優しいおばあちゃんと拾い物
「おばあちゃん、何を拾ってきたの?」
少女の前のゾンビ老婆は口に財布をくわえていた。少女がそれを手に取るとゾンビ老婆はおとなしく口を開けた。
財布は皮製でゾンビ老婆の歯型がしっかりついている以外は、特に変わったところもないデザインだった。
少女が財布を開けてみると、その中には数枚の紙幣とクレジットカードや会員証、そして、一枚の紙が入っていた。
「なにかしら?」
少女がその紙を開くと、その中心には黒ずんだ血痕らしきものがあった。
「Gawwwwwwwuuuuuu」
ゾンビ老婆はその紙に食いつき少女の手から奪い取った。そしてその場をぐるぐる回りだす。
「どうしたの、おばあちゃん?」
「pyouuuooooo!」
ゾンビ老婆は玄関に突進して激突した。
「開けてほしいのね」
少女が扉を開けると、ゾンビ老婆は一気に飛び出していってしまった。
「待っておばあちゃん!」
少女はすぐにその後を追って走り出した。
「wwryyyyyyyyyyyyy!」
しばらくすると、曲がり角からゾンビ老婆の雄叫びが響いた。少女がそこを覗き込むと、そこにはゾンビ老婆に押さえつけられている男がいた。
「うぐぉー、ごごー」
顔面を地面に押さえつけられた男はうめくだけで、意味のあることは何も言うことができない。
「おばあちゃん、その人は?」
「uyiooooooooooo」
ゾンビ老婆は口にくわえた紙を男の頭の上に落とした。
「その血に関係のある人なの?」
少女はそれから押さえつけられている男のことをよく観察してみた。男はまだ若そうで、少女の印象では、感じが悪いというものではない。
「おばあちゃん、とりあえずどいて」
そう言われると、ゾンビ老婆は男の上からどいて、少女の後ろに立つ。
「あなたはだあれ?」
男はしばらくその場で咳き込んでから、なんとか膝をついて立ち上がった。
「ありがとう。それより、その紙はどこで?」
「おばあちゃんが拾ってきた財布に入っていたの」
そう言った少女が財布を差し出すと、男は身を乗り出した。
「その財布は!」
「この財布は?」
男が手を伸ばすと、少女は財布を手渡した。男はその財布をぎゅっと握る。
「これは私の父のものなんです」
「お父さんの? じゃあ中に入ってた紙はなに?」
「それは」
「ggGgggyooooooooooo!」
そこでいきなりゾンビ老婆が男に飛びかかった。そして、男の首筋に食いつき、肉を大きく抉り取った。
「ぎょああああああああああああああああああ!」
噴水のような血と共に、男の事情も、財布に入っていた紙の謎も全てが霧散していった。
「おばあちゃん、駄目じゃない。人の話はちゃんと聞かないと」
そう言っている間にも男の血の噴出は止まり、ゾンビ老婆はその体から離れた。
「まったく、しょうがないわねえ。とりあえず帰りましょう」
そうして少女とゾンビ老婆はその場を離れ、家に戻っていった。