七ノ巻 『修羅ノ道』
~前回までのあらすじ~
雲豹の牙丸の出身であるシノビ集団『獣賀衆』の聖域、涅虎岳。里が滅びてもなお、聖域は残されていた。角丸に討ち取られかけた牙丸は衆に伝わる極意『獣変化の術』を完成させるため、山籠りを決意する。だが角丸のもたらした情報を辿り、裏刃衆過激派の刺客、修羅の九蔵がすぐそこまで迫って来ていたのであった!
崩された鳥居、壊された境内。涅虎岳を鎮めるとされてきた涅虎稲荷は今や、ただの残骸のみであった。そして賽銭箱のあった位置にて、二人の男が話し合っている。
「こんなとこにくれてやる小銭など惜しい。壊すに限る」
巨大な剣を鞘に納めつつ、逆立った赤い髪の男が呟く。上半身を暗い血の色の衣に包み、厚い胸板と割れた腹筋が覗いている。前掛け状の腰巻には『裏』と書かれていた。
「随分と、豪快なやり方が好きなんだな。俺も人のことは言えないが」
「フン、術が通用しないモノなど破壊されるためにあるようなモノよ。角丸こそ、獣賀が憎いのだろう?」
角丸と呼ばれた男は全身を白銀の装甲に包み、長い銀髪を垂らしている。夜叉を思わせる角の生えた仮面を外すと長髪と装甲は何処かへと消え、前髪に銀のウィッグを着けた青年がそこにはいた。
「憎くないと言ったら嘘になるな。では、結界の向こうへと案内しよう」
印を結ぶ角丸の後ろで、九蔵は考えていた。得体の知れぬ男だ、いくら故郷や旧友が憎かろうと、ここまでされて怒らないはずはない、なのにそれどころか自分で積極的に壊している、と。
(心が死んだということならそれまでだろう、だがオレにはイマイチ信用出来ん……コイツは鬼神斎様までも利用して何を考えている?)
翌朝。魚を釣るついでに拾った流木を丸太に置き、薪割りを振るう姿が涅虎岳の奥にあった。牙丸は金のウィッグの付いた髪から汗を垂らしつつ、スローライフへと漕ぎ出していく。振り下ろした直後、何かの影に気付いた牙丸は懐に手を入れ、動きを止める。次に物音が立ったその時、紫電爪の一撃が森に閃いた。トンッ、という音ともに木に何かが磔となる。
「うむ、ヤマドリか。コレは良い! ちょっと早いけどメシの支度とするか」
首を落とし、羽をむしり、切り分ける。慣れた手付きでヤマドリが肉に変わってゆく。この野生的な暮らしもまた修業の一環である。獣に変わる術を使う以上、ヒトもまた獣の一種であると知る、それが目的であった。
「いただきます」
串に刺さったヤマドリの肉が、囲炉裏の火で炙られ脂を垂らす。昨日釣れたナマズは、素焼きにしておいた上でタレを塗り、更に焼きを入れる。様々な野草も組み合わせ、朝の一品が出来上がった。
「我ながらいけるな……ヤマドリは塩で味付けたけどタレでもいけそうだ、また捕れたらナマズに使ったヤツで試してみるとしようか」
涅虎岳での楽しみは三度のメシ。修業とはいえ楽しいモノはやはり楽しいのである。暗鬼との戦闘と獣となっての激闘、そして角丸との激突によって疲れた心身共に今は、美味なるモノこそが必要なのだ。
「ごちそうさまでした。さて、皿と鍋をどうにかしたら、やるか」
牙丸は小屋の奥から的をいくつか取り出した。そして周りに生えている木々の枝にかけていく。そして扉の前に立つと、装甲の中から手甲のみを選んで身に付けた。携帯電話に付いたストップウォッチを、起動するや否や牙丸は駆け出した。
走る牙丸。そのまま近くの木の幹を駆け上がると、まず一つ目の標的を確認する。次の瞬間には的に、紫電爪が刺さっていた。登った木から隣の木へと牙丸が躍る。足を枝にかけ、逆さまになりつつ更なる一撃を打つ。的を確認することもなくしなやかに身を起こし、少し離れた木に垂れ下がる蔦に、向かって牙丸が跳ぶ。木に付けた的に、木から木へと移動しながら素早く正確に手裏剣を当てるのが今やっている、牙丸なりの鍛練方法である。
