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牙丸伝  作者: DIVER_RYU
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二ノ巻 『仮面ノ忍』

~前回までのあらすじ~

獣賀の里を焼き滅ぼした鬼神斎。その率いる裏刃衆が、ある工場の近辺にてヒトを襲う。地中より迫る灼熱の魔の手が迫るその時、「雲豹の牙丸」と名乗る仮面のシノビが町に現れた!

 ヒトの手の形をした怪物。掴んだ相手を炎に包む高熱の、まさに魔の手が工事現場の作業員、そして彼を助けようとしたユウに迫る。更に追い打ちをかけるかのように行く手を塞ぐ黒ずくめの異形の者達。だがそこに割って入ったのは、自らを「雲豹の牙丸」と名乗る仮面のシノビなのであった。


 牙丸は名乗るや否やその場で跳び上がり、目の前の異形に飛び掛かる。飛び付いた敵を蹴り上げ更に違う個体へ飛び掛かる。蹴り飛ばされた者が異形の手に触れると、たちまち体中が炎に包まれ、消えた。こうして異形の者達を足掛かりにユウ達へ近付くと二人をまとめて腕で抱えてコンビニの屋根へと目を向けると、さながら木の枝に跳び移るウンピョウのようにヒュウン、とひとっ跳びで上がった。まさに超人的な跳躍力。二人を屋根に降ろすと、ベルトの両側にある箱から特殊な珠を複数取り出すと指の又に挟み、その場から跳躍すると同時に体を捻って舞い降りた。するとどうだろう、まるで彼の月面宙返りに見とれるかのように、黒ずくめ達の動きが止まったのである。いや、見とれていたどころではない。体のあちこちに、先程の珠が打ち込まれ、まるで突き刺さったかのようにめり込んでいたのだ。中には仮面に穴を穿ちはまり込んだモノまである。着地したその場で指をパチッと鳴らしたその直後、雷の響く音と同時に異形達の体を電撃が襲った。電撃の余波はあの異形の手にも及び、何処かへと姿を消していく。


 敵がいなくなったのを確認すると、牙丸は屋根から二人を降ろした。


「あ、ありがとうござ、ざ、ざざ」


 ユウは礼を述べながらも、その場に倒れ込んだ。


「リョウ、ユーさんを見つけた、でもなんか様子がおかしいぞ!」


 ショウからそのような電話があったのは、仮面のシノビが去った直後のことである。


「ユーさんともう一人がなんか気を失ってる、コンビニの店員さんが救急車呼んでくれたけど……ユーさんの部屋の鍵を持っていくから一緒に来てくれ」


 翌日、ユウは工場を欠勤した。そうせざるを得なかった。


「特に命に関わるような状態ではない様子なんですけどね、どうも気掛かりなのです」


 工場の朝のミーティングの際に、ショウとリョウは話していた。


「あの南雲さんまでがねぇ……」


 工場長はそう言うと、新聞を取り出した。『号外』と書かれている。


「景山工場長、それって昨日の……」

「そうだ。恐らく南雲さんもこいつに巻き込まれたんだろう。しかし道路工事の作業員が、一人を残して消し炭に変わるなんてな……」


 工場長、景山将かげやま まさるはそう呟いた。


「単なる事故とは思えないが……とにもかくにも皆さん事故にはくれぐれも気を付けて下さい、作業中に危険なことがあればすぐに報告すること、良いですね?」

「はい!」


 その日の作業が終わると、リョウとショウ、そしてマサルの三人でユウの担ぎ込まれた病院へ向かった。


「仮面の、シノビ?」


「そう、アレは確かにシノビだった……シノビというにはちょっと派手だったんだが」

「そのシノビってのはコイツかい?」


 マサルは新聞の号外と、テレビの映像を見せた。コンビニの防犯カメラに写っていたとされるモノがそこにはある。


「んや、確かにコイツいたよ、それもたくさん。でもオレを助けたのはもっと派手なヤツで……この黒ずくめはむしろ襲いかかって来て……」

「もっと派手なヤツ……コレには載ってないな。しかしこの黒ずくめの格好のシノビって何処かで読んだことがあるぞ? ……そうだ、『裏刃忍術伝』の群影だ」

「群影? あの裏刃のシノビが、お面投げたらニュッと姿の出るヤツですかね。でも実在するんですか?」


 裏刃衆。この世界においては獣賀衆と並び有名なシノビ集団である。こちらは『影に刃を隠し、自在に操り葬り去る』と謳われる。ゲーム等では自らが獣に変わる獣賀衆に対し、何かを呼び出し使役する能力を使うシノビとして描かれることが多いのである。


