バイト終わりと美味しい唐揚げ
「小次郎、シャッター閉めといてくれ。」
時計を見ると、夜8時を少し回ったところだった。
佐々木輪業は閉店時間が結構アバウトで、仕事量によって閉店時間が変わったりするが、営業時間は基本的には朝9時から夜8時になっている。
「了解。」
シャッターを閉めて工具類の片付けと簡単な掃き掃除をしたら終わり。
今までだったら、この後書類やら帳簿、発注なんかもあったのだけど、谷田さんがその辺は片付けてくれたので、すんなり終わる事が出来た。
「谷田さん今日はお疲れさん。バイト初日だっていうのに、なんでもソツなくこなせてビックリした!本当に助かったよ。明日からもよろしく頼むよ。」
事務所に顔を出すと、父親が谷田さんに声を掛けていた。
「谷田さんお疲れ!仕事バッチリだったね!慣れないバイトで大変だったでしょう?明日もあるし、今日はゆっくりお風呂に入って十分に身体を休めてね。ところで谷田さん心愛見なかった?途中から姿が見えなくなったんだけど、帰ったのかな?あ、今日はもう上がっちゃってくれて大丈夫ですよ。」
いつの間にかいなくなってしまった金髪ちゃんをキョロキョロと探しつつ、僕は谷田さんに声をかけた。
「うん?心愛か…そう言えばさっきからみてないな。しっかしすげぇ久々のバイトだったから、緊張してチョット疲れたな。改めて実感したけどさ、労働するっていいもんだよな!ここんとこ学校終わってもやる事ないからさ、適当にプラっプラして時間潰してから家帰るってのが日課だったんだわ。あんま早く帰って家にいると息苦しくってさ。これからは充実した毎日が送れそうな気がするよ。改めて、これからもよろしくお願いします。んじゃ、お言葉に甘えて私ゃ先に上がるよ。佐々木、社長、お疲れでした!」
そう言うと谷田さんは荷物をまとめはじめる。
「あ、今日はもう遅いんで、江ノ島までバイクで行っちゃ駄目ですよ。」
谷田さんはニコニコしながら答える。
「ば~か、さすがに昨日の今日だぞ!しかもバイトの後だしな!行ってもせいぜい湘南平までだな。」
って今から湘南平まで行くんかい!?
「あははははっ、程々にね。」
父親と二人で谷田さんを見送った後、店の鍵を閉めて家に入る。今日はろくに昼ごはんを食べてないから、さすがにお腹が空いた。
「今日の夕飯は何かな?あ、揚げ物の匂いがするな!唐揚げかコロッケだったら嬉しいな~」
揚げ物って最高で最強だよな。
十代の男子は無性に揚げ物が好きだよな。かくゆう僕も例外ではない。揚げ物さえあれば幾らでも食べれる気さえする。
「父さんも若い頃はトンカツとか揚げ物大好きだったけどな。しかしもう若くないから最近じゃ胃がもたれる。」
そんな会話をしながら台所に入ると、見知った金髪が唐揚げを貪り食っていた。
「おぅ!コジコジお疲れ~。先に頂いてるぞ~」
待て待て待て待て!
何故にこんな所で飯食ってんの?
「ちょ、おかしくない!?なんで金髪ちゃんがウチの台所でご飯食べてるの!?いや確かに参考書取りに招いたのは僕だけどさ、夕飯にまで招いた覚えはないから!」
てっきり帰ったものだと思っていた僕は、拍子抜けを喰らっていた。
「あ、お父さん、小次郎お疲れ様。ご飯出来てるからね。あ、心愛ちゃん暇そうだったから夕飯作るの手伝って貰っちゃた。心愛ちゃんラーメン屋さんでバイトしてるって言うじゃない!美味し唐揚げの作り方教わっちゃたのよ!」
相変わらず母さんはマイペースというか、どこか天然で。
って、ちょっと待って、えー!金髪ハーフ帰国子女の心愛ちゃんが本当に料理なんて出来んの!?などと考えていたら、僕の考えを読んだらしい金髪ちゃんが自信ありげに話す。
「コジコジ、アンタの考えそうな事は大体わかる。こんな金髪女に料理なんか出来んのかよ!?ちょっと、いや、かなり顔が可愛いからって調子に乗るなよこの金髪美女!」
……。
「いや僕の考え1割位しかあってねーし!!」
自分で凄い事言ったよこの金髪ちゃん。
「えー1割かよ!って事は、あーしが可愛いって箇所しか合ってないって事か。」
ここまでプラス思考の人ってのも逆に珍しいね。
そんな事を考えながら唐揚げを1つ摘んでみた。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「って、唐揚げムッチャ旨いやん!?え?マジ?これ、金髪っちゃん作ったの!?凄いじゃん!」
外はカリッとしてて、でも中は柔らかくってジューシー。旨すぎるだろ!
「舐めんなよコジコジ!あーしはこう見えてカナダ人の父と日本人の母の間に生まれた生粋の中国人だ!そして週4でラーメン屋で死ぬ程こきつかわれてる!だから料理なんか夕飯前の昼飯後だ。因みに婆ちゃんはアイルランド人で、爺ちゃんはイタリア人でイタリアンマフィアのボスな!」
これ、どこからツコんだらいいんだ?
むしろスルーするべきかなのか?
カナダ人と日本人の間に生まれた生粋の中国人とか。
婆ちゃんがアイルランド人で、爺さんがイタリア人とかね。
「いやゴメンもう何が言いたいのかサッパリわからないし、何故に唐揚げからこんな話になった!?っか金髪ちゃん結局何人な訳!って、爺さんがイタリアンマフィアのボスとかマジ!?」
「ゴメン嘘ついた。」
「ってなんでそんな嘘ついたの金髪ちゃん!」
「いやなんとなく?」
なんとなく!?なんとなくなの!?もう意味がわからないから!
「はぁ~、取り敢えずお腹空いたからご飯食べるよ。いただきまーす。」
母さんがご飯と味噌汁をよそってくれたのでご飯を食べ始めた。
「ところでコジコジ、アッコさんは?」
僕は唐揚げを口に入れながら答える。
「谷田さんならとっくに帰ったよ。早目に家に帰るように言っといたけど、湘南平行くとか行かないとか言ってたな~。」
多分行ったんだろうな~湘南平。
「って、アッコさん帰ったの!?アッコさんもご飯食べると思ってたのに~。ちょっとコジコジなんでアッコさんご飯に誘わないのよ!っか、あーしも帰らねーと!おばさんご飯ごちそうさま!おじさん遅くまでお邪魔しました!コジコジまた明日な!」
ってこの時間に1人で帰るって危ないだろ。
「心愛、家まで送ってくよ。流石にこんな時間に女の子1人で帰す訳にはいかないし。飯終わるまでちょっと待っててよ。」
僕は一心不乱にご飯をかっこむ。
「悪ぃ~なコジコジ送って貰って。」
珍しく素直な心愛。
そう言えばウチの父さんと母さんにもしっかり挨拶出来てたな。
時々口が悪くなったりするけど、根はいい子なのかもしれない。
「気にすんな。僕らはもう友達だろ?それと今日の美味しい唐揚げのお礼だよ。」
ちょっと照れくさい事を言うと、心愛をスーパーフォアの後ろに乗せ、僕は秦野方面に走り出した。




