2-1
10年前のマナ異変によりマナの力の弱化し、魔物が現れ世界は大混乱に陥った。
その原因の一つ魔物の出現の対策として作られたのが魔物討伐部である。初期の魔物討伐部は戦人、元素使い、元素研究の3種の職で成り立っていた。
それから2年後、マナの弱化に歯止めをかけるために掲げられたマナの使用制限及び復元が開始される。これにより元素使いと元素研究は今までのように自由な行動ができなくなり、事実上このとき魔物討伐部を動かしていたのは戦人だけとなった。
だが今まで元素使いであっさりと倒せていた物も戦人となれば苦戦を強いられ、時にはその者達に壊滅的な被害を受けることもあった。
それから1年後新たに生まれたのが魔物調査である。魔物の身体や特性を知り、その魔物に一番有効な対処法を生み出すことにより、戦人が討伐するために費やす労力を極限までに減らした。
戦人にとって魔物調査は魔物達との危険な戦いに勝利を導く女神のようなものなのだ。
そう女神のような――
◇◆
心地よい風が吹き渡る。いつもと何の変りもない朝(もう9時くらいだけど)だが何の変りもない世界にも変化ってものはある。
風はお散歩する方角をその日の気分で北へ、南へ、東へ、西へ。
木々はいつも通りくつろぎ喫茶をオープンするが何人お客が来るかはその日次第だ。
するとそこへ最初のお客。2羽のすずめが来店する。
6月初めの初夏を一生懸命葉っぱは遮り、風の手助けもあって2羽のすずめはゆったりと休めているようだ。
おや、こちらのテーブルにも1羽すずめのお客さんが。今日は特別な日だな。俺は自分の皿の上にあるベーコンとレタス、トマトのはさんであるサンドイッチ、通称BLTサンドの先をつねり、パンのかけらをそっと傍に置いてやる。
おや、体が震えている。何かにおびえているみたいだ。大丈夫だよ、これには有害なものなんか一切入ってないんだよ?
しかしすずめは俺の方を見て震えるのをやめない。あーなるほどそうかそういうことか。
この子がおびえているのは、いつもとは違う今日最大の変化いつも俺一人のはずのテーブルにもう一つ置かれているトーストとスクランブルエッグの皿。
そして、その料理を前に座っている。
――どす黒いオーラを放った少女におびえているのだろう。
俺は今日初めての来客を落ち着かせようとそのオーラの元凶をなだめようとする。
「えっと……レリュートさん? 俺に何かご用時でも……」
「お・お・あ・り・よ!」
と一言一言丁寧に発音した後、「よ!」のタイミングでテーブルを思いっきり叩く。
それに恐怖を抱いたのか喫茶ハルトの一羽だけのお客が飛び立っていってしまった。またのご来店お待ちしておりま~す。
さてお客も帰ったことだしそろそろ平和な世界に入り浸るのをやめて、現実の方の解決に移るとしますか……。
「あ、あの、その、まず聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
不機嫌そうな声で聞き返すレリュート。結果はうすうすわかってはいるのだけど一応聞かないわけにはいかなかったことを俺は口にする。
「依頼ってこの場合……失敗?」
「当たり前でしょうがー!」
やっぱりそうでしたか。そもそもなぜいつも一人で座って優雅なモーニングを楽しんでいるこの時間に、もう一人、このどす黒メガネちゃんがいるわけか。
それは昨日こいつが依頼を持ち込んできて、その依頼を遂行したわけなのだが、ちょっとした言葉のミスが原因で険悪なムードになってしまったわけで。――魔物討伐 ――魔物調査、似てるよね?
