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第8話 ひゃっはー涙だ!

「倒れるぞぉーっ!!」


村の男衆の大声が響く。

それと同時に倒れ始める樹木

倒れた振動が収まったならば、すぐさま枝打ちされて運ばれていく。


運ばれてた先には、

高さは20mを優に越え、太さも直径40cmはあろうかというヒノキの大木が

びっちり隙間なく5列横隊に並んでおり、さながら巨人の庭先の塀のようであった。


運ばれてきた樹木は、横に寝かされると、ヒノキの木壁の手前で、障害用の拒馬として交互に縫うように組まれ、積み上げられていく。


大量のハイトロルの出現、所謂モンスターパニックの情報がパシェット村にもたらされてから、丸一日が過ぎ、そんな光景が村の北側一帯のあちらこちらで繰り広げられていた。


「ふぅ~、粗方周りの伐採は済んできたが…………こいつは、何とも壮観な眺めだな。」


汗を拭いながら、目の前の壁を見上げるジーザ


「全くですね…未だにこんな事が出来るなんて信じられない………。あ、水をどうぞ。」


同意するのは、駆け出し冒険者のディーである。

ジーザに水の入った木筒を差し出す。


2人の眼前には、前述の巨大な木壁と寝かせた雑木を組み合わした拒馬が設けられている。

これが100m四方を囲めるように設置されている様相は、木製とはいえ、もはや立派な城壁と言えるレベルであった。


もちろん、100m四方程度の幅でパシェット村全域を囲む事は、出来ていないが、教会や宿泊施設等に使う予定の民家も何軒か内包して、しばらくの間、立て籠れるようになっている。


「おうっ、気が利くな。

豊穣の祈祷札か……確かに効果は、畑で見知っていたが、フル活用した結果となると凄まじいな。

あんな小さなヒノキの枝を短時間でこんだけ成長させるなんてよ……。」


「本当ですね。樹齢100年は少なくともいってるような樹ですもん。おかげで長年かけて作成した祈祷札はもちろん、教会から戴いた在庫もほぼパーってナディア様は、ぼやいてらっしゃいましたけど……。」


水の入った木筒に口を付けるジーザ

トロルとの戦闘でナディアを一目置いていたが、考えてみれば、この豊穣の祈祷札の力もそれ以上に凄まじいものであったのだ。

この異世界で生きてきたディーにとってすら、信じられないくらいの凄さである。ジーザの受けた衝撃は更に大きい。


「でも、ジーザさんだって凄いじゃないですか?

この壁はもちろんですけど、拒馬の材料集め兼ねて、壁の周囲にハイトロルの暴露地帯を作るってオルロフさんが仰った時、森をそんな短期間に伐り開くなんて絶対無理だと思ってましたよ……。

それが1日足らずで出来たのは、ジーザさんの力が大きいんですから。」


「おっ?それは俺を慰めてくれてるのかディー。」


「茶化さないで下さいよ。実際、この壁沿いに30m幅の暴露地帯は、半分以上は、ジーザさんが伐り開いたじゃないですか?

聞けば、村からダンジョンまでの道もジーザさんが行きすがら作ったと……そんなの人間業じゃありませんよ。」


直径100m、その周囲400mの木壁の特にダンジョンから正面となる北側の森は、ハイトロルの接近を直接確認出来るように、視界を良好に整地する必要があった。


5m~6mもあるハイトロルであれば、森を進む際に、木々を掻き分けたりする物音やその重厚な足音で、接近の察知事態は容易であるが、遠距離から牽制を含め攻撃する事が出来ないため、暴露地帯を作る必要であったのだ。


