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牙丸伝  作者: DIVER_RYU
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五ノ巻 『夜叉ノ面』

~前回までのあらすじ~

獣賀の里を焼き滅ぼした鬼神斎は、その生き残りである仮面のシノビである雲豹の牙丸を狙い、その素顔を割るべく自らの娘である羅刹のお妖、そして謎に包まれた銀髪の仮面のシノビを差し向けた。マンションを特定し、他の住人ごと巻き込んで襲撃をかけたお妖と九蔵。だがその時一人の住人が立ち上がり、裏刃衆過激派の魔の手を退けたのだった。顔が割れる、という代償を払って……。

 朝が来た。アスファルトに刻み込まれた傷跡が、昨晩の激闘を物語っている。


「そうか、辞めるのか……」

「はい。田舎に帰ることになりました」


 工場では、ショウがマサルに辞表を提出していた。敵方に顔が割れた以上、今勤めている工場にも被害が及ぶ可能性がある。


「実はね、高砂君。今日付けで新たに入って来た人がいるんだけどね、どうも君と同じとこの出身で同い年なのだそうでね」

「縄張の出身、ですか」

「そう、縄張市だ」


 ショウは慣れていた。彼の自称する縄張出身というプロフィールは当然ながら嘘であり、本来の故郷である獣賀の里はもうこの世にはない。そのため縄張出身者として紹介された人の中に、誰一人知り合いがいなかったのだ。


「失礼しまーす」

「どうぞ」


 扉が開く。新品の作業着を着た、ショウよりも少し背の高い男が入って来た。緊張した面持ちで声を出す。


「今日から御世話になります、矢車鎌吾やぐるま けんごです。よろしくお願いしますッ!」

「よろしくお願いしまーす」


 矢車鎌吾、以降ケンゴの顔を見たショウはハッとした。何と初めて、見覚えのある人物が現れたのだから。それも、死んだと思っていた存在が。


「矢車さん……だっけ、ちょいと良いかな」


 休憩時間、トイレに並びながらショウは思いきって聞いてみた。当然、周りに人がいないことを確認しながら。


「まさかだ、まさかだとは思うんだけどね……角丸だろ?」

「その言葉を待っていたぜ、牙丸!!」


 ショウの顔が歓喜に染まる。涙まで浮かべながら、ショウは繰り返し尋ねた。


「角丸なんだよな、本物なんだよな!? 夢じゃねぇよな、現実なんだよなッ!?」

「現実だよ牙丸、俺は生きてここにいるんだ、アンタを探してね!」

「良かった……生き残りはいたんだ……親父と御袋は目の前でやられた、姉ちゃんは鬼神斎の手に落ちて生きてるのか死んでるのかも分からねぇ、そのまま角丸も……と思っていたんだよ。良かった……本当に、良かった……!!」

「良いからズボン履けよ牙丸。こっちは新聞に君の装甲が写ってるのを見た時、まさかと思って来てみたのさ」


 その日の帰り、二人はショウの、いや牙丸の部屋にいた。懐かしい里の頃の話を、彼らは語り続けた。角丸は里を焼かれたその時、焼け出されたその場で群影に刺されたが幸いにも急所を外していたのだという。そこからなんとか這いつくばって炎から逃れ、麓の山小屋で鹿を撃つ猟師に拾われたというのだ。


「皮肉なモンだよなぁ。この角丸が、角生えた獣を捕ってる猟師に助けられたんだぜ?」

「縄張出身を名乗ったのは、やはり裏刃衆過激派の目を避けるためかい?」

「それもあるけどね、猟師の家がたまたまが縄張市の側だったのさ。だからそのまま縄張の出身と名乗ることにしたってワケ」


 獣賀衆の隠れ里は、獣賀市と縄張市の境にある。角丸は生死の境をさまよいながら、縄張市に着いたのだろう。そう考えると牙丸は辛くなった。自分は五体満足だったにも関わらず、姉をたすけるどころかただ逃げるしかなかったのだから。