「これが証拠!」
そんなことを説明している間に、俺に向かって1枚の紙を突きつけてきた。そこには――。
《調査報告返信》
今回の調査ご苦労様でした。
調査内容をこちらで確認させてもらった。その結果、残念ながら今回の資料では新種調査の新規作成としては不十分と判断した。
よって今回の依頼について誠に申し訳ないが、証拠不十分として依頼不成立という決断に至りました。
なお今回の大型亜人種の調査とアルモル元自然公園のイベントに対しては両者とも諸事情によりこちらで解決することになった。
経費の返還については2週間以内に本部に届け出るよう願います。
今回の依頼については芳しくない結果に終わりましたが、これにめげず次の依頼で活躍できるよう心から願っています。
レリュート・エリオット殿
魔物討伐部 本部より
何やら堅苦しい言葉ばかりが連なっていてよくわからないとこもあるが、俺は突きつけられた手紙から視線をレリュートに向かってこうなだめた。
「よかったじゃないか。そこまで怒られているみたいじゃないし」
「十分怒られてるわよ!」
「あれ? そうなの? 俺の親父だったら『こんな依頼もできねーのか!』とかいってくるけどそんな言葉一切――」
「社交辞令よ! それくらいわかりなさい!」
社交辞令ってなんだろう? まずそこからしてわからないんだが、失敗した以上レリュートも上から怒られたということだけはわかった。
「で、この諸事情であの魔物と自然公園のイベント中止になったのは何で?」
「……あんた新聞すら読まないのね」
あの文字ばっかり敷き詰めた紙か。あんなのを読んでいたら頭がおかしくなりそうだから俺は一切読んでいない。あそこに何か書いてあるのだろうか?
俺は魔物討伐部1階にあるテラスから屋内に入りいつも定位置に立てかけてある新聞を持って外に出る。印刷系統がまだ復元されていないせいか新聞といっても2面だけだ。昔は20面くらいあったらしい(親父談)がそんなに読むことなんてあるのだろうか? 俺は一面を見るとそこには写真つきの記事が載っている。
そこに写っているのはアルモル近くの1級河川でその河川沿いに見覚えのある魔物が漂着している。 そして記事の題名(たぶんこの大きな文字だろう)を見ると『謎の魔物が溺死⁉ アルモル郊外で緊急討伐態勢』と書かれている。内容は今朝方近所の住民が河川沿いに何か打ち上げられているとの通報が、アルモルの位置からするとこことは真逆にあたる魔物討伐部に伝えられた。
その後大型亜人種(溺死)の魔物調査が進められ、警戒態勢もあってかアルモル元自然公園で行われるはずだった『深緑祭』は中止となった。
「うーん……つまり」
「つまり?」
「結果おーらいってことか?」
「あんたの無責任っぷりにはほんと脱帽よ……」
頭が石にでもなったかのようにうなだれるレリュート。あれ? 俺いいこと言ったと思ったんだが、どこか間違ってたか?
「で俺に用って依頼失敗とあのでかぶつが無事捕獲? できたってことで終わり? んじゃ腹いっぱいになったしまた寝る――」
「あんたの無責任っぷりは天性ね!」
レリュートはまだ話があるみたく、俺の肩に手をかけてくる。そして先ほどの依頼失敗の手紙とは別の紙を俺の目の前に突き付ける。
それは俺が依頼前に魔物討伐部で書いた契約書である。上の依頼主にきれいな字でレリュートと書かれ、下の契約者には死んだミミズのような字で書かれた俺の名前が書かれている。
レリュートはその用紙を2枚ほどめくり、その一部を指差す。そこには――。
《条約第8条》
契約者が依頼主の依頼に決定的な損害及び損傷または依頼継続不可能に至る重大な過失を行った場合、依頼主は前文によって発生した損失を契約者に請求することができる。
うん、何が何だかさっぱり。だが所々損、損、損と書かれていること、そして今までの一連も考えたら俺にとってありがたくないことだという予想はついた。
「えっとつまり……」
「100万」
「えっ?」
「今回の依頼失敗によって発生した損失、それが依頼報酬であった100万ベルよ。だからその損失を重大な過失を犯した契約者であるあなたが払う必要性があるの」
「はあ⁉」
ちょっと待て⁉ 今まで100万ベルもらえる立場だったが、いきなり立場逆転で俺が払うってどういうことだよ⁉ それにさ――。
「俺そんな大金無いぞ⁉」
そうここ重要。俺は現金どころか借金……もう借金でいいか。20万ベルを親父にツケで後払い予定の俺にそんな大金どこにも――。
「誰かから借りれば?」
簡単に言いやがった!
無慈悲な言葉と氷のように冷たい瞳で冷酷な視線を俺に突き刺さる。こいつ猫をかぶった悪魔だったのかよ! もう一度猫かぶりなおせ! できればメガネ外して!
