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第6話 ひゃっはーハウスだ!

「……『篝火トーチ』。」


オルロフがそう唱えると、掌に小さな炎が揺らめく。


トーチは、松明を灯す火属性の魔法である。

その他にも身体の一部を発光させる光属性の魔法『ライト』といった灯りの手段はあるらしいが、火属性と風属性が得意なオルロフは、トーチの方を多用するとの事であった。


「『保風カバーウィンド』。」


本来、熱々の食べ物を冷まさないようにするだけの生活魔法と組み合わせる事で、ダンジョンの壁にトーチの炎を据え置き出来るからである。


戦闘が生起した場合、光源が別にあるというのは、照らされる範囲が一定であるため、不測事態を少なくできるという考え方だ。

もちろん、ライトも強い発光で目眩ましを兼ねた使い方もでき、一概にどちらが良いというわけではない。

使い手本人の戦い方に合った選択をしているだけである。


オルロフは、前方の暗がりに向けてトーチを飛ばし、罠の有無も含めて安全を確認しながら、一本道を進んでいく。


やがてダンジョンの入口から、100m程進んだ辺りからナディアのソーラレイでやられたトロルの死体は、見られなくなってきた。


「そろそろ簡易結界の範囲も切れてくる。敵もトロルだけとは限らないから気を付けろよ。」


ジーザに注意喚起をするオルロフ


「ああ、何となくだが、そんな感じがしたぜ。空気というのか分からんが、あんまり良くないもんに変わってきてやがる。」


ジーザも嫌な空気を感じ始めていたのかオルロフに同意する。

実際に息が吸いづらくなったりしているわけではないが、空気がどうにも重苦しい。

魔力をどう感じたらいいのか分からないジーザであるが、野生の勘が危険を告げていたのである。


そのため、オルロフもジーザもそれぞれの得物を構えて、臨戦態勢に入


ここまでは、特に新たな収穫もなく通路が続いているという状況であったが、少なくともこの先、トロルが居るであろう事は予測出来た。


そして、案の定、暗がりの先からドスンドスンという足音が聞こえてくる。


「ここは、あまり地積もないし、少しこちらに不利だな……。」


ポツリと呟くオルロフ


「弱気じゃねぇ~かオルロフ。お前のスピードなら、接近戦でも問題ないと思うがな?」


「現状を適切に把握して効率的にやるための分析だ。どう戦ったら不利な点を解消出来るか考えをまとめるためのな。

そうすれば、不利の中では楽が出来る。

楽して勝てるなら、それに越した事はないだろ?