そこで、ジーザ達やビナシス派に雇われていた冒険者、村の男衆、総勢50名程で、壁の構築と暴露地帯の伐採を昨日からずっとしている。


「人をバケモンみたいに言うな。それはそれで嬉しくないぞ?」


「ううう……じゃあ、僕は何て言ったらいいんですか~」


頬を膨らませるディーの様子にクックックと含み笑いをするジーザ

作業していた丸1日でこの2人は、すっかり打ち解けていた。

主にジーザが弄り、ディーを慌てさせたり困らされたりするような絡み方であったが……。


いずれにせよ、下手な砦真っ青な防護壁がほぼ完成を見ている。

あとは、オルロフが村や冒険者の中に居た職人達に指示をして、諸々の道具の絶頂期や付帯設備を作っている。


「それにしても……ダンジョンに残った方々は、全滅してしまったんでしょうか?」


「さあな、やりあった事があるわけじゃないからな。そいつらの実力はもちろん、ハイトロルもどんなもんか知らん。よってどうなったか分からんってわけだ。」


「…………。」


「……オルロフが言うには、ハイトロルの方は、トロルより素早い上に真っ当な武器を持ってるからな。

オルロフの師匠だとか自称してた女。それが本当なら、そいつくらいじゃないか?大丈夫だと言えそうなのはよ。

お前の方が、その辺は詳しいだろうがな。」


「オルロフさんの師匠……ああ、アーツ様ですね。あの方は、東方教会の剣術指南のお役目様ですから、私も大丈夫……いや、私程度が大丈夫だとか言うのもおこがましい方ですよ。

全聖騎士の師であり、かつ、全ての冒険者が憧れるドラゴンスレイヤーでもある、そんなアーツ様に万が一もないと思います!」


ディーの説明に興味を持ったのか身を乗り出すジーザ


「ほう、ドラゴンスレイヤーっていうのは、そんなに凄いのか?」


「えっ!?……ドラゴンスレイヤーですよ、ドラゴンスレイヤー!

ハイトロルなんて目じゃない、この世で最強最悪の生命体であるドラゴンを倒した御人ですよ。」


「最強最悪の生命体か……。そいつは凄いな。」


「……ええ~っと、ジーザさん。オルロフさんが昨晩の作戦会議で浮世離れしてると紹介してましたが、これ程とは……。

いいですか、アーツ様はこの国で、子供でも知っているくらいの有名人ですよ。

それは、ドラゴンの中でも上位首の古代竜エンシェントドラゴンを倒した救国の五大英雄、その内の一人だからです。

剣鬼又は暴君アーツ

鉄壁のメイザー

超人ヴォルグ

貫槍のクートア

三矢のシウバ

完癒のロージー

大魔術師ノゲーラ


彼らが各国連合軍や緊急招集された冒険者達が押し寄せる飛竜ワイバーンの大群に手一杯の中、単独パーティで巣に潜入し、激戦の末、古代竜を討伐したのです!」


うっとりとした表情で一気に語り上げるディーに若干、引き気味になるジーザ


「う、噂に尾ヒレがついたんじゃねえのか、それも語り継がれる内に盛大によ?」


「とんでもない!まだたった1年前の事なんですから、皆、同じ話を知っていますよ。

それに実際問題、最初に戦端を単独で開いた隣国、バルビゾン帝国は、壊滅的な打撃を受けてしまって、各国連合軍に参加出来ない程でした。

一大強国として近隣諸国に膨張戦略をとっていた折、バルビゾン帝国の強気を支えていた数万という精鋭部隊が惨敗する大事件に各国首脳が慌てて連合を組んでようやく互角の戦いが出来たんです。」


その時、ディーの背中をバンッと叩く男が現れる。

監視のまとめ役的な立場だった中年の冒険者マルケスである。


伐採された丸太を積み上げたりと自身も中々の剛の者であり、昨晩の作戦会議以降も引き続き冒険者達をまとめて作業していた。


「英雄譚に憧れるのもいいが、まずは自分の身を守れるように準備しとけよ?