「姉ちゃん、生きてるかなぁ」

「きっと、きっと大丈夫さ。鬼神斎のことだ、数少ない手がかりをみすみす消すようなマネはしないだろうて」

「だと良いが……俺はヤツらに顔が割れてしまった、だから近いうちにここを去る」

「去るったって、一体何処に行くって言うんだ?」

「裏刃だ、裏刃市に行く」


 角丸は目を丸くした。それでも牙丸は話を続ける。


「裏刃に行き、里を探す。相手は裏刃の過激派だ。裏刃だって放っておくワケにはいかないだろう。もし隠れ里の協力が得られればこれ以上心強いことはない」

「確証はあるのかい?」

「ない。だが現段階で考えられる最善策はコレだ……やれやれ、もうこんか時間か」


 牙丸が時計を指す。その針は、夜の10時を指していた。角丸も懐中時計を開いて中を見る。


「……確かに、もう行かないとな」

「なぁんか凝った造りの持ってるねぇ……」

「嗚呼、これ?」


 角丸の時計は蓋にレリーフが彫り込めれていた。何かの顔を模したモノらしい。白銀の地に、緑の縁取りと線が入り組んでいる。


「これね、俺を拾った人が作ったんだよ、鹿撃ちの副業でね。ではそろそろ俺はおいとまするよ、久々に楽しかったぜ!」

「よし、じゃあ明日からがんばれよー!」


 その晩のことである。裏刃衆過激派のアジトにて、九蔵は鬼神斎を待っていた。お妖は牙丸の霹靂珠によって負傷し、暗鬼を呼ぶ鏡も修理中である。


「待たせたな」


 錫杖を思わせる三叉の矛をシャランと言わせ、鬼神斎は姿を現した。


「今日呼び出したのは他でもない、かねてより別行動をとってもらっていた我が同志と会わせようと思うてな」

「同志、ですか?」

「そうだ、牙丸を特定した男よ。お妖が回復するまではその者と共にかかれ。入るが良い」


 九蔵の背後から、白銀の装甲をまとった大柄の男が姿を現した。夜叉を思わせる仮面を被り、長い銀髪とこれまた長いコート状の裾を少し手でよけつつ男はひざまづく。


「紹介しよう、この者は……」


 三週間が経った。牙丸は辞めることを決意したその日から、今住んでいる場所から出る準備をしていた。部屋を片付けることはもちろんだが、獣道を張り巡らしておくことも忘れない。食料、路銀、その他諸々、角丸の助けもあってか順調に準備の進む牙丸であったが、彼はあることを怪しんでいた。


(おかしい、あの日から急にヤツらの動きがなくなった。まさか何処かで監視してるんじゃあるまいな)


 辞表を出してから一ヶ月で牙丸は今の工場を辞める。マンションからも出て、ただ一人で生きていくこととなる。最後の一週間で有給休暇を消化することにし、牙丸は旅の支度に追い込みをかけた。そして出発する二日前、片付いた部屋の中で、牙丸は角丸、リョウ、ユウを招いて宴会をしていた。


「これがショウの、初日にもらった酒かァ!」

「へへっ、旨いでしょ?」

「あの工場に勤めて得するのはこういうとこだよなぁ、酒作ってるんだもんなぁ」

「僕もそろそろ、甘酒ばっかじゃなくてそっちを呑みたいよ」

「大人になる楽しみはとっておくモノだぜ、リョウ!」


 こんな時間もあと少しで終わりを告げる。へへへ、と笑いつつも牙丸の心の中は寂しかった。やっと会えた竹馬の友もここに置いて、出て行かなければならないのだから。


「そろそろ時間、だね」


 角丸が懐中時計を見ながら呟く。


「それじゃ、今日は早めにこの辺りで。明日工場に来たら終わりかぁ」


 殺風景になった部屋。一人佇む牙丸。宴会の名残の入ったゴミ袋が近くに寄り添うが、ただただ寂しさを強調するだけであった。本格的な孤独が訪れることを、彼に告げるように。