「ってことは、裏刃衆のシノビが実在して、この近辺で暴れてるってことですか?」

「断言は出来ない。それにシノビと決まったワケじゃないだろう、第一とても信じがたい。更に言うなら裏刃衆の伝承が比喩ではなくそのまんまだとしたら、御隠みかくしの妖術とか機騨きだの絡繰はどうなる」

「うーん……やっぱり話が膨らんだようにしか見えないですよね」


 この世界のシノビの流派は主に獣賀、裏刃、御隠、機騨の四つがゲームやアニメ、ドラマ等で取り上げられる。マサル達がシノビの話題で盛り上がりかけたその時、ユウの様子がおかしくなり始めた。


「あと、手ェ! でっかい手、アレは何だったんだ!?」

「手だって?」


 見舞いに来た三人は自分の手を見た後、今度は互いの手を見合わせた。


「地面から手が生えてきて、触ったモノを燃やしちまうんだ!」

「触ったモノを? 燃やす!?」

「もう一人病院に担ぎ込まれたけど、その人は片足なくした上に残った方まで大火傷を負っている、一体なんだったアレは……ああああああ」


「すまない、トラウマだったか」


 超常的とも言える存在に突如出くわし、しかもそれが人に害を為す。そんな現象に出くわし恐慌状態にまで陥ったユウは未だに恐怖に怯えていた。


「……そうだ、ユーさんこちらを」


 リョウはカバンから携帯ゲーム機を取り出し、テーブルに置いた。


「ああ、ありがとう……」

「ゲーム機で正気が戻る辺りは流石としか言えないね……」

「それで癒えるなら良いだろう、退院したら一本持っていくからしっかりな。では高砂さん、錦田くん、そろそろ」


 マサルは二人をマンションの前で降ろした。ショウもリョウもユウと同じマンションで暮らしている。そしてマサルは工場に戻っていく。工場が実家と隣接しているためである。彼は父親から工場を継いで五年が経つ。


「それにしても仮面のシノビねぇ、大層なモノが現れる世の中だよ全く」


 そして彼にはもうすぐ、第一子が生まれようとしている。幸せの絶頂にあろうとしていた、そんな時に近所で怪事件である。そして彼は知らなかった。今、アスファルトの下から迫る存在が、自分の後をつけているということを。


 マンションを離れて二番目の信号を過ぎた辺りのことである。不意にガタガタと車の様子がおかしくなりだした。不審に思い、車から降りて見てみると、なんとアスファルトにヒビが入り溶けている。


「何だコレ?」


 その台詞を放った次の瞬間、道路の下から、車を何かが貫いた。そしてたちまち炎が車を包む。


「ひ、ひいいいい!?」


 腰を抜かし、後ずさりするマサル。車を貫いた何かは、その身を折り曲げ、車をグシャリと潰しながら焼き焦がす。その姿は、まさに


「こ、コイツがユウを襲った……」


 あの時の、巨大な異形の手であった。その指先の目を開き、手はマサルを捉えると地面からその身を起こし全身を現した。手首の部分からは細く尖っており、サソリの尾のように曲げている。先端には骨の手が生えてた。


「逃げろォォッ!!」


 恐怖に固まる身を起こし、目の前の脅威に背を向け、一心不乱に走り出すマサル。だがその行く手をやはり塞ぐべく、あの黒ずくめが現れた。


「裏刃の、群影か!?」


 囲まれた。前門の狼後門の虎、ならぬ前方の群影後方の魔の手。マサルは、彼の継いだ工場の未来はここで途絶えてしまうのか。絶体絶命、まさにその時、目の前の群影の仮面が真っ二つに割れたのである!


