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第4話 ひゃっはー魔法剣だ!

空が白み始める時間、ジーザは、ボンヤリとした意識の中、ベッドから身体を起こしていた。

異世界に来て一番の早起きである。


曲がりなりにも昨日は、命のやり取りをして、気分良く寝る事ができたジーザであった。


少しずつではあるが頭が冴えてくる中、ベッドを這い出ると、背伸びを一つして、今日の予定を頭の中で確認する。


「あの洞穴の奥から、何が出てくるかだが……ダンジョンとかいうのがどんなもんなのか全く分からんからな。」


昨晩の内にルチアに準備してもらった朝食を摂った後は、昨日と同じく昼食入りのバスケットを小脇に抱えて教会に向かう。


教会に着く頃には、空もだいぶ明るさを増して、いつ日の出を迎えてもおかしくない時間帯となっていた。


機を同じくして、教会から出てきたナディアとオルロフ


オルロフは、装備に代わり映えしなかったが、ナディアの方は、白を基調としつつも刺繍等の装飾は最低限に抑えた旅人仕様の神官服であった。

その上に両人とも麻のローブを羽織っている。


「よぉっ、二人とも準備万端ってとこだな。」


ジーザが声かけると、手を上げて応えるオルロフ

ナディアは、腰を落として上品に一礼する。


「昨日の午後一杯、今日の準備に使ったからな。

早速だが……時間も勿体ないし、目的地に向かいながら、今日の行動について詰めよう。」


オルロフの提案にジーザも異存はなかったため、ジーザを先頭にして、ナディア、最後尾にオルロフという隊列で教会を発つ。


「あれっ、村からこんな方向に道なんてあったっけ?」


村の外れまで着くと、ジーザが洞穴に行く際拓いた小道の前でナディアが声を上げる。

見ると、真っ直ぐ北側へ向けて樹木の枝葉が切り拓かれ、綺麗なトンネル状になっていたからである。


「ああ、これは、昨日斧の練習がてら切り拓きながら行ったからな。」


「そ、そうなの……。」


ジーザは、事もなげに答えたが、ナディアは、延々と続く樹木のトンネルに面喰らったようである。

オルロフも感心した表情で、トンネル内を進む。


「悪くないな。これなら、労せずして目的地まで辿り着ける。」


あとは、この一歩道をひたすら目的地に向けて歩くだけである。

それから、道に迷う恐れもなくなったため、今日の行動を話し合う事になった。


「目当てのモノが本当にダンジョンだった場合、現地に着いたら先ず、ナディア様に魔物が、近寄って来ないようにする為の結界を張って戴く。その間、俺達は、周囲の警戒だ。

その後、噂の石板とやらの調査をする。

ジーザは、引き続き警戒だな。

最後に封印の綻びを塞いで、今日の仕事は終わりだ。」


「ふ~ん、要するに俺は、邪魔する敵が来たら、ぶっ殺せばいいんだろ?」


乱暴な物言いに目を丸くするナディア

オルロフの方は、ジーザの認識を肯定して頷いている。


「で、石板の状態にも依るが、もし、今回用意した道具で、ひび割れから漏れ出る障気を塞ぎきれない場合は、出直しになる。」


「そうならないよう私も封印に全力を尽くすわ。」


ナディアは、拳をグッと握ってやる気をみなぎらせている。


「……ところで、ダンジョンってのは何なんだ?」


しかし、やる気を出した所で、ジーザの初歩的過ぎる質問に脱力するナディアとオルロフ


ダンジョン、それはこの異世界における希望と悪夢が詰まった玉手箱である。

次元の歪みから漏れ出たとされる密度の濃い魔力、所謂、障気により、数多の貴重な品々と強力な魔物が生み出されるからである。


一例であるが、地中深くで魔力が噴き出した場合、土を樹状に圧し開き、複雑な内部構造を持つダンジョンとなるし、

遺棄された砦等といった人工の建物では、迷宮化したダンジョンとなる。

どういった原理でそうなるのかは、解明されていないが、原因と結果は判明していた。


また、ダンジョン内で倒した魔物は、その場でダンジョンに吸収されドロップアイテムを残す。

外で倒した場合は、血肉も戦利品となるので、損かと思いきや、このドロップアイテム、特に貴重なマジックアイテムが出現する点が、外にはない旨味となっているのだった。

ちなみに冒険者等がダンジョン内で死んだ場合も血肉はダンジョンに吸収されてしまう。

一説によればドロップアイテムも人を誘き寄せて、吸収するための餌であり、ダンジョンは人を喰うある意味巨大な魔物であるとの事である。


「俺の武器のミスリル鋼もダンジョンでしか得られないからな。」


「なるほどな……ん、だが、それを可能なら封印しちまうって話じゃなかったか?


