第7話 ひゃっはーパニックだ!
整然と刈り取られた樹のトンネルを歩く集団が居た。
人数にして18名、大きく2つのグループに分かれている。
1つは、先を行くナディアとオルロフを囲むグループ、もう1つは、少し後方のジーザを囲むグループである。
囲んでいるのは、ビナシス派と呼ばれるダンジョンにより富を得ようとしている一派
ただ、今ジーザ達を囲んでいる人間は2人を除いて、金銭で雇われた冒険者であるようだった。
その極一分の教会に属する人間は、ローブの下は、同じような意匠が施されたチュニックを着ているが、冒険者の方は、統一性がなく革や部分的に金属で補強された動きやすそうな鎧等を身に付け、身体のあちこちにこれまでの経歴を物語る古傷が刻まれていたため、違いは一目瞭然である。
護送役、実質はビナシス派によるナディア派の監視役達としては、
ナディアは、近接戦闘となればなかなか実力を発揮できないし、この状況下ではオルロフもナディアの安全を確保しながら戦うのは難しいだろうという判断から一纏めにし、
ジーザはジーザでその立派な体躯を警戒されたため、別にされて今の行進隊形となっていた。
道中、監視役の面々の話振りからするとパシェット村に戻って以降もしばらくは、この面子で交代交代、監視を継続されるようである。
もちろん、ナディア達には、ほぼ行動の自由などなく、軟禁状態となるだろう。
「…ふぅ~、こうギチギチに囲まれたんじゃ肩が凝って仕方がないな……。」
ジーザもこの状況にぼやくがオルロフが大人しくしている以上、自分の命が脅かされない限り動くつもりは毛頭なかった。
幸いな事に、ジーザが一番心配していた愛用の手斧は、監視役の内の一人が運んでおり、目の届く範囲にある。
運搬役は、まだ幼さの残る少年で、手斧の重さにフラフラして青息吐息であったが……。
「落とさないように頼むぜ?それさえ守ってくれりゃ大人しくしているからよっ。」
「ディー、聞いた通りだが……いくらデカい相手とは言え、素手の男に舐められるなよ。」
ジーザが運搬役の少年に余裕の表情で声をかけていると、ディーと呼ばれた小柄な少年が監視のまとめ役と思われるベテラン風の冒険者に嗜められる。
ジーザ達を囲みながらの行進であるため、全体の歩行速度はかなり落ちていたが、彼は、掛けられた言葉に答える余裕もなく、坊っちゃん刈りされた水色の髪を振り乱して、一所懸命、手斧を運んでいた。
監視役の中では断トツで若く、まさに雑用係といった扱いであった。
「おうおう、頑張れよディー君。」
ジーザもその扱いに便乗するような格好である。
まあ、ジーザを取り囲んでいる6人の内、1人は気難しそうな神官風の男、、4人はまとめ役に準じるベテラン冒険者といった中年男達であり、ディー以外に軽口の叩けそうな相手がいなかったのもあるが……。
そして、ここまま特筆する事もなくパシェット村まで辿り着くかという頃、ジーザの頭の中に聞こえてくる声
オルロフの『言霊』の魔法である。
「ジーザ、今は大人しくしておけよ。おそらく、教会に軟禁されると思うが、建物内なら死角も多い……手痛い一撃を加えて脱出する機会もあるはずだ。」
オルロフは、勝手知ったる教会内であれば、この人数相手でも大丈夫そうな口振りである。
むしろ、何か監視役側に仕掛ける事まで考えているようだ。
ディアナが体力的にあまり期待できない事から考えて、脱出といってもただ逃げるだけでは、追い付かれてしまうため、ある程度、監視役達に大きな被害を与えて追撃出来ないようにする必要があるからであろう。
その事に気付いていたジーザは、『言霊』を返せない代わりに、チラリとこちらに視線を向けたオルロフに、進まない表情をして、懸念の旨を伝えようとする。
オルロフは、ジーザの懸念するてあろう事を分かっていたようですぐ様、追加の『言霊』を飛ばす。
「所作を見た限り、それなりの腕前はあるようだが、2~3人ずつならどうとでもなる。ジーザも、出入口付近で1対1に持ち込めば、大丈夫なはずだ。
