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好きと言えるその日まで  作者: 桜倉ちひろ
ズルい思考と欲と
7/19

 尚人先輩は、よく分かんない人だ。

 あんまり押しかけちゃ悪いと思ってメールをしないでいると『病気かと思うだろうが!』って怒りの電話がかかってくる。だからってメールしたってそっけない。

 『ふーん』『そう』『良かったな』の3つの相槌で、大体終わらされてしまう。

 ハートマークは禁止って言われて、絵文字も極力減らした。友達に覗かれたときに目立つから恥ずかしいんだって。だからそれなら送りませんって言ってるのに。

 でも送るなって言われるよりは嬉しくて……結局一日1通は送っちゃうんだけど。

 広い広い校舎内で会うことはなかなかなくて。それでも今日の出来事と併せて『おやすみなさい』ってメールすると、おやすみって返ってくる。

 ねぇ、少しは好きになってくれたのかな? なんて、自惚れですよね、はい。

 明日は会えたりしないのかな……って祈りながら、瞼を閉じる。

 私はただの後輩で。尚人先輩は、ただの学校の先輩ってだけで。それ以上のつながりはない、この不自然な関係に名前がつかなくて。不安な思いは募りながらも、私は今日も先輩の少しの時間を――メールを見るたった一瞬の時間を独占したくて、今日もメールを送信する。



 *


 強引かと思えばものすごく謙虚な奴で、勝手に俺のテリトリーにスルリと入り込んできた葛西。だけどこれ以上、この距離を縮めることも遠ざけることも嫌で今の距離をセーブしている。

 アイツは馬鹿だから……いや、俺に気を遣ってるんだろうが。あれからは好きだとかなんだとか、俺が困るようなことは一つも言わない。馴れ馴れしく体に触れるようなこともしない。

 隣を歩いていても、明らかに10センチは距離を保って歩く。時々一生懸命小石を蹴ってる姿が笑えて、横で笑ってやるといつも恥ずかしそうに笑っている。だけど止めないアイツが面白い。

 面白いと思うけど、それが好きと言う感情に繋がるのかと言えばYESとは言い難い。可愛くないと言えば嘘になる。気にならないと言えば、答えはNOだ。

 けれど手を伸ばしそうになって、寸でのところで手の平が拳を握る。

 意地を張ってるわけじゃない。ただ、どのタイミングでそうすればいいのか見えなくて……差し出した手を掴んでもらえなかったらと思うと不安だ。もしかして、もう俺への興味なんてないんじゃないかと思えて仕方なくて、気持ちの定まらないまま笑う葛西の顔を潰したくないと思う。

 おやすみと共に送られてくる葛西の日常を綴ったメールに安堵しながら、ただおやすみとだけ送って携帯を閉じた。

 メールだけは送れと言いながら、俺からは大した返事もしない。けれど、これだけは止めて欲しくなくてつまらない独占欲が顔を出す。これはただの先輩として、許される独占欲の範囲なんだろうか……

 今日もモヤモヤしながら、俺は瞼を閉じた。


 *

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