抱え込んでいた苦しみが少し和らいだからです。

 秋の女王は「辛かったのね」と冬の女王を抱き寄せました。

 冬の女王が落ち着くまで、秋の女王はやさしく包み込んであげました。泣き止んだのを確認して問いかけます。


「どうして王様と結婚したくないの?」

「わたし、遠い村に想い人が……、心を通じ合わせた方がいるのです」

「まあ! それは本当なの!?」


 またしても冬の女王に驚かされた秋の女王は大きな声を上げました。「今日という日は驚かされてばかりね」と秋の女王はため息を吐きました。


「でも、どうして遠い村に想い人がいるのかしら? わたしたちはお仕事のときは塔に入りっぱなしで、お仕事じゃないときはお城で暮らしているじゃない」

 冬の女王がくすっと笑います。「あら、わたしは暇さえあればいろいろなところへ出かけて回りを心配させてしまう、困った女王でしょう? 忘れてしまったの?」

「……そうだったわ。どうやら驚かされすぎて混乱していたみたいね」


 冬の女王は周りの目を盗んではあちこちに出かけてしまう、悪い癖がありました。周りの人に心配をかけて、怒られて、それでも懲りずにまた遊びに行ってしまう子供のような女王です。「おとなしくしていればお美しくて素晴らしい女王なのに」と陰口を叩かれてしまっています。

 実はそんな自由で美しいところを王様に気に入られたのですが、それはだれも知りません。


「それで、あなたはどうしたいの? 想い人と結婚したいのかしら?」

 冬の女王が顔を赤くしました。「はい。あの方が望んでくださるのなら」

「わかったわ。わたしが確かめに行ってあげる。その方があなたとの結婚を望めば、わたしはあなたに協力するわ」


 感極まった冬の女王が「ありがとう!」と言おうとしたそのとき、秘密の入り口からすごい勢いで人が入ってきました。夏の女王です。

 春の女王がその後ろをひょこひょこと付いて来ました。


 夏の女王が声を張ります。「待ちなさい! そんなことは許しません!」

 秋の女王がため息をつきます。「どうしてかしら」

「王様はほかの国の国王に『春になったら盛大な結婚式を挙げる』と手紙を出しています。だから王様はだれかと結婚しなくてはならないのです」

「なぜあなたがそんなことを知っているのですか?」

「わたしは隣の国のお姫様から教えてもらったのよ」

「なるほど。それなら間違いないでしょうね。そして王様に結婚相手がいないということになってしまったら、王様に恥をかかせてしまうばかりか、嘘つき呼ばわりされてしまうわね」


 夏の女王が「わかってるじゃない」と秋の女王をにらみます。

 しかし秋の女王はひるみません。冬の女王を守るように背中に隠します。


「その結婚相手が冬の女王である必要はないでしょう?」

「なら、あなたが結婚相手に名乗り出るのですか?」

「お断りいたします。あなたが名乗り出てはいかが?」

「冗談じゃないわ」

「でしたら」秋の女王が春の女王に目を向けます。「あなたはどうですか、春の女王」

 春の女王は小さく首をふりました。「……わたしも、遠慮いたします」


 そうです。女王たちは、だれ一人として王様と結婚したくないのです。決して嫌いではないし、いい暮らしをさせてもらっているので感謝はしています。それでも、伴侶とするからには心が休まる方がいいのです。王様のように恐ろしい人と一生をともにすることはできないと、四人とも考えているのです。


 夏の女王がふうっと息を吐きました。「だれかが結婚しなくてはならないのよ。もうほかの国には春が来ているから、そろそろほかの国の国王たちを呼ばなければならないわ。だから、王様が結婚相手として望んでいる冬の女王に結婚してもらうしかないの。まさかとは思うけど、王様が簡単に心変わりすると思って?」

