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牙丸伝  作者: DIVER_RYU
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二十ノ巻『裏刃ノ城』

~前回までのあらすじ~


仮面のシノビ、雲豹の牙丸は故郷を焼き滅ぼした仇敵、鬼神斎の本拠地の麓に到着した。決着を付けんと斬り込む牙丸であったが、姉だと思われた羅刹のお妖との戦闘が待っていた。悲しき姉弟対決、だがお妖は姉の体を利用しているだけであったと知った牙丸は、怒りの獣変化でこの外道を討ち取り、見事姉の救出に成功したのであった。

 傾斜の付いた独特の廊下が続く。現実世界の忍者屋敷にもある、侵入者の感覚を惑わす仕掛けである。所々に置かれた人形が、目の前を通る者に目を光らせる。この現代にそびえ建つ牙城に挑む影がただ一人、罠と死が手ぐすね引いて待ち受ける魔窟を攻略せんと駆け抜ける。影の名は牙丸、シノビ衣装に身を包んだ、復讐の獣である。


 牙丸がいきなり刀を抜き、刃をふるう。すると壁から刃が飛び出した。仕掛けられていたのは槍、その起動のカギを握るのは今斬った、ごく細い糸である。これに直接触れていれば、自分が串刺しになっていただろう。そして追い打ちをかけるように群影達、その槍を持って壁から現れる。牙丸は刀を構えたまま間合いをとった。槍を持つ群影は二体、伏兵による二段構えの仕掛けである。突き出された槍を掴み返し、穂先を斬る。間合いを詰めて蹴り飛ばすと、落ちた穂先を拾ってもう一人に投げ打つ。仮面の中心に命中し、消滅する個体を見届けつつもう一体を斬り落とす。真っ二つになった仮面が落ちた。


 更に進むと、牙丸は突如後ろに飛び退いた。すると何と鎖で繋がれた分厚い刃が落ちてくる。ギロチンに使われるような刃物が天井に仕掛けられているためである。落下する音を、シノビならではの並々ならぬ感覚で探り当てたためだ。彼が探り当てたシノビ達が使う通路であっても、念入りな罠が仕掛けてあるのは分かっていた。


 三方を壁に塞がれる。行き止まりだろうか。すると壁の一部がスライドし、筒が現れる。放たれるのは瘴気、まさに罠であった。引き返そうとする牙丸、しかし後方をシャッター状の戸がつかさず塞ぐ。辺りが瘴気で包まれ、視界が消える。やがて瘴気が収まり、逃げ道を塞いだ戸と、三方のうち一方の壁が反転して群影達が現れる。牙丸の死を確認しに来たのだ。彼らの視線の先にあったのは、牙丸の着ていたモノと背負っていた刀が刺さっているのみであった。落ちた衣服を掴み、中身を確認する。更に刀も引き抜いて様子を見始めた。侵入者の消滅、その事実を確認すると、群影達は遺物を手にその場を去ろうとした。その刀に映り込む姿に、気が付かぬまま。


 反転する壁を抜けて、刀を持った群影が中に入ったその瞬間、その首筋に鋭い一撃が走る。崩れる群影から刀を奪うその姿は、まさにさっき消滅したはずの牙丸だった。何のためらいもなく先程倒した群影の後頭部に刀を刺し、刃先を捻る。二つに割れた仮面を残して群影が消えた。そして残りの群影に狙いを定める。牙丸のシノビ衣装を投げ捨て、まず一体が刃を向けた。手に持った刀で群影の手甲刀を叩き折ると、手首を返し素早く仮面をえぐる。また一体、群影が消滅した。衣装を拾いつつ、もう一体の群影を見る。彼は逃げ出そうとしていた。どうやら、こちらは侵入者の一報を伝える気だったらしい。牙丸は、ヒトであれば延髄の辺りを狙って刀を向け、素早く投げた。首から生えた刃に驚く群影、仮面を割られぬ限り彼らは消滅することはない。


「待ちな。俺を、今行こうとしたとこへ案内しろ。さもねェと……」


 牙丸が追いつき、刀の柄を握るとグイィと回して傷口を広げつつ刃を上に向ける。本体である仮面を傷付けられなくとも痛覚はあるため、群影の体はビクッと震えた。


「この刃が少しずつ上に進んでいくぜ、こんな風になァ?」


 少しだけ手を引くと刺し込まれた刃が仮面に向かってずるりと動いた。硬直する群影。しきの一件で、群影にも感情があり死の恐怖を感じることを知りつつもなお冷徹さの消えぬ牙丸ならではの方法であった。


