歴史
この物語は、架空の日本が舞台です。
突如襲来したヴァンパイアという未知の存在による影響で変化する人間達。
様々な歴史・文化が時代錯誤・和洋折衷で展開されます。
どうぞ皆様、お暇がありましたら、
ご覧になって下さい。
歴史~
この国は『西洋』における同族間の終わりなき闘いに嫌気がさした『ヴァンパイア達』が到達した未開の地だった。
そこは、小国ながらも自然に恵まれ、水も澄んでいる素晴らしい環境の島国であった。
ヴァンパイア達は、この国を新たな移住の地と決めたのだ。
無論、そこには先住民達も存在し、特有の文化も存在したため、当初は激しく衝突した。
『先住民』約三千万人に対して、
『ヴァンパイア』は、男女合わせて100人にも満たなかったが…『力量』・『技量』・『知能』の差は、歴然であった。
長引くと思われた闘いは、『互いに戦死者も出さず』一月もしない内に完全にヴァンパイア達の手中に落ちた。
※ヴァンパイアは『全語声紋』という能力で
全ての民族の言葉を理解し、会話する事が可能。
先住民達は、ヴァンパイアの『摩訶不思議な力』と
『圧倒的な生命力』を恐れ、敬い、
『西方より来たれし神者』とし崇め、毎年『貢物』を贈るようになるのだった。
※ヴァンパイアは、血を吸いますが、血を吸わなくても生きていけます(力も別段落ちるという事もありません)。
『貢物』とは、『生け贄』ではなく田畑で獲れた
作物等の事です。
ヴァンパイア達もそんな先住民達の振舞いを快く思い、西洋独自の技術を教え、『隣国の脅威』から
守ると約束した。
『国家』と言うには程遠いが、
『力関係』がはっきりしていると国というのは
『表面上』では安定してしまう。
頂天にはヴァンパイアという未知の力を持つ抑止力が鎮座しているため人々は、
分相応の暮らしをし、決められた仕事をこなし、
運命られた役目を全うして死んでいく。
そんな日々が数百年程続いた…
※この頃の人間の寿命は約60年
(因みに、ヴァンパイアにも寿命はあり、
『200年』生きると死ぬ)
この頃から、ヴァンパイア達も『この国の名前』を名乗るようになる。
その名を『天紅義』と名乗り、
全て1つの一族となるのだった。
ヴァンパイア達は戦力を均等に分断し、
国の東西南北に散らばっていた。
(国外敵勢力を水際で潰すため)
この国は、天紅義家の天下だった…
国内の反乱も無く…
起きた所で、直ぐに鎮圧出来る。
そう、全て順調だった…
だが、
実際『水面下』では、『国奪還の計画』は刻々と進んでいたのだ。
『人間』の中に『異能の力』に目覚める者達が現れたのだ。
『天賦』と呼ばれるこの能力は、多種多様であり、その詳細は未だに謎が多い。
『選ばれた人間のみ扱う事が許される』
『人は誰しもが保有している』
など、様々な意見がある。
事件は、○○年8月、
天紅義の天下は終焉を迎えた…
北の管轄であった天紅義家、約30人が、たかが100人にも満たない人間達に虐殺されたのが始まりだった。
※『夏』はヴァンパイアにとって力が最も失われる季節、『日光』『紫外線』が強すぎて全力で闘えないのだ。
ヴァンパイアは、同族が死ぬと『直感』のようなもので皆が知ることが出来る。
危険性を感じた東と南の管轄だったヴァンパイア達は、現在の拠点地を捨て、西の管轄、最西最大の拠点であった
『長咲』の『嶌原』を目指した。
だが、東の管轄の一族は向かっていた途中、
奇襲を受けて壊滅。
最終的には運良く嶌原に近かった南の管轄と西の管轄、合わせて50人が生き残り籠城する。
天紅義家は、長期戦を覚悟した。
しかし、それ以上攻撃の勢いはなかった。
互いに牽制する日々が続く…
人間は知っていたのだ、ヴァンパイアには人間のように1人の女性が『何人も子を成す事』が不可能だということを…
さらには、能力が強すぎる者は子を成す事自体
出来ない場合もある。
この『国奪還計画』は、1年、2年で考えられたものではない…
天下だと思われていた数百年の間、
ずっと調査、観察されていたのは…『人間』ではなく『ヴァンパイア』の方だったのだ。
完全に支配権を奪われた天紅義家は、
文字通り日陰者となり生き残った者達だけで細々と暮らすことを余儀なくされた。
一方で、支配権を取り返した人間達の生活は劇的に発展する。
火力、水力、風力をエネルギー源とする
『電力の開発』を皮切りに、
各家には電気、ガス、水道設置され、
(求州地方以外)
ありとあらゆる方向性で、研究・技術的開発が進んだ。
最も驚くべきは
虐殺したヴァンパイアの死体の細胞を使って
『魔物』や『魔獣』を生み出す遺伝子工学の研究にも着手する。
まぁ、それなりに時代と年数はかかったが…
そして…
天皇「本日から我が国は『日国』と名乗り、護国の繁栄を第一とし、強く逞しい国家を目指します!」
民「天皇陛下、万歳ー!」
国の『天皇』が生まれ、国名も決定する。
ついに『国家』として、誕生する。
まぁ、あくまでも『表面上』は、な。
※『日国』又は『日輪国』とも言う。
由来は、ヴァンパイアに勝利出来たのは太陽の恩恵があったのでそれをそのまま使ったらしい。
