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第3話 ひゃっはーゴブリン討伐だ!

チュンチュン


ジーザが異世界に来てから12日目の朝を迎えた。


昨日、オルロフを訪ねた後は、このパシェット村の残り半周を回った他、気晴らしに猪狩りをしていた。


そして、今朝も屈託のない笑顔を浮かべるルチアと満足そうなガルムと食卓を囲む。


そう多く身支度する事もないので、ルチアに頼んでおいた昼食入りのバスケットを受け取ると教会に向かう。


「オルロフさんの手伝い、頑張って下さいね。」


何も知らないルチアは、手を振りながら、気持ち良くジーザを送り出してくれた。


「さてと、頑張るっつったって、今日は何をするやら…………さっさとレベルを上げてぇ~し、単純にぶっ倒すとかが良いな。」


そうこうしている内に教会に到着


中に入ると、オルロフがカウンターの奥ではなく手前のテーブルに座っている。

オルロフの正面には、村の老人が二人座っており、何事か相談している様子であった。


「ようっ、取り込み中かい?」


ジーザが声をかけると、軽く首を横に振るオルロフ


「いや、今、話が終わった所だ。今日の行動に関わる事で確認があってね。」


オルロフが答えると同時に頭を下げる村人


「この村の村長をしているハシュという者です。こっちは、猟師のパウロです。

この度は、村の危機に立ち上がって戴けるそうで、感謝の言葉もないです……。」


まだ何も聞いていないジーザは、チラリとオルロフに視線を送る。


「まだ、ホブコブリンを実際に確認出来たわけではないので、危機と言うと語弊があるかもしれませんが、我々で出来る限りの対処しますので。」


まだ何か話しかけようとする村長を制するようにオルロフが口を開く。

それに、恭しく頭を下げると教会を後にする村人達。


「今日のお仕事は、そのボブゴブリンとかいうのの退治か?」


「まあ、そういう事だ。俺は動けんから、あんた一人でやって貰う事になる。」


「その方が好都合だ。他人に合わせて戦うなんざ、面倒だからな。

で、何処に向かえばいい?」


「おっ、思ったより協力的じゃないか。」


オルロフは、カウンターの奥から地図を持ち出してくる。

地図と言っても羊皮に描かれた簡素なものである。

いくつか大雑把に線と点が描かれていた。

簡単に地図の見方をオルロフが教えてくれる。


「この点がパシェット村、で、ジグザグした線で囲ってある地域が東の大森林だ。」


地図を見ると何か文字の書いてある点を囲むようにして東側に広がっていくジグザグ線に囲まれた地域があった。

そのジグザグの範囲内も、いくつか新しく描き足されたような点が存在するが、文字が読めないジーザに意味は分からない。

オルロフは、その内の一つ、村の北側の点を指差す。


「ここは、我々がこの村に来て間もない頃、壊滅させたゴブリンの集落があった場所だ。

何分、ナディア様と俺の二人しかいなかったせいか、狩り残したやつらがいたんだろう。

以前より、勢力を増したかして、ホブゴブリンに進化した個体も出てきたのかもしれない。」


戦いの話となると、これまでの遊び半分のようなニヤケ顔から、獲物を狙う男の顔に変わるジーザ

腕組みをしながら、どう殺るのが効率的か思案を巡らせ始める。


「何となくの方向は、分かった。距離は?」


「ここから、2時間程の距離だな。お前の足なら、そこまでかからないかもしれないが。

ちなみにゴブリンの強さは、1匹なら、ルチアでも何とか勝てるくらいで、馬鹿で力もないから、武器さえ気を付ければ大した相手じゃない。

問題はホブゴブリンだ。

個体差はあるが、一人前の冒険者くらいの強さの奴もいる。弱くてもここの村人以上と考えておいた方が良い。

当然、頭も良くなってるが、元々が馬鹿だからな、猪突猛進は変わらん。それを加味して上手く倒してくれ。

