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魔物図鑑コンプリートは結構重労働です。  作者: 謎のD
EP4 新人魔物調査の力量を調査せよ!
13/15

4-3

「俺ここで安い宿探そうかな」

 突然の移住計画に全俺が驚くこともなく賛同の歓声をあげる。

 理由は単純だ。

 ここの飯がうまいし、安すぎる!

 一度は1000ベルタダで食えることに大喜びしたものの、よくよく考えると1000ベルという価値に少なからず不安があった。それは先日判明した俺の金銭感覚のなさがここ最近後を引いていることにつながる。


 遡ること3日前。立派な大衆食堂で俺はレリュートと金銭トラブルで口論となった。それが最終的にこじれまくり、レリュートの堪忍袋の緒を切る羽目となった。今は何とか口論前の関係にまで戻すことはできたが、あの時受けたビンタの痛みは、頬にも脳にも鮮明に刻み込まれている。

 今は金銭の問題なので話を戻すと、俺が大衆食堂で頼んだ料理の数は俺の胃袋からすれば満足の域だったが、レリュートの考えからすると異様だったという。実は俺とレリュートがステイン魔物討伐部ハンターギルドから発った日から既に食に関する理念の違いがあった。

 ステインを発ってから3日前まで、食費はレリュートが毎度経費から出してくれていた。

けどその量は今までの食事と比べたら圧倒的な少なさで、俺は毎度抗議していた。とはいえいつも「あなたの立ち位置は?」というお決まりの文句で、俺はレリュートに対抗することができなかった。

 おかげで俺は1週間近くひもじい思いをしてきたが、遂に3日前、呪縛が解放され俺は今までの空きを満たすよう頼んだわけだ。それにレリュートが憤怒し、怒りにまかせて1万ベルを俺の顔へと投げつけた(実際はテーブルに投げ捨てられたんだけどね)おかげで俺は金銭的に余裕ができたと思っていた。

 まさかその1万ベルがすぐになくなるとは、この時思ってもいなかったわけだ。

 後の会計で俺が食べた総額は9000弱であったことが判明。喜びが一瞬にして絶望へと変わった。

 もし今までレリュートが抑止しないで、この調子で食べていたら、後々返却する予定である今回の旅での経費はどれくらいに膨れ上がっていただろう。考えるだけで身震いがする。

 後にわかった魔物調査ファインダーに対する誤認もあってか、その後レリュートの経費で賄われる食に関しては考慮するようになってしまった。問題が起きた日の夜何て、俺はパンひとつで済ませようとした。レリュートも流石にやりすぎだと思ったのか、主菜や副菜を指差し色々付け加えるよう促し、今までとはまるで逆の立ち位置となってしまった。

 そんな感じで3日前以降ろくに食事をとっていない俺はレリュートの経費を考えなくても済む昼食に思わず興奮の声をあげてしまった。けどそれもつかの間、前回の9分の1で一体何が食えるのか心配になった。けど考えても無駄なので俺は食堂のカウンター近くにあるメニュー看板を見に行くことにした。

 3日前から何だが俺は料理名を見る前に値段を見るようになってしまった。今までの俺の行動を考えるとかなりの末期だ。時には20ベルと書かれていて「これは安い!」と思ったメニューが「氷」と書かれていたことに首を項垂れることも。

 がっくりと項垂れる俺を見ていたレリュートが、他人のふりをしようとしたときなんかはさらに落ち込んださ。

 今回はレリュートがいないから落ち込みまくれる……とは言いたくないが、値段を見てからメニューを確認して落ち込む毎度のパターンがあっても、化け物の攻撃以上の深い傷を負わなくても済む。

