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月残る朝と夕焼けを思う。  作者: nekogaspotting
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i bet on future?4

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地下から出てきた後もしばらく笑っている僕を見て、なんか待ち合わせから変だなあって思ってたのよ、あんた、キメてるんでしょ、いいなあ、あたしにも巻いてきてくれたんでしょ?とダイアナは僕のポケットに手を突っ込む、よせよ、煙草は捨てちゃったよ、と言うとがっかりした顔を浮かべながら、暑いなあ、ねえ、暑くない?と額に吹き出た汗を吹き、周りを眺め回す。


地上から抜け出た先はビルが並び、窓ガラスが太陽を反射させている。目の前の道路では絶え間なく車が往来している。行き交う車のボディはビルから反射する光を映し、ぎらぎらとアピールしているかのようだ。


「なあに、ここ、しけてるわねえ」


「ここはリーマン街なのさ、今は昼時だろう?ちょうどみんな昼御飯をお買い終わって、あのビルというビルのなかで、食事中なんだよ」


「じゃあさあ、さっきまでは弁当売ってる人たちがいたり、あのコンビニに並んでたりしてたの?」


「そうだよ、この辺にはコンビニなんてそこのくらいしかないから、並びまくってるのさ」


実際、僕とダイアナの目につくコンビニの他には、一キロちかく歩かないとコンビニは見つからない。


目につく建物はコンビニと喫茶店、その上の階に営業している焼肉屋、喫茶店の隣に建つ煙草屋くらいだ。その煙草屋の前で僕はダイアナに山崎という男を紹介する予定でいるのだが、山崎はまだ来ていないらしい。


なんだ、まだ来てないんじゃない。

ダイアナは目の前の道路に煙草を投げ捨てる、煙草は車のボディに当たり、地面に落ちてから行き交う車の流れにされるがままにされていった。


僕とダイアナは煙草を買ってから、喫茶店で時間を潰すことにした。


僕が煙草屋に入ると、店番の老婆がおや、久しぶりじゃない、と手をふり、ガラムを取り出している、僕は軽く挨拶をして、冷やされている缶コーヒーを取りだし、レジに置くと老婆は、プラスこいつだろ?とガラムのバーコードをスキャンする、わかってるね、と僕が微笑むと、後ろからダイアナがブラックデビル追加、と言った。


あらあら、どうする兄ちゃん?


老婆は訪ねながらもブラックデビルを取り出している、僕は仕方ないな、と言ってから一緒に買ってやる。


老婆とダイアナは太っ腹と声を合わせ笑った。


喫茶店に入り、適度に冷やされた店内を案内される、客はほとんどいない。

BGMにはストレイ・キャッツが選ばれている。


わずかにいる喫茶店のなかの客は財政や、今後の自分達、子供たちのことを話している。


僕は窓から外を見ている。

ビルから一人の掃除婦が出てきて、箒を掃いている。そのたびに砂が舞い上がっている。

一段落ついたようで、背伸びをしてから、掃除婦はビルのなかへと戻っていった。


誰かが汚して、誰かはきれいにする。


僕は窓から覗く風景のすべてが僕とは無関係なのではないかと、喫茶店から出ていく客や、歩道にわずかに取り残された自転車、鼻腔をくすぐる淡い夏の匂い、そういったものを眺めている。


ねえ、これから会う山崎ってさあ、格好いいんでしょう?


ダイアナはジンジャーエールを飲み干して、ブラックデビルに火をつけて僕に尋ねる。


ああ、男前さ。なんせ俺の後輩なんだ。


僕はダイアナの目を見て、真顔で言い切る。


あんたの後輩じゃあ、不安ねえ。


ダイアナは苦笑している、ブラックデビルはブスブスと燃えながら、煙を出している。


それから僕たちは灰皿を一杯にするまで煙草を吸ったり世間話をしていたが、山崎の来ることはなかった。


ダイアナ、連絡来てないのか?と聞くと、なんにも、と天井を仰ぎ、煙草の煙を吐き出している。


しかたない奴だな、照れ屋なんだよ。俺からきつく言っとくよ。


いいわよ、これからあたしはリーマンでも引っ掻けて終電まで遊んでるわ。


ダイアナは会計よろしくねと席を立ち上がり、迷うことなく、駅とは間反対に歩いていった。


僕は携帯を開く、山崎から連絡が着ている。

僕はそれを見ることなく、携帯をしまう。


泥のような泡を浮かべたカフェラテを飲みながら、きれいな人に会いたくなった。


月夜に映えるきれいな人、きれいな人のために作られたかのような公園、大きな木の下の池、そのなかで気持ち良さそうに泳ぐ鯉や、泣き出したくなるような坂道。


それらを長い夜がやってくる前に、その前に胸にしまっておきたいと思った。


たとえ、会えなくてもかまわない、僕はリリィから逃げて、静かな夜に抱かれていたいだけなのだから。

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