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幻想神魔伝 〜Huanxiang shen mo chuan〜  作者: 奈津輝としか


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第1話 VRオンラインゲーム【幻想神魔伝】

「さ~てと、今日もキャラを演じきりますかね」


 俺、青山瑞稀(あおやまみずき)は、世界的人気を誇るVRオンラインゲーム『幻想神魔伝』の魅力に沼っている1人である。俺はこのゲーム内に於(お)いては、女性キャラを演じている。いわゆるネカマだ。


 何故ネカマになったかと言うと、この幻想神魔伝を始める前にやっていたソシャゲでは、カードのトレードが頻繁に行われており、あまり治安が良く無いゲーム(ネットスラング)でチャットが荒れているのは日常茶飯事だった。しかしそんなネットスラングでも、ゲーム内の人口は圧倒的に男性が多く、出会いを求めている者も多かった為に女性には優しく、ネカマでいると被害を受けるどころかチヤホヤされるのが心地良かった。


 それが理由でこの『幻想神魔伝』がリリースされると、広告の絵柄や世界観が面白そうで直ぐにインストールし、作成したキャラも女性キャラにしたのだ。この世界での俺の名は、【花木蘭(ファ・ムーラン)】と言う。あの世界的な鼠(ねずみ)で有名な会社のアニメになった事でも良く知られる。


 花木蘭(ファ・ムーラン)は実在せず、楽府(がふ)詩集第25巻に収められた叙事詩に登場する。北魏時代、徴兵令によって年老いて患(わずら)っている父が無理矢理に従軍されそうになり、父に代わって髪を切り男装して出征する。木蘭(ムーラン)は遠く寨北(さいほく)の地を転戦し、柔然(ローラン)相手に武勲を挙げて皇帝より将軍の地位を授けられるが、それを断り故郷に帰って親孝行する事を望む。そして木蘭(ムーラン)の故郷に、生死を共にした同僚や部下達もついて来るが、彼らの前に現れた木蘭(ムーラン)は女性の姿で現れ、ずっと側にいたはずの彼らは誰1人として木蘭(ムーラン)が女性であった事に気付かず大いに驚いた。と言う物語を62句で詠(うた)われたものである。



 俺は『幻想神魔伝』を遊ぶ為に、VRカプセルに入った。言わば、家庭用冷凍カプセルみたいな感じだ。カプセル内で横たわり、脳波をゲームにシンクロさせると、まるで自分が本当にゲーム世界にいるかの様な感覚を覚える。このVRカプセルは120万円もする為、ユーザーは基本的に金持ちの道楽息子みたいな奴らばかりだ。俺の様な貧乏人は、βテスト版の無料体験者用に作られたVRカプセルが運良く当選でもしなければ、遊ぶ事すら出来なかっただろう。


“シンクロ率20%…”


“シンクロ率上昇中…”


“シンクロ率60%…”


 俺はシンクロ率の上昇と共に、深い眠りに誘われた。


 深淵が広がる暗闇と静寂が訪れた後、眩(まばゆ)いばかりの光に包まれて再び目を開けると、そこは『幻想神魔伝』の世界が広がっていた。


「青い空に白い雲、少し冷んやりとした空気。ラビアータよ、私は戻って来た!」


 このクソ恥ずかしい台詞(せりふ)は固定のもので、勝手に口を突いて出るので拒めない。ラビアータとは、この『幻想神魔伝』の始まりの街だ。俺はβ版から始めていたので無課金でありながら、世界ランク22位である。廃課金者に勝るものと言えば、時間しか無い。とにかくログインをして、少しでも長い時間をかけて敵を倒し続ける。ドロップ率が0.02%しか無いUR装備を手に入れる為だ。


 だけどこの途方もない努力を、廃課金者達は金の力で一瞬で追い越して来るのだ。世界ランク10位内は、化け物しかいない。UR装備を入手するだけでも奇跡に近いのに、廃課金者達はUR装備を重ねて上限MAX状態である。10連ガチャ3000円を1000回も回せば、確定でURが排出される。つまり300万出せばUR装備は必ず手に入る。無課金の俺が、どう転がっても敵(かな)う相手では無いのだ。


 しかもこの世界では、プレイヤーキルが存在する。ネカマで良かったと思うのは、この時だ。相手がか弱そうな女の子である為に、殺戮する事を躊躇(ためら)うのだ。現に俺のフレンドの約8割が、俺を殺そうとした奴らだ。俺の理想に近いアバターで、会心の出来だと自負している。つまり、途轍(とてつ)もなく可愛いのだ。殺すのを躊躇(ためら)いたくなるくらいには。