「そうだ。封印して出入り出来ないようにする。」


「そうか。俺は、何とも思わんが、商売人からしたら、勿体ない話だろう。」


そこで、真剣な顔をしたナディアが、話に入ってくる。


「高い物は、お金で買えます。でも、命は、お金て買えないの……。

ダンジョンを野放しにすると、その一帯の魔物も増えるわ。

それによって命を落とす罪のない人の数も。」


「死んだのは、弱いからだろ?」


「弱いから死んでもいいという道理はないわ!

少なくとも私は、そんな人達を守りたいの……。」


「ふ~ん……強い奴には、あんまり賛同を得られそうもない話だな。」


「ちゃんと話し合えば分かって貰えるわ!」


オルロフは、熱くなってきたナディアを落ち着けるように肩をポンポンと叩く。


「まあまあ、ジーザにはジーザの考え方がありますから……。

私達のやろうとしている事への協力者には違いないですしね。」


ナディアが深呼吸をして落ち着きを取り戻したのを確認すると、ジーザに向けて話を続けるオルロフ


「あんたの言う通り、俺達への賛同者は少ない。

教会内でも、ダンジョンによってもたらされる利益を追及する勢力が多数派だ。冒険者や私兵団を送り込んで利益を得ようとする輩さえ居る。

たが、いつまでも俺達が狩る側で居られるとは限らない……だから、誰の手にも負えないような魔物がいつ出て来てもおかしくないダンジョンを放ってはおけないっていうのが俺達の立場だ。」