1つしかない命は、大事にしないとな。」


「ふん……なら、どうする?まさか不利だから尻尾を巻いて入口まで逃げ帰るとかはないよな?」


「冗談っ、ダンジョンのもう少し奥までは、確認しておきたい……『風林火山』っ。」


 オルロフの両手に持っている二振りのダガーが炎をまとう。


「やる気満々じゃねぇ~か。結局、普通に斬り付せて終わりって事じゃないのか?」


ぼやくジーザに意味ありげな笑みを返すオルロフ


「まあ、見てろ。

ただ、目の前の状況を正しく認識して、的確な判断を下す……1つの戦い方として、こういうやり方もあるんだとレクチャーをしてやるよ。」


「ほぅ~……聞こうじゃないか、そのレクチャーとやらをよ。」


ジーザの言葉聞いたか聞かないかの内にサッと前方に駆け出すオルロフ

その動きに合わせてダガーの炎が尾を引く。


「戦いながら説明するぞっ。よく聞いておけ。」


急速に接近するオルロフに、トロルは、得物である石のこん棒を振り上げ始めていた。

ただ、オルロフのスピードからすれば、振り下ろされる前に一気にトロルの足元まで距離を詰める事は可能であろう。


しかし、オルロフは、距離を詰めきる事なく、手前で止まる。


「こういう狭い所では、如何にスピードがあっても回避するスペースも儘ならない。だから、敢えて、自分の予想し易い行動を相手に取らせる……後の先ってやつだっ!」


止まったオルロフ目掛けてトロルは、こん棒を振り下ろしたが、読みきっていたオルロフは、後ろに軽く跳び退くだけで易々と回避する。

ドゴンという重低音をさせ、こん棒がオルロフの元居た地面をえぐっていた。


「こういう重い攻撃をしてくる敵は、予備動作も遅いが、それより致命的なのが、この攻撃後の硬直時間だ。」


オルロフは、ダガーを振るってトロルに傷を付けながらこん棒、腕、肩口と踏み台にして駆け登ると、たちまちのうちに背後へと回り込む。


「グガァァーッ!」


流石に傷口は浅いが右腕から肩口、首筋にかけて斬り付けられたトロルが咆哮を上げる。


「背後を取ってしまえば、動きの遅い魔物など、ものの数に入らないのさ……『烈火大剣ソードフレイム クレイモア』。」


オルロフに振り向こうとしたトロルの身体に斜めの赤い線が走ると

次の瞬間、トロルの上半身が下半身と分断されずれ落ちる。


トロルの陰から姿を現したオルロフは、2本のダガーを重ねており、そこから延びる大きな炎がまるで一振りの大剣を持っているかのようであった。


元々ダガーがまとっていた炎を合わせるとともに、更にバーナーも真っ青な高出力の大火を付与して、さながらクレイモアのような長刀身に仕立てていたのである。

そして、それを斜め下から一気に振り上げてトロルを両断したのであった。


「炎殺剣……なんてね?

こいつは威力はあるが、魔力の消費が激しいから、ここぞという時に使うのさ。」


ジーザは、オルロフの計算された動きにただただ圧倒されていたが、オルロフがクイッと顎で両断したトロルに注意を促してくると、仕方なしに1匹目のトロル同様、頭部に渾身の一撃を与えて止めを刺した。


ジーザには、1匹目を倒した時と違い爽快感は全く感じる事が出来ないでいた。

威力だけでなく様々な面で実力の差を見せ付けられたからである。


それからというものトロルの発生パターンは不明であったが、平均すると50m進むごとに1匹程度の頻度でトロルとエンカウントする。

群れる習性がないのか、はたまた縄張り意識が強いのか、ご丁寧に単体ずつ現れるので、対処要領は、ほとんど同じであった。


オルロフが、トロルをそのスピードで翻弄し、有利な態勢で致命傷を与える。

そこにジーザが後詰めをして、止めを刺すという……。


ジーザには、戦いによる興奮や破壊衝動を満たした時の充足感等、従来の面白味は全く感じられなかったが、

オルロフの戦い方、戦いにおける場の支配の仕方には、興味を持たざるを得なかった。

ジーザ自身がこの戦い方が出来るかは別にしても、これから先、敵となった人間がこういう戦い方をしてくる可能性が、十分にあるからだ。

オルロフだって、運良くお互いの利益が一致したため、協力関係にあるが、目的が違えば、いつ敵同士になってもおかしくはない。


オルロフと当初から敵対しなくて済んだだけでも俺は運が良い……しかも少なくとも今は、協力関係にあり、色々貴重な異世界に関する知識を与えてくれているる……こちらも、積極的にレベルだけでなく色々と経験値を重ねないといけないようだな……とジーザは、考えていた。


前の世界では、ボスのキングに与えられた地域の中で、荒野の荒くれ者達を腕力でねじ伏せ、野盗団を率いて弱い奴らからどう水や食料、ガソリンを奪うか考えていれば良かったが、何も基盤のないこの異世界で自由にやっていくには、単純な力だけでは心もとないのである。


自分を倒した拳法使いや、ボスのキングを除けば、オルロフのような動きが出来る奴はいなかったし、魔法という強力な武器もなかった。


パシェット村の村民は、前の世界にも居たような弱い奴らに過ぎないが、オルロフやナディアの話ぶりから察するに、オルロフに並ぶ、又は準ずる実力者がそれなりの数の居そうな雰囲気である。

