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僕と不良少女の関係  作者: 東京 澪音
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意外な接点

優しい風と降り注ぐ日の光の中、そっと目を閉じていた僕は遠くで聞こえる誰かの鼻歌で気が付いた。


眠ってしまっていたのだろうか?


醒めていく意識の中、遠くに聞こえていたはずの鼻歌は、実は随分と近くからだった事に少しだけ驚いた。耳にとても心地よく届くその鼻歌は、ずっと聞いていたい衝動に駆られる程だ。


僕はゆっくりと目を開き、その姿を確認する。


まだ夢の中なのだろうか?


「起きたか佐々木?こんな時間からこんなところで昼寝か?」


心地よい鼻歌は、僕の目覚めと共に消えてしまう。

とても残念な気持ちで一杯になる。


出来る事ならもう少し聞いていたかったのだけど・・・。


そこには谷田さんがいた。


「ジャニス?とても綺麗な鼻歌で、もう少し聞いていたかったんだけど、口ずさむ人の正体が知りたくてね。邪魔しちゃったかな?ゴメンね。」


ちょっと恥ずかしそうに、でもどこか嬉しそうに優しく笑う。


「湿生公園の入口にさ、アンタのバイクにソックリな奴が止まってたからさ、まさかと思って来てみればこんな所で寝息立ててるし。ジャニスはさ、私にとってバイブルなんだよ。辛い時や悲しい時、挫けそうな心を叱ってくれるような・・・ね。それより驚いたのは、佐々木がジャニスを知っていた事だ。今時の同年に音楽を話せるヤツがいたなんてね。」


僕だって正直驚いている。

実に40年以上昔の曲を谷田さんが知っていたなんて。


「今時の流行りの歌はサッパリわからないけど、60年代~80年代位の音楽は大好きだよ。ジャニスは勿論、トムウェイツ・ストーンズ・チャク ベリー・ジミヘン・ジェームスブラウン・レイチャールズ・THE Who・ドアーズ・クリーム・イーグルス・CCR・サンタナ・・・etc。テレビやラジオから聞こえてくる流行りの歌よりも何倍も素晴らしい。切っ掛けはさ、初めて見た映画、イージーライダーが一つの切っ掛けだったのかもしれない。ステッペンウルフのBorn To Be Wildって曲があまりにもカッコよくってね!その辺の古き良きR&Rをあさる様になって現在に至るんだ。」


嬉しいな。

誰かとこんな話が出来る日が来るなんて思ってなかったから。


「へぇ~。その辺については話が合うかもね!ビックリしたよ。私の中の佐々木のイメージとはだいぶかけ離れているからね。音楽になんて興味がないと思っていたんだけどさ、なるほどね。私の中の佐々木のイメージが随分と変わったよ!」


それは僕だって同じだ。

谷田さんは不良と周りから怖がられていたりするけど、やっぱり女の子の訳で。年相応の流行りの音楽とかしか聞きそうにない感じがしたんだけど、違ったんだな。


お互いに言える事だけど、話してみないとお互いに判らない事ばかりだ。


「谷田さんはどうして?」


そう尋ねてみる。

谷田さんは少し考えてからポツリと話し出した。


「兄の影響・・・かな。」


谷田さんにしては歯切れの悪い返事に、僕は少しだけ疑問を覚えたがあまりツッコまないでおく。


人それぞれ色々あるからね。


「そうなんだ!羨ましいな~。僕にはそんな話の出来る人が身近にいなかったから、自慢出来る程詳しくはないし、音楽性の好き嫌いに随分と偏りがあるんだけどね・・・。いつかお兄さんとお会いする機会がもしもあったら、その時には是非三人で音楽談義をしよう!その時はよろしくね。」


僕自身としてはサラッと軽く言ったつもりだった。


「あ、ああ、そうだな。」


やはりどこか少し変だ。

取り敢えずこれ以上この話は避けた方がいいかもしれない。


そう考えていたのは僕だけじゃなかったみたいだ。


「ところで佐々木は何でここに?」

谷田さんがそう尋ねてくる。


僕はここに来た理由を谷田さんに説明する。


「初めてここを訪れる人は皆そうかもしれないね。私は毎日ここの景色を見てるからさ、然程珍しくないんだけどさ・・・。アンタも物好きだね、こんな所を訪れようなんて。」


ここにバイクを走らせたのは、それだけが理由じゃないんだけどね。


「でも来てよかったよ。好きな音楽の話が出来たし、谷田さんにも会えた。何となくつまらない日曜日が、それだけでとても素敵な日曜日になったから!」


そう話すと、谷田さんは笑顔を一つ作り、座っていた東屋の椅子から立ち上がった。


「そっか。私も・・・かな。じゃ、私はこの後用事があるから行くけど、もううたた寝するなよ。幾ら春だからって、まだ少し肌寒いからな。」


そう言うと片手をあげて公園から歩き去る。


「あ、明日朝7時20分に迎えに来るから!」

そう言うと、僕は谷田さんの背中を見えなくなるまで見送った。


来た道を戻って、駐車場に止めたバイクのエンジンをかける。

短い時間の出来事ったけど、意外な接点が嬉しかった。


谷田さんの事がまた少しわかった気がする。

それでもまだ、僕は彼女について知らない事が沢山ある。


彼女の事、もっともっと知りたいと思ったんだ。





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