全ての的に当てると、牙丸はストップウォッチを止めた。
「五秒と少しか、ついに六秒切ったな。実戦が多かったからかなぁ」
的を確認して回ろうとする牙丸。だが突如、辺りが暗くなった。まだ夜明けからそう経ってはいない、どころかまだ太陽は東の空にあるはず。そう思って空を見たその瞬間、紅色の稲妻が走った。そしてそこからまるで、バケツに並々と注がれた血をブチ撒けるかのように、木々の向こうに見える空が暗い赤に染まったのである。
「何が起きた!? 結界だな、結界に誰か干渉しているな!?」
何者かが、強引に力をぶつけて結界を破ろうとしている。数百年にも渡って守られた結界を、解くことの出来る人物がいたというのか。その答えはこの直後、血を流す結界すらも砕いて突入してきたのである。
「角丸! やはりお前か!!」
「御名答、流石だ雲豹の牙丸よ!」
「結界を血の色に染めて破壊する、その名も"血界破り"……しかしこの威力はやはり、百鬼装甲によるモノか!!」
解説せねばなるまい。血界破りとは結界に相反する作用をかけることで変質させて脆くさせ、物理的手段で破壊出来るようにする獣賀忍法の術の一つである。かつては術で弱めた結界を、獣化したシノビに突入させるといった手段で使われていた。そしてこの術で変質した結界は赤く濁り、血に染まったような色に変わってしまうのである。
「やはり破壊するに限る、角丸自身が最も良く分かっていたようだな」
「修羅の九蔵! 涅虎岳に、一体何をしに来た!!」
「貴様を探しに来たのだ。案内御苦労、しかしもう少し働いてもらおうか」
「……言わずとも分かっている」
牙丸の前に、角丸が進み出た。その手に持った、蔓緑斬をギラつかせながら。
「待て角丸! ……勝負なら表に出ろ、ここは獣賀の聖域だ!」
「良いだろう。どうせお前がくたばればここは火の海さ、生きてる間くらいは茶番に付き合ってやる!」
片眉を上げてせせら笑う角丸。巻物から雷鳴牙を出し、背中にくくりつける牙丸。それぞれ得物をその手に握り締め、開けた場所に出る。きらめく川の瀬に立った直後、水しぶきを上げつつ二つの刃が激突した。
「聞け、角丸! 鬼神斎の企みを知った上で裏刃に入ったのかッ!」
「鬼神斎がどうした! 俺は俺を認める存在を求めたまでッ!」
周囲を白い水煙で包みながら、激闘を繰り広げる二人のシノビ。その様子を、九蔵は見つめていた。手に持った瓢箪を話し掛けながら。
「飢えるか? 卑蛇螺よ。もう少し待つが良い、新鮮で極上な二人の若いシノビを食わせてやるからな。さぁやりあえ、獣賀衆のシノビどもよ」
装甲を纏わぬまま、牙丸は雷鳴牙を一振り手に持ち立ち向かう。角丸もまた装甲のないシノビ装束のまま、蔓緑斬を両手で構え、周りの草まで薙ぎながら相手を狙う。
「紫電爪!」
手甲に仕込んだ十字手裏剣が風を割く。大鎌を回して弾く角丸は対抗するかのように叫ぶ。
「激流割断鎌!」
振り回した蔓緑斬が水底をえぐる。すると水で出来た刃が牙丸目掛けて地を進む。水面の流れを切り裂き、川底を割り砕きながら。咄嗟に身をかわす牙丸、石の上を滑る水の中でその身が回る。しかし通り過ぎたと思われた刃はこちらを捉え、戻ってくるではないか!
「激流割断鎌から逃れることは出来ん。二本目を抜け牙丸、そうすれば対処も出来るだろう」
「くっ、そうするしかなさそうだな!」
牙丸は角丸の言った通りにもう一振りの雷鳴牙を背中から引き抜く と刃を交差させ、角丸の放った激流割断鎌にぶつけた。相手の術の動きが止まる。バツ印を打つように二つの刃で斬り付けてやっと、牙丸を襲う水の刃は消滅した。
「もうこんなことはやめるんだ!」
そう叫んで角丸に顔を向けた牙丸。しかし!