奪う者と奪われる者、そのいずれかになるとしたら、迷う事なく前者を、しかもその善悪を考える事もなく選ぶのがジーザであった。


「一本道が続くな……しかも、延々と下り坂か……。意外と大きなダンジョンなのかもしれん。

封印されてからの月日で長過ぎて記録に残っていないだけでな。」


オルロフが、少し顔をしかめながら呟く。

体感では、既に500m近く進んでいたからだ。

如何に暗闇が、人間の知覚を狂わせるといっても相当な距離の一本道である事は間違いない。

ジーザも一本道が長く続いているという点には異論なく、頷く。


「他のダンジョンがどうだか知らんが、一本道が長いっていうのは変なのか?」


「変というと語弊があるが、ここまで別れ道のないダンジョンは、初めてだな。普通は、入ってすぐ蟻の巣のように幾つも分岐しているからな。

トロルのような中級冒険者以上のパーティーが挑むダンジョンは、障気が濃い……障気が濃いダンジョン程、複雑化して迷宮化するんだ。」


「ふ~ん、そういうもんか。だが、その口振りからすると、何か原因に察しが付いてそうだな。」


「フッ、ジーザこそ察しがいいじゃないか。

……ああ、まだ推測の域でしかないが、心当たりはある。」


そこで近付く足音に一旦、会話が途切れる。

新手のトロルが現れたからだ。


「またトロル1匹か……一辺倒だな。『風林火山』っ。」


倒す要領も先程まで変わらず、オルロフが後の先を狙って近接、軽い斬撃で牽制しつつトロルの後方に回り込んで強烈な一撃を喰らわせる。

そして、トロルの倒れた所にジーザが止めを刺す……これだけ短期間に何回も繰り返すと作業のように思えてくる程である。


動かなくなったトロルを見据えて溜め息をつくオルロフとジーザ


「見取り稽古にしても、これだけ同じパターンだと、正直飽きてくるな。止めを刺すのも薪割りと同じに思えてくるぞ。」


「確かにな……。楽には越した事とは言ったが、本来の目的であるダンジョンの特徴が見えてこない。」


「……そろそろ潮時じゃなねぇ~か?」


このダンジョンで経験を積もうと考えていたジーザもこれ以上は、意味がないと思い始めていた。

トロルへの止めを任されて、既にある程度一気にレベルが上がった実感もあるのだ、あまり無理する場面でもない。

しかし、次の瞬間、先を眺めるジーザがダンジョンの変化に気付く。


「……ん?先に何かあるな……。あれは……扉か?」


視力も卓越しているジーザ

その目が暗がりの中、微かに輪郭を残す扉を捉える。


「本当か!今、灯りを……。」


ジーザの発見に、オルロフも急いでトーチを飛ばす。

すると一本道の先に所々錆び付いた金属製の扉が姿を見せた。


オルロフは、罠に注意しつつも急いで扉に歩み寄る。


「なかなか立派な扉だな……。厚みも相当ありそうだ。」


コンコンと軽く拳で叩くオルロフ

扉は、両開き式になっており、ジーザでも屈む事なく通れる大きな作りをしていた。


「鍵は、かかっているな……解錠の魔鍵マジックキーで開けるしかないか。これも使い捨ての割に結構、値が張るんだけどな……。」


オルロフは、トホホという表情を浮かべながら、麻袋から、銀色の鍵を取り出し、扉の解錠をする。

それから、ジーザに促して扉を押し開かせる。


開く際は、オルロフは、ダガーを油断なく両手に構えて、何が起きてもいいよう備えていた。


「あんたは、いいけど、扉を開ける役の俺は今、危ない橋渡ってるって事だよな?」