……地図と併せて鑑定の単眼鏡も出血大サービスで渡しておくから間違える事はないだろう。使い方は簡単だ、これを通して相手を見れば種族名が分かる。」


巻いた地図と小さなルーペを渡されるジーザであるが、使い方を聞いているのかいないのか、まだ見ぬ敵へと思いを馳せる。


「ほうほう……ゴブリンは、ぶち殺した事があるが、ボブゴブリンってのは、どの程度のもんか楽しみだな。」


「あとは、討伐証明部位というのがあるから、倒したら右耳を削いで持ってきてくれ。ドロップアイテムもあるだろうが、それは、あんたの好きにして良い。

まあ、ギルドの代行として討伐による報償金の受けとりとドロップアイテムの換金が出来るから、要らないもんは換金して、今後の蓄えにでもするのがお勧めだな。」


「へぇ、そんな商売人みたいな顔もするんだな。……まあいい、必要な話はそれで終わりか?それなら、さっさと行かせて貰うぞ?」


出ていこうとするジーザに、慌ててオルロフは、その動きを制するように手を翳す。


「まあ待てっ。これが最後だからよ。

……ナディア様、ジーザに洗礼の儀をお願い致します。」


その言葉と同時に2階から降りてくる人影、ナディアである。

服装は、前回と同様に神官然としている。


「洗礼の儀?」


「そうだ。この世界でやっていくには

ジョブの選択が必須だからな。本来であれば、決まった日にやるもんなんだが、緊急事態という事で、ナディア様に無理を言ってお願いしたんだ。」


オルロフが答えている間に、ナディアは、テーブルの上に透き通った水晶玉を置き、着々と準備を進める。


「要領は、ナディア様の正面に座って、言われたタイミングで水晶玉を触ればいいだけだ。

そうしたら頭の中に、いくつかジョブが浮かんでくるから、気に入ったのを選んで、これだと心に思うだけだ。」


その時点でナディアは、スタンバイ完了といった状態で、瞳を閉じて水晶玉に集中していた。


ジーザも言われるがまま、ナディアの正面に座る。


「それでは洗礼の儀を行います。……偉大なる創造神アルシュム様、総ての僕に等しく日々の糧を得る術をお授け下さい……

……どうぞ、水晶玉に触れて下さい。」


こういった儀式は初めての経験であり、完全に面食らっていたジーザは、無言のまま水晶玉に触れる。


するとオルロフに教えられた通り、頭の中に文字が羅列されたウィンドウが浮かんでくる。

ステータスと同様に読めないが意味が伝わってくるという感じである。


――――――


戦士

拳闘士

盗賊

狩人

(中略)

木こり

農家

酪農家

畜産家

……


――――――


ジーザは、パラっとジョブを眺めた後、自分の獲物である手斧を思い浮かべる。

そして、戦士ウォリアーを選択する。


「ん?何か光った?」


一瞬、身体が光を帯びたが、それをすぐに霧散し、特にこれといって変化はないように思える。


次にまた新たなウィンドウが出てくる。


「ん?なんだ、この一覧は。ジョブとは……違うな。」


「初期アビリティです。貴方の望むものを3つお選び下さい。」


「アビリティ選びは慎重にな。特に技術系のアビリティは、ジョブに適性した道具を扱うもの程、適用効果が高くなるからな。

また、適用範囲広いアビリティ程効果は薄くなるから、その辺も上手く考慮するといい。」


ナディアとオルロフがそれぞれ助言するのを耳に入れつつ、ウィンドウ内の項目を読むジーザ


――――――


強突き(ハイアタック)

回転突き(ローリングアタック)

精密突き(アキュレイトアタック)

強斬 (ハイスラッシュ)

回転斬り(ローリングスラッシュ)

精密斬り(アキュレイトスラッシュ)

(中略)

受け止め(レシーブ)

打ち払い(ブラッシュ)

受け流し(パーリング)

回避 (アボイド)

斧受け止め

斧打ち払い

斧受け流し

(中略)

精度向上 (アキュラシー)

連撃向上 (シークエンス)

斧精度向上

斧連撃向上

(中略)

