優しいおばあちゃんとお肉屋さん
「こんにちはお肉屋さん」
少女とゾンビ老婆は肉屋に来ていた。
「いらっしゃい!」
腕髪がもさもさでエプロンをかけた中年の男が二人を出迎えた。
「kyuuuuuuuuooooooo」
「おお、婆さんも元気そうじゃないか!」
中年の男はゾンビ老婆に愛想良く笑いかけた。ゾンビ老婆はそれに臭い息を吹きかけるが、中年の男は動じない。
「さて、今日は何を買いに来たんだい!」
「はい、これ」
少女は一枚の紙を中年の男に手渡した。中年の男はそれを受け取り、読み上げ始める。
「えー、なになに。豚の肩ロースブロックで五百グラムに鶏の胸肉四枚、それから合い挽肉を五百グラムと、それから血の滴るような新鮮な生きた肉と」
それから中年の男はショウケースの奥に入り、手袋をして肉を取り出し始めた。それぞれの肉を包み、次々に並べていく。
「さて、あとは最後の肉だな」
「Gruoooooooo」
そこでゾンビ老婆がショウケースを飛び越えて中年の男に飛びかかり、まずは腕に噛みつこうとした。
「おばあちゃん、ストップ!」
少女の声でゾンビ老婆は動きを止めた。中年の男はゾンビ老婆をどかし、立ち上がった。
「相変わらず本当に元気な婆さんじゃないか」
「ごめんなさい。おばあちゃんはちょっと元気がよすぎるところがあるの」
「いいってことよ。ほら婆さん、これで我慢してくれ」
そう言って中年の男は牛の塊肉をゾンビ老婆に差し出す。ゾンビ老婆はすぐにそれにむしゃぶりつくと、あっという間に食いちぎりながらそれを胃袋に収めていく。
少女はその光景を微笑みながら見守り、中年の男は並べておいた肉を袋に入れていった。それからその袋を差し出し、少女はそれを受け取る。だが、その中身を見て少女は首をかしげた。
「一つ足りないみたいね」
「ああ、それならちょっとついてきてくれよ」
中年の男は店の奥に入っていき、少女とゾンビ老婆もそれに続く。そのまま店の裏庭に行くと、そこには鶏が二羽うろうろしていた。
「どうだい、こいつをこの場で絞めてやれば新鮮だろ」
「uuuuugyuuuuuuuuaaaaaa」
ゾンビ老婆はなんとなく嬉しそうに聞こえるうめき声を上げた。少女はそんなゾンビ老婆に笑いかける。
「よかったねおばあちゃん。さあ! 噛みつき!」
「Grrrrrrrruoooooooooo!」
歓喜の雄叫びに聞こえるものを上げながら、ゾンビ老婆は鶏に襲いかかった。腐りかけのような体に似合わず、老婆は俊敏な動きで鶏を捕らえると、その頭を齧りとった。
それから鶏の首に食らいつき、それを逆さまにしてまずは血を勢いよくすする。
「さっきはおあずけしたからまだお腹が減ってるのね」
「なんだい、ここに来る前にもなんかあったのかい?」
「そうだけど、でも、お使いがあったから急いで来たの」
「そうかい、そいつは偉いなあ」
二人がなごやかに会話しているうちに、ゾンビ老婆は鶏の羽を引きちぎりながら、その胴体にむしゃぶりついて骨ごとバリバリ食べている。
そして数分すると、二羽目の鶏に襲いかかり、今度は足を持って引き裂き、貪りだす。いい加減裏庭には血と羽が飛び散り、ゾンビ老婆は血まみれになっていた。
だが、なぜか少女も中年の男も和やかな雰囲気でそれを見守っていて、不思議と凄惨な現場とはなっていなかったのだった。