「唐草地獄!」
角丸が蔓緑斬の柄を足元に叩き付ける。すると牙丸の足元から次々に蔦が、茨が生えて巻き付き、その場に固定してしまったではないか。
「トドメだ牙丸……!」
蔓緑斬の柄が中央で分離し、鎖鎌に変わる。分銅代わりに付いた棍棒を豪快に振り回し、迫る角丸。牙丸は覚えていた、その鎖こそがあの武器の脅威であると。体に巻き付けられ、牙丸の放つはずの電撃が吸い取られる。恐れていた事態が起きた。
「牙丸ゥ! 貴様の弱点は電撃を使いきったその時だ! 一度そうなってしまえばただのヒトと変わらんッ!」
角丸の言う通りであった。ギリギリと締め上げられる鎖。拘束された牙丸の手から、雷鳴牙が二つとも離れ、水底に刃が刺さる。だが、この攻撃をただ恐れていただけというワケではないことを、角丸は見せつけられることとなった。
「つゥゥ……のォォ……まァァ……るゥゥーーッ!! こンの、大馬鹿野郎ォォォーーーッ!!」
顔を歪ませ、歯を剥き出し振り絞るように叫ぶ牙丸。そのまま鎖を握り返したかと思いきや次の瞬間! 凄まじい衝撃が角丸の手を襲った。
「うがッ!? 何だコレは!?」
思わず蔓緑斬を落とした角丸。慌てて拾い上げるも、鎖は途中で切れてしまっておりそのまま朽ち果てる。それだけでなく、牙丸も水にわざと転がり鎖を外している。絡み付いていた蔦や茨は焼けてしまっていた。
「こ、これは……そうか牙丸、随分な手を考えたな……!!」
牙丸のしたことを解説せねばなるまい。彼は相手の鎖が自分の電気エネルギーを吸うことを知った上で、わざと大量の電気を一閃の術によって流し込んだのである。そのことにより、エネルギーを吸い切れなくなった鎖は焼け、更に角丸の手にもダメージは至ることとなった。そして水に落として急激に冷やされた鎖は脆くなり、牙丸の脱出を許したのである! このことも計算に入れ、牙丸は瀬で戦っていたのだ。
「おォのれ、おのれェェ!!」
フラフラと陸に上がり激昂する角丸。胸元からあの懐中時計を取り出した。それを見た牙丸もまた獣ノ巻を持ち、構える。
「忍法ッ!!」
両者が同時に声を放つ。
「巻変化ェーッ!!」
「鬼変化ェーッ!!」
眩い閃光が二人が包む。忍獣、百鬼、それぞれの装甲を纏ったシノビが対峙する。雷鳴牙を拾い上げる牙丸に対し、装甲の一部を折って蔓緑斬に変える角丸。ウンピョウの毛皮模様の染め抜かれた橙色のスカーフが、悪鬼が如き様相を呈する白銀の長髪が、対照的に風になびき殺気を放っている。
「雲豹の牙丸、見参ッ!!」
「夜叉の角丸、参上ッ!!」
両者ともに仮面の奥に光る山吹色の目が一層強く輝くと、二つの影が宙に舞った。
「秘剣、稲妻落としッ!!」
「秘鎌、地獄堕としッ!!」
二つの雷鳴牙の柄を合わせ、双雲雷鳴牙に変形させた牙丸。一方で角丸は鎌の柄を捻ると刃の向きが真っ直ぐの、薙刀にも似た本格的な戦闘用の大鎌へと姿を変えた。刀身を赤と青に輝かせる牙丸に対し、角丸の鎌は緑色の光に包まれる。両者とも得物を回し、二つの刃が今、激突する。交差した牙丸と角丸が着地するや否や前者は武器を高く掲げ、後者は地面に突き刺す。迸る稲妻が、燃えたぎるマグマが二つのシノビを呑み込んだ。
「どうなった?」
九蔵が覗き込む。術による余波が収まった頃、二人は地面に倒れていた。それでもまだ動きがある。先に立ったのは角丸だった。続いて牙丸が立ち上がる。握った得物を再び構えようとした、その時。