技術経験値向上

斧術経験値向上

(中略)

体力強化

魔力強化

筋力強化

反応強化

耐久強化

持久強化

肉体強化

精神強化

………………


――――――


必殺技系から技術向上、果ては能力底上げ系までずらっと並ぶアビリティ


ジーザは、必殺技や技術といったものにピンとこなかったため

『肉体強化』『筋力強化』『反応強化』を選ぶ。

再び身体が光を帯びる。


「……これで洗礼の儀は、終わりです……。」


「今はまだ実感ないだろうが、該当するスキルを使ったりしたら効果が分かるさ。あんたなら、恐らくウォリアーだろうが、そのジョブにした時点で補整がかかる。

後でその斧を振るってみるといい。」


狐につままれたような感覚のジーザに説明するオルロフ


「よく分からんが……これで話は済んだのか?」


ジーザは、オルロフが頷くの確認すると、身を翻して教会を後にするのだった。


………………


「一人で行かせて大丈夫なの?」


「無論、彼なら単独でも問題ないと判断しての事です。ホブゴブリン程度であれば問題ないかと。」


「すみません、私にもっと力があれば貴方をここに掛かりきりにする事もなかったのに……。」


ナディアは、東方教会で付与された使命を思い起こしていた。


「数百年に一度訪れる次元の揺らぎ……一刻も早くこれを安定化しなければならないというのに……異世界から出でる怪物達だけでなく同じ人、いえ、身内からでさえその妨害を止められないというのは…………。」


言葉を詰まらせるナディアに、オルロフを大きさ首を横に振る。


「人の事は、私にお任せ下さい。魔物についてもあの男が成長すれば何とかなりましょう。

ナディア様には、ナディア様にしか出来ない重要な事があります。ですから、どうか心を痛めないで下さい。」


ナディアは、オルロフの言葉に静かに頷くのであった。



一方、教会を出発したジーザは、既に森に足を踏み入れていた。


目印も何もない荒野をバイクで走り回っていた男である。

方向感覚には自信があったため、ズンズンと躊躇する事なく林内を進んでいく。


「クソっ、考えてみりゃ~2時間近くも歩いていくなんざ、かったるくてやってらんねぇ~な。」


そこでオルロフの説明を思い出し、通り道を拓きがてら、手斧を振るってみる事にする。


ブンッ


鋭い音をさせて手斧が振られる。


ブンッ、ブンッ、ブンッ


続けて振られる手斧

振られる度に小枝や草木が乱れ散る。


「手応えが少ない……斬れ味が上がった?いや、振るう早さも上がってる上、次撃への動作も滑らかになっている。

……なるほど、確かにジョブっつ~のは、持っておいて損なもんじゃねぇ~な。」


戦闘に関してジーザは、一角の人物である。冷静にこれまでとの違いを分析する。


「ジョブにもレベルがあると言っていたが……これも上がるのが楽みだな。」


思わぬ効果に上機嫌となるジーザ

物を壊したりするのは、好きなため、目的地近辺に着くまで飽きることなく手斧を振り続けるのだった。

おかげで、ジーザが通った後は、小さな馬車くらいは通れるようなちょっとした道に……。


しばらく進むと、ジーザの野生の勘に何者かの気配が引っ掛かる。


しかも、どうやら複数どころか相当な数であった。


伐採を止め、魔物討伐へ気持ちを切り替えるジーザ

自らの気配は消して、その方向へ進む。


草むらの影から覗いた先は、森が少し拓けて広場になっており、丸太を立て掛けただけの粗末な住居らしきものが9つ程。

ざっと見ても40匹近い小鬼、ゴブリンが何かを食っていたり、じゃれ合ったいりと思い思いの行動を取っている。

また、更に奥には、洞穴があり、ゴブリンの出入りがある事を見ると住居として利用しているようであった。

つまり、総数は不明だが、相当数のゴブリン達が居る集落であるのは確実である。


そこで、思い出したように腰の布袋から、ルーペを取り出し、ゴブリン達に翳してみるが、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリンの連続。