けど100万ベルなんてどこの誰から借りればいいんだよ。銀行だったら借金が時間と共にどんどん増えるシステムが存在するらしいし、闇金は怖いから却下。親父には流石にもう借りれねー……。
あれか、この場合は夜逃げしかないのか? 今午前だけど。この場合も夜逃げになるのだろうか? 100万ベルなんて到底払えるわけがないし、元々貰えるはず――。
ん? 貰えるはず……そういえばこいつ……
「なあ、お前確か契約の時こう言ってたよな?」
「何よ?」
「確か100万ベル全額を俺によこすって」
「そんな汚らしい言葉づかいでは言ってないけど確かに言ったわ。それで?」
「ならその100万ベルって確かに手に入らなくなったけど、お前一切損してないんじゃないのか?」
「は⁉ 何言っているの? あなたのせいで依頼は失敗して報酬は手に入らなくなったのよ⁉ それに今回の依頼の成功で私はこの依頼で……」
最後の方に意味深なことを言おうとして口を濁らせたがまあいい。俺にはまだ次の手がある。
「それからお前は住民を守るためにとか言っていたよな? それなら多少結果は変わっちまったが、 新聞に書いてあったように警戒態勢もしっかりできて、深緑祭も中止になって被害でなくなったじゃないか?」
「う……」
よし! 言い包めた。これで俺の借金はチャラに――いやまだ20万ベルあるか、でもあれはツケだしな。
「な、なら経費、経費の分を代償してもらうわ! そっちは返却しなくちゃいけないから私にとっては大きな損失よ!」
一難去ってまた一難か。なんでここまで食い下がるんだこいつ。よっぽど今回の依頼が失敗に終わったことに憤りを感じているのだろうか?
「よっぽど俺に請求したいんだな……ちなみに経費っていくら?」
「あんたが本当に無責任すぎるからよ! 私はこのときのために3年も……、と経費は列車代、バス代、食費などなどで合計3万5000ベルよ」
また言葉を濁したな。今回の件に関して何か特別な思い入れがあったみたいに思えるのだが、とりあえず俺は目の前にある問題について解決することにした。
「俺3万5000ベルすらないんだが」
そうお金なんて一切ありません。100万どころか1万すら持っていない俺にとって経費の分ですら大金である。ここでどうすればいいと聞けばまた「借りれば?」と残酷な結果しか訪れないのはわかりきっている。どうすれば……
「あー……もう仕方ないわね! じゃあこうしましょう」
意外だった。情け無用でバッサリ切られるのかと思っていたら何やら救済措置を用意してくれるみたいだ。俺は次の言葉に期待して口をはさむことはしなかった。
「あんた仕事見つけること下手そうだし、ブラウソンさんみたくずっと借金返せって言うほど私には時間がないの。だから私が直接本部から近場に仕事がないか聞いてみるからあんたはその仕事ちゃんとこなすよう努力しなさい」
仕事やるからそれをしなさい。……奴隷ですか?
とはいうものの仕事を探してくれるのはありがたい。なんせここ、ステイン魔物討伐部には多くても1日1~2個、時には1週間くらい仕事がないこともある。
レリュートの言い分だと猶予はたったの2週間、その間に3万5000ベルはかなりきつい。それにここらの仕事は警備やら日用品採取くらいだから収入もかなり低い。警備にいたっては日にちもくう。
「確かにそっちの方が助かるな。なんせここじゃ仕事すらないからな。お前のとこ本部なら何かすごい仕事あるんだろ?」
「それが救いの手を差し伸べた人物に対しての頼み方なのかしら……。まあ時間もないしさっさと長距離連絡して仕事貰わないと、向こうはここと違ってかなりの人数がいるからね」
そういって自分の多機能小型機を取り出し、パネルを操作する。
連絡先を探しているようだ。俺の多機能小型機の連絡先はステイン魔物討伐部つまり親父のみだから検索する必要性すらない。
魔物討伐部本部の連絡先が見つかったのか、レリュートは多機能小型機の横から黄色の光の線を引き出し、それを耳元へとつなげる。それから数秒後――
「もしもし、魔物討伐部魔物調査所属レリュート・エリオットです。アスナさんはいらっしゃいますでしょうか?」
パネルをタッチするとともに現れた黄色の所々穴のあいた円、その部分に向かって話だした。どうやらアスナさんという人が依頼をくれるらしい。
「あ、アスナさん。私ですレリュートです。昨日の件につきましては本当に申し訳ありませんでした」
そういって深々と頭を下げるレリュート。親父もそうだけど長距離連絡する時って相手が目の前にいないのに頭下げるやつってよくいるよな。こいつもその類か。
そう思い、思わず鼻で笑ってしまう。
(ギッ!)
