ファーストコンタクト
店内はとってもお洒落だった。
壁に掛かったエピフォンのセミアコ"カジノ"をみた瞬間、ここの店主さんとは絶対話が合うなと、直感的に思った。
「いらっしゃいませ。って瞳さん!ご無沙汰してました!少々お待ちくださいね!お母さ〜ん、瞳さんが若い子連れて来られたよ」
ちょっと待てーぃ‼︎その言い方は誤解を招くって!
まぁ、その辺の事はさて置き、何だかとっても元気の良い店員さんだな。年齢的には僕と結構近いかもしれない。
そんな事を考えていると、奥から女性シェフが現れる。
「いらっしゃい瞳。久しぶりね!急でビックリしたけど、ちゃんと席空けておいたから。で?そっちの若いツバメは誰かしら?ひょっとして禁断の恋的な⁉︎大丈夫安心して。今日の事は決して誰にも言わないし、席もほら!目立たない奥の席を押さえてあるから多少修羅場っても安心よ!」
ほらね?若干誤解されたよ?
ちなみに若いツバメとは、明治の女性解放運動の先駆けで、"平塚らいてう"と年下の画家、"奥村博史"の恋に由来する。
平塚らいてうと言うのは、日本の思想家で評論家。作家・フェミニスト・女性解放運動家などの顔を持つ。
本名は平塚 明。
奥村とらいてう二人の恋が、"青鞜"(せいとう)のメンバーの心を動揺させてグループの関係を悪化させたので、奥村は自ら身を引くこととなる。
その時に奥村がらいてうに送った手紙に「若い燕は池の平和の為に飛び去って行く」と書かれていたため、"若い燕"という表現が現在まで残っている。
考えてみれば凄いよね⁉︎
だってこの奥村とらいてうの恋バナ、今から100年以上前の出来事だからね!
その時の恋バナ由来がいまだに残ってるんだから。
って、今はそれどころじゃないんだけどね。
「違うわよ。そんな素敵な関係じゃなくって、小次郎君は娘のボーイフレンド!今日は娘の事でちょっと相談したくってこうしてランチに誘ったってわけ。と言う事で、ホラ!席にご案内して。」
谷田さんのお母さんがそう説明すると、なーんだ。ってな感じで残念そうに肩を落とす女性シェフ。
後で聞いた話だけど、谷田さんと女性シェフは学生時代からの友人との事。
「ごめんね小次郎君。今日はいつも以上に美味しいランチ出すから、ゆっくりして行ってね!じゃ、お席にご案内。こちらどーぞ。」
そう言って僕と谷田さんのお母さんを席に案内してくれた。
案内された席は1番奥の席ではあったが、窓からは素敵な景色と暖かい陽射しが優しく入るそんな席だった。
「ごめんないね、下世話な話しちゃって。今日は晶子のお話を色々と聞けたら嬉しいと思ってるのでよろしくね。取り敢えずお腹空いたし、先にランチ頼んじゃいましょう!」
そう言うとメニュー表を僕の前に見やすく広げてくれた。
ランチメニューも意外と豊富で、わかりやすくA・B・Cと分けてあり、Aランチはパスタメインで、Bランチは肉メイン。Cランチは魚で、それぞれのランチにはサラダ・スープ・パンorライス・ドリンク・気まぐれデザートが付いて1450円となっている。
その中から僕はBランチをライスで、谷田さんのお母さんはAランチをパンで。ドリンクは食後にコーヒーを注文した。
「ごめんなさいね、晶子が迷惑かけてしまって。」
いの一番にご挨拶するつもりが、それよりも早く頭を下げられてしまった。
「そんな!全然迷惑なんかじゃありませんし、不謹慎ではありますが、好きな子と一つ屋根の下で暮らせてラッキー!とか少し、いや、物凄く思っちゃったりもしてますから、ご安心下さい!」
しまったー‼︎なんて事を口走っているんだ僕は!
谷田さんのお母さんに会ったら、こうやって話を進めていこう!と思っていたプランがいきなり台無しっす。
さっきまで頭の中で1人、ずーっとロールプレイングしていたんだ。
こう言葉のパンチが飛んできたら、こう躱す!
こう言葉のキックが飛んできたら、こう捌く!
そして隙を見て、反撃。
「この野郎!かかって来い!最初はジャブだ!ホラ右パンチだ!おっと左アッパー!畜生〜やりやがったな⁉︎倍いにして返すぜ‼︎フックだ!ボディーだ!ボディーだ!チンだ!ええい面倒でぃ!この辺でノックアウトだ〜‼︎」
と、石原裕次郎並みに軽快に捌くつもりでいたのにいきなり出鼻をくじかれてしまい、テンパった挙句にこの失態。
あぁ、神様。もしも貴方が本当に存在するのであれば、何卒時間を巻き戻して下さい。一日前になんて贅沢な事は言いません。1時間、いえ、5分前で構いませんから…。
って、無理だよね。取り敢えず謝って誤解を解こう。
「スミマセン、本当に申し訳ありません!好きな女の子のお母さんに会うなんて経験がないものですから、緊張からか思考がおかしくなってしまい、テンパってよく分からない事を口走ってしまいました!」
絶対谷田さんのお母さんに、おかしな子だと思われた!
どうしたらいいんだ⁉︎
あたふたとした僕を見た谷田さんのお母さんから、クスクスと笑い声が聞こえた。
何だかとても上品な笑い方だな〜。うちの母、登紀子とは雲泥の差である。
「笑ってしまってごめんなさいね。そうよね、本人差し置いて面識もないその母親に突然会ったらテンパっちゃうわよね。でもね、まだそんなにお話ししてないけど、小次郎君のひととなりがわかった気がするわ。佐々木家の皆さんにはご迷惑をお掛けしてしまいますが、小次郎君になら安心してあの子を預ける事が出来るって確信したわ。」
え〜っと、どこをどうすれば安心して娘を預ける事が出来るに至ったのだろうか?
僕が親なら今頃掴みかかっているところだが…取り敢えず僕は思い切って聞いてみる事にする。
「あのぉ〜、大変失礼な事をお聞き致しますが、この短い会話の中、どの辺のくだりで安心して晶子さんを預けられると言う答えに、いえ、確信に至ったのでしょうか?」
首を傾げながら質問すると、谷田さんのお母さんはまた少しクスクスと笑いながら、少し悪戯な目で答えてくれた。
「だって小次郎君、晶子の事が好きなんでしょ?さっきから自分でそう言ってたんだけど…ひょっとして気づいてなかった?」
あっ⁉︎言った気がする!いや、言ったよ!
ぬぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!マジかー!!!
ファーストコンタクトからやらかしたよ!
顔から火が出るほど恥ずかしくなってしまった僕は、出されたお冷を一気に飲み干すと、しばらく俯いて何も言えなくなってしまった。