5~6匹に1匹、ゴブリンアーチャーと表示されたが、どう見ても手に持っているのは、棒切れであった。


「…………雑魚どもがウジャウジャと。

さっさとボブゴブリンとやりてぇ~とこだが……これも依頼だ。

皆殺しにしてやるとするか。」


ヤる気充分なジーザ

手斧を改めて握り直すと手近なゴブリン目掛けて駆け出す。


「ヒャッハー!!先ずはてめぇ~から血祭りだっ」


手斧は、障害物に減速する事なく、真横に振り抜かれる。

ちなみに障害物とはゴブリンの首である。

血飛沫を上げながら、頭のない身体がゆっくりと後ろに倒れる。


「唖然としてる場合じゃねぇ~だろ?」


次々と一刀のもとにゴブリン達を両断していくジーザ


「オラオラオラオラァ!どうした?少しは抵抗しろっ!!」


突然現れたあまりに獰猛なオーラを放つ殺戮者に金縛りにあったかのように固まったままのゴブリン達

10秒程経って漸く大恐慌が訪れる。


この間に小屋ごとぶっ飛ばされて瀕死の状態のゴブリンを含めれば既に3割近くが戦闘不能になっていた。


残りのゴブリンも大恐慌状態で宛てどなく逃げ惑うが、足が早いわけでもないため、ジーザに追い付かれ、後ろからサクサクと斬り伏せられていく……。

10分後には、数匹の討ち漏らしはあったものの、時折、洞穴から出てきたゴブリンを含め大部分は、大地に屍を晒した。


「え~と、証明部位は、耳だったか……左?右?う~む……。」


若干の度忘れはあったものの、討伐した証明部位をルーペを入れていたのとは別の布袋に押し込む。


「さてと、大分減らしたが、残りにボブゴブリンとやらが居ればいいがな……。」


ジーザは、呟きながら、元の草むらの陰に入ると、そこに腰を下ろす。


「この血生臭ぇ~中で食うのは、少し気が引けるが……メインディッシュ前の腹ごしらえだ。」


置き去りにしていたバスケットから、ルチアお手製のサンドイッチを取り出し、かぶり付く。


ジーザは、待っているのだ。

外の惨状に気付いて群れのボスが出てくるのを……。

そして、当然、ボスが生きていれば戻ってくるであろう逃げたゴブリン達を根絶やしにするために……。


案の定、ジーザが早めの昼食を摂っている間に、洞穴から出てきたゴブリンと討ち漏らしたゴブリンが広場に集まり、何やらギャアギャアと騒いでいる。


討ち捨てられた死体は、優に60を超している。

残っているゴブリン達が50に満たない程度であるのを考えると半数以上を既に討伐した事になる。


「へぇ~っ、仲間の死体をかじってやがるのか……ドブネズミみたい奴らだな……。」


惨憺たる光景もジーザにとっては、ありふれた風景でしかないようだ。


そうこうしている内に、集団が2つに割れる。

仲間の死体をかじっていたゴブリンも慌ててかしづいている。


中央には、ゴブリンより明らかに大きな背丈、体格をした鬼が3体、佇んでいた。

両脇の鬼は、腰に提げた肉厚両刃の片手剣グラディウスと小盾ウッドバックラーの他は、ゴブリンと大差ない服装をしていたが、

中央のゴブリンは、片刃の中剣ファルシオンに腕と一体型の小盾ウッドランタンシールドに加え、レザーアーマー一式まで装備している。


鑑定のルーペを翳すと回りにかしづいているのは、ゴブリンに違いないが、

その3体を左から順に見ていくと、ホブゴブリン、ホブゴブリンエリート、ホブゴブリンと表示される。


「ボブゴブリン……エリート?何だか知らんが、奴がこの群れのボスって事は、確かなようだな。

もう戻ってくるゴブリンもいねぇ~し、祭の参加者は出揃ったか……。」


ジーザは、サンドイッチの最後の一切れを口に放り込むと舌舐めずりしながら、ゆっくりと立ち上がる。

そして、第2ラウンド開始の打ち上げ花火とばかり、手近な拳大の岩を左側のホブゴブリンに思いきり投擲した。


ドガッ