この前、ホブゴブリンエリートを倒しただろ?あれに毛が生えた程度の実力と考えていおけばいいからな……不意をついて魔法等を使われる前に一気に決めれば、更に確実だ。」
ジーザは、監視役達に気付かれないようゆっくり頷き、了解の旨をオルロフに伝えた。
そこで申し訳なさそうな思念と共にナディアの『言霊』がオルロフとジーザに届く。
「私が捕まってしまったせいで、こんな事態になって、ごめんなさい……でも、出来るだけ村の人達に被害がないようにお願い…………。」
「……分かりました。善処致します。」
オルロフは、そう返したが、おそらくその場に村人が居れば、巻き添えを食う可能性は否定出来ない。
そして、白刃が飛び交う命のやり取りにおいて、彼らに被害がないようにというのは、確約出来ない事であった。
それから、教会に着く僅かの間に、オルロフは段取りを伝える。
監視役達の出方次第であるが、教会内に入ったら、オルロフが食べ物やらを出すといってカウンターに近付きその下に、もしもの時用に括り付けてある剣を使って急撃を加える。
ジーザの方も、オルロフから武器を貰って手近な監視役を倒す。
その騒ぎの隙にナディアは、2階に上がって部屋に立て籠り、身の安全を確保するという流れであった。
「……おっ、パシェット村が見えてきたぞ。」
監視役の一人が村の家々を見付けて声を上げる。
洞穴に向かった時より帰る際は、だいぶ時間がかかったが、到頭パシェット村に到着したのだ。
時刻は、夕方に差し掛かる少し前といった所で、幸いな事に村人達の多くは、農作業や牧畜に出払っているようで、あまり人影はない。
遠くから、農作業を止めて何事かと眺める農夫が何人かいる程度である。
それも、ナディア達がこの大名行列の中に居る事を認めると教会の行事か何かだろうとすぐに納得して作業に戻っていた。
「教会は、こっちでいいのか?」
「……このまま道なりに進むとすぐ2階建ての建物が見えてくる。そこが教会だ。」
パシェット村の地理に詳しくないらしくまとめ役の冒険者がオルロフに教会まで道筋を答えさせると、特に迷うような所もないため、このパシェット村の人口からすれば、かなりの大所帯であるこの集団も、すんなりと教会に辿り着く。
「こっちだ。」
教会に着くとオルロフが前を歩かされ、中に入る事になった。
順々に教会に入っていく面々
「ふぁ~、今日は移動詰めで流石に疲れたぜ。」
監視役の内、多数を占める冒険者達は、このパシェット村の西10km程いった砦の街アランゴラで集められ、ダンジョンまで強行軍した後、続け様にUターンしてパシェット村まできたらしく、
一息つきたいようであった。
「少し待ってくれ、有り合わせで良ければ何か食べ物を出す。」
すかさずオルロフは、もてなしを匂わす言葉をかけてカウンターに向かう。
「オルロフ、下手な動きはするなよ。
おい、お前もこの任務の重大さが分かっているのか?お前らのような輩に信仰心は求めたりはしないが、高い金銭を払ってるんだぞ。気を抜かずしっかり仕事をしろ!」
折角、オルロフの言葉に弛緩した雰囲気になりそうだった所をビナシス派の神官側が、怒鳴り散らす。
冒険者の態度も誉められたものではないが、神官の高慢な物言いに一気に雰囲気が険悪なものとなる。
しかし、逆に冒険者達の注意は、神官達に向く結果となっていた。
オルロフもこの機会を逃さない。
ジーザとナディアに「今だっ!」と『言霊』を飛ばす。
「……っ!?」
突如として激しく動き出したオルロフに監視役達の視線が一斉に向くと、ワンテンポ置いてナディアが2階への階段に走り込む。
調度、教会の出入口を入った所に居たジーザは、手近な冒険者に蹴りを見舞ってぶっ飛ばしていた。
「オルロフ、さっさと得物を寄越せっ!」
「慌てるな、そらっ」
ジーザが叫ぶと同時に大柄な剣を鞘ごと投げてくるオルロフ
オルロフは、ジーザが剣を受け取ったのを認めるとショートソードに炎をまとわし、お得意の『風林火山』を使う。
「そういきり立つなよ、ビナシス派の某さん。」
オルロフは、増したスピードを活かし、地を這うようなダッシュを敢行。