 俺は始まりの街の想い出に浸(ひた)りながら、スポットを目指した。スポットとは、一見すると電柱にも見えなくもない鉄で出来た柱だ。これに魔力を込めると解放され、他に解放されたスポット間をワープする事が出来る。


 だが、無料で使用出来る為にユーザーが多く集まるので、当然キルされる確率が上がる危険地帯である。安全にワープしたいなら、1個1000円の課金アイテムである『携帯用スポット』を使えば良い。俺には、そんな金の余裕など無い。1ヶ月に1度、月初めに10連の3000円ガチャを回すので精一杯だ。アイテムに課金するくらいなら、ガチャを回す。優先順位はガチャが上だ。


 世界ランク22位と言えども油断など出来ない。自分よりも上位ランカーが、平気で歩いている時があるからだ。普通に歩いていただけで、世界ランク17位に襲われた事がある。


 このVRゲームの恐ろしい所は、徹底したリアリティの追求による感覚器官の同調(シンクロ)にある。地面に触れ石を握れば握った感覚が、炎の魔法で敵を焼けばその焦げた肉の臭いが鼻を突く。花の蜜を舐めれば甘く、敵に斬られれば血飛沫(ちしぶき)を上げ斬られた痛みが確かにある。ある者は崖から落ち、その恐怖と激痛によってショック死した者が現れた事故もあったほどだ。


 当然警察が介入し、運営の何人かは逮捕されたが、何故かゲームは配信停止にはならなかった。それから痛覚機能を遮断出来るシステムがアプデされ、ユーザーの意思で切る事が可能となったのだが、感覚がリアルと言う事は、性的な行為すらもリアルであると言う事だ。俺は世界ランク17位に襲われ、半殺しにされた状態で草むらに引き摺(ず)り込まれた。装備を引き剥(は)がされそうになったが、これでも俺は世界ランク22位だ。上下UR装備のセットは、破られる事は無かった。その為に下着を足首まで降ろされ、あわや貞操を失う寸前で助けられた。彼は世界ランク9位で十傑と呼ばれ、この世界では神の如き存在だ。


 十傑の強さは異次元で、通常Aランクの5人パーティですら全滅の可能性があるSランクの魔物を、たった1人で討伐出来る強さだ。いや、それどころか擦(かす)り傷1つ受ける事も無いのだ。


 かつて全員参加のイベントでレイドボス討伐し、イベント終了後にふざけて十傑の1人が、「全員かかって来いやぁ!」と言ってその時間に参加していた30万人の一斉攻撃をわざと受けたが、無傷だったほどの異次元ぶりだ。


 このゲーム世界で十傑を知らぬ者は無く、そのうちの1人はアラブの石油王だと聞いた。一体いくら課金している事やら。そんな中、無課金最強を目指す俺も有名人の1人だ。何せ無課金の分際(ぶんざい)で、世界ランク22位なのだから。家が建つほど課金した人よりも強いのだから、嫉妬と羨望の両方を受ける身なのだ。


(何故俺が、無課金のくせに強いのか?)


 それは、幻想神魔伝にも数多くの武器や防具、アクセサリーなどが登場するが、それぞれにUR装備を超えるアイテムが存在する。それを『神魔装備』と呼ぶ。その装備は世界に1つしか存在せず、URやSSRの様に重ねる事が出来ない。いや、する必要も無い。MAXまで重ねたUR装備よりも強いのだから。


 そんな装備の1つである最強の剣、『神魔剣・練気剣(ヴァジュラ)』を持っている。宝探しイベントで、奇跡的に発掘したのだ。基本的に装備は、強奪されない仕様だ。キルされて奪われるのは、ゴールドと素材などのアイテムだけだ。まぁ、それでも奪われると痛いのだが。


 とまぁ、レイプされそうになった事もある俺だが、このゲームは何も大人だけがやっている訳では無い。見た目が20歳くらいだが、中身が8歳の女の子だった子もいる。そんな子が俺の様な目に遭(あ)えば、一生もののトラウマになる事だろう。


 中には、リアルでは出来ないし有り得ない体験をしたいと、何人もの男性に抱かれる女性もいる。感覚器官が同調(シンクロ)しているので、性的快楽を得る事が出来る。だがこのゲームが問題視されたのは、感覚器官までが同調(シンクロ)される事によって、ゲーム世界と現実世界を混同してしまい、ゲームも現実も分からなくなって犯罪を犯す者が増えた事である。にも関わらず、このゲームが配信停止に追い込まれる事は無かった。


 今思えば、それを「おかしい」と感じるべきだったのだ。このゲームを作った運営会社の背後にはあの国が付いており、ユーザーは知らぬ間に何かの人体実験にされていた事を…。


 

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