豪速球ならぬ豪速岩は、鈍い音とともに『右側』のホブゴブリンの頭部に命中する。


「おっ、狙いとは違うが……ジャストミート。」


崩れ落ちるホブゴブリンを眺めながら、草むらから踊り出るジーザ


「オラァァッ!!かかって来いっ!」


咄嗟の出来事に身構えるホブゴブリンエリートとホブゴブリン。

ゴブリン達の方は、ジーザの怒声に完全に圧倒されていた。


「ギャギャッ、ギガーッ!」


しかし、ホブゴブリンエリートの一吠えをきっかけとして、ゴブリン達は、突き出されたようにこん棒を振りかぶってジーザに向かってくる。

また、後方にいるゴブリン達は、それと連携してか石を投げてくるのだった。


「小っ葉が。しゃらくせぇっ!!」


手斧の広い面を振って石を弾き返すジーザ

鋭く弾き返された破片が前列のゴブリン達に突き刺さる。


2列3列目も動きの鈍った前列を追い越した所で、今度は手斧の刃に頭を、あるいは、胴を真っ二つにされていくだけである。


荒々しく手斧を振り回すジーザは、まるで暴風のようであった。

その暴風の前に為す術なく命を散らしていくゴブリン達


次々と仲間達が倒される中、それでもゴブリン達は攻撃を止めない。

いや、正確には止められない。

何故なら、怯んだ数匹のゴブリンは、後ろからホブゴブリンのグラディウスによって串刺しにされていたからである。


「くくくっ……狙い通りの展開だな。」


この状況にほくそ笑むジーザ


野盗を率いていた経験から、こういう手合いの行動パターンは、読めていたのだ。


どんな実力かも分からない初見の相手は、したくない。

また、相手がある程度の実力者と分かれば、消耗させて出来るだけ楽に倒したい。

更に言えば、部下が苦戦した相手を自ら倒せば、部下からの尊敬も集められて、一石三鳥なのである。


「だから、その皮算用が甘いってんだよっ!」


力強い一振りで3匹のゴブリンの身体がバラバラになりながら宙を舞う。

残りは今や10匹だけ。

業を煮やしたのか、そこでホブゴブリンが前に進み出る。


「ギャギーッ!」


雄叫びを上げ、残りの10匹を率いて突撃してくるホブゴブリン


岩の投擲で倒せた時点で、普通のホブゴブリンは、眼中でなくなっているジーザは、ゴブリンを相手するのと、何ら変わらずの一振り


ジーザの手斧とホブゴブリンのグラディウスが交錯する。


次の瞬間、グラディウスごとふっ飛ばされるホブゴブリン。

勢いのまま斬りつけられた胸部から腹部にかけては、盛大に裂けており、致命傷は免れない。

ジーザは、攻撃の手を緩める事なく、統率者がやられて立ち止まったゴブリン達を屠っていく。


間もなくして、この広場に立っている者は、紫色の血溜まりに佇み不敵な笑みを浮かべるジーザと低く唸り声を上げるホブゴブリンエリートだけとなった。


「流石の俺でも少し疲れてきたぞ……さっさと勝負を着けようや。」


「グルルル……。」


片手では馬力不足、かつ、盾は効果なしと判断したのか、ファルシオンを両手持ちに握り変えるホブゴブリンエリート

ジーザの出方を伺っているようである。


「……来ないのか?なら、こっちから行くぞ。」


ジーザの振るう手斧に対して、力で対抗したホブゴブリンとは違い、ホブゴブリンエリートの方は、軽く後ろに下がりにがら、力を流すようにして受ける。


ガキンと金属と金属がぶつかり合う高音が響く。


「そらそらぁ、身を守ってばかりじゃ、俺には勝てねぇ~ぞ?」


どちらが悪役か分からないが、力で相手を追い詰めていくジーザ

ジーザは、片手で手斧を振り回しているにも関わらず、この圧倒具合である。


しかし、斜め上から袈裟斬りに手斧を振り下ろした瞬間であった。

ホブゴブリンエリートは、ファルシオンを巧みに使いジーザの攻撃を受け流すと、受けた勢いを利用して回転、横一文字に剣撃を繰り出してくる。

この機会を狙っていたのである。