詳しいことは知らないが…多分
地帝『フン、陛下殿は随分と人気者のようだな。まぁ『馬鹿な民衆』には『馬鹿な皇』がお似合いではあるがな」
炎帝「そう言ってやるな。国家として成り立った今、『見せかけの王』の存在は必用不可欠だ」
風帝「俺は、興味ないね。天皇といっても関係してるのは『頭京』だけだろう」
水帝「私も忙しいだ、こんな下らん茶番に付き合わされる身にもなれ」
コイツ等が、正真正銘の四人の帝王。
『四帝』とも呼ぶ。
ヴァンパイア討伐の際に、最も戦果を残した一族の末裔達である。
※4代目当主に当たる。
『天賦』とは、『完全に個人』に与えられる能力であり、
血筋や遺伝子には全く関係がなく、
親子で同じ能力という事という事はまずないのだが…
この一族達は、違う。
子が親の力を受け継ぎ生まれてくるという、とても稀な例である。
コイツ等は、生まれながらに『王の資質』を持っているのだ。
炎帝『火鳳院』。
炎を操る天賦の一族。
実質的に四天王トップ権限を持つ。
原理不明、何も無い所から炎が出るらしい…
治める地域は『冠東』。
拠点は『頭京』。
風帝『風薙』
風を操る天賦の一族。
風に乗り、空も飛べるらしい…
治める地域は『寛西』・『忠国』。
拠点は『大榮』。
水帝『水子神』
水を操る天賦の一族。
極めると、津波クラスの大水害を起こせるらしい…
治める地域は『志国』・『求州』。
拠点は『恵媛』。
地帝『地八鎧』
三家とは違い特殊能力は無いが、地上戦…
特に肉弾戦や耐久力においては人間の域を遥かに超えているらしい。
また、どんな攻撃も効かない『無敵の鎧』があるらしいのだが…詳細は不明。
治める地域は『凍北』・『北開道』。
拠点は『青盛』。
火鳳院「分かった。では、本題に入ろうか…これより『四皇会議』を始める」
火鳳院「では、まず…」
(中略)
そう…
表では天皇が全てやっていると思わせ、
裏での決定権は全て四天王が握っている。
こうする事で、謀反を企てられても標的は天皇に向き、もし殺害されたとしても、
直ぐ様『鎮圧』・『粛正』し、新たなトップを置き、改善点を見つけるのだ。
この国には『選挙制度』などないからな…
国に貢献する功績を1つ掲げれば、四天王の意思により決定され、各地の有力者が働きかけて発表される。
まぁ、誰もかれもが天皇なんてなりたい訳じゃない。最初は持ち上げられ、失敗すると叩き落とされる…いつの時代も一緒。
皆、普通に生活が出来ればそれで良いと思っているからだ。
好んで天皇に立候補する奴なんて物好きか、
金に目が眩んだ野心家ぐらいだ。
※『天皇の仕事』
・法の制定、改正
・緊急他国民襲来時の対応(鎖国してるので)
・国民相談所の所長
など…
形式上は、こんな感じだ。
火鳳院「最後に1つ、水子神。『ヴァンパイア達』はその後どうなっている?」
水子神「フン、お前が本当に聞きたいのはそれだろう?」
水子神「まぁ、いい…この数百年で人数は半数以下になっている。報告書によれば、確認されているのは22人」
水子神「昼は根城に隠り、夜になると徘徊しているようだが…今のところそれ以上の詳細な事は分からない、以上だ」
人間達は、ヴァンパイア達のように決して悠長に構えてはいない。
しっかりとした監視体制を敷いていたのだ。
風薙「大変だね~、兵力が必用なら言ってくれよ。協力するから」
地八鎧「小賢しい監視なんぞ止めて、とっとと潰してしまえ。泣き付いて来れば、兵を動かしてやらん事もないぞ」
水子神「馬鹿を言うな、あそこは私の領土だ。お前達は、黙って自分の領土の事だはけ考えていろ」
欠点と言えば…
『仲が悪い』事ぐらいかな…
火鳳院「水子神、分かっているとは思うが…くれぐれも、勝手な行動はするなよ」
水子神「ああ…分かっている」
火鳳院「よし、今日はここまでだ。次回の会議については、またこちらから連絡する…では解散」
『危急存亡』を迎えている天紅義家に、
もはや決起を翻す力も無い。
誰もがそう考えていた…
だが、
天紅義A「主よ、どうかご決断を…すでに『天命禁術』は、成功するという確証を得ております!」
天紅義B「左様、『雅子』と『宗定』の戦闘能力は我々の想像を遥かに凌いでおります」
天紅義A「しかし、まだ不十分です!完全なる勝利のためには、3人…最低あと2人必用です!」
※『天命禁術』
ヴァンパイアは、胎児の期間がとても短い。
通常、人間の胎児は『母体の臍の緒』から栄養などを貰い約10ヶ月で誕生するが、
ヴァンパイアはそもそも胎児と母親を繋ぐ物は無く、胎児が『母親の魔力』を吸いとり、ほんの1ヶ月ほどで誕生を迎える。
つまり、魔力が強ければ強いほど、強い子供が生まれるという事だ。
※性行為は、人間と同じ。
天命禁術とは、これを利用し母体のヴァンパイアに複数のヴァンパイアが胎児の誕生まで全ての魔力を注ぎ続けて誕生させるというものだ。
だが当然リスクもある。
胎児が、魔力量に耐えきれない場合。
さらに、無事誕生しても母体となった母親は必ず生き絶える。
魔力を送り込んだヴァンパイアも、