「センチメンタルになってる場合じゃねぇや」


 翌朝。オートバイに跨がり牙丸は工場に向かっていた。工場で退職手続きをとった翌日に、彼はこのバイクで町を去る。だが工場で彼を待っていたのは思いもかけぬ客であった。


「おはようござ……あぁッ!?」

「ショ、ショウ!? 早く逃げろ!!」


 荒らされた事務室。ザックリと刻まれた壁。角に追い詰められた仕事仲間達。そして彼らに向かって刃を向ける男。炎の如く逆立った髪、左右に両耳の位置に埋め込まれた顔、背中に大小様々な九つの刀剣を差すその姿。牙丸には見覚えがあった。いや、忘れるはずもなかった。


「牙丸、この顔を知らぬとは言わさぬぞ」

「……誰だ?」


 敢えてすっとぼける牙丸。だが彼には分かっていた。目の前にいるのは他でもない、修羅の九蔵である。今一番、会いたくない相手である。


「ふざけるな牙丸ゥ! この者達がどうなっても良いのかァ!!」

「俺は高砂丞だ、牙丸などと言う名前ではない」

「なれば、これでどうかな?」


 九蔵は迷わずにある男を掴むと引っ張り上げ、その喉元に刃を突き付けた。


「角丸ッ!! ……ハッ」


 思わず叫んでしまった名前。捕まった男、ケンゴの本名が角丸であることを知っているのはただ一人、同じ獸賀の牙丸しかいない。


「工場に迷惑をかけまいとこの町を去るつもりだったようだがそうはいかぬ。貴様は我々から逃れることは出来ぬのだ。さァ来い!」


 角丸を掴んだまま、九蔵は割れた床から地面へと姿を消す。


「角丸ゥゥーッ!! ……今行くぞッ!!」


 牙丸もまた地面へと飛び込んだ。その様子を見ていた、マサルはこう呟いたのだった。


「だから彼は、ここを辞めて旅に出るのか……」


 九蔵を追って外に向かう牙丸。土煙と共に地表に飛び出した彼の姿は既に、あの装甲に包まれていた。工場からいくらか離れた採石場に、九蔵は立っていた。だが肝心な、角丸の姿がない。牙丸の仮面の奥にある目が鋭く光ると、少しこもった声が怒りを放った。


「雲豹の牙丸見参! 修羅の九蔵、角丸は何処で御座る!?」

「クックックッ……」

「……何がおかしいで御座る」

「クカカカカカカカッ! 後ろを見るが良い!!」


 牙丸が背後を振り返ったその瞬間、地中から飛び出た影が牙丸の装甲に斬り付けた! キズこそ付かずともよろける牙丸、しかし彼の心は大きく揺さぶられることとなった。今自分を飛び越え、九蔵の傍らに立っている男。九蔵に刀を返しているその顔はまさに


「角丸……? 一体どういうことで御座る……!?」

「牙丸、一ヶ月もの茶番に付き合ってもらって感謝するぜ。そちらさんは未だに俺のことを友達だと思っていたんだな」


 角丸の服装は、牙丸のそれと同じシノビ装束に変わっている。


「お主……何者で御座る」

「俺はずっと牙丸のこと憎んでいた……。俺よりもうんと強い獣の因子を持っていたお前は生まれた時点で俺より身分が上だった。例えいくら剣の腕を上げても、どれだけ骨法を鍛えてもッ! にも関わらず、お前は里の外にその力を及ぼすことを良しとはしなかった……!」

「当たり前で御座る、何故シノビの秘伝を里の外で振りかざす必要があるので御座るか!」

「里の中であぐらをかけるお前とは違うんだよ! 同じ年齢の俺は常に、里の中ではお前と比較され続けた、生まれつきの要素だけで! だが里の外では違う、我々の力に民衆は畏れおののき膝まづくのだ!!」

「……角丸、これは悪夢で御座ろうか?」

「フン、どうやら口で言うだけでは分からないらしいな……」


 角丸は首にかかった懐中時計を取り出すと鎖を引き抜いた。すると鎖はから閃光が走り、全身を覆う装甲へと変わってゆく。アバラ骨を思わせる鎧、巨大な角の生えた肩当て、ロングコートを思わせる上着がシノビ装束を一瞬にして包む。牙丸は驚いた、まさかコイツが。