 とりあえず目につく値段から見ていくことにした。

 今までとは違い500ベルといい値がすぐに見つかった。

 「これくらいならパン2個かな……」

 ちなみにステインのおんぼろ食堂なら、小皿にのっかる肉炒めとご飯大盛り1杯はいける値段だ。ここもサンガと同じ物価であるのなら前者が普通だろう。

 「肉食いてーな……」

 カウンターの奥から漂う肉の匂いを感じて衝動的に思った。

 実際は食っているのだが、サラダに加えられているものだったり、スープに小さくカットしてあるものばかりで見た感じで「肉!」と呼べるものはここ最近食べていない。

 1個でもいいから固形物を、などと思いながらゆっくりとメニュー欄に首を持っていく。

 「カットステーキ100グラム」

 ………………は?………………

 願いは受け入れられた。

 だが信じられる状況ではなかった。

 もう一度値段を見るとそこには500ベルと書かれている。

 ぶれないように首を瞬時に横移動する。そこには先ほどと同じ「カットステーキ100グラム」が書き記されている。

 「まじかこれ……」

 値段もさることながら俺はステーキと呼ばれる類を一度も食べたことがない。それは高級なものであり、俺みたいな庶民戦人バトラが食べられるものではない、と断言していたからである。

 それが目の前で作られているのだ。しかも手が届く値段で。振り子のように何度も首を振るっているうちにステーキ以外の情報も自然と目に入ってきた。

 「エビフライ・250ベル」「からあげ・300ベル」「ハンバーグ・350ベル」

 どうやら主菜関連が集まっているようだがどれを見ても安い! なぜこの値段で出せるのだろうか? ついでに他の欄も見てみると先ほど2個500ベルと考えていたパンが1個60ベル、2個で120ベルだ。ご飯は1杯50ベルだそうだ。量はわからないが肉と言えばご飯という俺の常識もありこれは外せない。

 値段が安いことはわかった。となると量か質にでも問題があるのだろうか?

 胃袋を満たすのであれば庶民派の俺にとって質はさほど問題ではない。

 問題は量か……最近値段を考えながら選ぶようにはなったが、グラム単位まで考えて選ぶことは流石になかった。そもそも料理の中にグラムが書いてあること自体知らない俺が、そこまで考えているわけもない。現状でもステーキにはグラム数が書かれていても、ほかの主菜には書かれていてない。先ほどまでパンの1,2個と考えていた俺にとって、肉のグラム数はかなりの問題だ。なんせ肉に飢えているから。

 看板にずっと貼り付けとなっている変質者と化した俺に声をかける者はいない。なぜなら俺以外誰も食堂にいないからだ。壁にかけられた時計を見る。あの時計が正しければ11時を10分ほど過ぎた辺りか。だとするともうじき人が大勢押し寄せてくるのだろうか。

 暖かな日差しを受け照らされる窓際のテーブルから手前にまで4列もあり、それが奥にも連なっている。かなりの大人数が共有できるスペースだから、必然的にそう思えたわけだ。

 タイムリミットは残りわずか。迫る選択の中俺が出した結論は――

 「すみません。ハンバーグと――」

 庶民派の俺に高嶺の花は無理だった。やはり質より量になるのだろうか。といってもハンバーグが100グラム以上とは限らない現状もある。

 というわけでステインの食堂でもなじみの肉炒めを選ぶことに、いわば保険である。

 後はご飯も外せないので大盛りにして頼む。そして汁物を頼んで気付いたのがまだ100ベル以上余裕があるということだ。けど流石に100近くのメニューは主食以外には……と思っていたらデザートがほぼ100台だったのでその中から適当に一品頼んだ。

ほぼおつりがないところまで計算しつくされたラインナップは、自分で言うのも何だがかなりいい線をしていた。俺は来賓用食事券をカウンター越しにいるおばちゃんに渡す。

 「ありがとうね。そこの受け取りカウンター前で待っててね。すぐにできるからね」

 近所の親切なおばちゃんみたいな年季の入った優しい返事に、何だか穏やかな気持ちになる。ステインの時は婆ばかりだと愚痴をこぼしていたが、若い女性が思っていたよりも凶暴であったこともあり、 こういった優しさは身に染みる。

 そういえば凶暴メガネは今頃どうしているだろうか? まあ相手があの意味不明人物であるからして、うまくいっているわけがないだろうな。

 その点今日の俺は色々得をしている気がする。1次試験中は休憩できるし、いいもの見れたし、昼食タダだし、食事はバランスよく取れてるし、いいこと尽くしだ。まあ500ベルのカットステーキと300ベルのハンバーグには――

 そこで思考が一旦停止する。500と300。2つ足しても1000行かないんじゃ――しまったー! 普通に2つとも頼んでおけばよかったんだ! それでも200余るからご飯くらいは頼めるし、別段栄養バランスなんて考えなくてもよかったし!