「グハァッ!!」
面頬の隙間から血を吹き出し、牙丸が倒れた。
「勝ったァァーーッ!! 思い知ったか牙丸ゥーッ! なれば獣ノ巻を今、いたァーだァーくゥゥーーッ!!」
歓喜の声とは裏腹にヨロヨロと、牙丸へと進み寄る角丸だったが、わずかに届かず彼もまた倒れ込み、装甲が剥がれ落ちる。それを見た九蔵の顔が喜びに染まる。
「ここまで楽が出来るとはな。角丸よ、今まで御苦労であった」
「な……に……」
九蔵は角丸の体を無理矢理起こすと、腰の刀を一本抜いて首に刃を当てた。角度を確認すると、片手で持ったまま思い切り振り上げる。
「さらばだ、獣賀衆ッ!!」
角丸の首目掛け、介錯の刃が迫り来る。もうダメか、そう思われた時である。
「……まだ動けたのか」
「くたばるにはまだ、早いで御座る……!」
十字に交差させた雷鳴牙の刀身が、九蔵の刀を受け止めていた。
「角丸! 早く逃げるで御座る!!」
「恩を売ったつもりか牙丸ゥ……」
「……死にたくなければ逃げるで御座る」
低く、くぐめた声で牙丸が言う。無言のまま頷くと、角丸はその場を去るのであった。
「ふん、そんな状態で逃げられるモノか。牙丸、まずは貴様からだ。今までやられた暗鬼の仇を討たせてもらおうか……そして我が切り札、卑蛇螺のエサとなるが良いッ!!」
九蔵は刀を少しだけ抜くと指に傷を付け、腰に提げた瓢箪に「融」と書き込んだ。血文字を高く掲げ、鬼神斎の片腕として仰々しく唱え始める。
「出でよ卑蛇螺ァ……出でよ卑蛇螺出でよ卑蛇螺出でよ卑蛇螺、出でよ卑蛇螺ァァーーッ!! 裏刃忍法、暗鬼融身の術ッ!!」
口元を覆う装備を開き、瓢箪の中身を口に含む。豪快に喉を鳴らし、中身を飲み干すと九蔵は瓢箪を握り潰した。
「ぐぉぉぉぉぉ……!!」
身を屈める九蔵。持っている修羅刃が次々に宙へと浮き上がる。そして恐るべき変化が彼の体に起こった。背中から大蛇を思わせるモノが次々に生えてくる。先端には鎌首ではなく、巨大な手が付いていた。そんな第三、第四の手が生えては九蔵の持つ修羅刃の一つ一つを掴む。更に九蔵の脚が鱗に覆われ、大蛇の尾に変化したかと思うと、彼の持つ一際巨大な剣と融合した。
「なんとおぞましい術……!!」
牙丸のおののく声が震えて響く。今の九蔵は先端が手となった大蛇を六つ背中から生やし、下半身は先端が大剣となった大蛇の尾と化した怪物に成り果てたのである。
「牙丸覚悟ォォーーッ!!」
早速あの巨大剣が飛んでくる。近くの木に飛び移る牙丸だったが、相手の斬撃は地面を深くえぐっており、雷鳴牙でも受けきれない威力なのは一目で分かる。
「行け、霹靂珠!」
指の間に挟む、独特な投げ方で霹靂珠を打つ牙丸。直接斬り結んでは勝ち目がない。
「無駄ァ!」
蛇の尾が珠を弾き落とす。しかし牙丸はそうくることくらいは予想済みだった。
「水辺で発揮する卑蛇螺の威力を思い知れェ!」
剣を一斉に振り上げ襲いかかる九蔵。逆手に持った雷鳴牙が次々に受け止めるも、受け切れなかった一撃が装甲を削る。火花を散らす牙丸。アマゾン河流域に住むアナコンダはその重い体を支えるために水中で生活するが、同じように九蔵の持つ大蛇の体も浮力を使うことでその巨体をモノともしない素早さを発揮することが出来るのだ。
「どうした牙丸ゥ! 恐れを為して逃げ出すかァーッ!」