良くて廃人、悪くて絶命してしまう。
ヴァンパイアの古から伝わる禁術の1つである。
天紅義A「ここに子を宿した3人の娘がおります。主よ、貴殿の命が下れば今夜からでも」
天紅義家当主「お前達は、本当によいのか?」
※天紅義家2代目当主
娘達「ハイ、覚悟は出来ております」
当主「もはや、迷っている場合ではないか…」
当主「これより、一月をかけ天命禁術をとり行う!これは我が一族最後の賭けである!皆の者、心してかかるのだ!」
天紅義家一同「ハッ!」
1ヶ月後、天紅義家のヴァンパイアの人数は
半分になる…
が、
天紅義A「せ、成功だ…『最強の生命体』の誕生だ…」
天紅義B「天紅義家に…栄光…あれ…」
ヴァンパイアは寿命以外に『体内の魔力』を全て使い果たすと死んでしまう。
産まれたヴァンパイアA「我々は、どうやら『創られた命』のようだな…」
産まれたヴァンパイアB「そこに転がっているのが我が母に相違ないな」
産まれたヴァンパイアC「下らん真似を…このような事で命を落とすとはな」
産まれたヴァンパイアA「だが、身命を賭して我々に命を与えてくれたのは事実」
産まれたヴァンパイアA「我々は、意志を継ぎ、必ずや一族を復興させてみせる…」
人間とヴァンパイアの決定的な違い…
産まれ出でた瞬間より、
自分で立ち・自分で考え・自分で話す。
更に、母体の腹の中から外で何をしているのかを全て見ている。
だが、この命懸けの賭けは100年後の
『天下分目一夜戦』
で報われることになる。
100年後…
世代も代わり、四天王も新たな当主が就いた。
○○年、十月十日、午前零時…天候・雷雨
後に、裏社会に語り継がれる歴史的合戦の幕が上がろとしていた。
「ザーザーっ!」(強雨音)
水子神「機は熟した…奴等の戦闘への意志も兵力も皆無に等しい!」
水子神「今宵、永きに渡って続いた歴史の裏幕に終止符をうつのだ!」
※5代目水子神家当主。
水子神「全軍…突撃!」
兵士達「おぉーーーっ!!」
四天王合同兵士…約4000人
研究の産物、魔物・魔獣、約1000体
による大部隊である。
※全般指揮は、水子神家。
他は、勝利は確実と思い兵士を貸しただけ。
雨夜を選んだのは、近隣に音を知られないため。
これが、命取りになるとは知らずに…
一方、天紅義家は…
神刃「来たか、最後の合戦には相応しい夜だ」
神刃「皆、準備はよいか?」
一同「いつでも」
※天紅義家3代目当主…天紅義神刃
俺の親父だ。
天紅義家偵察「当主様!敵は、5つの方位から」
偵察「人間兵4隊が森中を、中央道に魔獣と見られる部隊です!」
偵察「どれも、千に迫る大部隊です!」
神刃「偵察ご苦労、お前達は城を守れ」
天紅義家偵察「はい!」
天紅義家の生き残りは、11人。
この中で闘うのは、禁術で生み出された5人のみ、
残りは城で待機。
戦力の差は、誰が見ても明らかであった。
神刃「よし、五つの兵力を各自無力化しろ」
神刃「逃げる者は捨ておけ、向かって来る者とのみ闘え…よいな?」
他四人「御意」
天紅義家は一度、全員城の中央に集まる。
そして…
神刃「『天紅義』とは、!」
一同「『義を持ちて、天を紅く染める者』なり!」
神刃「生きて必ず城へ戻れ、健闘を祈る」
神刃「『真紅血眼』の開眼を許可する、他の能力解放は、各々で対処せよ!」
『真紅血眼』
ヴァンパイアの一人前の証たる真紅の眼。
個人の能力で形状が弱冠異なる。
詳しい説明は、また後で…
神刃「では、散開!」
神刃「正面本道の魔獣には私が行く、お前達は人間兵達を無力化しろ」
他四人「了解!」
実質、5人対5000人の開戦である!
第一兵長「止まれ…何かいる!」
轟牙「よう…待ちくたびれたぜ」
轟牙「貴様等が、俺の獲物だな?」
天紅義轟牙
禁術に生み出された1人。
身長179㎝(通常時)年齢102歳(当時)。
短髪でヴァンパイアには珍しい筋肉質な体格。
両腕に、刺青。
五人の中で最も好戦的な性格。
兵長「たった1人で何が出来る!獲物はお前の方だ、馬鹿め!」
轟牙「ふん、愚かな…ならば見せてやろう」
轟牙「圧倒的な力の差というモノを…」
「バキゴキ!」(変態音)
轟牙の身体は変態し、巨大な黒狼が姿を現す!
兵長「な、何だ、と…!?」
轟牙「ガルルルゥ…」
『超獣皇牙』
天紅義轟牙が禁術によって与えられた
天賦同様の個人特殊能力。
魔力で身体の組織を変化させ、
自分自身を『魔獣化』させる。
二足歩行・四足歩行にも体様し、獅子や虎など
様々な動物の形態も存在する。
太い牙を生かし全てを砕く顎力と、鋭い爪で全てを引き裂く腕力を併せ持つ。
また、体毛・皮膚は硬質化し、
拳銃程度では貫く事は、まず不可能だろう。
更に、変態した同種族の生物を意のままに操る事も可能になる。
轟牙「…貴様ラ纏メテ八ツ裂キニシテヤルッ!」
兵長「お、臆するな!相手は、たかが『一匹』だ!取り囲んで確実に潰せ!」
兵長「突撃!」
兵士達「ウォーっ!」
轟牙「獣皇轟爪ーっ!」
「グシャ!バキ!」(身千切音)
轟爪の乱撃は、鎧ごと兵士の身体を容易く切り刻む!