「今度は何だ? コレは……手裏剣!?」


 群影達のいるド真ん中に、道路を割いて土煙と共に一つの影が躍り出る。砕けたアスファルトの破片に群影達が戸惑う中、背中に刀を二つ背負った、噂に聞くあの姿が立っていた。


「仮面の……シノビ!?」

「雲豹の牙丸、見参!!」


 名乗りを上げると、牙丸は早速目の前にいる群影の顔面に掴みかかり、近くにいたもう一体の群影に投げ付ける。そして背中の刀を一本引き抜くと、マサルを庇うようにして群影達の前に立ち塞がった。


「助けて、くれるのか!?」

「……拙者が引き付ける間に、この場から早く離れるで御座る」

「分かった!」


 マサルはすぐさまその場を後にした。しかし物影で携帯電話を取り出すと、素早く牙丸と群影達、そして巨大な手の姿を撮影する。


「何をして御座るか! その場から早く逃げるで御座る!!」


 そう言われて逃げ出そうとするマサル、しかし彼の足が動かない。群影の手が掴んでいたのだ。


「くそ、離せッ!」


 陰から伸びた群影の手を踏み付けるマサルだったが、手は離れる気配がない。それどころか相手は物陰から左側と額にある赤い目を不気味に光らせズルズルと引っ張り込もうとする。


「世話が焼けるで御座る……紫電爪しでんそう!」


 牙丸は手甲の内側から十字型の物体を取り出し、マサルを捕まえている手の主を目掛けて打った。この紫電爪は、牙丸が回転させて投げることにより帯電し、刃が飛び出ることにより、電撃をまとった十字手裏剣へと変化する。紫電爪が命中し、群影はマサルから手を離しながら消滅した。


「さて、これで思う存分やれるで御座るなぁ……参る!」 


 残りの群影が斬りかかる。牙丸はもう一本の刀をも引き抜いた。


「一気に片付けるで御座る、雷鳴牙らいめいが!」


 雷鳴牙と呼ばれたこの刀を両手で同時に引き絞ると、途端にバチバチと稲妻が散り始める。右の刀には陽、左には陰の電気エネルギーが走り、それぞれが赤と青の色を帯びた光をその刀身に宿した。この刃で群影を斬り付けるとその場から火花が走り、その身が四散する。牙丸は群影達から間合いをとると、雷鳴牙を交差させ、構えた。


「必殺、慟哭絶叫剣どうこくぜっきょうけん!!」


 解説せねばなるまい。慟哭絶叫剣とは雷鳴牙の刃を交差させ、思いきり擦り合わせることにより刀に宿った陰と陽二つのエネルギーをぶつけ、爆音と共に衝撃波を周囲に放つ必殺剣である。この強烈な一撃により、残る相手は巨大な手、ただ一体となった。


 牙丸は刀を二本とも背中に納めると、ベルトの両側にある箱から複数の珠を取り出した。一方の相手は指を地面に立て、蜘蛛のように這い寄ろうとする。


霹靂珠へきれきしゅ!」


 この霹靂珠と呼ばれた珠状の武器には電気エネルギーが込められている。牙丸はこのビー玉程の大きさの珠を相手の足元ならぬ指先に向かって投げ打った。すると辺りに放射された電撃が巨大な手を襲う。


「直接斬りかかるのは無謀、ならば……」


 牙丸は霹靂珠を一個取り出すと、左右の手甲から紫電爪をそれぞれ用意してもなかのように挟み、ずらすと刃が展開した。二重の刃を持った手裏剣が彼の手の間に浮き、出来上がると高速で回転を始める。


「必殺、紫電霹靂斬しでんへきれきざん!」


 またも解説せねばなるまい。紫電霹靂斬は紫電爪二つと霹靂珠一つを組み合わせて出来る必殺武器である。通常の紫電爪の二倍の殺傷力に加え、霹靂珠の三倍に増幅された威力を帯電させられるのだ。


 「こ」の字を描くような形で両手を構え、掌の間には小さな稲妻までもが迸り、紫電霹靂斬が独楽のように回っている。狙うは相手の掌の目、バラ撒いた霹靂珠が放電し切って相手が体勢を立て直し、こちらに掴みかかろうとしたその瞬間。右の掌を払うように突き出して、牙丸は渾身の一擲を打ち込んだ。その斬撃は掌の目を突き抜ける。すると牙丸は指二本を立てた手を何かを掻き込むような動きを見せる。それに応えるように紫電霹靂斬は軌道を変えてブーメランのように戻り、相手の指を跳ね飛ばすと更に手首から伸びる尾までも斬り裂き、追い打ちとばかりに溢れ出た電撃が裂いた体を駆逐した。高熱を放っていた巨大な魔の手は最早原型すらも留めず、その場で高熱の体液を吹き出しつつ爆発し、辺りを炎に包みつつその中に沈んでゆく。役目を終えた二重の刃は、牙丸の足元に刺さると回転を終え、砕け散ったのだった。


