優しいおばあちゃんと凶暴カップル
ゾンビというと獰猛な動く死体である。だが、変わったゾンビも世の中には存在する。
「おばあちゃん、こんにちは」
「grrrrraaarrrrrrr」
少女の笑顔と、どす黒い血とよだれをこびりつかせたぐずぐずの顔の老婆が見事なコントラストになっている。異常な状況にしか見えないが、少女は全く自然な様子で、老婆の手をつかむ。
「今日はどこにお出かけするの?」
「bbbbrrrrrrrryyyyyiiiiiiiaaa」
「今日はお買物ね」
そして少女と老婆ゾンビは手を取り合って出発した。
街に繰り出しても、周囲の人々はその組み合わせを不審に見るようなこともなく、ごく自然にしている。
「それでもおばあちゃん、学校でね」
「dirrrrriuuuabbbbbbbbaaaaaaaaaaa」
普通の少女とゾンビ老婆はなごやかに会話のようなものをしながら歩いている。だが、そこにがらの悪そうなカップルが歩いてきて、少女にぶつかった。
「アア! なんだこのガキ!」
女のほうが口汚く悪態をついた。だが、少女はひるまずにそれをにらみつけた。
「何よ! ぶつかってきたのそっちでしょ!」
「uuuurrrrrrryyuuuuuuuuuuuuaaaaaaaa」
「はぁ? 生意気なガキとババアだな」
女はさらに悪態をついて手を組んでいた男をつついた。
「ちょっと、こいつらに痛い目見せてやってよ」
「お、おお」
組んでいた腕を離された男はゾンビ老婆と少女を威圧するように胸を張って立ちはだかる。そして、男はゾンビ老婆を軽く押した。
「なあ婆さん、ガキのしつけくらいちゃんとしとけよ」
「Grrrrrrrrrrrrrrrruuuuuuuuuuuu」
ゾンビ老婆はうなぎながら一歩後ずさったが、すぐに男の手をしっかりとつかんだ。そしてその手に噛り付く。
「うぎゃああああああああああ!」
男は叫びながら腕を引こうとするが、ゾンビ老婆の顎の力は強力で引き抜くことができない。そうしている間にも、なにか嫌な音がしてきて、男の顔色がどんどん青白くなっていく。
「は、離せ! 離せよこのバギャアアアアア!」
「uuuugggggooooooooo」
男の手首がゴフッっという音を出し、ゾンビ老婆に食いちぎられた。ガシガシと咀嚼し、ゾンビ老婆はそれを飲み込む。だが、少女は動じることもなく、ゾンビ老婆の背中に手を置いた。
「おばあちゃん、変なもの食べちゃ駄目じゃない」
「bbbbbbrrrrruooooooo」
ゾンビ老婆は少女の言葉に従うように、ぐちゃぐちゃになっている男の手首を吐き出した。男の手首からは血がぴゅーぴゅーと噴出している。
「クソクソクソクソクソクソ!」
男は手首から先がなくなった腕を抱え、うめきながら泡を吹いている。
「ちっ、使えねえ」
女は男をこづいて転がすと、ポケットから折りたたみナイフを取り出した。そして素早く刃を出してゾンビ老婆に突きかかった。
ナイフはゾンビ老婆の腹に根元まで突き刺さった。女はナイフをそのままにして素早く後ろに下がると、さらにナイフを押し込むように蹴りを入れた。
「Igggyyyyyyyuuuiiiiiii」
ゾンビ老婆は一歩だけ下がったが、腹のナイフは全く気にならないらしい。しかし、抜こうともせず、濁った目で女を見ている。
「おばあちゃん! 噛みつき!」
「GGGGGRRRRRRRRUUUUUAAAAAAAAAUUUUUUU!」
ゾンビ老婆はいきなりダッシュして、女の肩をつかむとその首筋に噛みついた。
「ブギュゥワアアアアアアアアアア!」
女は叫びを上げ、血が噴水のように噴き出した。ゾンビ老婆は首の肉を食いちぎってそれを飲みこみ、さらに二回三回と女の首筋の肉を貪っていく。
「おばあちゃん! 止め!」
声に反応して、ゾンビ老婆は貪るのを止め、女から手を放した。女はその場に崩れるようにして倒れた。
「brugyuuuuuuuuu」
血でその身を真紅に染めたゾンビ老婆はおとなしくなった。
「じゃあ、おばあちゃん、行こ」
二人がその場をさると、残されたのはうずくまった状態で手首から血を流してピクピクしている男と、首筋がずたずたにされて痙攣している女だけだった。