不意を突かれた様子の冒険者達を掻い潜ると、ナディアを追おうとして階段に駆け寄っていた神官の喉元にショートソードの切っ先を突き付ける。
「熱ぅっ…………私の名はキモだ。」
先程怒鳴っていた態度は何処へやら
自分の名前を小さく主張するのが精一杯で、ショートソードがまとう炎にやや仰け反った後、動きを止める神官
その表情は、驚愕のまま凍り付いている。
ジーザも鞘から白刃を抜くと立て続けの事にまだ浮き足だっているせいか、構えきれていない冒険者達に斬りかかろうとしていた。
オルロフは、神官と冒険者の力関係を先程の会話で見抜き、予定を急遽変えても、この集団の雇い主側である神官キモを押さえる事で目的を達成しようとしていたが、ジーザにはそこまでの機微が分かるはずもなく、少しでも早く、且つ、より多くの敵を倒そうとしていたのである。
ただ、冒険者側も素人ではない。
初めに蹴りを食らって壁に叩き付けられた2人を除き、既にそれぞれの武器を構えようとはしていた。
「オラァッ!」
「そんな直線的な動きじゃ……ぐあっ!」
咄嗟の事にもベテラン冒険者は、反応してブロードソードを横に構えて受け止めようとするが、既にオルロフでさえ単純な膂力では上回っているジーザの一撃である……流石に剣ごと叩き斬られる事はなかったが、蹴り飛ばされた冒険者と同じく、ふっ飛ばされて壁に叩き付けられるのだった。
「……いける、いけるな。」
ジーザは、その感触に自分の力がそこそ経験のありそうな冒険者に通用する事が分かり、疑心暗鬼になっていた自分の実力に多少なりとも自信を取り戻していた。
再び剣を構え直し、次の獲物に襲いかかろうとする。
しかし、ここでジーザ達にとっても想定外の事が起こる。
「たっ、大変だっ!!」
ガタンッと大きな音をさせ、飛び込むように教会の出入口から、ダンジョンの方に残っていたビナシス派の雇った冒険者が入ってきたのだ。
息も絶え絶えといった感じであるが、それ以上に、額や腕から血を流している点で、誰もが動きを止める奇異さを醸し出している。
斯くして、その必死な形相に教会内に居た誰もが動きを止めて、その冒険者に注意を向ける。
「その傷は?……何があったのだ?」
既に一度大ピンチに陥っていたため、比較的冷静にいられたのか、オルロフに剣の切っ先を突き付けれていたキモが辛うじて質問する。
「ハァハァ……トロルが…いや、ハイトロルが……ダンジョンから大量にぃっ!」
苦しそうにしながらも、答える冒険者
答え終わるとその場に倒れ、気を失ってしまう。
その言葉にオルロフとジーザ以外がざわつき出す。
「お、おい、聞いたか?ハイトロルが出たってよ。」
「しかも大量にだろ?って事は更に上位種も……。
「こいつはヤバいんじゃないか……。」
先程のドタバタも忘れて皆、口々に不安の声をあげていたが、少し間を置いて、キモの方がまた怒声を響かせる。
「ハ、ハイトロルが大量にだって!?嘘を付くな!!。そ、そそ…それでは厄災レベルの可能性もあるではないかっ!」
どうもキモは、自分の不安を他者への怒声で紛らわすタイプのようである。
顔を真っ赤に高揚させるキモを後目にオルロフの方は、軽く溜め息を付く。
「キモさんよ。俺達は、ダンジョンに入ったから、知っているが……奥の広間に約50匹のハイトロルに数匹のハイトロルエリート、そしてハイトロルジェネラルの可能性がある個体の存在を確認しているぞ?おまけに更にダンジョンには奥があったからな。
…………ビナシス派のやり方からしたら、ある程度は、こうなる事も予期はしていたんだが、案の定、心配していた事が現実になったようだな。」
「ハイトロルジェネラル……。」
オルロフの言葉に監視者達一同が息を飲む。
キモも高揚していた顔からサッと血の気が引いていく。
そして冒険者達側は、そんな雇い主側を蚊帳の外にして談合し始める。
「ハイトロル1匹でも、確実に倒すには俺達で総掛かりだぞ……。」
「ハイトロルが50匹が外に出てきたら、とんでもないモンスターパニックなる。」
「その上、ジェネラルまで居るっていうなら、少なくとも緊急依頼クラスだ。」