 厨房をカウンター越しで見ると既にご飯の盛り付け、スープの用意、デザートの用意、と主菜副菜以外の準備は既に完了していた。

あの優しいおばちゃんに注文代えさせてなどわがままなことは、とてもじゃないが言えないので、俺は 泣く泣く諦めることにした……。

 「はいよ。待たせたね。残さず食べるんだよ」

 俺が後悔しているところにいかにもお母さんって感じの台詞で俺が頼んだメニューの並んだトレーを俺の前に置いた。

 そこには9000弱の豪華すぎた食事には流石に劣るが、けども1000ベル以内では到底見ることができない豪華な食事が並んでいた。

 俺は間近なテーブルへと足早に着いた。どれもこれも3日間のひもじい時の食事とは違い匂いだけでも満足が行く品ばかりだった。

 その中でもやはり肉。ハンバーグにまず目が行く――前に箸が進んだ。もう感傷も観賞もしているわけにはいかなかった。ある程度の肉の感触はあったものの、すっと箸で切れるほどの柔らかさを感じながら、俺はすぐに口へと運ぶ。飢えた俺はそのままがつがつ――

 「うまい……」

 行く予定だったがここで小休止、というか感激。ステインにいた頃はここまで感じることもなく、ただ時間が来たら食べるとしか考えてはいなかった。

 食べることがこんなに喜べることとは、そう思いながら残りをかなり速いスピードだがそれでも一つ一つ味わいながら食べすすめた。

 「親父。俺ここならまともに働けるかも」

 など今までの俺じゃ考えられない言葉を心の中で呟くまでここの食事は素晴らしかった。


 そして今に至るわけで俺の前には既にトレー自体がなかった。食器の返却口と呼ばれるところがあったので、そこへトレーごと返してきたのだ。普段なら片づけもしない俺が片づけもするとは、もしかしてここ数週間で俺かなり変わった?

などと盗人が足を洗ったかのような気分に入り浸る。

 「しっかし、すごい数だな」

 俺一人しかいなかったときは白いテーブルのみの雪原のようだったが、今は人だかりばかりで雪原のキャンパスはあらゆる色で塗りつぶされた。

 時刻はほぼ12時で今後更に増えるのだろうか?

 今いる人数だけでもステインでは見たことがない。

 ここにいる全員が魔物討伐部関連の人だとすると、俺が思っていた以上に魔物討伐部は、大規模な存在何だな。今まで自分が見てきた世界とは全く違い、そこにはいろんな人がいた。

 誰もかれもが名前も知らない他人で、唯一の共通点が魔物討伐部の所属であることだけだ。各々が自分の好みの食事を選び、気の合う仲間、もしくは同僚、はたまた上司と部下同士で話し合っている声が四方八方から耳に入ってくる。

 ふとそんな中、一人でいる自分が、他よりも浮いていることが気になった。

 ほとんど席の埋まったテーブルの中、俺の座るテーブルには俺一人だった。

 つまり独占状態だ。

 ステインにも数10人の戦人がいたものの、年齢はかなり違い、名前は知っていても会ったことすらない人、はてには名前も顔もいるのかも知らない人すらいたかもしれない。

 俺はずっとそこで一人だった。一人で依頼をこなし、一人で飯を食いに行き(金がなければ親父に集り)、一人で床についていた。それがさみしいとは思わなかった。なぜならそれが普通だと思っていたからだ。

 それがどうだろう。今までとは全く違う環境に来てみれば、金銭感覚は違う、魔物討伐部所属なのにその常識すら知らない。そして何より身近な人間がほとんどいない。まぁ、一度も来たことがない土地なら身近な人がいないのは当たり前だが、前述のようにステインにいた時も、これに等しかった。