「俺は獣賀にして裏刃、裏刃にして獣賀のシノビ……忍法鬼変化!!」


 掛け声と共に時計の顔のレリーフを全面突き出した角丸。すると顔は半分に割れて右側が彼の顔の右半分を、左側が残りを夜叉の意匠で覆い尽くす。最後に歯のような部位がシャッターのように閉じて口を塞ぎ仮面が完成すると、その奥に牙丸と同じ山吹色の目が光り、額の割れ目にも同じ輝きが灯る。最後に背中にまで届く銀髪が、ファサッと仮面の背後から伸びた。その姿を見た、牙丸の仮面の下の顔が驚愕に染まる。


「夜叉の角丸、参上!」

「その姿、あの時の……!!」


 獣道に入ろうとした牙丸の妨害に現れたあの男が、目の前にいた。同時にその男が角丸であったという事実に、牙丸は戦慄した。そして何より。


「嘘だ……嘘だと言うで御座る!」

「話し合いは終わりだァ……蔓緑斬ばんりょくざん!」


 現実を受けきれていない牙丸を前にして、角丸は胸当からアバラ骨を思わせる部位を二つ折り外し、先端を合わせると巨大な鎌に変形させた。折った箇所は同時に再生する。


「その装甲、獣賀の技術だけではないで御座るな?」

「この百鬼装甲は裏刃衆の技術を組み合わせたモノ、生きた暗鬼そのものでもあァァる、貴様に勝ち目は、なァァい!」


 角丸の振るう大鎌が牙丸に迫る。受け止める雷鳴牙、しかし蔓緑斬の柄は中心が分離、棍棒状の部分が牙丸を撃ち据え、柄同士を繋げる鎖が二つの刀に絡み付く。


「押すことも引くことも、ア、出来んぞォォォォーーーッ!!」

「一閃の術! ……何ッ!?」


 刀から陰陽それぞれの電撃を放ち炸裂させようとした牙丸。だが火花すら起こる気配がない。


「無駄ァァーッ! この鎖は貴様の持つ電撃を吸収するゥ、そして牙丸貴様の弱点は……その電力を使い切ることだァァーーッ!! 獣の血を、強く持って生まれたことを呪うが良いィィーーーーッ!!」


 武器を絡み取るだけではない。このまま刀を持ち続けてはみるみるうちに電気エネルギーを消耗する。角丸の言った通り、押すことも、引くことも出来なかった。


「仕方あるまい!!」


 牙丸は雷鳴牙を投げた。そして徒手空拳のまま構えをとる。角丸は絡め取った敵の刀を地面に刺して鎖を持ち、分銅代わりの棍棒を振り回しつつ睨みを利かせる。


「諦めろ牙丸ゥ! 大人しく巻物を渡しやがァァァれィ!!」

「角丸、この巻物を渡して何になると言うで御座るか?」

「知れたこと、我がモノとするためよォォォ!!」

「気が触れたか角丸! 獣賀の掟を忘れたかッ!!」

「二つの巻を持ってはならない……であろォォゥ!!」

「その装甲を纏ったということは、巻物かそれに匹敵する力をその身に宿したこととなるで御座る! それて更に異なる力を加えようモノならどうなるか、それこそ掟にあるように身を滅ぼすことになるで御座る!!」

「牙丸、この装甲は単体では意味を持たん……獣ノ巻を合わせて初めて、貴様と同じ『獣変化の術』が、使えるようになァァァるのだァァァ!!」

「鬼神斎に騙されているで御座る!?」


 飛んで来た棍棒をかわし、懐に飛び込む牙丸。胸当の中心目掛け、掌打を叩き込む。体勢崩れる角丸に、今度は鋭い前蹴りが刺さる。掌同士を打ち付け、バチバチと間にプラズマをたぎらせ、牙丸の両手が電撃を纏う。


「獣賀骨法、陰陽電撃打ち!」


 陰と陽、表裏一体の電撃に覆われた手刀が、挟むようにして頭部を狙う。手刀と同時に炸裂する稲妻、しかし角丸の額が光ったその瞬間。


鬼針眼光弾きしんがんこうだん!」


 至近距離で放たれる光の針。あの時牙丸に打ち込まれたのと同じ技である。畳針ほどの長さの光弾が、次々と忍獣装甲に突き刺さる。マシンガンの如き連続射撃が牙丸を力業で吹き飛ばした。角丸は更に追撃し、鎖を格納し素早く大鎌に戻し、棍棒部分で撃ち据える。地面に叩き付けられる牙丸だが、至近距離で紫電爪を打つ。百鬼装甲から火花が散った。