「この依頼を受けちまったのが不運だったな……間違いなく冒険者ギルドは、この地方の冒険者を強制権限で集めて対応するだろうからな。知らない振りをして逃げる事も出来ない。」
「逃げちまったら、もうまともにギルド斡旋の仕事は出来なくなっちまうが……そのペナルティ覚悟で裏稼業にこの先走るか……。」
「建前論で言ったら、この村にハイトロル達が来るまでは、まだ時間がかかるから、備えをして後発組が来るまで何とか耐えるかだな。
……成功報酬もそれなりの額が設定されるだろうし、運が良く腕の立つ冒険者が後発組に混じっていれば生存確率も上がる。」
「それにしたってここに残るなら、運任せの要素が大き過ぎる……。」
口々に自分の考えを述べる冒険者達
冒険者は皆、一様にして命有っての物種という態度であったが、このクラスのモンスターパニックでは、そういう個人の自由は制限されるようである。
そのため、冒険者達の中でもそれぞれ思惑の違いから一向にこの場の考えがまとまらない。
ジーザはというと、飛び込みがあった時点で、斬りかかっていいものか分からずオルロフに困惑した目線を向けた所、「今は待て」の指示がきたため、剣を抜いたまま所在無さげに立っていた。
オルロフの方は、冒険者達に統制された動きがなくなったのを認めると、剣を納めて今度はキモを相手に話し始める。
「キモ、先ずは、しっかり状況を整理する必要があるんじゃないか?もし、ハイトロルが多数、ダンジョンの外に出てきているのなら、派閥に関係なく東方教会として冒険者ギルドに協力する必要があるだろ?」
「……た、確かに!早期にそこに倒れている冒険者に聞き取りを……いや、向こうに残った他の神官達にも連絡を。あ、東方教会本部にこの件を伝えて……。」
もはや、パニック状態のキモの中ではオルロフも敵ではなく、頼りになる味方に早変わりしたようで、剣を突き付けられたのも忘れて、これからの事を思案し始める。
「あの女は、死んだりしてないだろうが……他の神官や冒険者は、やられてしまった可能性もあるぞ?
とりあえず、冒険者ギルドにも連絡をとって火急的速やかに応援を寄越して貰う必要があるだろうな。」
オルロフは、キモに助言を一通りした後、ナディアに言霊で状況を伝える。
すると2階でバタンと扉が勢いよく開く音がして、ナディアが慌てたように階段を下りてくる。
「モンスターパニックですって!?」
「ナディア様、詳しい事はまだ……。それを聞き出すために、この者の回復をお願いします。」
「わ、分かったわ!…………『エクストラヒール』」
ナディアは、倒れている冒険者に近付くと、しばしの精神統一の後、回復魔法をかける。
冒険者の身体が微かな光を帯び、傷が塞がっていく。
最後には、カサブタも落ちて完全に元通りといった状態になっていた。
「流石、聖女……超一流の光魔法の使い手だな。」
冒険者の方も監視役としての立場は何処へやら感心したようにナディアの魔法を見守る。
その間にオルロフとジーザは、キモの許可を得て、自分の得物をそれぞれ取り戻していた。
「これで、身体的には大丈夫なはずよ。本当なら大変な事があったんでしょうし、気が付くまで寝かせてあげたいけど……。」
ナディアは、倒れた冒険者を気遣うが今はそれどころではない。
キモがダッと駆け寄り、冒険者の肩を強く揺らす。
「おいっ!起きろ!!」
「……う……ううぅ…………こ、ここは?」
「パシェット村の教会だ。それより何があったのか詳しく教えろ!ハイトロルが大量に出たのは本当か?他の神官らは?アーツ殿はどうしたのだ?」
気付いたばかりの冒険者に矢継ぎ早の質問を浴びせるキモ
しかし、この事態にそれを咎める者はなく、冒険者の答えに注視していた。
「あ、ああ、本当だ。ダンジョン探索のために10人からなる先遣隊を組んで奥に行かせたんだ。しばらくして連絡が取れなくなったと思ったら……ダンジョンから、何十匹っていうハイトロルが!」
「ぐぬぬっ、やはり真実か……で、他の神官らは?」