続いて第2戦陣。
敦子「待て…貴様等の命はここで終焉だ」
第ニ兵長「…女?」
天紅義敦子
禁術によって生み出された1人。
身長171㎝、年齢102歳。
長髪女性で美人だが、
五人の中で最も無惨な殺し方をする。
兵長「おい、女…命が欲しければ、投降しろ」
兵長「女相手にこの兵力をぶつける気はない。なに、悪いようにはせん」
敦子「投降?…悪いが、手遅れだ」
敦子「我が『毒』は既に、雨を伝わり貴様等の身体に侵入した」
兵士「兵長!?身体が!」
兵長「こ、これは!?」
兵士達の身体は、紫色に変色していく。
『獄毒廻殺』
禁術によって、敦子の身体は毒が廻っている。
体液・吐息のなど毒を魔力と複合わせ、
相手に様々な、症状・苦痛を与えて殺害する。
また、人間を惑わし操る能力も備えていて
所持している黒毒大鎌『禰悶』は、
甲冑を容易く両断する破壊力と、魔力毒を合わせも備えた恐るべき凶器である。
敦子「憐れな虫けら供よ、自身の愚かさを少しは自覚出来たか?」
兵士達「ぐわー!」
兵士達は、全身血塗れになり生き絶える。
敦子「我等に逆らった事を後悔し、絶望して…」
兵長「ば…馬鹿な…こんな…こと…が…」
敦子「醜く、朽ち果てるがよい」
※敦子はこの時、吐息から魔力で増幅させた猛毒を
霧状にして拡大拡散させ、雨に含ませて兵士達に浴びせかけのだ。
目に見えない猛毒を纏って降り注ぐ雨…いかなる武器、防具で身を固めていても逃れる術はないだろう。
これで、大部隊の二つは沈黙した。
次は、最強の『老鬼夫婦』を紹介しよう。
宗定「お待ち下さい…ここから先は、当主様のご命令により通すことは出来ません」
第三兵長「…爺?」
兵長「フッハハハ!天紅義も堕ちたな!こんな爺を戦場に出さねばならぬほど、兵士が不足しているのか?」
天紅義宗定
禁術により最初に生み出された1人。
身長167㎝、年齢154歳。
見た目は、血色若々しい老人に見える。
※ヴァンパイアは、150歳を過ぎると急に老化が始まる。
性格も礼儀正しく、あまり闘いを好まない。
兵長「どけ、爺!邪魔立てすれば、容赦せんぞ」
宗定「今、退けば命は助かります。我等が当主は寛大なお方でありますゆえ」
宗定「無益な殺生はなさいません」
だが、その能力は…
兵長「言わせておけば、好き勝手な事を!」
兵長「鉄砲隊、前へ!」
兵士「ハッ!」
兵長「奴を蜂の巣にしてやれ!構え!」
鉄砲隊は、宗定に照準を合わせる。
宗定「最後のご忠告でございます…大人しく、兵を退いては下さいませぬか?」
兵長「くどい!今すぐその口を封じてやる!」
兵長「放て!」
「バンっ!バンっ!バンっ!」(銃撃音)
兵士達は、宗定を目掛けて一斉に引き金を弾いた。
兵士「目標に命中!」
兵長「ふん、他愛のない。所詮は爺…っ!?」
宗定「ふぅ、やれやれ…せっかくの戦闘服が穴だらけになってしまいましたなぁ」
宗定は、平然と立っていた。
コイツには、痛手を与えるという根底から
既に誤りである。
兵長「ば、馬鹿な!?直撃のハズだ!何故、立っているんだ!?」
宗定「申し訳ありません、少々『丈夫な身体』でありますので…」
宗定「その程度の火力で、倒れるつもりはありません」
『完全不死鬼』
一般的に『ヴァンパイア=不死』の印象が強いかもしれないが、実際には人間とほぼ変わらない。
普通のヴァンパイアは、身体から斬り離された肉片は決して再生しない。
あくまでも『自然治癒力の強化版』だとと思ってくれればいい。
だが、宗定の身体は『治癒』ではなく『再生』。
身体中穴だらけにされても、傷口は直ぐ様
再生してしまう。
本人いわく、首が吹っ飛ぶと流石に死ぬと言っているが宗定の首を落とせる奴なんて俺には想像出来ないな…
普段は年寄りの姿見だが、老いた身体細胞を再生させて若い姿になる事も可能らしい。
また『剣術・鍛冶』の腕も大したもので
天紅義家の個々に合わせた武器を鍛え上げ、さらには剣術の指南まで受け合う器用さの持ち主。
本当の意味で『刀匠』の異名も持っている。
※実際には監視の目を逃れ、人里で人間の鍛冶屋に30年の月日をかけて基礎から学んだらしい。
使用する愛刀は『刻一文字=巌宗』という日国刀。
兵長「う、撃て!撃て!圧倒しろ!」
宗定「申し訳ありません…お覚悟を」
「ズバッ!」(瞬斬音)
俺もコイツだけは、敵にしたくない…
次は、妻の方だな…
雅子「…」
第四兵長「婆…貴様、人間ではないな?」
天紅義雅子
禁術の最高傑作とも言われている。
宗定の妻。子供は無し。
身長151㎝、年齢153歳。
俺の戦闘教官を担当していたクソ婆だ。
コイツの場合、
能力自体は特に目立つモノはない。
ただ…
雅子「…」
兵長「何とか言え、婆!」
雅子「…」
基本的に気に入らない相手とは口も利かない。
兵長「馬鹿にしよって!」
兵長「ならば、自分を殺す男の名を聞いて死ね」
兵長「や~や、我こそは、日国一の…っ!」
「グサリっ!」(一突音)
雅子の無情の刃は、一撃で兵長の心臓を貫く。
兵長「き…様…せめて…名…を」
雅子「貴様のような塵屑の戯れ言を態々聞いてやるほど…」
雅子「儂の気は長くはない」
ほとんど無言で、相手を抹殺するのだが…
雅子に口を開かせるとは大したモノだな。
兵士達「兵長ーっ!」
兵士達「おのれーっ!兵長の仇だ!」
雅子「…っ!」
「スパンっ!ズバッ!グサっ!」(乱殺音)
兵士達「ぐわーっ!」
兵士「つ…強過ぎる…化け物…だ」
雅子「…ふん」
『絶対抹殺鬼』
ひたすらに、戦闘に特化させたヴァンパイア。
治癒力も一番低く、目立つ特殊能力も無い。
だが、一度戦場に赴けば動く者は全て抹殺される。