「狙い通りだな……俺のっ!」


回転していたホブコブリンエリートの身体が途中で動きを止める。

ジーザにもう片方の手で後頭部を掴まれたためであった。

そのままホブゴブリンエリートを軽く持ち上げると、勢いをつけて地面に顔面を叩き付ける。


立ち上る土煙

ホブゴブリンエリートの頭半分は、地面にめり込んでいた。


ゆっくりとジーザは、掴んだ手を離して立ち上がるが、ホブゴブリンエリートは、動かない。


「なかなか楽しませて貰ったぞ……っと。」


満足そうな笑みを浮かべたジーザは、手斧を逆手に持つとヘッドの部分を垂直に振り下ろす。


「ゲブゥッ!」


垂直に振り下ろされた手斧の頭は、その質量を持ってホブゴブリンエリートの背骨を砕く。

ホブゴブリンエリートは、顔を一瞬上げると血を盛大に吐いて事切れた。


それからジーザは、戦いの余韻に浸りながらも、手早く討伐証明部位を回収する。


「こんなもんか……。」


散乱したゴブリン達の死体の大部分は、森の生き物が処分してくれるが、極たまにオークやトロルといった他の魔物を呼び寄せてしまう事がある。

そのため、素材や食料(美味い魔物もいるらしい)にする以外の部分は、完全に焼いてしまうか、土に埋めてしまうのが最善。

オルロフから、それを聞いていたジーザだが、もちろん、そんな面倒な事はしない。

とっ散らかしたまま帰る気満々であった。


「一応、洞穴ん中も確認しとくか……。」


ふと奥に見えるゴブリン達の住み処であった洞穴に気付くジーザ


洞穴の入口を若干、腰を屈めて入ると

中は、5m幅くらいで、だいぶ奥があるような構造になっており、ジーザが普通に立って歩ける高さもあった。

また、少し傾斜がついていて奥の方に行けば行く程、下に降りていく事になるようである。


そこかしこにゴブリン達のものであったであろうガラクタや、食料にした何かの骨が散らばっていだが、特段、目に留まるものはない。


「大したもんは、なさそうだな……。」


つまらなそうに骨を蹴飛ばす。

蹴飛ばされた骨は、思いの外、飛距離が出て、30m程先の突き当たりまで行き着く。


「ん?奥に何かあるな。」


薄暗くてよく見えないが、土壁とは異なる部分があるようであった。


近付くと調度、土壁の中央に石板が嵌め込まれている事が分かる。

目を凝らすと、複雑な幾何学模様が彫り込まれており、右隅に経年劣化のためかヒビが入っていた。


「むぅ、なんだこれは?……ん、ヒビから風が…………奥にまた部屋があるという事か。」


ジーザは、石板を壁から外そうと手をかけようとする。

しかし、ヒビ割れた部分に手を翳した瞬間、本能的に後ろに飛び退いてしまう。


「……鼻につく匂いがしやがる…………。」


本当に何か匂いがあるわけではない。

風を感じた時には気付かなかったが、ヒビから得体の知れない何かが染み出してきている気がしたのだ。


こういう感覚を感じた時には、転進した方がいい事を、経験則で知っているジーザ

石板への警戒を怠ることなく、すぐに洞穴を出る。


「……とりあえず、ありゃ様子見だな…………。」


辺りに生き残ったゴブリンがいない事を確認するとパシェット村へと歩き出す。


帰路は、バスケットが空になった代わりに、討伐証明部位が盛り沢山な事に加え、ホブゴブリン達の装備も持ち帰ったため、それなりに大荷物であった。

それでも枝打ちが完全に済んでいる状態で、普通の道を進むのと変わりがないため、1時間程で村の入口まで辿り着く事が出来た。


「とりあえず、教会だな。」


教会に入るといつも通りオルロフがカウンターの奥に座っていた。

ナディアの姿は見えない。


「随分、早いお帰りだな。道でも間違っで目的地に辿り着けなかったか?」


オルロフは、ジーザに気付くと立ち上がって出迎える。


「冗談!……ほらよっ。」