ブツクサ言いながらも扉を開けるジーザ

だいぶレベルが上がり、筋力も上昇しているのを証明するかのように30cm近い厚みを持つ扉も苦もなく押し開く事が出来る。

ズズズズと鈍い音をさせながら重厚な扉を開けた先には、10m程の通路を経てまた同じ扉があった。

外見上は、全く最初の扉と一緒である。


「ありゃ……扉を開けたら、また扉かよ。これを開けたら、更に扉の繰り返しじゃねぇ~だろうな?」


ジーザは、両手を掲げて派手に嘆いて見せるが、オルロフの方は、顎に手を当て、真剣な顔で何か思案していた。

ジーザもその様子にとぼけたジェスチャーを止め、注意を向ける。


「心当たりが、確信に変わったって顔だな、オルロフ。」


「……ああ。この先、俺の推測が正しければ、広場か何か大きな空間になっているはずだ。そして、そこにはこのダンジョンのエリアボスか、最悪、ダンジョンボスが待ち構えているだろう。

強さや数は、ダンジョンごと幅があり過ぎて当てにならないが、トロルばかりという傾向からするとハイトロルかハイトロルエリートといった所か……。」


「このダンジョンのボス……エリアボスってのは中ボスみたいなもんか?」


「エリアボスは、このダンジョンが複数階層であった場合、この階の支配者だよ。そいつを倒さないと次の階には、行けない。

エリアボスは一定期間で復活するがダンジョンボスなら、そいつを倒せばダンジョンクリアって事で、ダンジョン自体が崩壊していく。」


「ほぅ~、なら……もしダンジョンボスを倒せたら、ダンジョンを封印する必要もなくなるんじゃないか?ダンジョン自体がなくなるんだったら、そっちの方が確実だろ。」


「その通りだが、小さなダンジョンでもダンジョンボスは、一流のパーティーが複数、クランを組んで攻略するような魔物だ。

とてもじゃないが、俺達の持ち駒じゃ、そんな時間も手間もかけられないな。」


残念だとばかりに仰々しく首を横に振るオルロフ

ジーザは、オルロフの普段の気苦労を察して再び溜め息をつく。


「小数派の嘆きなんざ聞きたかなかったぜ。……で、どうする?その話振りじゃ、ダンジョンの探索はこれで終わりか?」


「いや、進もう。俺の予想が当たっているとは限らない。解錠の魔鍵があるように施錠の魔鍵もあるんだ……ヤバそうなら、すぐ様、撤退して施錠するから、最初の扉もすり抜けできる隙間を残して閉めてくれ。」


「なるほどね。覗き見だけは、しとこうって腹か……。」


「封印するにしても、一応、理由が必要だからな……強力な魔物が外に出ようとしていたため、已む無くという感じでね。」


オルロフの指示通り最初の扉を動かして少しだけ開いた状態にするジーザ

次にオルロフの解錠に合わせて、問題の扉を少しだけ押し開く。

その先に一体何が待っているのか……。


間髪を入れず中を覗き込むオルロフとジーザ


「……っ!……こいつは、モンスターハウスだ。」


大きな声を出しそうになったのを何とか声をに抑えるオルロフ


その目に飛び込んで来たのは、半径300mはあろうかという大きな広場にひしめくトロルの群れであった。

皆、一様に肌の色がこれまで倒してきたトロルより黒ずんでおり、どこでそのサイズの物を作ったのか武器、それも金属製のこん棒等で持っている上、粗末であるが革の鎧等の防具類も身に付けている。


また、扉から手近な集団まで20m程距離があったが、その更に2つ奥の集団の中には一際大きく、且つ、黒色に近い肌をしたトロルがまるで玉座のようにして大岩に座っていた。