ヴァンパイアの弱点である『日光』もコイツには効果は無い。
だが、何故か『日除黒眼鏡』を着用している。
泳ぎも得意で、1日ぐらいなら水中で息継ぎ無しで泳いでいられる。
どんな敵であろうと、急所・弱点を一瞬で見極める事を得意とし、
その攻撃には、寸分の躊躇も隙も無駄も無い。
全ての常識を、全て覆す。
不条理の塊。
そのため、超人・最強・伝説と、様々な異名もある。
愛刀は『絶刀=翳雅』という白鞘。
宗定は、俺に『剣』を教え
雅子は、『戦闘』の心得を教えてくれた。
二人は、俺の『師』なのだ。
だが、説明からも分かるように、
性格は正反対なので、雅子の訓練からはいつも逃げていたのを思い出す…
さて、最後は…
天紅義家の歴史上最強と言われた、
3代目当主、天紅義神刃…
身長173㎝、年齢102歳。
父親の説明をするのは若干恥ずかしいものがある。
お復習だが、
この戦闘は、天紅義家の最後の居城を取り囲んで
五つの方向から敵は進軍。
天紅義家の城は、山上に位置していたので本道は正面のみ。
親父はここを守っていた。
当然、人間達は正面に最大戦力をぶつけてきた。
遺伝子工学で生み出した、魔獣達である。
半人鬼「殺ス!殺ス!」
魔獣のおよそ半数は、
『半人鬼』という人型の鬼。
知能は低いが、武器を持てる上に、戦闘力は普通の人間とは比較にならない強さだ。
神刃「貴様等には、我等同族の血が流れているようだな?」
半人鬼「殺ス、殺ス!」
神刃「哀れな…ただ、人間の操り人形のためだけに生み出されたようだな」
神刃「よかろう、せめてもの情けだ…」
「バチバチっ!」(雷纏音)
親父の周囲に、雷撃が飛び交う。
神刃「『雷帝光道』!」
無数の光柱が、魔獣を襲う。
半人鬼「っ!!?」
神刃「痛みは無い…安らかに逝くがよい」
「ブシャーーっ!」(血飛沫音)
光柱が消えると同時に親父の後ろには
胴と首が斬り離された魔獣の屍の山だった…
『天雷夜帝』
他の追随を許さない程の圧倒的な能力。
雷光と共に疾走り、一撃必殺の刃で相手の命を摘み取る。
相手は、恐怖も痛みも感じる必用はない。
閃光が眼前で煌めいた時には、首から上は既に胴体
から斬り離されているのだ。
能力は『夜と曇天、雨天時』にしか発動させられないのが唯一の弱点というところだろう。
振るう刃は、
斬りつけた相手の『血』と『鉄分』を奪いさり、
刃毀れや錆びを無効復元させる事を可能にした
天紅義家における最高練金技術の結晶。
天紅義家当主が代々受け継ぐとされる真紅の刀。
正式名称『可変型吸血練金刀』
通称『真紅血刃』。
※刃の使用は、契約者のみ許される。
その場合は、前使用者が健在の時に、刃に血を一滴でも吸わせている事。
また、前使用者の血も自分の体内に幾分か流しておく必要がある。
使用者が生きている限り、他の者は鞘から抜く事すら許されない。
構成要素は、今までに死んでいった天紅義家の『血液』で、それを魔力と練金術で刀の型に固定化したものである。
刀は、常に納刀状態にしておかなければならない。
一方、その頃…
兵士「ご、ご報告いたします!」
幹部「何だ、騒々しい。ヴァンパイアの首は持ち帰ってきたのか?」
絶対的勝利を疑わなかった人間達は、
暢気に前祝いを始めていた。
兵士「そ、それが…」
水子神「どうした?はっきり言ってみろ」
兵士「は、はい!我々の部隊は、敵との交戦でほぼ壊滅。放った魔獣達も、半数近くは逃走した模様であります!」
「パリンっ!」(茶器割音)
1人が持っていた、茶器が床に落ちた…
幹部「な、何を…ば、馬鹿な…あの大部隊が壊滅だと!?」
幹部「天紅義家の兵力が上だと言うのか!?人数は?一体、何人いるんだ!」
兵士「報告によれば…恐ろしく強い手練れが5名」
幹部「5人?たった5人に殺られたというのか!」
水子神「落ち着け…」
水子神は、ゆっくり立ち上がる。
幹部「しかし、これでは…」
水子神「どうやら我々は、天紅義家を過小評価し過ぎていたようだ…」
水子神「高みの見物で終わればと思っていたが…そうも言ってられんようだ」
幹部「そ、それでは…?」
水子神「生き残った兵を集めよ、私が出撃る!」
幹部「は、はい!」
ついに、敵の総大将が動きだす。
魔獣「アガガ…」
「グサリっ!」(刃刺音)
神刃「…フゥ、これで片付いたか?」
神刃「半数近くは、逃げたようだが…まぁ、それもよかろう」
親父は、仕留め損ねた一匹にトドメを刺す。
すると、他の四人も集まってきた。
神刃「皆、どうだった?負傷した者はいるか?」
親父が訊ねると…各々が答える。
轟牙「ふん、歯応えが無さすぎるわ…先に逃げた何人かを仕留め損ねてしまったしな」
敦子「この程度の相手ならば、何も全員出撃する必用はなかったのではないか?」
神刃「そう言うな、闘いとは常に全力で挑まねばならん」
神刃「そして『奴らには勝てない』という事を後に伝える『生き残り』も必用な存在なのだ」
親父は、賢く強かった。
先に生まれた老鬼二人をも従わせる程に…
宗定「采配、お見事でございます親方様。人間達もこれで手を退く事でしょう」
雅子「ふん、下らん茶番だったのぉ」
神刃「二人もご苦労だった」
神刃「深追いは無用だ.引き上げるぞ」
『超獣』『魔毒』『不死』『超人』
そして『雷帝』。
各々が、一騎当千の実力者。
天紅義家の歴史上最強の5人が一同に揃い踏みだ。
敗戦などあるはずもない。
が、
その時!
水子神「受けよ…水流波!」
神刃・敦子・轟牙・宗定・雅子「っ!?」
神刃「皆、避けろ!」
「ドーンっ!」(激水音)
突如、とてつもない水圧の波動が5人を襲う!