「へぇ~、誰の手にも負えないような魔物ね……。」


「大災厄と語り継がれるような魔物が一定周期で出現してるのは確かだからな。

まあ、王国直轄ダンジョンみたいに管理が行き届いてるような所なら、文句はないんだが利益を優先する輩は、ろくに管理もしていないからな……。」


ある程度、オルロフの説明に合点がいったのか頷くジーザ

もちろん、封印する理由が分かっただけで、賛同はしていないが……。

ナディアの方は、このやり取りで少し不機嫌になってしまったようである。


とは言え協力しなければならない事も多々あるため、具体的な警戒要領や魔物が出た場合は対処要領を詰めていく面々であった。

そして、話し終わる頃には、さしたる問題もなく目的地近辺に到着していた。


「……じゃあ、洞穴の前まで着いたら、先程話した通り、精神統一をしますので、少し距離を置いた状態で警戒を……?……。」


しかし、次の行動を伝えようとしたナディアを制止するジーザとオルロフ


男二人の警戒アンテナに何かが引っ掛かったのである。


オルロフは、人差し指を立てると静かに耳を澄ます。

ジーザ、ナディアとそれに倣う。


すると、微かに聞こえてくる何者かの息遣い

時折聞こえる咀嚼音がまるで牛のようであった。


「何か居やがるな……俺が見てくるから、オルロフ達はここで待ってろ。」


ゆっくりと音源へと近付き、昨日と同じく草むらから覗き込むジーザ


「……なんだありゃ?」


ジーザの目に飛び込んで来たのは、

入口付近が崩れて大きく拡張された洞穴と

その洞穴の中で寝ているくすんだネズミ色の肌をした巨大なゴブリンであった。

小さく見積もってもジーザの2倍を超える巨体は、異様な存在感を放っている。


ジーザは、再びゆっくりとオルロフ達の所に戻り、音の主について説明した。


「……そいつは、トロルだ。ホブゴブリンエリートにも驚いたが、トロルまで現れるとは……。」


腕組みしたオルロフは、難しい顔をする。

ナディアも同調して頷く。


「障気が辺り一面漂ってるような場所なら分かるけど、こんな森に突然現れるなんて、普通じゃないわ。」


「何か心当たりはないか、ジーザ。

昨日、ここを発つ時から変わった事とかな。」


小首を傾げて、昨日の帰り際の状態を思い返し、今の状態と比べるジーザ


「……今、説明した通り、洞穴の入口が大きく崩れてる以外は…………あ~そういや、昨日倒した大量のゴブリンの死体がなくなってるな。」


ジーザの話にオルロフは、納得したように手を打つ。


「そうか……ゴブリンの死肉の臭いにつられて、ダンジョンから出てきたのか……。

奴等の死体は、特別臭うからな。

その場合、洞穴の奥には確実にダンジョンがあるという話になるが。」


「確かに石板が封印だとすると、ひび割れて綻びが出た所を無理矢理破って出てきたのかもしれないわね。

トロルなら、それだけの力がある魔物だもの……。

それに封印が、昨日ジーザから聞いた通りの古いものなら、長い年月塞がれていたんだから、今、この辺りに障気が感じられないのも説明つくわ。」


ナディアも状況から推論をまとめて納得した表情を浮かべる。


「へぇ~、昨日、石板を触ろうとした時の危ないっていう俺の直感は、正しかったって事か?」


「結果的には、そういう事になるだろう。

石板を調べてる時に、トロルに急襲されれば、ただでは済まなかったろうからな。

……本来なら、魔物の死体を処理せず放置するのは、戴けない行為だが、

今日の俺達にとってもトロルの存在が予め分かって、助かったのは事実だ。」


「……で、これからどうするんだ?トロルとやらが居るから、諦めて帰るのか?」


ジーザにとってみれば、気になるのは、この状況下で、結局どうするかだけであった。

オルロフもその意図を察してか単刀直入に答える。


「当然、予定通りの行動をするさ。

トロルを倒すという手間が1つ増えただけの話だ。」


「ほぅ~……了解。」


「不意を突かれて一撃貰ったらヤバいが、手に負えないような魔物というわけじゃない。

……ナディア様、鑑定をお願いしても宜しいですか?」


トロルを排除する事を早々に決めるオルロフ

ナディアも再びやる気を見せている。


今度は、3人で茂みからトロルを覗く。


「『鑑定』…………『鑑定オープン』。」


ナディアが小声で呟くと、目の前に現れるステータスウィンドウ

どうやら、鑑定する事のできたトロルのステータスが表示されているようである。

ちなみに鑑定出来なかった項目は、省略されている。


――――――


種族:妖精族トロル

状態:正常

体力:162/162

魔力:36/36 

筋力:93

反応:8

耐久:56

持久:20

装備:なし

加護:邪神マドゥクの使徒


――――――



さらっとトロルのステータスに目を通したジーザが呟く。


「やたらと体力が高いな……。」


「ああ、しかも種族特性で回復力も高い。

だが、動きも緩慢で、頭も悪い。

だから、不意の一発さえ気を付けていれば、熟練者のパーティにとっては、ただの的だ。中堅くらいだと決定打がなければ手こずるかもしれんが。」


ジーザは、オルロフの素早さを身に染みて知っていたため、なるほどと頷く。


「じゃあ、マドゥクの使徒っつ~のは?」


「マドゥクは、混沌を司る神なんだが、マドゥクの使徒というのは、夜目が利いたり、闇属性の魔法耐性が上がったりする加護だ。それと同時に火系や光系の魔法にも弱くなる。」

 

