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僕と不良少女の関係  作者: 東京 澪音
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CD50-S


「ただいま父さん!今朝はありがとう。」

タイヤ交換中の父に声をかけると、手を休めてこちらをみる。


「おう、小次郎おかえり!スカイ裏置いといたから。で、そっちの美人は誰だい?まさかと思うがお前の彼女じゃないよな?」


そう言いながら、谷田さんに片手を上げる。


「あ、どーもこんにちは。佐々木君と同じクラスの谷田晶子と申します。今朝はすみませんでした。あの原付私のなんですが、急に止まっちゃって。で、佐々木君に助けてもらっちゃったわけですが、結果的にお父さんにもご迷惑をかけてしまったみたいで、大変申し訳ありませんでした!」


そう言って父に深々と頭を下げる谷田さん。

そんな彼女に僕はとてもビックリした。

やはり噂ってのは当てにならない。現に彼女はとても礼儀正しい。


「おいおい、頭あげなって!小次郎のクラスメートなら何にも遠慮なんていらないさ。美人に頭下げられると、おじさん困っちまうよ。しかしあれだな、最近の若い子にしては礼儀正しくてびっくりしたよ。オイルと鉄の匂いの狭いバイク屋だけど、ゆっくりしてってな。小次郎、谷田さんのバイクしっかり見てやれよ。」


そう言うと、父は作業に戻って行った。


「ゴメンね谷田さん、馴れ馴れしい父で。まぁ頑固だけど人当たりはいい方だから、気にしないで。それよりスカイをちょっとバラしてみましょうか?原因わかるかもしれないし。あ、裏どうぞ。」


僕は谷田さんを裏に案内した。

裏庭は、ちょっとしたスペースを確保してあり、廃車したバイクや廃タイヤ、部品なんかもまとめて置いてある。


傍から見ればガラクタの山だけど、見る人が見れば、そこは宝の山だ。


シートをかけてスカイは置かれていた。


「佐々木、アンタの父さんいい人だな。大抵の大人は私の成りを見ただけで、眉を顰めては見下すんだけど、アンタの父さんはこんな成りの私を見ても嫌な子一つしなかった。出来た人だな。」


自分の親を褒められるとこそばゆいが嬉しい。


「きっとそれは、谷田さんがとても礼儀正しいからだよ。僕もね、父さんと同じ意見なんだ。今まで谷田さんを怖いとかそんな風に見た事ないし、色々噂は聞くけど、それはあくまで噂であって、僕は実際にそれらを見てないから、そんな話し始めっから信じてないよ。父さんを褒めてくれてありがとう。僕の自慢の家族だから。」


そう言って谷田さんに微笑みかけると、谷田さんはちょっと恥ずかしそうにそっぽを向いてしまう。


「じゃあ、ちょっと見てみるね!」

僕は工具箱から10ミリのラチェットを出すと、スカイの外装を外していく。

この型の原付は意外とバラし安く、すぐにエンジン部分が見える。


見た感じでわかる位の焼き付きだ。

やはり年季が入っているだけに、結構酷い。


オイルを見てみる。

レベルゲージでオイルの量を見るが、全然オイルの量が足りてない。

オイル受け皿を敷いてドレンボルトを外してみると、オイルが一滴も出てこない。


どうやらオイル交換はおろか、確認もしていなかったようだ。

多分原因はこれだ。


オイルが全くない状態で走り、エンジンが焼き付いてしまい、お釈迦になったって事だと思う。


「谷田さん、オイル交換て知ってる?」

そう尋ねると、谷田さんは首を傾げる。


「なんだそれ?知らないよ。バイクってガソリンさえ入れれば走るんじゃないの?」


そりゃそうか。

女の子にそんなこと聞いてもわからないよね。

取り敢えずわかりやすく谷田さんに説明する。


「細かな事は置いといて、このエンジンオイルが入ってないと、エンジンが焼き付きを起こして走らなくなっちゃうんだ。で、これは結構末期な状態で、これを直すには、エンジンを全部分解して研磨したり摩耗した部品を総取り換えしないとダメだね。それか違うエンジンを載せるか。ただ、バイクが古いだけに、状態のいいエンジンが見つかる可能性は限りなく低い。結構なお金と時間がかかっちゃうし、下手したら中古で違う原付探した方が早い位だよ。谷田さんがどうしてもこのバイクがって言うなら、時間さえくれればパーツ集めて直すけど、どうしよう?」


谷田さんは少し考えて答える。


「まぁ、去年卒業した先輩が私に押し付けてったバイクだから、全然思い入れなんてないんだけどね。先輩が乗ってた頃から白煙ぶちまけてたし。ただ、正直移動手段の足が無くなるのはちょっと痛いかな。金もないし、修理したり新しいバイクを買うのは無理だな。」


そう言うと少し困った顔をする谷田さん。

うーんどうしたもんかと考えていると、一仕事終えた父が様子を見に来てくれた。


「おう!どうだ小次郎。あ~あ~こりゃ酷いな。エンジン全バラシの組直しか、乗せ換えだな。しかしこの手のエンジンはいい弾ないぞ。」


父も僕と同じ見解のようだ。


「もとは谷田さんの先輩のものらしいんだけど、押し付けられちゃったみたいなんだ。これじゃどうにもならないし、さて困ったって話してたとこ。やっぱエンジン見つからないよね?」


そう言うとスカイのエンジンを見ながら父さんが答える。


「まぁ、古いバイクだからな。マニアには人気があって、程度がいいと7万前後で取引されてるけどな。解体屋で探しても、見つかるのはクズエンジンてとこだな。手っ取り早く乗り換えちまえばいい!どうだい谷田さん?」