「ほう……それでお主の新たに育てていた暗鬼あんきは破られた、と」

「左様で御座います、鬼神斎様」


 蝋燭一つに照らされた暗い環境の中、二人の男が話している。一人は鬼神斎、五年前に獣賀の里を焼いた張本人である。


「修羅の九蔵きゅうぞうよ、そのシノビに見覚えはあったか?」

「いえ全く。ただ、雲豹の牙丸、と名乗っておりました」

「牙丸だと!?」


 鬼神斎の目が輝いた。


「でかしたぞ九蔵」

「はい……? 何故で、御座いましょうか」

「そヤツこそ私の探していた、獣賀衆の生き残り! 良いか、なんとしてでも牙丸の持つ獣ノ巻を奪い取れ、殺しても構わぬ」

「ハッ!」


 修羅の九蔵は答えた。そして腰に下げた瓢箪を持ち、中身を口に含むと思い切り吹き付ける。するとその液体の中から、アンテナ状の角を生やした奇妙な人型の異形の存在が姿を現す。その体は全身が平たい紐状の物体が巻き付き覆っていた。


「暗鬼、影瞑裏かげつぶりよ。雲豹の牙丸と名乗る仮面のシノビを見つけて巻物を奪え、そしてヤツに討たれた汝が弟、火焔掌かえんじょうの仇を討つのだ」

「御意!」


 朝日が昇る。牙丸の活躍もあり、マサルは無事に明日を迎えることが出来た。しかし彼の中ではまだ、あの明々と燃え上がる自分の車がこびりついている。警察には届けた。自らの撮った写真と共に。


「……ということが昨日ありました」


 工場での働き手達が一斉にざわつく。連日で二件も怪事件が起きたため、無理もないだろう。しかも今回は工場長が襲われたのだ。


「しかしその仮面のシノビとは一体……」

「工場長の写真見て改めて思いましたけど、派手でしたね~」

「うーん、果たして彼は味方と認識して間違いないのか?」

「そして味方だとしたら何故異形の存在と戦ってるのか……」

「更に言うなら、怪物のことを何か知ってるのもそのシノビ……あれ、何の何丸だっけ?」

「えーと確か何て行ってたっけ、クロヒョウの牙丸?」

「ウンピョウでしょ。ほら、絶滅危惧種の」


 雲豹の牙丸。獣賀の生き残りである彼は果たして何処から来て何処へ去るのか、そして何のために戦うのか。まだ、誰も知らない。そして工場の勤める者達は誰も知らなかった、この近辺にまた新たな、裏刃の刺客による脅威が迫っているということを……。


「てなワケで、多分この時間のニュースで今頃報じられているはず……」


 マサルがテレビを点けた、途端に衝撃の一言が工場内を凍り付かせた。


『臨時ニュースを御送りします。たった今、神恵かみえ県警手助署が、何者かに襲撃されました』


 画面が切り替わる。中は散々に荒らされており、警察官の衣服が5着、まるで倒れているかのような形で散乱している。多助署はこの工場から車で10分ほどの場所にある警察署であり、全く以て無縁ではない。


「……ひでぇ」


 不意にライトの光が件の警官服に当たると、ヌメヌメと妙な輝きを放った。


「まさか、な……」


 そして壁に光が当たったその時、先程と同じヌメりが、くっきりと文字になって映し出された。


『雲豹ノ牙丸二 告グ。獣ノ巻ヲ 持ツテ 鬼神斎様二 投降セヨ。実現スル ソノ日 マデ、一日ニ 五人ノ 人間ヲ 溶カシ 食ラフ。影瞑裏』


 壁に書かれていたとされる文字をボードに書き、アナウンサーが読み上げた。


「牙丸への、挑戦状?」


 リョウが言う。


「おそらく……ところで、所々にある人名みたいなのは何て読めば良いんだでしょう? アナウンサーも困惑してましたけど」

「うーん、『おにがみさい』に『えいめいり』?」

「……とにかく皆さん、とりあえずしばらくは一人で帰らないように、良いですね?」


 ヒトを襲い、溶かし食らう新たな裏刃の暗鬼、影瞑裏。この脅威に、雲豹の牙丸は果たしていかに立ち向かうのか。裏刃衆の狙う、牙丸の巻物とは一体何なのか。物語は今、影に紛れて動き出したのである。


仮面のシノビ、雲豹の牙丸に迫る、次なる刺客は影瞑裏。シノビ装束から覗く不気味な口から、ヌメヌメとした消化液が滴り落ちる。牙丸はいかにして立ち向かうのか。

次回『異形ノ影』 お楽しみに

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