その身には、半球型の金属ヘルムにチェインメイル。

手には、両手で扱うのであろうこれまた金属製の特大メイスが握られていた。


両脇に侍らせた同色の肌をしたトロルから察するにこの群れの統率者であろう。

オルロフの言葉通りであれば、同時にこのエリア若しくはダンジョン自体の支配者でもあるという事になる。


「オルロフ……こいつは、ヤバそうの内に入るよな?」


ジーザもこの危機的状況を瞬時に理解していた。

既に扉に手をかけていつでも閉めれる態勢を取っている。


「……よし、ゆっくり下がるぞ。」


オルロフが囁き声で、ジーザに後退の指示を出す。

手前のトロル何匹かは、こちらに気付いているはずだったが、統率者の手前、勝手な事は出来ないのか幸いにも特に反応を示さなかった。

扉を二つとも慎重に閉め、施錠まで済ますとフーッと大きく息を吐くジーザとオルロフ


「……危っねぇ~。あれは、洒落じゃ済まんぞ?」


戦闘狂の類であるジーザにしても、あのトロルの群れに突っ込んでいく程、無謀ではない。

多少レベルが上がった程度ではどうしようもない状況であるのは明白だった。

ついつい皮肉混じりの言葉をオルロフに向ける。


「……いや、あれは流石に予測出来ないだろ。あのボスは、ハイトロルジェネラル以上だぞ。単体ならまだ処置のしようもあるが、50匹のハイトロルに、ハイトロルエリートも何匹かだ……これは、ギルドが緊急クエストを召集しても手に余るレベルだ。

トロルが初っぱなから居るダンジョンだから、警戒はしていたが、ここまで急激にボス部屋の難易度が上がるとは……。」


「普通のボス部屋とは違うって事か……。」


「大違いだな……。もしかしたら、ここは伝説の『妖精の墓場』なのかもしれない。」


オルロフから、この異世界の事について色々聞いていたジーザの耳に全く聞き覚えのない単語が飛び込んでくる。


「『妖精の墓場』?」


「ああ、おとぎ話の類なんだが、闇に堕ちた妖精が、仲間の妖精達の転移魔法で幽閉されるという……。

ジーザは見たか?広場の更に奥にまた重厚な扉があったのを。」


「確かに何かあったな。トロル……ハイトロルか?ハイトロルの群れに手一杯でちゃんとは見てないが……。」


「まだ奥があるなら、あのハイトロルジェネラルでさえエリアボスに過ぎない……もっとヤバい奴が控えている可能性も十分ある。

伝説の場所とするなら、あの広場だけじゃ、規模が小さ過ぎるからな。」


「いずれにしても、俺らでどうにかなるって話じゃないな……。」


「そういう事だな。……まあ、元々、普通のダンジョンでもどうにかしようとは考えていなかったんだ。

封印という選択肢を肯定する情報は得られたし、探索自体は成功している……後は、無事に戻るだけさ。」


入口の方へくるりと踵を返すオルロフ

ジーザも無言でそれに続く。


その時、不意に聞こえてくるナディアの声


「オルロフ、外側の結界が侵入者を探知したわ。至急、戻ってきてっ!」


『言霊』の魔法である。教会では言葉の意味やニュアンスが伝わり易くなる魔法として使われていたが、本来は、パーティーとして認識し合った二人以上の間で、半径約5km、ダンジョン内では同一エリア内に限って離れていても会話が出来る風属性の魔法である。