「……おそらく、神官は全員……。主力の俺ら冒険者もすぐ臨戦体勢を取ったんだが、ダンジョンから続々と溢れ出るハイトロルに混乱をきたしたまま散り散りに……。アーツ殿は、早くオルロフって男にこの事を伝えるようにとハイトロルに立ち塞がって俺を逃がしてくれたんだが、その後の事は俺も分からん。」
「何たることだ……。」
キモは、オルロフの話から、少しは予想していたようだが、この最悪の事態に絶句してしまう。
そこでオルロフがスッと進み出た。
「いくらハイトロルとはいえ、そこまで頭が良いわけじゃない。道を辿っていくという発想はできないだろうから、この村までの距離から考えると1~2日はかかるはずだ。その間に防御態勢をしっかり取って、応援が来るまで阻止出来るようにしよう。」
オルロフの堂々巡りとした態度と冷静沈着な物言いに、冒険者達も異存はないようで、大きく頷く。
「しかしよう、止めるにしてもあのデカブツをどうやって阻むんだ?」
ただ、ジーザは、実際に自分の目で確認したハイトロル達をどのように止めるのか疑問に思っていた。
「豊穣の祈祷札を覚えてるか?アレを応用するんだよ。」
「食い物でハイトロルを釣るのか?」
「それも面白いが、興奮したハイトロルには効果が薄い。それになんたってもっと美味しい獲物、つまり俺達が近くにいるんだからな。
……大木の柵をあの祈祷札の効果を使って作る事が出来るんだ。」
「あの御札を作るのは、結構ホネなんだけど、こういう事態だし仕方ないわよね。」
オルロフの説明に加え、その方法に対してナディアも溜め息混じりに肯定する。
ジーザは、分かったような分からないような何とも言えない表情を浮かべるが、周りの冒険者達もイメージがそこまで追いついていないようであった。
「ジーザを始め、他の冒険者は、柵の敵側の伐採をして貰う事になる。林縁から急にハイトロルが出てくるようじゃ、対応し難いからな。他には……少しでもいいから木工技能のある奴はいないか?」
2~3人の冒険者が手を挙げる。
冒険者になるような人間は、基本、地域社会からあぶれた者である。
貴族や商家、職人等の三男坊以下が、実家を継ぐ事もそのスペアとして残ることも出来ず、外に出なければいけなくなった場合が大半なのだ。
一方、一攫千金を夢見て、田舎の農家から冒険者になるケースも相応にあるが、大抵挫折をして生まれ故郷に戻ってくるし、村は村で開墾に人手がいくらでも必要となるため、すぐに受け入れるため、農民出身者で冒険者稼業を続ける人間は意外と少ない。
そのため、一定の割合で実家が職人という冒険者も居る。
本格的なアビリティはないまでも、よっぽど裕福でなければ家の手伝いはしないければならず、自動的に技能は、身に付いているのだ。
「おっ、思ったより居るな……技能レベル
次第だが、固定式の大型弓の作成を頼むから、そのつもりでいてくれ。それから……」
オルロフは、テキパキと各人に指示をしていく。
それと並行してディーに村長を呼びに行かせる。
パシェット村の土地勘がない冒険者に対して何処に何があるか等、村人を何人か付けて対応する予定であった。
こういった事態であれば、村人総出で対応せざるを得ない事は自明の理である。
その上で、戦力になりそうもない女子供や老人は、西の砦アランゴラに避難させる方針であり、村の防御構想が具体的な形を帯びてくる頃には、村長や村の比較的動ける男衆が集まって
今の状況や今後の対応策をキモやオルロフから聞いていた。
ちなみに事前にオルロフやキモ、それに冒険者達だけで話し合い、アランゴラに全員で撤退という案は、却下していた。
森を抜けてしまえば、特に障害物がないため、ハイトロル達の集団がどちらの方向に進むか予想が出来ないからである。
ダンジョンからパシェット村までは、ジーザが切り開いた道が出来ているため、それを少しずつ辿ってくる確率が高いため、経路が限定出来る。
もちろん、生き残る確率を高めるために、砦のような防壁といった設備は重要なのであるが、その点を懸念する冒険者にオルロフは、アランゴラ以上の防壁を造る事が出来ると約束していた。
