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僕と不良少女の関係  作者: 東京 澪音
32/43

一筋の光が差した日

僕は今、厳島湿性公園の駐車場からまたその美しい景色を眺めていた。


谷田さんは家に着替えと写真を取りに帰っている。

谷田さん家は結構大きな家で、日本家屋がまだ多く立ち並ぶ中、洋館作りが一際目を引くものがある。


「悪い待たせたな」


最近、制服姿かツナギ姿の谷田さんしか見てなかったので私服姿の谷田さんは随分と新鮮に僕の目には映った。


「全然待ってませんよ。ここから見える湿性公園の景色はどれだけ見ていても飽きませんからね。」


それに待っていたのが谷田さんだしね。


「何ニヤニヤしてんだよ?なんかいい事でもあったか?」


ニヤニヤしてるのかな?

自分じゃ、ニコニコしてるつもりなんだけどな。


「いい事ですか?そうですね、強いて言うならば、こうして谷田さんの私服姿を見れた事だと思います。その服、素敵ですね!」


僕は決してお世辞を言ってる訳ではないんだ。

ありのまま、思うがままを口にしただけなんだ。


「ば、バカ野郎!おためごかしはいいんだよ!」


おためごかしとか。

最近の若い子はそんな言葉使わないと思うけど…。


「いえ、そんなつもりはないですよ。僕は思うがままを口にしただけで、谷田さんはとても素敵な女性ですよ。」



やっぱちょっと同い年の女子にない魅力が谷田さんにはあると僕は思うんだ。


「素敵とか言うな!私みたいなガサツな女に向かってさ…チャンチャラおかしいんだよ!それより早く行こうぜ!」


谷田さんは本当に僕の一個上なのか?

チャンチャラおかしいとかさ、最近のJKは使わないと思う。


「はぁ〜。どうしたら信じてくれるのかな?」


谷田さんが後ろに乗った事を確認すると、僕は篠崎さんに会うためバイクを二宮方面へと走らせる。


帰宅ラッシュにはまだ早い為、意外とすんなり蒙古飯店まで辿り着けた。

バイクを邪魔にならないであろう隅に置くと、谷田さんと二人で店内に入る。


「イラシャイ!アイヤ〜先日の金髪娘のカレシね!彼女のバイト先に違う女を連れて来店するとか、アナタ命知らずね⁉︎」


盛大な勘違いと共にカウンターに水が入ったグラスが2つ並んだ。


「いやいやいやいや、ヤンさん違いますって‼︎僕と金髪っちゃんは間違ってもそんな関係じゃないっすから⁉︎谷田さんとならまだしも、金髪っちゃんですよ⁉︎」


頼むから僕と金髪っちゃんをくっ付けようとしないでくれ‼︎


「佐々木、お前も結構苦労してんだな!」


そう言うと笑いながら僕の背中をバンバンと二回叩いた。


笑うとこじゃないんだけどな〜。

そんな事を考えてると、裏口が開いて篠崎さんが入ってきた。


「いや〜参った参った!仕事があるって〜のに、ワリンが帰してくれなくってさ〜!って、よう小次郎少年!ギター持ってきたか?お!そっちは金髪の友達だったな!二人ともいらっしゃい。さっき金髪から後で二人が店に顔出すからってLINE貰ったよ。今日は気分がいいから好きなモン奢ってやんよ!何でも頼め!」


あ〜篠崎さんはまたパチンコ行ってたんだな。


「で、俺に用ってなんだ?答えられる事なら何でも答えるからさ、その前になんか注文しろよ。どんな話をするか知らねーけど、しけたツラしてないで取り敢えずなんか腹に入れようぜ?ここはラーメン屋だ若者。」


多分篠崎さんは、僕らがなんとなくシリアスな話をするんじゃないかってわかっていて、わざと戯けてみせたんじゃないだろうか?


うまく言えないけど、凄い人だな。

掴み所のない鰻と言うかなんと言うか。


取り敢えず折角なので、お言葉に甘えておく事にする。

僕らはメニューから天津飯と蟹玉炒飯をそれぞれ注文した。


「んで、そっちの錆びた髪の彼女の名前はなんて言うの?って、レディーに名前を尋ねる前に、まず自分が名乗るべきだったな!俺の名前は篠崎次郎。このラーメン屋、蒙古飯店の二代目店主をしている、しがないオッサンだ。趣味は海で遊ぶ事。好きなタイプは青い髪で泣きぼくろがある、ちょっと小悪魔的な女の子。」


間違いなく趣味はパチンコって事だろうな。


で、君は?

と言わんばかりに谷田さんを見ている。


谷田さんは一つ小さく息を吐くと、意を決したように話し出す。


「私は谷田晶子。現在2回目の高校1年生で、心愛と佐々木とは同級生です。突然ですが、今日は篠崎さんにお聞きしたい事があり、お伺いしました。」


篠崎さんに頭を下げると、谷田さんはそう挨拶をした。


「おぃおぃ、谷田さんは礼儀正しいね〜。出来たら金髪にもこれ位のしおらしさがあったら良かったったのにな。でもな、生憎とオッサンは堅苦しいのが苦手でね。もっとフランクに頼むよ、あっちゃん!」


あっちゃん。

あっちゃんとか!