 「なんか淋しいな、何もしてなかったせいと言えばそうとしか言いようはないが」

 4人分のテーブルを一人で独占している俺のため息に似た声に、誰一人気付くことはないだろう。そう思っていた。

 「ならばこんなの試してみない?」

 予想外の呼びかけに声のした方へと振り向く。

 そこには何もかもを包み込んでしまいそうな漆黒の髪、それとは対極的に照らし出すような白い肌にある目、鼻、口と言ったパーツは全て穏やかに丸みを帯びている。黒のフォーマルスーツがとても似合うアスナさんがそこには立っていた。

 レリュートと一緒に試験官をしているのだと思っていたが、なぜこんなところにいるのだろうか? それよりも――

 「試すって何ですか?」

 俺が落胆している中、アスナさんは助言するかのように一つの提案を持ちかけた。

 「あなたはレリュートちゃんのことどう思っているのかな?」

 もしかしたらそっち方面の話ですか! てか、さっき少しやばい行動に出ていたのを既にアスナさんにばれている以上、嫌な予感しかよぎってこない。

 「あのー……先ほどの黙ってもらう約束守ってますよね?」

 まずは安全確認。ばれたら今度こそ首を刈られてしまうかもしれない。

 「あー。――――――そのことについては大丈夫よ」

 思い出したように声をあげると、続きの言葉を俺の耳元で囁く。ワザとじゃないですかこれ⁉

 「でも、今回はそっち方面じゃないわよ」

 やっぱりその気で話してたんですね⁉ でも今回は別の話らしいのでほっとする。

 「じゃあ何なのですか?」

 この人、冗談が多いから少し取っ付きにくいんだよな。アンジェとはまた違った相手しづらさがある。

 「話は変わっても話題の中心はレリュートさんなんですけども、ハルトくん。あなたが目覚めた時の話覚えていますか?」

 目覚めた時? あー。レリュートに首折られた時の話かな? 俺は返答の代わりにうなずいて答える。

 「そう、覚えてくれたのね。あの子何の理由で魔物調査ここに入ったのかわからない上に話してくれないのよね。それに研修期間の際も黙々と講義に取り組んで、他の人より圧倒的に先走っているように見えるの」

 その話を聞いてもう一度記憶をしっかりと辿りなおすと、確かにレリュートは昔無言で暗かったと言っている。それは単に友達がいなかったというわけではなく、ひたすら勉学ばかりしていたってことなのか。

 「でもあいつ新種調査の際、人助けのためにと言ってましたよ?」

 「それはたぶん単なる口述だと思います。だいたいの人はそれを理念にして動いていますからね。それにもう一つ不審な点が……」

 アスナさんは一瞬戸惑いを見せたが話を続ける。

 「ハルトくんはタンタロス洞窟をご存じですか?」

 タンタロス? ステイン近く以外の地理はほとんど詳しくない上に、ステイン近くにそんな洞窟はないはず。俺は首を横に振った。

 「タンタロス洞窟。魔物討伐部の中では最も危険な地帯と言われている場所なの。その奥にはマナの誕生の地、マナポートがあると言われています。実際に私が確認したわけではないので何とも言えませんが」

 最も危険な地帯……俺が今まで戦ってきた化け物の中で突出して強かったのは、やはりアルモル元自然公園で遭遇した、あのでかぶつだろう。それと同じくらい、もしくはそれ以上がうじゃうじゃいるのだろうか? 