簡単にそう言う父さん。

まぁ下手にオーバーホールするより、正直それが一番安上がりなんだけどね。


「父さん、高校生にはそんな財力ないって!ましてや安くたって3万前後するんだよ?3万て言ったら僕ら高校生には大金だよ!そんなポンと出せるわけないだろ!」


そう言うと父さんは、隅に置いてあるバイクを指さす。


「バカだね~お前。以前お前が50ccレースで乗ってた奴があるだろ?スーパーフォア買ってから一切乗らずに放置してあるCD50S。あれを谷田さんにくれてやればいいだろ?公道走れるようにウインカーとヘッドライト着けてさ。幸いな事にパーツはここに山ほど転がってるんだから、それ位簡単だろ?スーパーカブのパーツ流用し放題だしな!」


おお!その手があった!

確かにもう乗る事はないだろう。

ミニバイクレースに参戦した時に初めて自分で組んだバイクだから勝手もわかるし。

しかも燃費もいい。多分、リッター50~60は走るはずだ。


「谷田さん!バイクあるよ!」

そう言うと、裏の隅にカバーをかけて置いてあったCD50Sを持ってくる。


キーを回し、キックでエンジンをかける。

が、しばらくエンジンかけてないせいもあり、かかりそうでかからない。


圧縮はあるから大丈夫。

「小次郎、タンクのコックをOFFにして、キャブのガソリンだけ抜いてみろ。」


僕は言われた通りにする。

「出来たら、コックをONにして、キャブにガソリンを送る。これで2~3回キックすればエンジンかかるだろう。」


コックをONにして、キック3回。

ドンピシャ!

エンジンがかかった!


「な?キャブに沈殿物が溜まってたんだよ。後はオイル交換と、プラグ、その他外装を弄ればOKだ!外装は原型留めてない位レーシーになっちまってるけど、何とかなるだろ。」


マフラーはRPM管が付いている為、若干ウルサめだけど、気持ちよくアクセルが回ってくれる。


「谷田さん!イケそうだよ!これで万事OKだね。明日・明後日でバイク整備は終わらせておくから、月曜日には手渡せると思う。ナンバーは父さんに頼んで、スカイの返納とCD50Sのナンバーもこっちでやっておくから!」


谷田さんはバイクをじっと眺めた。


「スゲーバイクだな。これで原付かよ?気に入った!で、私は幾ら払えばいいんだ。直ぐには無理だけど、バイトして月々払うって事でどうだ?」


僕と父さんは互いに顔を見合わせる。


「谷田さん、君は小次郎の友達だろ?じゃぁ、金なんていらねぇ~よ。まだ若いんだから甘えられる時にはしっかり甘えればいい。君は少しばかり早く大人になろうとしているように見えるんだ。まだ10代なんだ、そんなに生き急ぐもんじゃねぇし、もっと今を楽しみなよ。それでもどうしても納得出来ないってんなら、ここでバイトしたらいい。そうすればなんの気兼ねも遠慮もいらないだろ?」


よい父を持って僕は嬉しい。

顔は恐そうだけど、意外と優しい父。


「そうだよ谷田さん。父さんに言われなければ存在すら忘れちゃってたバイクだし、谷田さんに乗って貰えれば、コイツも嬉しいと思うよ。だから遠慮せず受け取ってよ!」


そう言うと谷田さんは僕らに深々と頭を下げた。


「ありがとうございます。この恩は一生忘れません。」


今日一日でだいぶ谷田さんの事が分かった気がする。

やはり彼女は噂の彼女じゃない。そりゃ、見た目は不良かもしれないけど、礼儀礼節しっかりとしている。


僕は谷田さんに声をかける。


「やだな~、頭なんて下げないでよ。僕らもう友達でしょ?じゃあ、遠慮は無しって事で、これからもよろしくね。」


そう言うとにっこりとする谷田さん。

その笑顔は不良とは遠くかけ離れた、とても優しい女の子の顔だった。


その後僕は谷田さんをスーパーフォアの後ろに乗せると、彼女を家まで送り届ける。

谷田さんちは秦野で、ここからバイクでならさほど遠くない。

近くには厳島湿生公園てのがあって、とても素敵な公園だった。


僕はそこで谷田さんを下ろす。


「なぁ、佐々木。アンタの携帯教えてよ。」

そう言うと僕らはお互いに携帯番号の交換をする。


確かにそうした方が色々便利だ。


「あ、谷田さん月曜日学校どうする?良ければ朝迎えに来るけど、ここに7時20分でどうかな?」

そう言うと谷田さんは申し訳なさそうな顔をする。


「これ以上お前に迷惑掛けられないよ。バイクの件だってあるしさ。」

噂に聞く谷田さんのかけらも感じない。


「そんなの気にしないでよ。確かにここからじゃバイクないと厳しそうだし、全然大丈夫だよ」

谷田さんはちょっと申し訳なさそうに、でも嬉しそうに笑った。


「佐々木、朝も思ったんだけど、お前いいやつだな。取り敢えずどうするかはメールするわ。っかよ、明日またお前んちに顔出していいか?バイク弄るんだろ?なら私も手伝いたいし、色々教えて欲しい。家の場所はわかったから、明日は適当にそっち行くわ。じゃ~な。」


そう言うと僕の答えも待たずに、谷田さんは厳島湿生公園前を下って行った。


僕はその後姿を見えなくなるまで見送ると、246を東にバイクを走らせた。



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