優しいおばあちゃんとおまわりさん
ある日の昼、少女とゾンビ老婆は買物に出かけていた。その途中自転車に乗ったパトロール中の警察官が道の向こうからやってきた。
「こんにちは」
少女が挨拶をすると、警官は自転車を止めて笑顔を浮かべた。
「はいこんにちは。おばあさんも元気そうで」
「bbboooryuuuuooiiuuu」
ゾンビ老婆はよだれを垂らしながら返事をした。
「qqryuuuoooppp」
さらにゾンビ老婆は自転車のタイヤに噛みついて、それを食い破ってしまう。
「おばあちゃん、そんなもの食べちゃ駄目」
少女はゾンビ老婆の襟をつかんで軽く引っ張った。
「ooooooogyuuuuuu」
ゾンビ老婆はもがきながらも、一応自転車から離れる。少女は警察官に頭を下げた。
「おまわりさんごめんなさい。おばあちゃんがタイヤ食べちゃって」
「なに、これくらい大丈夫さ」
そう言って警察官は手を振った。だがそこに。
「Gyuruuuuuu!」
ゾンビ老婆が手首を飲み込むように食いついた。
「うぎゃああああああああああああああああああああ!」
警察官はゾンビ老婆を振り払おうと腕を振ったが、ゾンビ老婆の食いつきは強烈でむしろ歯が食い込んで行く。
「うぅわぉおおあああ! おっぶおおいうういっこお!」
意味不明の叫びを上げながら、警察官は拳銃を抜き、がむしゃらにゾンビ老婆に撃ちこんだ。
「kyuru! gooryuu! pero! boyuu! opppouio!」
しかし五発の銃弾を撃ちこまれても、ゾンビ老婆はうめくだけで噛みついた手を放さない。そして、ゴキッっという鈍い音がすると、警察官の手首は噛み千切られた。
「ぎょおおおおおおおおおおお!」
警察官は拳銃を取り落とし、血を噴き出す手首を抱えながらうずくまった。ゾンビ老婆はそれを見もせず、ただ手首をゴリゴリ咀嚼している。
「おばあちゃん、駄目じゃない。おまわりさん困ってるでしょ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ゾンビ老婆は相変わらず手首を噛み砕いているが、おとなしくなった。その間にも警察官は蒼白な顔色になり、すでに声も出せずぴくぴくしている。
「おまわりさん、ごめんなさい。おばあちゃんはちょっと食いしん坊なの」
それから少女は警察官が落とした拳銃を取り上げる。
「でもこんなもの危ないと思うの」
そして少女は拳銃を放り投げた。
「じゃあおまわりさん、またね」
少女とゾンビ老婆は立ち去り、後に残ったのは血だまりに倒れる警察官だけだった。
しばらくして、そこを通りかかった人の悲鳴が響いたりしたが、それはまた別の話で、特に少女やゾンビ老婆に影響を与えるようなことでもなかった。