これとは別に距離に関係なく会話が出来る無属性の『通話』といった魔法もあるらしいが、難易度が高く使い手は限られるとの事。


ちなみに無属性といっても、火や水、風といった具合に簡単に分類が出来ない属性を十把一絡げにしているだけであり、属性がないわけではない。


『言霊』でのナディアは、かなり切羽詰まったような声色であった。

オルロフは、状況を聞くより早く入口に向かって駆け出す。


「ナディア様、侵入者の数は、分かりますか?」


「……2人よ。一旦、退いたから偵察かも。後に本隊が居そうな動きだわ。」


「チッ……まさかビナシス派の奴らか……。ナディア様、一度封印は後回しにして、その場を離れて下さい。私も後を追いますので。」


ジーザの方は、『言霊』のやり方が分からないため、やり取りを聞くしか出来ないが、ナディアとオルロフの話振りから、ただ事でないのは感じ取っていた。


「ビナシス派っていうのは、あんたらの敵の派閥か?」


「そうだ、東方教会の最大派閥だよ。相性が最悪な事に、ダンジョンの利権で私腹を肥やす奴らさ。」


「ほぅ~、そうなるとタイミングが良過ぎるよな?俺達がダンジョンを見つけたタイミングでよ。」


「ここ最近、ナディア様への刺客も増えてきていたからな……パシェット村に居るのも、暢気な村民だけじゃないって事だろう。」


オルロフには、情報をリークした者の見当が付いているようであったが、ジーザも今はそれを聞いている余裕がなかった。

急いでダンジョンの入口まで駆け上がらなければならない。


「ハァハァ、地味にこの上り坂がキツイぜ。オルロフについていくので精一杯だ……。」


500m以上を一気に駆け上ったおかげで、ジーザは息も絶え絶えになっており、オルロフでさえ肩で息をしている状態となっていたのだ。


それでも、入口まですぐそこである。

このまま表まで走り抜ける……ジーザも限界近い状態ながら、それを予想してた。

しかし、ジーザより少し先行したいたオルロフが急に速度を緩めてしまう。


「なんだ?」


そう疑問を呟いたジーザの目の前に大勢の人影が現れる。


「オルロフ、ごめん……捕まっちゃった。」


沈痛な面持ちのナディアと、そのナディアの肩を抱いている柿色のローブを頭からすっぽり被った人物

更にその後ろに控える20名近い男達だ。

後方の男達は、ローブを羽織っている者も居れば、オルロフのような革製の鎧を着ている者まで様々な格好である。


その手には、それぞれ剣なり杖なりが握られ、ニヤついた表情からして、どう楽観的に考えても味方には見えない。


「思ったより早いお出ましだったな……アーツ。」


とうとう立ち止まってしまったオルロフ

5m程の距離にナディアとアーツと呼ばれた柿色のローブを着た人物が居る。


「ああ、ここにオルロフ達が向かったという情報を得てから、秘蔵の『神速の祈祷札』まで使って大急ぎで駆け付けたんだからな……。

そんな事より久々の再会だ。もっと嬉しそうな顔をしろよ……私は、お前の師匠だぞ?」


柿色のローブを着た人物、アーツは、両手を広げ仰々しく嘆いてみせる。

フードを被っているため、表情は読み取りずらいが微かに笑みを浮かべているのが見てとれた。


「師匠だった……だろ?とっくの昔に縁は切った。」


「私は切ったつもりはないが?」


「何と言おうが、もう俺は、アナタを師匠だとは思っちゃいない。」


そこで何故か震える指先でフードを取るアーツ

フードの下からは、目の冴えるような赤い長髪を靡かせた女性

ハスキーな声は、耳で聞いただけなら男とそう変わりない。

落ち着きからして、30歳手前くらいと思えるが、整った顔立ちと病的なまでに白い肌のために、見た目は、20歳そこそこである。

金色の大きな両眼がオルロフを真っ直ぐ見つめていた。


「フッ、まだ昔の事を気にしているのか……大した事じゃないではないか?」


アーツのその言葉に険しい表情を浮かべるオルロフ

驚くべきスピードで両手にダガーを抜く。


「あんたは、何も変わっちゃいないな……反吐が出る程にっ!」


オルロフにしては珍しく感情のままに駆け出そうとする。

しかし、次の瞬間、ナディアが微かな悲鳴を上げる。