そこでジーザがふと横を見ると、既にナディアが小さく呪文を唱えながら精神統一に入っていた。

オルロフもその事には気付いていたようである。


「……ナディア様の方は、説明せずとも分かってらっしゃるか……。

よしジーザ、段取りは、こうだ。

先ず俺がトロルを穴ぐらから誘き出す。

光が苦手な奴だから、相当怒らせないといけないがな。

その後、十分注意を引き付けておいて、ナディア様の光魔法をくらわせる。」


「俺の出番は?」


オルロフの説明に口を尖らせるジーザ

オルロフは、ナディアに視線を移し……


「ファイター型のジーザが、トロルとやるにはまだ力不足だからな……もしもの為にナディア様の護衛をしてくれ。

あとは、老婆心ながら、ここ世界の戦い方っていうのをよく見ておく事だな。今後の参考となるはずだ。」


ジーザは、最後の一言で、乗り出していた身を引く。

確かにこれまで元の世界と大差ない戦いをしてきただけであった。

この先、この魔法といった不可解な力が存在する異世界で生き残っていく為には、オルロフの言うことも一利あると考えたからである。


「……分かった、それでいい。」


渋りそうたったジーザが大人しく了解したのを確認すると、ナディアの魔力の充実を待って、静かにトロルへと近付くオルロフ

その足取りは、確かな隠密スキルを持っている事を証明している。

そして、徐に両腰のダガーを抜いた。


両手に握られたダガーは、次の瞬間、燃え盛る紅蓮の炎をまとう。


「……なんだありゃ……魔法ってやつか?」


その光景にポツリと呟くジーザ


「魔法と言えば魔法ね。あれは、複数のアビリティを組み合わた上級魔法剣の1つ、『風林火山』よ。

火の追加攻撃効果、風の遠距離攻撃効果に加えて、反応と耐久値を上げるの。」


精神統一を終えたナディアが、ジーザの疑問に横から答える。


「ほぅ~、やり方は分からんが、色々強くなってるって事か。」


「やり方が分かったら、天才よ。他に出来る人を見た事ないし、聖騎士オルロフの固有の魔法剣と言っていいと思うわ。」


「聖騎士?」


「あっ、まだオルロフから聞いてない?

今は、厳しい訓練の末、一握りの選ばれた人間だけが付ける役職って覚えとけばいいわよ。つまり、それだけ凄く強いの、オルロフは。」


「ふむ……では、そのお手並み拝見しよう。」


二人の視線の先

オルロフは、ダガーをクロスして振り抜く。

すると×印の炎をまとった剣撃がトロルに向けて飛んでいった。


その炎の気配にトロルは、片目をパチリと開けるものの、何か動作を起こす前に、顔面に剣撃を当たる。


ジュッ


剣撃で引き裂かれるトロルの左こめかみ

微かに皮膚が焼ける音とともにクッキリと焼けただれた傷が残る。


「グガァァーッ!!」


堪らず、咆哮をあけながら、立ち上がるトロル

左目は完全に潰され、残りの右目も炎によりダメージを受けたようで、片手を顔面にあてながら、洞穴の入口付近で闇雲に暴れている。


オルロフは、その様子を慌てる事なく距離を保ちながら見守っていた。


「グガァァーッ!!」


もう一吼えしたトロルは、完全に洞穴入口を破壊して、広場に躍り出る。

そして、よろめいた拍子に掴んだ樹木を根っこごと引っこ抜くと、力任せに振り回ていた。


凄まじい音をさせて、他の木々が薙ぎ倒される。


5m近い巨体を支える足はドスンドスンと腹に響く重低音をさせ、まさに怪獣であった。


そこで、ある変化に気付くジーザ


「ん?もう傷口が塞がってきている?」


焼けただれた範囲が目に見えて小さくなってきていたのだった。


「そうよ。あれがトロルの厄介な所なの。炎の効果で、多少は治りにくくはなっているけど、それでも5分と経たない内に回復してしまうわ。

……そろそろ、私も最後の仕上げ準備をしないとね。」


ナディアは、瞳を閉じて何やら呪文を唱え始める。

ジーザの目にも明らかにナディアの組んだ手元に光が集まってきているのが確認できた。


「……光の魔法ってやつか……。」


オルロフが言っていたトロルの弱点を思い出しながら、視線を再びオルロフに向けるジーザ


オルロフは、トロルの腕や足に引き続き炎の剣撃を飛ばして、上手くナディアの正面、広場の中央付近に誘導していた。


トロルも逐次、右目が回復してきているようで、オルロフを確認すると、巨大な棍棒と化した樹木を振り下ろす。

しかし、遠近間が掴めていないのか、オルロフの手前に着弾する。


ドゴンッという衝撃音とえぐれた地面からすると、確かに一撃当たれば、致命傷になりかねない威力であった。


しかし、振り下ろしの速度はともかく、振り上げのモーションが遅い上に直線的な攻撃であるため、軌道を読むのは容易い。また、一回一回、相手を確認してから、動作に入るため連撃を気にしなくていい点でも回避しやすい。