「分かったな」


 必死でうなずく群影。すると眉一つ動かさずに牙丸が続ける。


「それで良い。しかしその前に、ふんどしから手ェ放せ、今すぐにだ」



 シノビ衣装を着直した牙丸は、刀に文字通り釘付けにした群影を使い、城の内部を案内させた。あの反転する壁を越えた先には、明かりらしい明かりがない。牙丸は首に巻いたスカーフ、放電絹に意識を集中させた。余剰な電気を空気中に逃がしつつ、レーダー代わりに使うことで目を閉じていても周りを探ることが可能なのだ。


(おかしい、罠らしい反応がまるでねぇぞ。群影の足取りも至って普通、真っすぐだ。何かを避ける感じがまるでねぇ)


 首をひねりながらも、牙丸はその刀を持つ手から力を抜くことがなかった。すると群影の歩みが突如止まる。そして壁に向かって手を伸ばし始めた。放電絹から放つ電気の心眼も、すぐ目の前に壁があることを示している。


「ここか? 開けてみろ」


 ガラリ、という音と共に光が差す。引き戸の向こうに見えた光景が徐々に牙丸の眼に映り込む。ガラスと思しき、筒状のケースがいくつも並んでいる。中にゆらゆら浮かんでいる物体は、人体に見えて顔と髪、性器が見当たらなくところどころが継ぎ接ぎとなっている。群影に前を歩かせつつ牙丸は周りを見る。


「何だこれは……何かの実験体か?」


 一言呟いたその時であった。


「ようこそ、獣賀の牙丸よ。私はお前が来るのを待っていたのだ」


 あの低音が響き渡る。イヤでも忘れることの出来ない、あの憎くも恐ろしい声が部屋に反響する!


「……出てこい! 鬼神斎!!」


 その声に応えるかのように、見覚えのある腕が飛んでくる。鎖で繋がれたそれは牙丸が捕らえていた群影の仮面を何のためらいもなく掴み、握りつぶした。牙丸の刀から肉の感触が消える。そして腕の戻った先がスポットライトで照らされ、あの影が浮かぶのであった。


「遅かったな、牙丸よ」

「鬼神斎! よくも姉ちゃんにあんなことを!!」

「そちらこそ、よくも我が娘を……」


 刀を構える牙丸に、鬼神斎が続ける。


「待て。楽しみは後にとっておくが良い。それよりもどうだ、私の研究室は。素晴らしかろう?」

「建物探訪じゃねェんだぞ。……ふん、敢えて言うならセンスを疑うなァ」

「所詮、獣にはこの価値など分からぬか、まぁ良い。ここからあの仙鬼が再現出来るのだ」

「再現してどうするつもりだ。あのおぞましい伝承をよォ!」

「この仙鬼はかつて鬼が死体に憑依することによって形を成していたモノなのはお前も知ってる所だろう。だが知っておるか牙丸よ。その過程でヒトを蘇らせることがあったということをな」

「蘇っただと! ヒトがヒトを食うバケモンになっただけじゃねぇか!! そいつァ蘇ったんじゃねぇ、鬼にとって代わられただけだァ!! ヒトの皮被っただけのバケモンを、お前はヒトだと断言するかッ!!」

「だが現に! 私の娘であるお妖は蘇った。最も今はその小さな命を、ここに繋ぎ止めておるがな!!」


 鬼神斎は仮面についた白い顔を指さしながら、いつになく激情を浮かべて叫んだ。


「嗚呼可愛そうにお妖、早く新しい体を用意してやるからな。……牙丸、私にとってヒトは所詮資源に過ぎぬ。貴様とて同様だ、しかし優れたシノビでもある。その仇討ちに凝り固まった脳味噌さえ取り除けばな」

「バラそうってのかァ? それともここの置物にするってかァ!?」

「我らシノビが裏からこの世を支配する。それが私の悲願だ。そうすれば娘のための器も選び放題、暮らしに事欠くこともない。お前もシノビであろう、賛同しない理由はないはずだ」