「おわっ……マルケスさん、驚かさないで下さいよ。それに僕も冒険者の端くれ、自分の身くらい自分で守れます!」


「ほぅ~随分と威勢がいいな。その威勢をハイトロル相手にも発揮してくれよ?はっはっは!!」


豪快な笑い声を上げるマルケス

ジーザもその笑いに続く。


「ううう……また子供扱いして…。」


どうにもディーは、行動をもって半人前もとい子供でない事を証明するしかないようである。


………………


夕陽が沈み、本来なら村の家々が団欒を囲む頃、教会には主だったメンバーが勢揃いしていた。


西の砦アランゴラへと避難する村長以下の女子供や老人は、明朝早くに村を出るため、既に就寝している。


開口一番、オルロフは、この場に新たに加わった人物達に向け、謝辞を述べる。


「まずは、西の砦アランゴラから、強行軍で、馳せ参じて戴いたデュラン殿に感謝申し上げる。」


一同の視線が鋼の鎧に身を包んだ壮年、40代中盤といった所の中年男性に向けられる。

ブラウンのオールバックの髪に、口と顎に豊かな髭を蓄えた偉丈夫であった。


「いやいや、これもお役目。むしろ、ハイトロルを努めて多く止めるためとは言え、このパシェット村を戦場としてしまう事を申し訳なく思う。

それにも増して、高名なオルロフ殿と共に戦える事は武門の誉れ……ここ一帯の安寧を陛下に任された騎士として、このデュラン以下10名。微力ながら全力を尽くしましょう。」


デュランの目配せにその後方に座っていたデュランの従士、小姓が一斉に立ち上がり右拳を胸に当てがう。

皆、冒険者より少し程度が良いくらいであったが、チェインメイル等ある程度統一された装備を身に付けており、部隊としての士気と練度はそれなりに高そうであった。


オルロフは、デュラン達の救援への謝辞と他の面々への紹介を終えると会議を進める。


「次に、現在の状況を整理させて貰う。このパシェット村の戦力だが、デュラン殿以下12名を加え、40名程となった。また、朝方、神官のキモから連絡があったと思うが、アーツもハイトロルを遅滞しながら、この村に向けて徐々に後退してきている。」


事前に聞いていたのであろうが、改めてオオーっという声を漏らす一同

ディーの言っていた通りアーツの存在は、かなり大きいようである。

アーツを擁するビナシス派の神官キモもまるで自分の事のように胸を張って立ち上がる。


「左様です。今朝方、かの救国の五大英雄にして東方教会の聖騎士長アーツ殿から、『通信』の魔法で連絡がありました。

明日の昼頃にはこの村に差し掛かるとの事ですが、何、既に何体かのハイトロルを倒したそうですし、必ずやここの防衛を成し遂げられるでしょう!」


キモの話に士気高揚する面々

ハイトロル何する者ぞといったやや弛緩した雰囲気まで漂う。

オルロフは確執のあるアーツの事だけに冷めた目でそれを静観していたが、気を取り直したように声を張る。


「まだ楽観的になるのは早いんじゃないか?

俺がダンジョンで見たハイトロルは、50匹近い数だった。ダンジョンという事は、新たに発生したトロルやハイトロルも加わっているかもしれん。

しかも、西方に漏らす事ないようここに引き付ける以上、結界でただ止めれば良いというわけにもいかず、戦って阻止すしなければならない。

ここで緊張感を切らす事なく、俺達は俺達で構じ得る手段を最大限具体化していく必要がある。」


静けさを取り戻す中、冒険者のまとめ役であるマルケスや、騎士デュランは、大きく頷く。

この2人は、キモが楽観主義を煽る中、敵の数が減るのは有難いが、未だ厳しい状況に変わりない事を認識していたようである。

オルロフもそれを見て少し安堵したのか軽く頷き返す。

オルロフとしては、そもそもダンジョン自体を封印出来れば、わざわざこんな即席の砦に強敵を呼び寄せて戦わざるを得ない事態にはならなかったはずなのであるが、今更言っても仕方ない事としてグッと堪らえていた。