ドサリとカウンターに、討伐証明部位のぎっしり入った布袋と、戦利品の装備を置くジーザ


チラリと布袋に視線を落とすオルロフ

紫色の返り血がそこかしこに付いているジーザと交互に見比べる。


「……この量……ちゃんと片耳だけ切り取ってきたのか?」


「ああ、右耳だろ?くそ面倒だったけどな。」


オルロフは、内心驚いていた。

布袋の膨らみから考えて100匹を超えるゴブリンを討伐した事になる。

また、その規模の集団となると当然、上位種に進化したホブゴブリンも複数発生しているはずである。

村長達からオルロフが聞き取りした限りでは、多くても30に満たない群れを想定していたのだ。


「増えるのが早過ぎる!壊滅させてから、そんなに経っていないはずだ……。

ホブゴブリン、ホブゴブリンは居たのか?」


顔色を変えたオルロフに、怪訝な表情を浮かべるジーザ


「あ?ああ、3匹、ボブゴブリンとかいうのが居たな。」


「『ボブ』でなくて『ホブ』ゴブリンな。……しかし、3匹も発生しているとなると100を超える数になっているのも頷けるな。」


「3匹の内、1匹は、ボブ……ホブゴブリンエリートとかいうのが居て、群れのボスに納まってたな。」


「エリート!?……そうか。だから途中で諦めて、早く戻ってきたのか。」


「いや、ちゃんと止めを差してきたぞ?

この革で出来た鎧一式やこの程度の良い片刃の剣は、そいつが持ってたもんだしな。」


「何っ!?ホブゴブリンエリートを倒してきたのかっ?」


ジーザは、声を張り上げるオルロフに思わず首を竦める。


「んだよ?だから、やったきたって言ったんだろ。

俺の攻撃を何度もいなしたり、隙を突いて、クルッと回りながらこんな風に斬り付けてきたり、なかなか楽しませてくれる奴だったな。」


ホブゴブリンエリートの動きを身振り手振りで伝えるジーザ


オルロフは、それを驚きをもって見ていた。


「ゴブリンが『受け流し』に『回転斬り』まで……そいつは、剣士の初級アビリティの1つだぞ!」


洗礼でジョブを選択した後、ある程度経験値を稼ぐとアビリティを得られる。

そして、ジョブに応じたいくつかの選択肢の中から、アビリティを選ぶ事が出来るはずである。

ここまでは、ジーザもオルロフから事前に説明を受けていた。


「剣士のアビリティ……魔物にもジョブがあるのか?」


「ああ、聖なる洗礼があるのと同時に、邪悪なる洗礼もまたあるんだ……が、この村の近くに邪教の教会があるとは思えん。」


「なら、ジョブじゃなくて、スキルだっけ?たまたま、そういうのがあっただけじゃないのか?」


「いや、アビリティでも取得していない限り、知能があまり高くないゴブリン種がそんな修練を出来るはずがないっ。」


ダンッと勢いよくカウンターを叩くオルロフ

何をそんなに慌てているのか理解できないジーザは、とりあえず、あった事をそのまま伝える事にする。


「……斯々然々……それで、よく分からん石板にあんま触れねぇ~方がいいと判断して戻って来たわけだ。」


所々、オルロフの質問を交えながらも、ゴブリン討伐であった事を説明し終える。


「……ここにきて、新しいモノが発見されるとは……いやしかし、これで魔物の異常発生にも納得がいく。

以前、討伐した際、もっとよく調べていればな……。」


オルロフは、教会内をうろうろと歩きながら、ああでもないこうでもないと思案を巡らせているようだ。

その時、裏手側から人が入ってくる気配。

少しつまずいたような音も同時に聞こえる。


「……あいたたたっ。オルロフ、何を騒いでいるの?」


ドシっ娘平常運転のナディアである。


「ナディア様……。御勤めの直後で申し訳ありませんが、至急、お伝えしたき事が。」


オルロフの真剣な声色に、姿勢を正すナディア


「オルロフが至急と言うのなら、何か重要なことがあったんでしょ?