「配下に加えたいと……俺のこともバケモンにする気だな!!」

「流石、察しが良いな」


 懐から蝋燭を取り出す鬼神斎。その蝋燭には『鬼雲笠きうんがさ』と書かれていた。


「仲間となってもらう前に、私の娘をバケモノ呼ばわりした報いを受けてもらおう」


 鬼神斎の仮面にある白い顔から黒い炎が吹き出て蝋燭を灯す。すると牙丸の目前の床が開き、グイッと棺が立ち上がる。


「行け、鬼雲笠。仙鬼でも最も優れし力を以て、牙丸を仕留めよ」

「待ちやがれ鬼神斎ッ!!」


 黒い炎を巻き上げ姿を消す鬼神斎。そして棺から低く唸るような声が響く。


「牙丸……仕留める……」


 バラバラに切り裂かれる棺から、渡世人を思わせる姿の仙鬼が姿を現す。笠と合羽に蜘蛛の巣模様、合羽の赤い裏地には黒い雲、笠から覗く顔は半分はヒトを思わせる顔で楊枝のようなモノをくわえ、もう半分は大きく見開いた目の他に点々と小さな目が三つ続き、口には蜘蛛を思わせる巨大な牙が飛び出ている。棺をこれで切ったのであろうか、刀をこれ見よがしに鞘に納めている。


「裏刃衆仙鬼が一人、鬼雲笠。参ぇりやす」

「悪いな、俺はアンタと戦うよりやらねばならんことがある!!」


 牙丸はこの仙鬼を置いて、鬼神斎を追った。だが


「忍法、自在糸!」


 その手から放たれ、あちこちに張り巡らされる蜘蛛の糸。牙丸の行く手を尽く阻み、進むことはおろか退くことすら許さない。


「鬼神斎様を追うならば、まずはこの鬼雲笠をやってからにしておくんなせぇ」

「そうか。なら仕方ねェ。後悔するなよ……!!」


 予備動作もなしに、牙丸は斬りかかる。目にもとまらぬ抜刀で斬撃を受ける鬼雲笠の五つの眼と、牙丸の獣の眼が睨み合う。片や主を守るため、もう片や一族の仇を討つため、決して譲ることの出来ぬ戦いが今、始まったのである。


「流石はあっしの仲間達を殺しに殺し続けただけはありやすな」

「怖けりゃ逃げても良いんだぞ?」

「ふっ、怖いと思ってるのはそちらさんでありやしょう。鬼神斎様を斬るために、今は出来るだけ体力をとっておきたいんじゃねぇんですかい?」


 いつになく、仙鬼の言葉に余裕がある。肝が据わっているのか、それとも牙丸の内心の焦りを見透かしているためか。


「じゃ、たった今からでも逃げてみろォ!!」


 牙丸はもう片方の手で第二の刃を振り下ろす。先程の抜刀と比べても比べモノにならぬ速さで一撃を放った。しかし今度は何と、笠だけを残して鬼雲笠の姿がない。逃げたのか、いや違う。シノビであれば分かるのだ、姿を消してもなお漂う殺気というモノが。


「紫電爪!!」


 手甲から飛ぶ、電気を帯びた手裏剣。牙丸は斜め後ろの方向にこの飛び道具を突如として放った。キン、という音を残し叩き落される紫電爪、ターゲットはなんと天井に逆さに立ってこちらを見据えている。


「あっしの足は壁も天井も、今なら空中でも思いのままなので御座いやす」


 室内には糸がすでに張り巡らされている。この糸すらも足場に、鬼雲笠は一瞬で姿を消したのだ。


「まさに蜘蛛の巣にかけたというワケか……」

「覚悟、お決めになりやしたかぃ?」

「死ぬ覚悟か? それとも斬る覚悟か? 生きてここを出られるのはどっちかだけだ。行くぜ鬼雲笠、忍法巻変化!!」


 巻き上がる筆文字と共に、一瞬のうちに装甲を纏った牙丸が真っすぐに飛び掛かる。ギラつく山吹色の眼が敵を捉えて斬りかかる。抜刀する鬼雲笠、だが牙丸が狙ったのはその足場であった。そのまま斬り抜け壁を足場に、今度は相手の背後を狙う。バランスを崩した今なら次の瞬間真っ二つだろう。しかし彼はまだこの仙鬼の真の恐ろしさを知らなかった。