「さて、話を元に戻すが、現状の続きとして、この40名基幹で当面の期間、ハイトロル達をこの場で阻止しなければならないわけだ。」


「当面っつ~のは、いつまでくらいの事なんだ?」


話を続けるオルロフに今度はジーザが質問を差し込む。


「早くて5日間……まあ、1週間と考えておいた方がいいだろうな。」


「1週間か。当然、敵には昼も夜もないんだろう?」


「そうだが、トロルは基本、陽の光を嫌う。昼間であれば少しは攻撃の圧力が低くなると見ていい。」


「陽の光を嫌うって事は、夜は得意なんだろ?夜目がハイトロルは利くとかなんだろうが……そういう部分も含めて俺達は、夜間の不利にどう対応するんだ?他にもハイトロルに明確な弱点があるのなら、聞かせて欲しいところだ。」


「此方側の対応として、闇夜に対しては篝火を焚いて照らし出すしかないな。魔法を出来るだけ温存しておきたいしな。

弱点の方は、光、雷、火辺りの属性だから、遠距離から属性付与した矢で牽制しながら、近接してきたハイトロルに直接攻撃を集中して退かせる……それを繰り返

して時間を稼いでいくのが基本的な戦い方となる。」


ジーザは、腕組みをしながら、真面目な表情を浮かべオルロフの話を聞く。

こういった所では、生き馬の目を抜く荒野を生き抜いてきたため、徹底したリアリストであり、戦いに関しては生真面目なのである。


ジーザの質問が切っ掛けとなったのか、続けてマルケスも質問を口にする。


「やはりハイトロルを倒すのではなく、退かせるまでに留めるしかないか?」


「もちろん、着実に倒していかなければいけないのも確かなんだが、逆に倒そうとする意識で、1匹に攻撃を集中し過ぎてしまうと複数対処のための火力が足りなくなってしまう。10匹そこらであればまだしも、50匹近い大群を相手にする事になるだろうからな……。」


「ふむ、元々、回復力が半端ないハイトロル相手に直接攻撃をして効果が期待出来そうな実力者は、アーツさんを始め、ナディア様、オルロフの3名くらいのもんだろう……そろそろベテランの域に差し掛かろうという俺としては、何とも不甲斐ない限りだがな。」


ポリポリと頭を掻くマルケス

ジーザと同じく冒険者もリアリストなようで自分の実力から出来る事を分析していたのである。

しかし、デュランの方は、これに噛み付く。


「『剛槍のデュラン』と呼ばれたこの私も軽く見られたものだなっ!この辺り一帯を守り続けて20余年、どんな魔物も我が愛槍のパルチザンで突き伏せてきたのだぞ。」


デュランの配下の者達も前屈みになって、無礼を言うなとばかりの姿勢をとっており、場の雰囲気が険悪になり始めてしまう。

マルケスは、マルケスで自分の見立てに自信があるのか発言を撤回する様子もない。


配下の手前もあってか無礼は許さないと立ち上がろうとするデュラン

この予備動作を見てとったオルロフは、

すかさず手をかざして機先を制すると、場の収拾を図る。


「各々の懸念事項等は、分かった!

その点を考慮しての部隊運用であるが、

北側の森を正面として冒険者達はマルケスを指揮官に左側半分の地域を、

デュラン殿達は、右側半分の地域をそれぞれ守って戴く!

マルケスにもディラン殿にも思う所があるだろうが指揮官としてそれぞれ左翼と右翼をまとめて欲しい。

村の方々は、昨晩話した通り矢束の補充等の支援をして貰う。

その他の俺やナディア様らは、遊撃部隊として突出した敵に対しては直接攻撃を集中する。

この運用に意見があれば聞かせて欲しい。」


オルロフの部隊運用の提案に、各人の思考の焦点がそちらに誘導される。

オルロフとしては、ビナシス派の雇った冒険者達と正規兵と言えるデュラン達を混在させようとは考えていなかった。

それぞれ地域を与えて、抜け駆けのない範囲で競争心を煽り、戦意を維持する狙いである。


「オルロフ達が、遊撃部隊として直接攻撃……止め刺していくって所か?それならば、俺に異存はない。冒険者達をまとめるだけなら、知った顔ばかりで実力も大体把握しているしな。」