谷田さんをあっちゃんとか呼んじゃうあたり、篠崎さんの人懐っこさが伺える。でも徳な人だよな。嫌な感じが一切しない。


「私をあっちゃんなんて呼んだのは、篠崎さんで二人目です。一人目は兄なんですが…今日はその兄についてお聞きしたくて伺いました。失礼ですが、篠崎さんは谷田勉をご存知ですよね?兄はベンジャミンと言うあだ名で呼ばれていました。なんでもいいんです、兄について教えて頂けませんか?」


そう言うと谷田さんはポケットから一枚の写真を取り出す。


それを見て篠崎さんは少しだけ驚いた顔をしたものの、笑顔を谷田さんに向けた。


「そうか!あっちゃんはベンの妹か⁉︎言われたら確かに似てるな。そっかそっか。ベンはさ、昔俺が行きつけだった平塚のHeaven'sDoorってJazzバーでピアノを弾いててさ。そのピアノがあまりにも存在感があって、アイツのピアノを聴きに来る客ってのが結構いてさ。お陰で店は連日満員御礼。それまでピアノに興味が無かった俺ですら、いつの間にかその音色に酔いしれた程だ。で、色々と話すうちに仲良くなって、一緒に音を出してみないか?って事になった訳。これがベンと俺との出会いだよ。」


僕は今凄い話を聞いているんじゃないのか?

雑誌のインタビューや対談記事ではなく、生でjack in the boxの始まりの話を聞いている。


「俺達は色々なライブハウスに出入りする様になり、そのうち小さいながらも色々なフェスからも声がかかるようになった。俺達のギグを見に来てくれる連中が増え始めた頃、ベースの吉川がもっと多くの連中に音を届けようって提案をした事がきっかけで、jack in the box初となるCDをリリースする事になる。音源はさ、自主制作ってカタチで山梨の山中湖スタジオでほぼ一発録り。それを都内のCDプレス会社に持ち込み、ジャケット撮影、キャラメル梱包、流通販売、最低ロッド1000枚込みで15万円でリリース。メジャーでも何でもない、少し周りに認知され始めた程度の俺達には、1000枚のCDを完売出来るなんて当然思ってなかった。だけどこれが吉と出て、増販決定。その噂がバンド雑誌に載ったことがきっかけでインディースレーベルと契約。当時インディースでは珍しかった全国ツアーも経験し、一年後、メジャーレーベルからお声がかかった。」


僕が持ってるインディースCDは一発録りだったって事に衝撃を受けた。あそこまで完成されたCDが一発録り…そりゃあメジャーから声がかかるはずだ。


「多分、君が聴きたいのはここからだよね?とんとん拍子で話が進んだメジャーの話だったんだけどさ、突然圧力が掛かったんだ。圧力を掛けてきたのはロックとは全く関係がないクラッシク界の重鎮と呼ばれる人達。最初は訳が分からなかったよ。かなり抵抗もしたさ。メジャーじゃなくてもギグが出来る環境さえあればそれだけで構わないとさえ思ったさ。けどその活動さえ潰されかねない事態に陥ってね。色々と調べていくうちに、どうやらベンの活動を良しとしないベンの関係者からの圧力と分かり、メジャーからのデビューは見送られるかもと言う話になった。後は知っての通り、ベンが手を引く事により、俺達はスリーピースバンドとしてメジャーデビュー。最低な話しさ。結果、俺達はベンよりメジャーを取っちまったのさ。」


篠崎さんは少し悲しそうに話してくれた。


そう言えば以前谷田さんが言ってたな。

父親や祖父からあらゆる手を使って活動を邪魔されたって。


それがきっかけでベンジャミンは病んでしまった事。

ジャンルは違えど音楽を愛する家族が、家柄を理由に親の意に沿わないと言うだけで活動に圧力を掛ける。



「いえ、その辺の話は聞き知っています。むしろ私達身内が色々ご迷惑をお掛けした事を兄に代わり謝罪します。兄もずっと気にしていました。仲間に沢山迷惑を掛けたって。」


悲しい話しだな…とても。


「篠崎さんは、ベンジャミンさんの行方をご存知ありませんか?僕らは彼の行方を探しているんです。」


僕が切り出すべきだろう。

そう思った。


「正直な話し、俺も詳しくは知らないんだよ。ただこれは限られた人しか知らない話だが、バンドとは別の活動として、うちのレコード会社の別部門からの依頼でベンはJazzピアノのサポート活動してたんだよ。ベンのマネージメントをしていた人に面識あるからちょっと連絡を取ってみようか?もしかしたら何か手掛かりがわかるかも知れない。少し時間くれないか?」


その言葉は正に一筋の光だった。

今は篠崎さんに期待したい。


「と言う訳で、天津飯と蟹玉炒飯あがったぜ!今日の所はそれ食って帰りな。情報が入り次第連絡してやるからさ。それと小次郎少年は次回必ずギターを持ってくる事!OK?」


僕らは天津飯と蟹玉炒飯を食べ終えると蒙古飯店を後にする。

入れ違いで金髪っちゃんがバイトに出勤してきたが、軽口を叩ける余裕がなかったので、軽い挨拶程度で済ませた。


谷田さんはあれから一言も言葉を発していない。


僕はスーパーフォアのエンジンをかけると、谷田さんを後ろに乗せて国道1号線を東に走り始めた。











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