表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ヒーローの不在

作者: 北本和久

 残念ながら、映画に出てくるようなピンチの人の前に颯爽と現れるヒーローはいない。

だから、何処かで悲劇的な事件や事故がいつも起こっている。


(女性・四十八歳・主婦)

「まず最初に消防車のサイレンが聞こえたんです。何かと思って窓を開けて驚きました。向かいのマンションの窓からモウモウと煙が噴き出していたんですから。でも、もっと驚いたのは開いていた窓から髪の長い女性が身を乗り出していたのを見た時でした。後ろは炎に包まれていて、もう何処にも逃げ場がない感じで『あぁ、もうダメ!』と思いました」


(男性・三十二歳・会社員)

「あの時は目を疑いましたね。高速道路を運転してる真っ最中ですよ?見通しの悪いカーブの先におじいさんが突っ立っていたんです。あっと思った時に、そのおじいさんに向かって大型ダンプが突っ込んでいきました。しかも運転手は居眠りか、携帯で話し中か、蛇行してブレーキも踏まないし!思わず凍り付いてしまいました」


(男性・二十九歳・米陸軍中尉)

「中東で任務に就いていた時の事でした。私達の部隊が装甲車で市街地を移動中、突然銃撃を受けました。待ち伏せです。三日前にもありました。すぐに反撃しようとしましたが、あちこちの建物の陰から狙い撃ちされていて身動き出来ませんでした。『このままでは全滅する!』そう思った時、何を思ったのか一人の兵士がいきなり扉を開けて装甲車から飛び出して行ったんです。すぐ止めようとしましたが、彼はそのまま銃弾が飛び交っている真っただ中に突っ込んで行ってしまいした」


(女性・二十四才・ライフセイバー)

「あの入り江は潮が速くて、これまでに何人も犠牲者が出ているところなんです。もちろん遊泳禁止です。だから、その男性にも入り江に近寄らないように注意しました。『分かりました』と戻って行ったんですけど、暫くしたらいつの間にか入り江の中に入り込んでいて、私に見つかったと気づいた瞬間、海に飛び込んだんです。満潮で一番危ない時間帯でしたし、助けに行ったら私まで溺れる可能性があったので様子を見ていましたが、彼はそのまま浮かんできませんでした。ダイバーが到着したのはそれから三十分ほど後でした」


(女性・四十八歳・主婦の続き)

「でも本当に驚いたのは次の瞬間でした。その女の人、ベランダから飛び降りたんです!四階からですよ?!で、何事もなかったように着地して、そのまま何処にスゴイ速さで走って行ってしまいました」

(男性・三十二歳・会社員の続き)

「でも、本当に目を疑ったのはその後でした。何と、跳ね飛ばされたと思ったおじいさんが立ってたんです!こう、手をまっすぐ前に突き出しててて、ダンプの前の方がベッコリ歪んじゃってて。一瞬、訳が分からなくなってボーッとしてる間におじいさんは姿を消してました」


(男性・二十九歳・米陸軍中尉の続き)

「外に出て数秒でミンチになると思ったのですが、その兵士は、銃弾が体中に当たっているはずなのに走り続けていたんです!そしてそのまま建物の陰に消えて行ってしまいました。その兵士の事は誰も知りませんでした。未だに信じられません」


(女性・二十四才・ライフセイバーの続き)

「結局、遺体が引き揚げられるまでに一時間近くが経っていました。あ、待って下さい。遺体って・・・実は引き揚げられた人、いつの間にか消えてたんです。丁度その頃、近くでその男性を見たって人もいたんです・・・まさか海中に一時間もいられる訳無いし・・・」


 あるマンションの一室で、一人の青年が着替えをしていた。

 物心ついた頃から青年は自分が他人とは違う事を感じていた。彼は異常に力が強く、強靭な肉体を持ち、切り傷一つ出来た事が無かった。男は自分の能力をひた隠しにしていたが、いつか誰かを助ける為に使いたいと思っていた。しかし、その前にまず自分の限界を知りたいと思った。目立たないよう、時には老人や女性に変装しながら危険の真っただ中に飛び込み続けた。


 悲劇的な事件や事故が続く世の中。映画のように颯爽と助けに来てくれるヒーローはいない・・・今はまだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ちょっと好き でも、もうちょっと捻ったらもっと面白くなると思う
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