マルケスの方は、特に異論なくオルロフの提案に乗る。

デュランの方も憮然とした表情から一転、笑顔でこの部隊運用を了承する。


「ナディア様を始めオルロフ殿達には、我々の日頃の厳しい訓練の成果、とくと御覧戴こう!」


自信ありげに胸を叩くデュラン

ナディアは、ビナシス派の神官キモの手前、未だに一言も喋っていないが、全員に対して深々とお辞儀をしていた。

この件に関して東方教会として責任の一端を感じているようだった。

あの状況でどうにか出来たか疑問符が残るにしてもである。


部隊運用が決まると後は、交代要領、不測事態対処等における約束動作やら細かい取り決め事に移行する。

オルロフ、マルケス、デュラン、そして村の代表として猟師のパウロが残り、その他の面々は、宿としてあてがわれた民家に散っていく。


神官キモも後の細かい所は任せたと、我が儘を言って自分達専用に用意させた民家に撤収

ナディアにしても、虎の子の戦力として努めて温存するため、オルロフが休むよう促して教会の2階に上がらせていた。


「ジーザ、お前も今日は上がっていいぞ。後の事は明朝伝える。……だが、万が一、ハイトロルの来襲を知らせる鐘が鳴ったら、ルチア達をこの砦の中に連れてきてくれ。見張りも万能ではないが、鳴子を何重にも張り巡らしているからな。慌てなければハイトロルが壁に取り付く前に来れるだろう。」