なら、聞かないわけにはいかないわ。」


オルロフは、ナディアの言葉に一礼すると、カウンターの奥から、タオルを取り出し、ジーザに投げて渡す。


「俺の方でナディア様には、ご説明しておく。あんたは、表に水瓶があるから、少し汚れを落として、さっぱりして来るといい。

……酷い臭いだぞ、レディーの前ではもっての他だ。」


「はっ、よく言う……だがまあ、同じ話を繰り返すのもを面倒だ、任せる。」


ジーザは、表に出ると、教えられた水瓶から、桶で豪快に水をすくって水浴びを始める。

もちろん、服(と言っても布地は下の作業ズボンだけだが)は着たままだ。


「くぅ~!……まさか水をこんな思いきり使えるようになるとはな。」


時刻表は、昼を過ぎた辺り、気温も上がって水浴びにはもってこいの時間帯であった。


一通り返り血を落としら、、他の瓶を椅子代わりに日向ぼっこをし始める。


「ステータス」


――――――


名前:ジーザ

種族:人

(中略)


Lv:15

状態:正常

体力:38/39

魔力:6/6

筋力:43

反応:14

耐久:28

持久:28


(中略)


――――――


「おっ、レベルが少し上がってんな。能力値とかいうのもちょっとだが増えてる……。

この調子でガンガン上げて、まずはオルロフを越えねぇ~とな。」


ジーザは、オルロフのステータスを思い出して、気持ちを新たにするのだった。


場面を転じて、教会内では、ナディアとオルロフの話が続いていた。


「そんなモノが、この村の近くで……。これも次元の歪みがもたらした災厄の1つでしょうか。」


「調べてみないと確かな事は言えませんが、古い石板があるという事は、その場所自体は、過去の遺物である可能性の方が高いかと……。

問題は、それが今になって何故ひび割れたのか……。」


「そうね……。」


「何れの結果にしても、魔物の異常活性化からすれば、ダンジョンが出現したのは、十中八九間違いないでしょう。

教会本部には、私の方で、一報しておきます。」


「分かったわ。私も結界の準備をしておくわね?」


意見がまとまった所で、オルロフは表に出る。


「今日は、これまでだ。

特に異常がないのなら、明日も同じ場所に行く、日の出とともにここを出発だ。

そのための準備を万全にしておいてくれ。

……場合によっては、また戦いになる。」


瓶の上で寛いでいたジーザに明日の予定を伝える。


それを聞いたジーザは、パンパンと腰を払いながら立ち上がり、了解の合図に片手を上げて教会を後にするのだった。


「……やはり、暴力はいいな……。」


誰も聞いていない場所でポツリと呟くジーザ


その眼は、獰猛な野獣の光を宿していた……。




主人公ステータス


名前:ジーザ

種族:人

性別:オス

年齢:23歳

身長:231cm

体重:220kg

出身地:カントー

所属:なし

カルマ:➖98 極悪

モラル:➖99 非道


Lv:15(➕3)

状態:正常

体力:39(➕2)

魔力:6 (➕1)

筋力:43(➕3)

反応:14(➕1)

耐久:28(➕1)

持久:28(➕1)

※( )内は、前話からの変化値


職業ジョブ:戦士Ⅰ

能力アビリティ:筋力強化、反応強化、肉体強化

技能スキル:拳闘術Ⅰ、斧術Ⅱ、投擲術Ⅱ、索敵術Ⅱ、隠密術Ⅰ、馬術Ⅰ

加護ギフト:なし

装備:アイアンアックス、レジン(樹脂)の肩当て、鋲打ち腕当て、レジンの脛当て、隷属の腕輪

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