それは、大岩を容易く打ち砕く程の威力だった。
神刃「皆、無事か?」
轟牙「おのれぇ、舐めた真似を!」
敦子「落ち着け轟牙。しかし、人間にこれほどの力を持つ者がいるとはな」
宗定「私も流石に驚きました」
雅子「ほぅ、少しは骨のある奴もおるようじゃな」
全員、不意討ちの攻撃を紙一重で躱していた。
(轟牙だけ、攻撃が少し掠ったため若干機嫌が悪い)
水子神「我が名は、水子神!この日国を統べる四帝の1人だ」
水子神「先の闘い振りは見事だった。だが、勝利の余韻に浸るのは些か早計ではあるまいか?」
水子神「真の勝利者になりたくば、私を打ち負かしてみるがよい」
5人の前に現れた四帝の1人、水子神。
その名の通り、水を自在に操る天賦を持つ。
神刃「水子神か、どうやら能力は水を扱うようだな…さて、どうしたものか」
轟牙「俺に殺らせろ、雑魚の相手でむしゃくしゃしていたところだからな」
敦子「待て轟牙、貴様では相性が悪い。が、私の魔毒ならば一瞬で終わる」
宗定「ご命令ならば、私が相手を務めまずが?」
雅子「いや儂が殺ろう…雑魚共より少しは楽しめそうじゃからな」
5人が、誰が戦うかを話していると…
水子神「おい、いつまで喋っている!」
水子神「どのみち貴様等は、この場で全員討伐する!が、まずは大将を討つ!」
水子神「大将は、前へ出てもらおか?」
しびれを切らした水子神は、5人を挑発。
大将、つまり親父を指名ということか…
神刃「大将か…面白い、私が行こう」
轟牙「おい、神刃!…いや、貴様が死ねば俺が奴を殺して当主の座も頂くまでだ」
神刃「ああ、その時は貴様が当主だ」
轟牙「チッ!」
轟牙は、親父に対して対抗心が強かった。
当主襲名の際にも1人だけ納得していなかったらしい。
敦子「神刃、何もお前が出る必用は…」
神刃「ふふふ、身を按じてくれか?敦子」
敦子「ふん、愉快な冗談だな。そんな浮わついた気持ちでは、足下を掬われるぞ戯け者」
神刃「そうだな、肝に命じよう」
敦子「……馬鹿者め」
敦子は、親父に『恋心』があった。
親父も好意がなくもなかったらしい。
だが、この恋愛感情が後の悲劇を生む。
雅子「主が出るのならば、儂の出番は無かろう。精々遊んでやるがいい」
宗定「ご武運を…親方様」
神刃「ああ、では行って来る」
親父は、四人に背を向け前に出る。
神刃「待たせてすまぬな、では始めるか」
水子神「ようやく決心がついたか…まずは、名を聞いておこうか?」
神刃「名、か…なるほど『自分が倒される者の名』を知っておきたいのだな?」
水子神「それは違う。『自分が倒す者の名』を知っておきたいのだ」
神刃「フフフ…そうか」
水子神「ハハハハ…そうだ」
意外と仲がいいように見えるが、敵同士・初対面。
神刃「よかろう、天紅義家3代目当主・天紅義神刃だ。貴様の名も聞いておこうか?」
水子神「そうだな、水子神家5代目当主・水子神奨だ」
神刃「出会いの場が違えば、貴様とは良い飲酒仲間になっていたかもな」
親父は、鞘から刀を抜く。
水子神「調子に乗るな…私は貴様らは好かん!そして…」
神刃「そして…何だ?」
水子神「酒は、それと同様に好かん!」
水子神は、手を真上に挙げた。
水子神「受けよ、我が千水の刃…」
神刃「っ!?」
水子神「千水鋭彈!」
「ドーンっ!」(大圧水音)
雨天を利用した水子神の水彈攻撃が親父を急襲した。
水子神「ふん、他愛のない…何故、私が襲撃に雨天を選んだと思う?」
水子神「我が水子神家は、水操る者。雨天時が最も能力を振るう事が出来るからだ」
水子神「しかし当主がこの程度ならば、他の連中の程度も知れるというモノだ…」
「チラり」(横目音)
水子神は、横目で四人を見る。
敦子「フフフ…」
水子神「何が可笑しい?当主は、死んだのだぞ?」
敦子の不適に笑みに、水子神も若干の戸惑いを見せる。
敦子「フフフ、死んだ、だと?」
敦子「あの程度の攻撃でくたばってくれるならば…私の立場も嘸や楽な事だろうなぁ」
水子神「何が言いたい?まさか、まだ生きているとでも言いたいのか?」
敦子「ふん、自分の眼で確かめてみるがいい」
敦子に促され、水子神は振り返る。
水子神「っ!?ば、馬鹿な…直撃のハズだ」
水子神「何故、立っている?」
仕止めたハズの目標物が、平然と立っていた。
戦闘においては、これ以上ない屈辱だろう。
神刃「手厳しいな、敦子。私は、お前にそんなに苦労をかけていたかな?」
敦子「黙れ、遊んでないで早く終わらせろ」
水子神「何をごちゃごちゃと!」
神刃「なるほど…雨粒を鋭針状にした後に、頭上から降り注がせる技か」
神刃「水の水子神、か…興味深い能力だな」
水子神「私の技の分析はいい!何故、立っているのか?、と聞いているんだ!」
水子神は、親父と再び向かい合う。
神刃「何故と言われてもな…躱せたので躱したまでだが?」
水子神「躱した、だと?馬鹿な…そんな、事出来るわけが」
「バチバチバチ…シュンっ!」(雷迅動音)
親父は、光速で水子神の眼前から移動して見せた。
水子神「っ!?」
神刃「なかなかの能力だが、所詮は眼に見える速さだ、私を捉えるに程遠かったな」
水子神「なるほど、眼で追えないのならば当たるはずもないか…」
神刃「ほぅ、随分と潔いな?では、負けを認めて兵を退かせ…」
親父は、刀を納め水子神に近付く。
と、
「ピチャッ!」(水溜足踏音)
親父の足が水溜まりに入った。
水子神「掛かった…縛水錠!」
「ガシッ!」(錠縛音)
親父の足を水の錠が捕らえた。
神刃「っ!?…これは!?」
水子神「『捉えきれずに』当てられないのならば…『捕らえた後に』当てれば何の問題も無い」
神刃「くっ!」
「スパンっ!」(閃刃音)
親父は、刀を抜き水錠を斬り裂く!