「そら、デカブツ。お前はそんなものか?」


そんなトロルを大声を張り上げて挑発するオルロフ


怒りを更に増したトロルから繰り出される重撃を跳び退いたり、低くしゃがんだりして、素早く回避する。


時折、剣撃を飛ばしての誘導も忘れない。

トロルの身体のあちこちに斬り傷が刻まれていた。

もっともトロルの巨体からすると引っ掻き傷程度であり、斬られたそばから逐次治っていくため、ほぼ動作に影響ない程度にまで回復している。

オルロフも全力の剣撃ではないにしても、やはりトロルを倒すには、火力が不足しているようだ。


「……やはり速いな。倒せないにしてもトロルの動きを見切って、完全に場をコントロールしてやがる。

あの飛び道具も、厄介だ……。」


呪文を唱えているナディアには、聞こえていなかったが、オルロフを今の所、最も厄介な相手として改めて認識するジーザ


トロルの巨体や馬鹿力、回復力よりも、オルロフの総合的な強さに、衝撃を受けていたのだった。


自然ともしもの時の為に、構えていた手斧を握る手にも力が込もる。


そうこうしている内に、いよいよナディアの手元の光が強くなり、

組んだ掌の隙間から、光が放射状に発散している。


この期に及んで、漸くトロルは、オルロフ以外の存在に気が付く。


「おっ、流石に、あれだけ光を放っていればナディア様の存在にも気付くか。気付かなければ、何も知らないまま楽に逝けたものを……。

今です、ナディア様っ!」


再度放たれたオルロフの剣撃が、ナディアの方へ踏み込もうとしたトロルの足をもつらせる。


「……『ソーラレイ』!」


ナディアは、その機を逃さず、組んだ掌をトロルに向けてかざす。

すると掌の中に収束していた光球から、光が一直線に放たれる。

拳大程の太さの所謂レーザービーム

ビリビリと周囲に衝撃波を撒き散らしながらトロルに迫る。


「ヴヴォォーッ!」


トロルは、一瞬目を見開いたが、どうすることもできないタイミングであった。


放たれた光線が、トロルに達すると、然して抵抗もなく腹部から太ももにかけて大きく円形にえぐり、貫通

そのまま後方の入口が大きく崩れて拡張されていた洞穴に吸い込まれる。

中がどうなったか不明であるが、洞穴が崩れたりするような物音がしない事からすると、物理的な破壊効果はあまりないようであった。


「ガアァァァッ!!」


これまで以上の大咆哮

地面に残った脚

その手前に、胸部から上しか残っていない上半身が支える下半身を無くしドシンと落ちる。

体幹部が消し飛んだのだから、大ダメージもいいところである。


しかし、驚いた事に即死ではなかった。

その強い生命力を十二分に発揮して、這いずりながら、ナディアの元へと迫ってくる。


「チッ、一石二鳥を狙い過ぎたか……。」


苦々しい表情を浮かべたオルロフが横から雨あられと剣撃を飛ばしながらトロルに接近する。

トロルは、忌々しそうに剣撃を左手で受けながらも、残った右手で匍匐を続け、止まらない。


「ジーザ、出番が来たぞ!トロルを止めるんだ、せめてナディア様が距離を取るまで。

再び精神統一できれば、次の一撃で終わる。」


オルロフの言葉に、ニヤリと笑うジーザ

瞬間的にアドレナリンが、大量に分泌され、筋肉が隆起する感覚が身体を駆け巡る。


「その言葉を待っていたっ!」


眼前に迫る巨体に向けて臆する事無く走り出すジーザ

それに対してトロルは、掌を開いて掴もうとしてくる。


「邪魔だっ!」


ジーザは、両手持ちをした手斧を中腰に構えると、横殴りに一撃を繰り出す。

横一線に振り抜かれた手斧は、トロルの掌を切り裂きながら、弾き飛ばした。


無防備にさらけ出されたトロルの顔面


オルロフは、ジーザの攻撃が有効と見るや、左手への攻撃を継続して、トロルの動きを止めている。


「オルァァッ!!」


アドレナリン全開のジーザには、オルロフの援護など気にしている余裕はなかったが、

この好機を逃すはずもなく、ジャンプ一番、全体重を乗せて手斧を振り下ろす。

これが今、ジーザが繰り出せる最高の一撃であった。


ドゴッ


大きな音をさせ、振り下ろされた手斧がトロルの頭を幹竹割りにして地面まで達する。


頭頂部から首元まで、大きく両断され、流石のトロルも、しばらく両肩をビクビクと痙攣させた後、永遠の沈黙を迎えた。


「うしっ!……会心の一振りだったな。」


満足そうな表情を浮かべるジーザ

一方でナディアは少し驚いた表情をうかべていた。


「……立派な体格をしているから、ある程度、強いだろうと思ってたけど、予想以上ね……。」