「……ひっ……。」


見るとナディアの肩を掴むアーツの手に力が入っていたのだった。

オルロフもそれを見て、駆け出すのを思い留まる。


「そうそう、あまりおかしな動きはしない事だ。お前の姫君の命運は、私の手の内にあるのだからな。」


アーツは、勝ち誇った表情で手の力を抜くとそのままナディアの肩を撫でる。


「さあ、その両手の物騒なものは、こちらに預けて、平和的且つ、建設的な話し合いをしようではないか。」


アーツの言葉と同時に革の鎧を着た冒険者風の男がオルロフの前に進み出る。

オルロフは、無言のまま両手のダガーを鞘に納め、アーツの言う通りに得物を渡す。

次いでジーザの元にも冒険者風の男は歩み寄るが、地面に突き立てた手斧のサイズを見て、持ち切れないと判断したのか別の男に持たせる。

何れにしても、オルロフとジーザは、丸腰の状態になってしまっていた。


「こりゃ、絶体絶命のピンチだな……。」


とは言うもののジーザもこの場をどう乗り切ったらいいか思い付かない。

外へは、20名からなる相手をくぐり抜けなければならないし、外に出たところで、新手が待ち構えているかもしれないのだ。

かといって後ろは、ダンジョンであり、大量のハイトロルの相手に生き延びるのは、至難の業である。


「そこのデカイ奴は、オルロフの従士か何かかな?安心したまえ、もし、その気なら最初から始末している。こちらも仲間を減らして、大事な弟子の不興をまた買いたくないからな。」


「どうだか?そっちの派閥の長は、何度も刺客を送ってきている。しかも、それを全て俺が始末してきたんだ。恨みは深いんじゃないのか。」


ジーザを遮るようにオルロフが声を上げ、挑発的な言葉をアーツに返す。

ジーザも無言のままアーツの反応を見ていた。


「うちの幹部達の心配性にも困ったものだよ……たかが数十人、派閥とは名ばかり集まりに何の力があろうか。

教会外の貧民に人気が多少あるくらい。そん愚民どもの支持をいくら集めようとも……敢えて言おう、カスであると。

強いて力があると言える聖女やお前については、色々と利用価値があるしな。

そんなわけで、私の目の黒い内は、お前らには、手を出させんよ。」


一気に懐柔の言葉を投げ掛けるアーツ

オルロフも今は従うしかないのであろう、それ以上は何も言わなかった。


「……ふむ、同意を得られて何よりだ。では、早速、お疲れだろうから、村までお帰り戴こうかな?こちらで護衛も付けてやるから安心だ。」


「護衛でなくて監視役だろうが。

……ナディア様から離れろ、村に戻る。」


「はいはい……ここの探索が終わったら、ゆっくりこれからの事を話そう。」


スッとナディアから離れたアーツは、外の方向へと掌を向け、出るように促す。


「あんたとこれ以上話す事などない……。」


ナディアは、何か言いたげであったが、憮然とした顔をしたオルロフに押されるようにして、外に向かう。

このまま何人かの監視役を連れてパシェット村まで戻る事になるだろう。

当然、ジーザもそれに続くしかない。


「村に帰ってからでもいいが……俺の斧、ちゃんと返せよ?」


まあ、ジーザの場合、アーツはもちろん、ビナシス派の面々とも確執はないため、愛用の手斧の事が一番の気掛かりであった……。





主人公ステータス


名前:ジーザ

種族:人

性別:オス

年齢:23歳

身長:231cm

体重:220kg

出身地:カントー

所属:なし

カルマ:➖98 極悪

モラル:➖99 非道


Lv:32(➕12)

状態:正常

体力:52(➕9)

魔力:9 (➕2)

筋力:58(➕10)

反応:18(➕3)

耐久:36(➕6)

持久:36(➕6)

※( )内は、前話からの変化値


職業ジョブ:戦士Ⅰ

能力アビリティ:筋力強化、反応強化、肉体強化

技能スキル:拳闘術Ⅰ、斧術Ⅱ、投擲術Ⅱ、索敵術Ⅱ、隠密術Ⅰ、馬術Ⅰ

加護ギフト:なし

装備:アイアンアックス、レジン(樹脂)の肩当て、鋲打ち腕当て、レジンの脛当て、隷属の腕輪

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