が、
神刃「何っ?」
水子神「フフフ…無駄だ。その水錠は刀で斬る事は不可能だ」
『縛水錠』
相手の足を固定するための『水の足枷』。
刀などで両断しても、成分が水のためすり抜けてしまう。
また、動く程に水圧による締め付けが強まり、足が使い物にならなくなってしまう。
液体化による攻撃無効化と、水圧による拘束圧迫。
性質が悪いにも程があるぜ。
水子神「思い知ったか?さて、どうトドメを…」
神刃「フム、なるほど…な、刃による切断は無理か…」
「バチバチっ!」(雷刃音)
真紅血刃に雷電が纏う!
水子神「な、何をしている!?無駄だど、言った…」
神刃「『電壊裂斬!』」
『ズバッ!パーンっ!』
親父の一閃で、水錠は弾け飛んだ、、
水子神「何ーーっ!?」
水子神(ば、馬鹿な!?私の水錠が、一撃で!?)
水子神は、完全に呆気に取られている。
神刃「どうした?もう、私を楽しませる『技』は、無いのか?」
そんな水子神に淡々と、親父は話しかける。
神刃「先程の『電壊裂斬』は、物質における電子を狂壊させて物質そのモノを破壊する刃なのだが…」
神刃「…?聞いているか?」
水子神「……はっ!?、な、何だ?」
神刃「貴様の力量は理解した、人間にしては大したものだ。が、私には及ばぬという事だ」
神刃「負けを認めてくれるな?」
水子神「わ、分かった…負けを…」
決着…
水子神「…認めるとでも思ったか!!」
水子神「全員纏めて、押し流してやるわ!」
水子神「奥義…大」
あらら…これは、死亡路選だな。
神刃「ふぅ、やれやれ…」
「シュンっ!」(間詰音)
親父は一瞬で水子神との間合いを潰し、
刃の切先を首筋に突き立てる。
※刺さってはいない
水子神「くっ!?」
神刃「最後通告だ、よく聞け…」
神刃「貴様は、強い。だが、私には及ばない」
神刃「恥じる事はない、ただ貴様よりも私の方が強かったという簡単な話だ」
神刃「兵を退き負けを認めろ、でなければ…貴様の首から上は、胴から離れる事になるぞ?」
これを通訳すると…
『貴様などいつでも殺れる。なので、とっとと尻尾巻いて帰れ』
と、なる。
『あえて殺さない』のが親父の殺方だ。
相手の戦意を断つ事こそ『真の勝利』ってのが、
親父の口癖だったな。
まぁ、親父の強さがあって初めて出来るんだがな。
神刃「さて、返答を聞こうか?」
神刃「即決しろ『生きたいのか』・『死にたいのか』…覚悟して選べ」
水子神「くっ!…分かった。兵を退かせる…」
水子神「負けを…認める」
神刃「フム、利口な判断だ」
親父は、刀を納めて背を向ける。
神刃「水子神、最後に1つ伝言だ…他の王達にも伝えておけ」
水子神「な、何だ?」
神刃「『決して報復など考えるな』、もしも次に相見える事になれば…全力で叩き伏せる、とな」
水子神「ああ…分かった。肝に命じよう」
神刃「フフ、ではな水の王、水子神よ」
完全決着。
天紅義家は、僅か千分の一の兵で見事勝利を治めたのだった。
無論、この緊急事態は直ぐに他の王の耳に入り、
緊急四皇会議が開かれた。
地八鎧「たった5人の敵に大敗だと!?」
地八鎧「一体、何をやっている、この恥曝しが!」
火鳳院「落ち着け、地八鎧。だからこそ話し合いの場を設けているんだ」
風薙「水子神の旦那、ソイツらそんなに強かったのかい?」
流石に、皆動揺が隠せないようだ…
水子神「ああ、強い…能力を目の当たりにした今ですら、何度考えても勝てる気がしないのが本音だ」
火鳳院「確か…当主の能力は『雷』だそうだな?」
風薙「雷かぁ~、そら強そうだ」
地八鎧「下らん虚仮威しだ!」
地八鎧「貴様等の兵を俺によこせ、今すぐ首を獲ってきてやる!」
地八鎧は、とても勇敢…
いや、馬鹿だな。
水子神「黙れ、この単細胞が!貴様など、奴の眼前に立った瞬間に抹殺されるのが落だ」
地八鎧「何だと、この腰抜けが!他人に説教する暇があるなら、汚名返上の算段でもしていろ!この負け犬が!」
水子神「ああ、熟思い知るよ自分の運の無さを…貴様が相手だったならば有無を言わさず殺してやれたモノを、とな!」
地八鎧「言うに事欠いて、貴様!!ならば、試してやろう…表に出ろ!」
水子神と地八鎧は、特に仲が悪かった。
今回の一件で互いの不満が爆発してしまったようだ。
風薙「あ~らら、どうすんだ火鳳院の旦那?マジで殺り合う勢いみたいだぜ?」
火鳳院「ふぅ…仕方ない」
火鳳院「二人共、いい加減にしろ。それ以上、下らん争いを続けるつもりならば…私も黙っているつもりはないぞ?」
地八鎧「ちっ!」
水子神「命拾いしたな」
統括を担う火鳳院の言葉は、重い。
まぁ流石に、お互いの実力が分かっているので本気で戦争する気は最初から無いんだろうがな…
風薙「いやあ、良かった、良かった…」
火鳳院「貴様もだ、風薙…少しは真面目に考えろ」
風薙「お~、恐っ」
風薙「ヘイヘイ、分かりましたよ~」
曲者なのが、この風薙だ。
基本、何を考えてるのか分からない。
だが、戦闘力と知識力は火鳳院に負けず劣らずの実力者らしい。
とても、そうは見えないがな…
火鳳院「話を元に戻す。水子神、話せ」
水子神「あ、ああ奴らは…いや、奴は、報復は考えるな、と言った。次は、全力で来る、とな」