めっちゃ睨まれた! 超こえ―!
「それで昨日の代償として経費だけでも契約主から弁償していただこうとしたのですが、生憎相手方が持ち合わせの方がないみたいで、本部の方からステイン近郊の依頼を頂いてそちらの報酬を返済に回す形にしようかと思いまして……現在ステイン近郊の依頼はいくつ残ってるか調べていただけないでしょうか?」
昨日の大型亜人種のような顔から一変、素に戻って柔らかい口の訊き方をしだす。これがあの営業スマイルというやつなのだろうか?
それから数分、無言の時間が続いた。たぶんアスナさんが依頼を探してくれているのだろうか? 話の間に俺は置き去りにされていたBLTサンドをすっかり食べ終え、レリュートはすでに冷めたであろうスクランブルエッグを少しずつ口にくわえながら待っていた。トーストに手を伸ばそうとしたその時――
「あ、アスナさん見つかりましたか?」
トーストへ伸ばした右手が耳と光でつながれた多機能小型機へと進路を変えた。フラれたトースト、哀れだな。
「はい、はい、あ、先ほどの場所についてもう一度お願いできますでしょうか? ありがとうございます。うーん……それでは移動の際にこちらの依頼を遂行しながら行きますので、だいたい10日以内にそちらに到着すると思います。その時またお願いできますか?」
内容を紙にメモしながら話を進めているようで、メモには魔物の名前、何かを意味する数字、後何のことだかさっぱりわからないカタカナの用語がいくつか書かれていた。
「ふう……。結構使っちゃったわね。リセットまで後2日何も使えなさそう……」
黄色の糸が周囲の空気と同化した後、レリュートは多機能小型機のスクリーンを見て愚痴る。
多機能小型機は長距離連絡のためではなくそれはあくまでオプションである。本来は元素使いのマナ使用量を計るための物で、一定量を超えると罰則が科せられる。もちろん俺たち元素使いじゃない人間にもそれは適用される。
「で、次の依頼はどこなんだ?」
「ここから一つ離れたサンガ村の魔物討伐部付近の依頼だからとりあえず一旦そこまで行ってから話すわ」
サンガとは昨日行ったアルモル元自然公園よりもさらに北に進んだところにある魔物討伐部で、河川敷に流れ着いた大型亜人種の調査及び警備にあたったのもそこの魔物討伐部である。
「じゃあまずはそこに行くわけなんだろうけどちょっといいか?」
「何よ?」
「そこに行くまでのお金は?」
「借金に上乗せ。その分も含めて働いてもらう予定だから」
「ま、まじかよ……」
「何ならあんただけ歩いていく? それならタダだけど予定時間に遅れてきたらただじゃすまないからね」
「……上乗せでお願いします……」
本当に俺返せるのだろうか。不安になってきた……。
「それと。これすっごい大事なことだからちゃんと聞きなさいよ」
そういって俺の顔に自分の顔を近づける。え? 何このどきどきシチュエーション?
「あんた、私の言うこと絶っっっ対に聞きなさいよ! 前みたいなへまこいたら承知しないからね! なんなら今のうちに罰則決めておこうか⁉」
んなわけないですよね~。単なる忠告でしたよと。
「あーわかった、わかった。お前の言うことはちゃんと聞くよ。後何か間違えそうになったら言ってくれよ。戦闘中に考えながら動くって結構難しいからな」
「それは単に修業が足りないんじゃないのかな? まあいいわ、未熟だってことでそこらへんは考えておくわ」
やたら偉そうに言われたんですが、まあ俺今奴隷みたいなもんですからね……。
「色々決まったことだしさっさと行くわよ。後、本部から頂いた依頼だけじゃあなたの借金は返済しきれないから本部についたらそこでまた仕事受けるわよ」
レリュートはそう言ってトーストを口にくわえ自分の荷物を取りに行く。
「あなたも準備するものあるならさっさと準備してよ」
とはいうものの正直着替えの服くらいしか俺の持ち物ってないんだよね。しかも強引に押し込めばディパックの中に入るからほぼ手ぶら同然なわけですよ。
俺は何やら色々と用途がわからないものをバックから取り出し整理しているレリュートを横目に魔物討伐部の2階へと上がっていった。
◇
飾りっ気のない廊下を奥へと進む。突き当りから2番目の扉の前でおれは足の向きを90度変える。古びて力いっぱいひねって引けば取れてしまいそうなドアノブをゆっくり回し部屋へと入る。