「グァッ!? やりおるなァァ!!」


 振り下ろされる蔓緑斬。地に刺さる刃。だが今度は二重の刃が角丸を襲った。


「紫電霹靂斬ッ!!」


 二重の刃を持った手裏剣が、回転しながらガリガリと角丸の鎧を削っていく。傷付けたそばから電撃が走り、角丸が押されていく。その隙を見て、牙丸は雷鳴牙を拾い上げた。


「目を覚ませ角丸!」

「黙れ黙れィ! 貴様はこの俺を、力でねじ伏せぬと気が済まぬかッ! 生まれた時には持っていた、その力でェェ!!」

「角丸ッ!! ヤツは、鬼神斎は里を燃やした張本人で御座る!!」

「ブァァァカァァァめェェーーッ!! 獣賀の里を焼き払うのに、まさか獣賀の協力があったとは気付けぬかァッ!!」

「何だと!?」


 鎌と刀が、激しくぶつかり合う。その度に弾け飛ぶ火花の中で、二人は問い叫ぶ。


「獣賀の里に入るにはァァーーッ!! 獣道を通れる者が必要だッ!! 貴様も知っておろォォーーッ!!」

「だから何で御座る!! 自分が獣道を開いて、鬼神斎を案内したとでも言うで御座るかッ!!」

「その、通ォォォーーーりィィィーーーッ!!」

「何故だ角丸ッ!! お前の両親まで、あの日炎の中に消えたので御座るぞッ!!」


 牙丸は信じられなかった。しかし分かっていたのだ。里に入るには複雑に張り巡らされた獣道を通らねばならず、獣賀者でなければ辿り着くことぎ出来ない。そして獣賀の生き残りと思っていた存在はこそが、里を滅ぼす要因を作った内通者だったのだ。その現実を振り払うように、牙丸は怒りの牙を叩き付けていた。


「同じ里の人間を! よく見知った顔達を! 幼い子供も年寄りも! 俺の両親を! 挙げ句の果てには自分自身の実の親までもッ!! 自分のやったことが分かってるのかァーッ!!」

「刀は抜き払わなければ朽ち果てるのみィィ! 着いた錆は落とさねばならんのだァァーーッ!!」


 かつての同郷の友は今、敵同士となっていた。角丸の嫉妬が為せる業か、鬼神斎の悪知恵か。ぶつかり合うのは獣賀のシノビ達。そしてこの場の御膳立てをした九蔵はいつの間にか姿を消すと、鬼神斎と共にその様子を巨大な鏡に映して眺めていた。


「結構な眺めよのぉ。あとはどちらが勝ったとしても我々の得」

「どちらかが傷付きどちらかが倒れる……流石は鬼神斎様」

「角丸が倒れても弱った牙丸を捕らえるのみ、牙丸が倒れたなら角丸は我々に引き入れよ」

「鬼神斎様ッ!?」

「事実上二つの巻を手に入るのだ、さぞ強力な獣となるだろうのぉ……そうすれば、我が切り札に……! そうだ、九蔵よ」


 仮面のシノビがぶつかり合う。仕組まれた戦いと知ってか知らずか、二つの影は白昼に舞う。角丸の放つ鎖が牙丸を捕らえた。牙丸の持つ電気エネルギーが奪われる。だが角丸の頭にも何かが巻き付いた。放電絹の変形した縄が縛り付けられたのである。


「んぐぐぐぐ……」

「ッがァァッ……」


 一進一退。互いに譲らぬ勝負。牙丸と角丸の体力な果たしてどちらが先に地に伏すか、それは次の巻にて語られるのであるッ!


~次回予告~

仮面のシノビ、雲豹の牙丸の前に現れたもう一人の仮面のシノビ、夜叉の角丸。激闘の末、獣賀の聖地に向かう牙丸を待つ試練とは。獣賀忍法の極意、獣変化とは何か。

次回『涅虎ノ岳』 お楽しみに

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