「……分かった。じゃあ、また明日。」


オルロフの気遣いに、いい加減疲れてきたため、素直に乗っかり教会を後にするジーザ

昼前にルチアが作ったサンドイッチ入りのバスケットを人伝いに受け取って以来、陽が沈むまで作業詰めで何も口にしていないため、空きっ腹でもある。


「腹一杯、夕飯を食ったら……さっさと寝ちまうか~。連日の早起きは結構堪たえるわ。」


ジーザは、コキコキと首を鳴らすと、独り言混じりに帰宅……といってもジーザのとのではないが家に入る。

家に入ると入口奥の土間には、明日の避難に持ち出す荷物がまとめられている。

ガルムとルチアは、調度夕食を終えた所らしく、囲炉裏を囲んでいた。


「……あっ、ジーザさん、お帰りなさい……夕食を用意しますね……。」


「結構、遅くまで話し合っとったんじゃな。……村のために、感謝の言葉もない。」


西方への避難に関して話し合っていたのか、ルチアは何処となく元気がない様子である。

ガルムにしても、ジーザに感謝の気持ちを伝えようとしているが、表情は芳しくない。

慣れ親しんだこのパシェット村を一時的になるにせよ離れる事になるのだから、当然といえば当然であった。


「なぁに、俺にとっても満更でもない事だからよ」


「?」


「腕を上げるには、戦いに身を置くのが手っ取り早いって事だ。」


ルチアが夕食の用意をしている間、ガルムに戦う理由を伝えるジーザ

強くなる事はもちろん、ハイトロルとの戦い自体にジーザが胸踊らせてるのもまた事実なのである。

ガルムにその気持ちは、あまり理解出来ないようで、苦笑いを浮かべていたが、特に否定の言葉は出なかった。

理由が何であれ村を守るために戦ってくれるのだからであろう。


「はい、荷造りを済ませてしまったから、有り合わせて申し訳ないですけど、どうぞ。」


そうこうしている内に、ルチアが夕食を運んでくる。

熊肉や猪肉、鹿肉の薫製を炙ったものの盛り合わせに、サラダボウル、フルーツボウルとボリューム満点であった。

肉とソースの香りはもちろん、鮮やかな彩りが食欲を誘う。

有り合わせと口では言っていたが、明日から会えなくなるジーザのために作ったルチア渾身のメニューであろう事は明白だった。


「おおっ、こいつは食い出がありそうだ。」


ジーザは、違和感を覚えることもなく嬉々として食事に有り付く。

それをルチアは、複雑な顔をして眺めていた。


「……気持ち良く食べて貰えて、私も作り甲斐があります。」


「うむ、いつもながら、ルチアの飯は最高だな。」


ジーザが何の気なしに使った『いつも』という言葉にキュッと下唇を噛むルチア

ジーザは、それに気付く事なく話を続ける。


「正直、ルチアの作った飯を1番の楽しみにしてるからな。まあ、言うなれば俺の力の源みたいなもんだ、ハハハハッ……?どうしたルチア?」


到頭、顔を背けてしまったルチアに流石のジーザも疑問を呈する。

反応のないルチアに怪訝そうな顔をして肩に手を伸ばすジーザ


「食べ過ぎて気分でも悪くなったのか?……っとおい、なんだ!?」


ジーザが伸ばした手が肩に触れる前に動きを止める。

急に振り向いたルチアが両手でその手を掴んだからである。

ジーザからしたら、大した力ではないが、少女なりに強く握り締めているようだった。


「……約束…て下…い……」


「ん?」


「……約束して下さいっ!絶対無事でいるって!!私の料理をまた食べてくれるって!!」


突如、声を張り上げるルチア 

淡いピンク色の唇は、震えている。

また、その大きな青い瞳には既に涙が溢れていた。


「……お、おおっ……当たり前だろ。こんな所でおっ死ぬつもりはないし、また何事もなかったようにルチアの作った飯を食う毎日に戻すつもりだ。」


ジーザは、狼狽えながらもルチアに言葉を返す。

ガルムの方は、一瞬目を丸くしたもののルチアの気持ちを分かっていたのか引き続き黙っていた。


「約束……約束ですよ?」


「ああ、約束だ。無事にコトを終えて、ルチアの作った飯を食う……絶対だ。」


言葉だけの口約束であるが、ルチアはそれを聞いで満足したのか小さく「ぁぁ……」と感嘆すると、感極まり今度はジーザの手を抱き締める。

ジーザの手に伝わるルチアの温もり、そして溢れ落ちた涙の感触


しばらく室内を静寂が包む。

聞こえるのは、パチパチという囲炉裏の炭が弾ける音だけであった。


「ルチア……気持ちは判るが、そろそろ放してあげたらどうだね?ジーザさんもまだ夕食が済んでおらんしな。」


ジーザが冷静になってどう反応したものかと思案し始める頃、ガルムが助け船を出してくれる。


「あっ……すいませんっ!…………私達の分、お片付けしなきゃ……。」


ハッと我に返ったルチアは、身を引いて一瞬考え込むものの、感情に任せてとってしまった自分の大胆な行動をどう収拾したらいいか分からず、台所の方に逃げるように行ってしまう。

しかし、その表情は、前程暗くはないようであった。


「……重ね重ね、すまんな。」


ガルムが小さく詫びの言葉を発する。

ジーザも気にする事はないと手を横に降った。


「気にする事はない。

荒んだ世界で生きてきたからな…。こういう事は初めてで、少し面食らっただけだ。」


「そうか……。」


噛み締めるように頷くガルム

ジーザは、そんな彼には、聞こえない声で呟く。


「……だが、悪い気分じゃないな。」


戦いの前夜は、それぞれの想いをたゆたわせながら、ゆっくりと更けていくのだった……。




主人公ステータス


名前:ジーザ

種族:人

性別:オス

年齢:23歳

身長:231cm

体重:220kg

出身地:カントー

所属:なし

カルマ:➖98 極悪

モラル:➖99 非道


Lv:32

状態:正常

体力:53

魔力:9 

筋力:59

反応:18

耐久:37

持久:36

※( )内は、前話からの変化値


職業ジョブ:戦士Ⅰ

能力アビリティ:筋力強化、反応強化、肉体強化

技能スキル:拳闘術Ⅰ、斧術Ⅱ、投擲術Ⅱ、索敵術Ⅱ、隠密術Ⅰ、馬術Ⅰ

加護ギフト:なし

装備:アイアンアックス、レジン(樹脂)の肩当て、鋲打ち腕当て、レジンの脛当て、隷属の腕輪

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