 冬の女王が悲鳴のような声を出しました。「嫌です! わたしはあの方と結婚するのです! 王様と結婚だなんて、絶対に嫌です!」

「聞き分けのない子ね。力づくでも、外に出てもらうわよ」

「そんな野蛮なまねは、わたしが許しません!」と秋の女王が目に力を入れました。その後ろでは、冬の女王がすがるように秋の女王の背中をつかんでいます。

退きなさい秋の女王。顔に傷がつくのは嫌でしょう?」

「大切なお友達を望まない結婚に差し出す方が、ずっと嫌ですわ」

「……仕方ないわね」


 夏の女王が秋の女王に手を上げようとした瞬間に、「待ってください!」と叫ぶ声がありました。春の女王です。


「お待ちになって! 夏の女王」

「……あなたまで冬の女王の味方なのかしら?」

「そ、そういうわけではありません。でも、冬の女王がかわいそうではありませんか」

「かわいそうですが、仕方ないのです。あなたにも、それはわかるでしょう?」

「それは、そうなのですけど……。秋の女王……」


 春の女王は助けを求めるように秋の女王を見やります。


「ねえ夏の女王、王様がどのような手紙を出したのか詳しく教えてくださらない?」

「……これよ」


 夏の女王がしぶしぶと秋の女王に手紙を渡しました。どうして夏の女王が手紙を持ってるのか不思議でしたが、秋の女王が尋ねることはありませんでした。そんなことはたいした問題ではないからです。


「手紙には『盛大な結婚式を挙げる』としか書いてないわね」

「それが問題なんじゃない」と夏の女王が言います。

「いいえ。『私と冬の女王が結婚する』と書いていないのであれば、冬の女王が王様と結婚しなくても済むかもしれないわ」

「王様は冬の女王と結婚するつもりで手紙を出していると思いますけど?」

「でも手紙にそんなことは書いてない以上、冬の女王とその想い人の結婚式でも嘘にはならないでしょう」

「そんなの、王様が納得するはずないじゃない。どうやって納得してもらうのよ」

「そうねえ……」


 秋の女王はあごに手を当てて考えます。しかしなかなかいいアイディアが出てきません。


「でしたら」冬の女王が手を叩きました。「わたしがあの方といっしょに、王様にお願いしてみましょう。きっとわかってくださるはずです」

「そうは思えないわ」秋の女王と夏の女王の声が重なります。

 冬の女王が反論します。「大丈夫です。王様だってわたしたちと同じ人間です。愛し合っている恋人同士を引き裂いてまで、自分が幸せになろうとは思わないはずです」

「そ、そうです。きっと大丈夫です」春の女王が冬の女王に賛成します。「本当に愛し合っている恋人同士の堅い絆に、王様の心も動かされるはずです」

「まあ、春の女王。わかってくださるのですか!?」

「もちろんです、冬の女王!」


 本当にそうでしょうか? 秋の女王は不安で胸がいっぱいです。夏の女王も難しい顔をしています。


「お待ちなさい二人とも」秋の女王が盛り上がる二人を制します。「ねえ冬の女王、あなたはわたしがその方と結婚したいのか尋ねたとき、『あの方が望んでくださるのなら』と言ったわよね? ということは、あなたたちはまだ、愛し合っている恋人同士ではないのではなくって?」

「告白されていないだけで、心は通じ合わせました。本当です。わたしたちは愛し合っています」

「やっぱり、その方の気持ちを確かめねばなりませんね」

「させませんわよ」夏の女王が低い声を出します。

「いいえ、確かめさせていただきます。そして、冬の女王の想い人が冬の女王との結婚を望んでいるならば、わたしは二人の味方に立ちます。もし望んでいなかったそのときは、冬の女王に王様と結婚してもらいます。……いいですね? 冬の女王」


 冬の女王が「もちろんです」と笑います。表情が自信に満ちています。それを見て秋の女王は安心しました。


 夏の女王がため息交じりに言います。「……わたしも秋の女王といっしょに行かせてもらいます。言葉巧みにその方を結婚する気にさせられたのでは、たまったものではありませんから」

「わたしとしてもそのつもりです」秋の女王がうなずきます。「わたしがいない間に、無理やり冬の女王を外に出されては困りますから」


 秋の女王は冬の女王に村の場所と、想い人の特徴を教えてもらって、夏の女王とともに塔を出ました。

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