「覚悟!!」


 二本とも刀を抜き斬りかかる牙丸、背後からの二段攻撃は容易にはかわせない。だが、鬼雲笠は、バランスを崩して落下しながらも、なんと牙丸を見据えている。そして次の瞬間であった。


「ぐっ!?」


 撃ち落とされたのは牙丸だった。その右腕には、先程まで鬼雲笠がくわえていた楊枝のような何かが生えていた。手甲すらも貫通して、深々と刺さっている。一方の鬼雲笠、なんと手から糸を放ち悠々と床に降り立った。足場を斬られた程度では揺らぎもしなかったのだ。


「勝った、そう思った瞬間こそスキが生まれるので御座いやす」

「全くその通りで御座ったな……!!」


 楊枝状のモノを何とか引き抜いた牙丸。しかしその間にも相手は攻撃を仕掛けてこない。口に新しい楊枝をくわえて不気味な静寂をまとったまま、それでも目を離していない。落とした刀を拾い上げようとした、まさにその時だった。


「ところで、拾ったところでそのヒカリモノ、振るえるんですかい?」

「何だと?」


 構えをとろうとしたその時、刀はゴロンと地面に落ちた。何と、手に力が入らない。


「お主、一体何をした……?」

「今の楊枝には、あっしの毒液が仕込んでありまして御座いやす。刺さればたちまちその場所から順に痺れ、やがて全身が動かなくなった暁には溶けて骨と化しやす」

「死の宣告御苦労、だが心配御無用!!」


 牙丸の面頬が変形する。獣変化に使う時の形態だ。だがくわえたのは巻物ではない。先程落とした刀をなんと口で拾い、そのまま肉食獣のように突っ込んだ。やはりあの目にも止まらぬ抜刀が来る、獣の刃は受け止められた。だが鬼雲笠は防げなかった、この牙丸が本当に当てたかった一撃を。確かに斬撃は受け止められた、だが同時に突っ込んでくる頭突きまでは、刃では防げない!!


「ぐほおっ!?」


 口から落ちる楊枝。その落ちる速さよりも早く、懐をとった牙丸はすぐさま相手の首を狙った。一瞬の攻防、最強の仙鬼に恥じぬ反応速度で首への狙いに気付く鬼雲笠、鞘を持っていた手をすぐさま首にまで回した、しかしそこに刺し込まれたのは、何と自らの毒! 牙丸はこの一瞬の首を狙う動作で、楊枝を拾って刺し込んだのだ!!


「これでおあいこで御座るな、先に溶けるのはどちらで御座るか!!」

「味なマネをなさりやすな……」


 動かない手をダラリと下げながら鬼雲笠は呟いた。


「しかし溶けちまうのはそちらさん一人になりやすよ」


 鬼雲笠は距離をとると刀を床に刺し、懐から小さな瓢箪を取り出すとグイッと飲み干した。するとたちまち痺れた手が動き始める。


「そこに隠して御座るな!!」

「今のを見ちまったところで、間に合いやすかねェ!!」


 早速治った手を牙丸に向けて糸を放つ。粘着力で口にくわえた刀を捕らえた。取り上げるつもりだろう。だが牙丸には、もう一振りの刀がある。そして、技がある!!


「慟哭絶叫剣!!」


 左手で抜いた刃を、口にくわえた刀に合わせた。通常腕から放つ陽の電気をなんと顔から出し、無理矢理力を宿らせた刀にもう一振りの力をぶつける。陰と陽、二つの力がいまぶつかり、刃同士を擦り合わせて鳴り響く轟音と衝撃波が放たれ、渾身の一撃が今、爆発する!!


「んなァッ!?」


 笠と合羽でとっさに防ぐ鬼雲笠。波が過ぎ去り笠をずらすと、何と張り巡らせた糸は尽く焼き切られていた。これでは空中を歩く妙技が披露出来ない。しかしもっと重大な問題が彼の眼前で起きていた。


「もらったで御座る」

「何、今の一撃で……!?」


 牙丸の手にはあの瓢箪、外した面頬の下に流し込んだ解毒剤、再び動きを取り戻した右手。慟哭絶叫剣による衝撃波が鬼雲笠の放った糸を通じて本体を直撃、糸を焼き切るだけでなく懐から解毒剤を躍り出させたのだ。そのため、立ち直ろうとした鬼雲笠はその場でよろけ始め、両手で構えた刀を杖代わりに床に突き立てる。