火鳳院「兵をもう一度集め、我々四人が直々に出向いた場合の勝算はどうだ?」
水子神「分からない…だが、いかに数を増やそうと我々以下の戦闘力では死体の山を増やすだけだ」
火鳳院「そうか…」
火鳳院(水子神は、決して弱くない。私も統括の立場にはあるが…正直、実力は拮抗している。その水子神が、我ら四帝が出向いても勝てるか分からないと言った)
火鳳院(それほどまでに強大だというのか『天紅義神刃』という男は…)
火鳳院「皆、聞いてくれ…1つ提案がある」
風薙・水子神・地八鎧「?」
一方、天紅義家でも…
一族会議中…
轟牙「何だと!?和解、だと!?」
神刃「ああ、これ以上の殺戮は意味がない」
轟牙「馬鹿な!?今、人間達は動揺している。天紅義家にとって今が最大の好機ではないか!」
轟牙「神刃、貴様…我等先祖達が人間達にどれだけの苦痛を味あわされたか忘れたか!」
神刃「それは分かっている。だが、どこかで終止符をうたなければ国自体が滅んでしまう」
神刃「いいか、轟牙?『殺られたら、殺り返す』などと言っていると死ぬまで争いを繰り返す事になるんだ」
轟牙「『殺られたら』ではない『殺られる前に殺るんだ』!貴様の甘チョロい考えでは、また寝首をかかれかねないんだ」
轟牙「貴様らも何とか言え!」
話し合いと言っても、
親父の提案に轟牙が反発している。
いつもと変わらない光景だった…
雅子「貴様が騒いでも何にもならんじゃろぅ?当主の判断じゃ」
宗定「私も賛成でございます。無益な殺戮や殺生は、動乱を招きかねます」
神刃「敦子、お前の意見はどうだ?」
敦子「決めるのは、貴様だ。私達は、貴様の決断に従うのみなのだからな」
神刃「そうか…苦労をかけるな」
敦子「ふん、気にするな」
轟牙「ちっ!クソ、どいつもコイツも…」
どんな時間・時代でも
人が集まると必ず和を乱す奴がいる。
これは、何百・何千年の時を重ねても変わらないだろう。
まぁ、皆が皆『YESMAN』になってしまってもつまらんだろうけどな。
神刃「避けられぬ闘いもあるだろう…だが、自分から戦火を上げる必要は無い、と言っているだよ」
神刃「今は、待て轟牙…近い内に人間達は、答えを出す。動くのはそれからでも遅くない」
轟牙「後悔するぞ…神刃」
神刃「フフフ…その時は、その時だ」
そして、1週間が過ぎた。
「トントン」
天紅義家の扉を何者かが叩いた。
宗定「はい、どちら様でしょうか?」
宗定が応対する。
使者「私は、四帝の1人『火鳳院様』の使いで参った者です」
使者「『天紅義神刃様』は、いらっしゃいますか?」
神刃「私に、何か用か?」
奥から、親父が現れる。
使者「はい、火鳳院様が是非とも会ってお話しがしたいとのことで…」
使者「よろしければ、私と共に『頭京』までご足労願い出来ればと」
神刃「ほぅ、そうか…」
すると、
敦子「随分と勝手な話だな。話がしたいなら、自分から来るのが筋ではないのか?」
使者「そ、それは…」
神刃「待て敦子、こ奴はただの使いだ。話の場を設けてくれたのだ、出向くしかあるまい」
敦子「しかし、神刃」
神刃「どうしてもと言うなら、お前も来るか?」
敦子「何?」
神刃「使い者、私はこの敦子を共に連れて行きたいのだが…構わんかな?」
親父の提案に、使者は…
使者「は、はぁ…お一人様くらいでしたら、問題無いと思いますが…」
神刃「決まりだな、急いで身仕度を済ませよう。敦子、お前も急げ」
敦子「あ?あ、ああ…」
使者「で、では…私は、外でお待ちしております」
「パタん」
使者は、外に出て扉を閉める。
神刃「皆、私と敦子の身仕度を手伝ってくれ」
ヴァンパイア達「畏まりました」
二人が身仕度をしていると、
轟牙「おい、神刃!俺も連れて行け!」
今しがた目覚めた轟牙が、駆け寄る。
神刃「駄目だ、貴様は残れ」
轟牙「何だと!?」
神刃「貴様が来ると『話し合い』が『戦争』になりかねない」
轟牙「貴様!」
神刃「これは、命令だ…私をあまり怒らせるなよ?分かったら、黙って従え」
轟牙(ゾクっ!?)
普段あまり見れない、
親父の静かで高圧的な言葉に、場が一瞬氷る。
轟牙「ちっ!クソが!」
そう言って、轟牙は屋敷の奥へ消えた。
轟牙自信も親父との実力差は分かっている。
それが余計に腹立たしいのだろう。
神刃「やれやれ、困ったものだ…敦子、準備は出来たか?」
敦子「ああ、とりあえず、はな」
神刃「う~ん、その大鎌は…少々物騒だな」
敦子「帯刀している貴様に言われたくない、奴等は完全に信用出来ない…貴様もそうだろう?」
神刃「ああ、そうだな…よし、行こう」
親父と敦子は、並んで玄関まで歩く。
神刃「宗定、雅子、留守は任せたぞ」
宗定「畏まりました。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
雅子「あり得ん話じゃが、ヌシら二人が殺られればこの家は終わりじゃからな?決して、隙は見せんことじゃ」
神刃「ああ、分かっている…では、行ってくる」
いざ、
頭京へ…
…つづく
『頭京』へ向かう神刃と敦子…
人間達は、どのような答え出すのか、
次回、『生誕』。
本当の主人公は、2話で登場。