「そうだな、物理的な威力で言ったら、俺とそう変わらないだろう。」


ナディアの賛辞に合わせてオルロフもその攻撃力の高さを認める。


ただ、言われたジーザの方は、自嘲気味に顔を横に振る。


「へっ、単純な威力だけならな……トロルの攻め手と同じで、当たらなければどうという事はない。

威力にしたって、オルロフはそもそも牽制のための攻撃しかしてねぇ~し……あんたの魔法、ソーラレイだっけ?あれには遠く及ばないしな。」


それは謙遜ではなく、ジーザの紛れもない実感であった。

力こそ全ての世界で生きてきたからこそ、実際に自らの目で確認した事実は、重いのである。

しかしジーザの場合、それは、諦めではなく、あくまで雌伏の中で牙を研ぐ決意に繋がっていくのであるが……。


「で、次はどうする?……まあ、どうせ、予定通りの行動に戻るだけだろうけどよ。」


「ああ、察しがいいな。少し休憩を入れたら……ナディア様、宜しいですか?」


ジーザの質問に行動継続の意思を示すと、ナディアの体調を窺うオルロフ


洞穴に向かう道中の話によると結界や封印には、特に長時間の集中が必要とのこである。


トロルにあれだけ強力な魔法を放った後であるため、オルロフがナディアを気遣うのも当然と言えば当然であった。


「……とりあえず、結界までなら大丈夫よ。

オルロフも早めに周りを気にせずダンジョンを調べたいでしょうしね。

ただ、ダンジョンの封印については、少し魔力を回復しないと厳しいと思うわ……ごめんなさい。」


ナディアは、少し疲れた顔をしていたが、オルロフの次の行動を察して、最大限できる事を答える。


ここで休ませてしまうと逆にナディアの心の負担になってしまう事を知っているオルロフ

ナディアに恭しく頭を下げ、結界をお願いするのだった。


「では、私の方で結界石の配置をしますので、ナディア様は、諸準備を……。

ジーザは、また警戒を頼む。」


ナディアもオルロフに微笑みをもって応えると広場の中央に麻布を敷き、

そこに簡易の祭壇として水晶球を据え置いて、精神統一に入る。


オルロフは、前言の通り細かい水晶の欠片を周囲に刺して周っていた。


ジーザの方はというと、警戒に加え、トロルの埋設作業を追加で指示され、ぶつくさ言いながらも穴堀りをしている。


「ったく、折角の爽快感が台無しだ……。」


しかし、抜け目なくこの時間を利用してステータスの確認もするジーザ


素振り等の鍛練でも経験値は入るが、実戦の方が段違いに入る事をオルロフから聞いて以降、戦いの後には、毎回自分の現在地を確認する事に決めていた。


心の中で「ステータス」と念じる。

いつも通り表示されるステータスウィンドウ


――――――


名前:ジーザ

種族:人

(中略)


Lv:20

状態:正常

体力:39/43

魔力:6/7

筋力:48

反応:15

耐久:30

持久:30


(中略)


――――――


「おっ……今回は、5つもレベルが上がっている……そうか、雑魚を数こなすより、強いやつと戦った方が経験値とやらは入るのか。まあ、当たり前と言っちゃ当たり前の結果だが……。」


その他、自分の能力値を眺めながら、強くなるための算段を巡らす。


「ナディアは、トロルにこんな所で出くわすなんて普通は有り得ないと言っていたが……逆に言やぁ、トロルみたいな魔物と戦うには、ダンジョンっつ~のがあった方がいいわけだ。

……何とか封印とかいうのを阻止できないもんか…………。」


邪な考えを持つこの男を抱えて、一行は、結界を張る準備を進めるのであった……。




主人公ステータス


名前:ジーザ

種族:人

性別:オス

年齢:23歳

身長:231cm

体重:220kg

出身地:カントー

所属:なし

カルマ:➖98 極悪

モラル:➖99 非道


Lv:20(➕5)

状態:正常

体力:43(➕4)

魔力:7 (➕1)

筋力:48(➕5)

反応:15(➕1)

耐久:30(➕2)

持久:30(➕2)

※( )内は、前話からの変化値


職業ジョブ:戦士Ⅰ

能力アビリティ:筋力強化、反応強化、肉体強化

技能スキル:拳闘術Ⅰ、斧術Ⅱ、投擲術Ⅱ、索敵術Ⅱ、隠密術Ⅰ、馬術Ⅰ

加護ギフト:なし

装備:アイアンアックス、レジン(樹脂)の肩当て、鋲打ち腕当て、レジンの脛当て、隷属の腕輪

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