そこはこぢんまりとした部屋で東向きについた一つの窓、ベッドカバーが少し茶色じみたベッドが窓から見て左側に設置され、そしてここの部屋でもっとも異彩を放ている天井すれすれまである立派なタンスが置かれている。
ここは俺の部屋だ。本来はステイン魔物討伐部の休息室であったが、借りる宿もなかった俺が住みつくようになってからは完全に俺の部屋と化した。もちろん家賃など払ってはいない。ほとんど寝る、着替える、の2パターンしかしなかったものの、俺にとっての約10年間はほぼここが拠点であった。
俺は中に入り、この部屋でやけに目立つタンスの扉を開く。
タンスの中は隙間だらけで、左端にハンガーにかけられた服が追いやられている。ハンガーにかけられた服はどれも今着ている服と似て、ぐしゃぐしゃでよれよれなのばかりだ。
その中の上下セットを一つ取りベッドの上へ放り投げる。その後ディパックを腰から外し強引にその中に入れる。さらにしわが付くがここまでなってしまったものにそんな悩み事など不要である。
俺の準備はこれにて終了。すごいあっさりしているな。
ふと窓の外へ視線をやるといつも見ている光景がそこには映っていた。魔物討伐部前のアスファルトの道路には車どころか人一人すら通っておらず、その道路の先を目で追うと町と呼べるほどではないが住宅地が見える。何度か依頼をしに向かったものの、それ以外の目的で町に赴いたことはほとんどない。
ただここからその町の風景だけを眺めていた……。
俺が部屋から出るとちょうど親父と出くわした。
「おう。どうしたこんなところで。お嬢ちゃん下で待ってるぞ」
「そうか。あ、親父俺しばらくここに戻ってこないかもしれねー。なんか借金返すためにサンガ行って依頼こなして、その後本部の方でも依頼をするんだと。話によると2週間はかかるみたいだ」
「魔物討伐部の本部というとハドルティオスか。そこなら依頼がわんさかあるからついでにそこで20万ベル稼いで来いよ!」
「はあ⁉ それって俺のけ者にされてるような気がするんですけど⁉」
「そういうわけじゃねー! ただな……」
親父が最後の方でしんみりした感じの声で会話を中断し黙り込む。なんだよいきなり気持ち悪いな。
「お前ハドルティオスに行ったことはあるか?」
「ねーよ、ハンペンテンツユなんてとこには一度も」
「ハドルティオスだ。全く物覚えの悪い奴だな……じゃあサンガの方はどうなんだ?」
「一度依頼で立ち寄ったことはあった気がするがあまり覚えてないな。すぐに依頼に向かっちまったからな」
親父はなぜこんなことを聞くのだろうか? 第一ずっとこの魔物討伐部にいるということを一番理解している人物のはずなのに。
「お前はな……10年もこの土地にいる必要性はないんだぞ?お前くらいの年ならもっといろんなことに興味を持つ年だろうが?」
「まあ確かに俺も今年で18歳だ。形ではな。けど俺あんまり興味ないしな外とか」
「そういうお前が不安なんだ。お前には色々欠けてる部分があるように見えて仕方ないんだ。お前が一人間としてこのままの状態でいることがいいのだろうかと俺は時々不安になる」
どこかうつむき加減な親父。親父のこういう顔はあまり見たことがない故に俺も心配になってくる。だが俺はどう返せば……そんなことを考えていると。
「ハルトー! 遅い! 早くしないとバスの時間すぎるわよ!」
階段の下から主のお怒りが聞こえる。まずい! 奴隷として早くお付になれねば!
「親父すまんが呼ばれているみたいだから行ってくるよ」
「おう、そうか。ここのことは心配いらんから。存分に頑張ってこい!」
「なんか遠まわしに俺追い払ってないか?」
「ほら、早く行かないといけないんだろうがさっさといけ!」
「ちくしょー! 覚えてろよ!」
俺は吐きセリフを口にしその場を後にする。もしあっちで稼げたとしても親父にはしばらくツケを返してやらないと心の中で決めた。
「必要なんだよ。10年前のあの時以来何も変わらないお前にとって……」
親父がぶつぶつ呟いていたが駆け降りる際に発する階段のきしむ音でその言葉はよく聞き取れなかった。
作者無駄事囁
作者もBLTサンド好きです。ベーコン、ローストチキン、つくね……て肉類ばっかりだー