「しかし、本当に大丈夫なんですか?トロルというのも聞いた話、相当な化け物だと……それより強いのが何十匹も……。
この村には男手が少ない上、儂もこの年ですし、いっそ皆で逃げた方が……。」
オルロフが砦以上の防壁を造る構想を持っている事を知らない村長は、心配で仕方がないようで、震える手を抑えながらオルロフに聞いてくる。
「大丈夫と言える程、楽観主義者ではないんでね。……だが、逃げの姿勢は感心出来ないな。これは村長自身が招いた事でもあるんだぞ?」
「うっ……い、いったい何の事か……。」
「自分の胸に聞いてみるんだな。なあ、キモもそう思うだろ?」
ビクリと動きを止める村長
心当たりがないかのような態度を取るが、オルロフに声をかけられたキモは苦笑いをしていた。
オルロフは、他の村人の手前、直接的には口にしなかったが、ビナシス派にダンジョンらしきものがあると情報をリークしたのは、この村長と見立てていたのである。
「わ、儂は、村の事を思って!」
村長やキモの反応からして、その推測は間違っていないようであった。
しかし、村長とて、そこまで邪な私心を抱いてやった事ではないだろう。商隊の便宜を図って貰うといった辺りの所だ。
まあ、それを裏で糸引いていたビナシス派の連中には、オルロフとしても考える所があるかもしれないが……。
必死に弁明しようとする村長にオルロフは、手をかざして、首を横に振る。
「その事について今更責めはしない。ただ、少しでも悪いと思っているのなら、こちらの言う事に素直に従ってくれ。」
「……分かりました。」
村長が肩を落として、オルロフの言う事に全面的に従う姿勢を見せる。
村長を除けば、他の男衆は、不安を抱えつつもやる気をみせているので問題ない。
「俺は、親父やそのまた親父が、切り拓いてきたこの村を絶対守り抜くぞ。」
「んだ、あんたらに言われるまでもない。例え、俺達だけでもやる!」
次々にパシェット村を死守するという決意を口にしていた。
「ごほんっ……え~と、東方教会側として、既に、教会本部はもちろん、この地域を統轄する冒険者ギルド、砦の守備隊にも連絡を終えた。後は、村への到着予定時期について向こうからの返答待ちだ。おそらく、アランゴラからは、明日にでも増援が来るだろうが、教会や冒険者ギルドからのまとまった討伐隊は、東部の大都市アウスブルグからになるだろうから、強行軍でも5日はかかるとみておいた方がいい。」
正直、いつまでも守勢でいるのは厳しい。
ハイトロルを多少は減らせるかもしれないが、この少ない勢力ではすぐにじり貧である。
精神的にも終りの見えない戦いは、疲弊の速度を早めるだろう。
キモの発言で、5日後までの阻止……そこが当面の目標として認識統一された。
それに伴い、所要の準備作業が各人に振られていく。
「……今の段階での話し合うべき事はこんなもんだろうな。よしっ、柵のラインは、俺が直接指示する。各人は、今話をした動きに移ってくれ。」
オルロフのその言葉に、各々実際の作業に移行する。
冒険者や残る村の男衆は、パシェット村を砦化する作業に取り掛かった。
また、西に避難する者達は、村長から連絡を受けると慌ただしく荷造りを始める。
オルロフやキモ、その他の者の話から、今回のモンスターパニックに対して、状況は非常に厳しい。
ほとんどの人間が暗い顔をして作業に向かっている……そのはずなのだが、ジーザだけは、内心、心踊らせていた。
来たる激戦への高鳴る期待に胸震わせて……。
主人公ステータス
名前:ジーザ
種族:人
性別:オス
年齢:23歳
身長:231cm
体重:220kg
出身地:カントー
所属:なし
業:➖98 極悪
徳:➖99 非道
Lv:32(➕1)
状態:正常
体力:53(➕1)
魔力:9
筋力:59(➕1)
反応:18
耐久:37(➕1)
持久:36
※( )内は、前話からの変化値
職業:戦士Ⅰ
能力:筋力強化、反応強化、肉体強化
技能:拳闘術Ⅰ、斧術Ⅱ、投擲術Ⅱ、索敵術Ⅱ、隠密術Ⅰ、馬術Ⅰ
加護:なし
装備:アイアンアックス、レジン(樹脂)の肩当て、鋲打ち腕当て、レジンの脛当て、隷属の腕輪