距離を置かなければ刃の餌食となる、しかし離れようにも相手の動きは非常に速く、尾に付いた大剣が逃げようとした箇所すらもえぐり取る。更に角丸との戦闘で大幅にエネルギーを消費した牙丸は、うかつに術を使うことも出来なかった。
「まずは火焔掌の分だ牙丸!」
炎を纏った刃が四つ、牙丸に飛ぶ。九蔵の持つ刀の動きに合わせ、炎の刃が襲いかかる。牙丸も刀で迎え撃つ。一つ、二つ、逆手の刃が打ち返す。三つ目を受け止めたその直後、彼の背中の装甲が、焼けた。
「次は影瞑裏の分だァ!」
九蔵に今ある八つの手の内、刀を飛ばした四つの手が同時に掌を牙丸に向けた。ガバァッとその掌が開くと、大量の粘液が牙丸に降りかかる。その場からバック転しつつかわすものの、液体のかかった位置から煙が上がり、水面には半分ほど骨になった魚が次々に浮かぶ。
「消化液……!」
離れてもなお続く猛攻。だが牙丸にはまだ勝算があった。相手の大剣が一旦、水に浸ったことを確認すると、瀬から陸に上がるや否や指鳴らす。その瞬間、凄まじい音が辺りに響いたのだった。
「ぐぉあッ!? 図ったな牙丸……!!」
先程、牙丸が打った霹靂殊を九蔵は弾き落としていた。しかし水中へである。自然界の水は純水であることはまずなく、更に尾に付いた剣が水中に沈んでいる。電気を通すにはうってつけの状態だった。
「拙者を食わせるのは諦めるで御座る。今のお主はこのままでは感電死、早く暗鬼から離れるで御座る!!」
「ふざけるなァァーーッ!! アァァァ……ア……ァ……」
川の中でのたうつ九蔵。しかし徐々に声が小さくなってゆく。電撃が止んだ頃には、巨大な大蛇の体を横に川から陸へ倒れ込んでいた。牙丸は雷鳴牙を背中に納めると、九蔵の様子を見るべく川原に倒れた人間体に近付き様子を見る。
「まだ息はあるで御座る!」
「当たり……前だ……意識も……あるぞ……!!」
刀で斬り付けようとする九蔵。しかし素早く後ろに下がった牙丸には届かない。
「この様子ではもうシノビとしてはやっていけないで御座る。観念して、イチからやり直すで御座る」
「ふざけるな……勝者の余裕か……?」
「ふざけては御座らん!」
「貴様には分かるまい……術の使えぬヤツらに混じって暮らし過ぎたな……貴様はシノビの恥さら……ウッ!?」
何かを言いかけた九蔵。しかし突如口から大量の血を吐き出したではないか。
「ど、どうしたで御座る!?」
「ひ、ひ、卑蛇螺……お前、まさか……!?」
卑蛇螺と九蔵が融合しているまさにその場所に、歯が生えている。九蔵の体にしっかりと突き刺さった、歯が生えている!
「九蔵ッ!?」
ズルズルと、九蔵の体が暗鬼に呑み込まれていく。這い出そうにも、卑蛇螺の歯はしっかりと食い込み離さない。
「掴まれ、九蔵ッ!!」
手を伸ばす九蔵、しかし手遅れであった。首に歯が刺さり、大量の吐血と共に九蔵は、卑蛇螺の体内へと消えていったのである。
「恐れていたことが起きて御座る……禁忌の末路……」
九蔵のいた箇所に、巨大な蛇の顔が現れる。刀を握る手となっていた箇所も、次々に刃を角とした蛇の顔に変わる。恐るべき暗鬼、卑蛇螺の真の姿がそこにあった。牙丸をその金色の目に映し、尾に付いた大剣の刃を向ける。
「次の獲物は拙者で御座るな……行くぞ、暴走暗鬼!」
仮面のシノビ、雲豹の牙丸に襲いかかる九蔵の切り札、卑蛇螺。自らの主すら食らい、暴走を始めたこの暗鬼を果たして止めることは出来るのか。いかに立ち回るか牙丸。
次回『極意ノ術』 お楽しみに