「直撃しても立っていられるとは流石で御座るな」

「あっしを本気にさせやしたな……!!」


 鬼雲笠の姿が消える。刃を受け止めて初めてその姿が映る。手負いの獣が二つ、ぶつかりあって火花を散らす。鬼雲笠の基本は抜刀術であるが、斬り付けて弾かれてもなおその身のこなしで背後や首を狙い刃を振るって来る。反応速度どころではない、速度と付くモノは全て常人を超えている。シノビであっても対応出来る者は少ないだろう、微弱な電気による生体レーダー、牙丸を除いては!!


「御命頂戴!!」


 背後に飛び込み、刃を抜き払いその脊髄を切断せんと鬼雲笠が宙を舞う。だが牙丸は、腰にくくり付けてあった獣ノ巻を手に取ると、鬼雲笠に向けて開き、叫んだ。


「行けッ! 玄青王!!」

「何ィィーッ!?」


 巻物から字が躍り、形を成した牙丸の愛機が姿を現し、鬼雲笠に突撃する。至近距離で放たれる、刀では防げぬまさかの一撃。鬼雲笠の刀は腕ごと吹き飛ばされ、笠は破られ、肩をタイヤによってえぐられた鬼雲笠は背後にあった水槽に叩きつけられた。その間に牙丸は獣ノ巻を腰に戻すと二本の刀、雷鳴牙の柄同士を合わせていた。


「双雲雷鳴牙!!」


 二つの刃を持つ長巻状の得物となった雷鳴牙、牙丸の力によって刃には赤と青それぞれの色が光っている。


「往生せぇや牙丸ゥゥーッ!!」


 左手で刀を拾い、破れかぶれに突進する鬼雲笠。その体をついに、牙丸の持つ刃が貫く。


「必殺!!」


 斬撃と共に刃が引き抜かれると、そのまま立て続けに二発、三発と刻まれる鬼雲笠。


「秘剣、稲妻落としッ!!」


 そして牙丸が得物を高く掲げると、強烈な稲妻が敵の体を撃ち抜いた。風穴の空いた鬼雲笠の体だが、その足は未だにしかと床を踏みしめる。


「か……完敗で、御座ぇやす……風過ぎて……雲と散りゆく……我が命……霧と消えるか……光となるか!!」


 辞世の句を残し、鬼雲笠の体は立ったまま爆発して砕け散った。同時に背後の水槽が壊れ、中にあった仙鬼の素体が溶解する。その様子を見ながら、牙丸は装甲を外す。


「儚い命だな、仙鬼というモノも……」


 液体を手ですくい、牙丸は匂いを確かめる。思い付く限りでも五種類の薬草を彼の鼻は嗅ぎ取った。いずれも生命力を維持し、強めるモノばかり。この薬草によって、生前優れたヒトの持っていた優れた部位を繋ぎ合わせ、この妙薬に漬け込むことで融合させつつ細胞レベルでの生命活動を維持させていたのだ。しかしこの肉体だけでは薬品の外では維持が出来ない。ここにもう一押し加えることで、あの仙鬼が出来上がる。


(仮初の肉体に、鬼の因子を宿す。本来鬼はヒトに取りつき食らう異形の存在、それを生物に植え付け改造し、使役出来るようにしたのが暗鬼であった。そして仙鬼は元々ヒトが鬼と化したモノ、それを暗鬼を通してヒトに移すことで使役出来るようにするというのが鬼神斎の研究であったか。そのためには多くのヒトの死体と、エサとなるヒトが必要となる。鬼神斎は裏から世界を支配するのが目的だと話したが、その心は今ある人間社会を人間牧場とすることであったか)


 手ですくった液体をこぼすと、グッと握り締めて牙丸は決意した。 


「それだけは絶対にさせやしねぇ。二度とこんなふざけた研究などさせてたまるか。そして俺の復讐が多くの人命を救うってならまさに願ったり叶ったりだ。鬼神斎、首を洗って待っておれ!!」


~次回予告~

鬼神斎を追って裏刃の城を攻略する牙丸であったが、その行く手に現れたのはなんと……!!

次回『宿敵ノ貌』 お楽しみに

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