 「それでその洞窟とレリュートにどのような関係が?」

 アスナさんは鼻から息を吸い一呼吸置いた後、重々しく口を開いた。

 「レリュートさんは、どうもそこへの調査を望んでいるみたいなのです。あそこはベテランでもなかなか立ち入れない区域で、それなりの実績が必要なのです。もちろん人助けという口述と、ここへの調査は全く関係ありません。実際、この洞窟に近接しているナッドルタからは、タンタロス洞窟の魔物による被害は一切出ていません」

 あいつは最も危険な地帯へ自ら進んで志願しているのか? しかも人助けとは全く関係ないってことは私用かもしくは別の意味で……

 「実績としては3年目にしてかなり優秀な方ではありますが、なんせ実戦経験が明らかに乏しいので見送りにはしてきました。しかし、何度言っても切願するのを止めないので、その時入っていた本部依頼を完璧に成し遂げたら、考えてあげると口約束したのです」

 「あのー……まさかその本部依頼って……」

 本部依頼。たぶん本部からの直接の依頼というわけだろう。そして俺はそれに心当たりがあった。なぜなら――

 「そう。あなたが原因で失敗したとレリュートさんが激怒していた、アルモル元自然公園での大型亜人種の新種調査ノベルファインドよ」

 なるほどねー……つまりあいつが激怒した原因は、アスナさんとの口約束を果たせなかったからというわけか。

 アスナさんのせいでとんでもない目にあったと思うよりも、理由は知らなかったとはいえあいつには悪いことをしてしまったと思う気持ちが大きかった。普段の俺ならあり得ない良心的な考えである。まあここまで聞いてきた話から察するに俺への提案というのは――

 「レリュートがそこへ行けるよう手助けするってことですか?」

 危険地帯に行く手助けというと、自殺を手伝っているように思えて後味が悪いが、これは俺の責任である以上果たさなければならないのだろうか?

 「うーうん」

 アスナさんは否定の言葉を伝える。

 「レリュートさんにそのような危険なこと、私はさせたくありません。ですからあなたにはあの子がなぜ、あのような危険地帯に行きたいのかを突き止めてほしいのです」

 「でもアスナさんでも無理だったことを俺が聞き出せるのかな……」

 3年物付き合いがあるアスナさんと違い、会ってまだ2週間以下の俺に、自分の上司にすら打ち明けられない秘密を、レリュートが応えてくれるのだろうか? それに俺はレリュートが目的地へいけなくなった原因菌を作った男である。

 「私が言うのも何だけど。聞き出すだけが解決策じゃないと思うの」

 アスナさんの不可解な台詞に俺は首を傾げる。

 真意を聞かずにどう解決するのか? 何かに手書きで伝えたりでもするのだろうか?

 「私はレリュートさんが研修生であった頃から、常に相談という名の事情聴取を何回も行ってきたわ。それが間違った行動であっても、上の者と下の者という立場では、一番手っ取り早く、一番マイナーな手段だったのよ。けれどもそれが無理だった。だからあなたに託そうとしたのよ――上と下じゃない平等な存在としてね」

 アスナさんが誤った過去の問いかけを淡々と語った。上下関係が招いた失敗、社会のしがらみというものだろうか? けれどもそれなら、尚更話す以外の解決策を見つけなければならない。一体どうすれば?

 「そういえば――レリュートさん遅いですね」

 そんなことを考えているとアスナさんが突然、話題を切り替える。それでも話題の中心はまたもレリュートである。この人がレリュートをどれだけ心配しているのかが手に取るようにわかる。

 時刻を見ると12時を既に過ぎており、15分近くにまで来ていた。俺がレリュートと別れて1時間半近くが経っていた。

 「長くても1次試験は45分くらいで終わるはずですから、もうここへ来ていてもいい時間なのですが……」

 どうやら1次試験というものは、案外早く終わるみたいだ。2次試験が実地であることから、1次試験はほんのおまけ程度なのだろうか?

 それにかなりの時間がかかっているという。俺は一抹の不安を感じた。

 「アスナさん――試験会場に向かいましょう。おそらくこのままだと日が暮れても終わらないかもしれないので……」

 「え? 1次試験は単純な作業の試験ばかりですよ? 一般的な常識・・・・・・さえあれば誰でもすぐ行えることばかりですからそんなことは……」

 ええ、おっしゃいたいことは重々承知です。だがアスナさんは知らないのだ。

 今回の受験生は一般的ではない・・・・・・・ということを。


 作者無駄事囁ライターウィスパー

自分はメインの食べ物を最後まで残す派です

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