第二王女に見放された男爵男子は、まもなく第一王女に見初められた
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男爵男子であるわたしは、かねてからの言葉にあったとおり、スカーレット第二王女と結ばれるものだと考えていた。
なのに、いきなりだ、フラれてしまったのである。
どういう理由、了見があってのことなのかわからないから、「どういうことでございますか?」と下手に出つつ訊ねた。
「あなたがしょうもないニンゲンだとわかったからよ。ええ、あなたは興味に薄いニンゲンだわ」
「わたしは姫様に気に入られようと身を粉にしてきたつもりです」
「それでも足りなかったのよ。残念ね」
「……わかりました」
「あら、物分かりがいいわね。何がわかったのかしら?」
わたしはあなたの主人の候補から、潔く身を引きます。
それは残念ね。
まるでそう思っていないのだろう、そう感じられた。
「見限られてしまった以上、わたしはわたしが生きたいように生きます」
「好きになさいな。誰もそこに文句を吐こうとは思わないわよ」
後悔することになるぞ――とは言えなかった。
だってわたしは、わたしに自信がないのだから。
そうでなくても、相手はわたしよりずっと立場が上の人物なのだから。
「もう去りなさい。私はもはや、あなたに用がないのですからね」
「わかっています。あなたの前から、一生、いなくなります」
「良い心構えね」
「最後に一言、言わせてください」
「何かしら?」
「あなたはくそったれです」
悔しまぎれにそれだけ言って、わたしは彼女に背を向け、彼女の前から去った。
後ろから憎まれ口を叩かれるということはなかった。
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失意の底にあったとは言わない。
だけど、王女の主人になれないことについては、とりあえず、我が家の家人に悪いと考えた。
それはそうだ。
ひょっとしたらわたしのせいで、家のニンゲンは王族から冷遇に晒されるかもしれないのだから。
それでもわたしは間違ったことはしていないと思う。
第二王女のほうが、つくづく明らかに、ヒトデナシなのだ。
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第一王女がわたし会いたいのだという、その旨、使いのニンゲンから聞かされた。
はぁ、なんだ?
わたしは第二王女に無礼を働いてやったんだぞ?
そうであるのに、第一王女さまがわたしに会いたいのだと?
理由はわからないが、とことん謎めいたことだとは感じた。
はて、いったい、第一王女はわたしになんのようがあるのか――。
第一王女は第二王女とはまるで違う美しい女性だった。
特に特徴を語るまでもない、とにかく美麗な女性だった。
「ごめんなさいね、妹が無礼を働いてしまって」
べつにそんなふうには感じていかったのだけれど、第一王女は丁寧にその旨、伝えてきた。
べつにそんなことは思っていなかったものだから、「いえ」とだけわたしは答えた。
「ほんとうにべつに。わたしは何も不愉快には感じていません」
「ほんとうに?」
「それくらいのことで怒るようなら、それこそ子どもだと思います」
「大人ね」
「常々、そうありたいと考えています」
「立派だと思うわ」
「ありがとうございます。それで、第一王女さまともあろう御方が、わたしごときになんの御用ですか?」
第一王女が難しい顔をした、「どうあれ卑下するのは良くないわ」とまったくもってその通りなことを言ってくれた。
「それはそのとおりですね。申し訳ありません」
「いいのよ、べつに。私はとにかくあなたのことを買っているから」
「その理由がわかりません」
「理由なんてナシにしましょう」
いよいよという段階でわたしをフッてくれた第二王女の名はスカーレット、さすがのわたしも知っている。
第一王女であるあなたの名前も知っています、アシュリーさま。
だから?
――と、アシュリー第一王女は訊ねてきた。
「第二王女にフラれんぼなんです。だから、第一王女たるあなたとなんて……」
「スカーレットは見る目がなかったのよ。だから彼女はそのうち盛大なるしっぺ返しを食らう」
「だからと言って、わたしがアシュリー王女と結ばれていいといういわれはなくて」
「まあ、いいじゃない。私はあなたのことを愛してしまっているのだから、あなたの子を孕んでみたいの」
さすがのわたしも、目を白黒させた。
わたしの子を孕みたいとか、それは突拍子もないイレギュラーでしかない。
「一緒になりましょう、男子男爵のベニチオさん。ベニチオさん? 私はとっくの昔から、あなたのことを愛しているの」
愛しているの――いかにも重苦しい言葉だ。
だけど、一緒になってくれると言うのであれば。
わたしは彼女に尽くそうと思ったわけだ。
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第一王女は騎士を指名する立場だ。
謙虚?
奥ゆかしい?
どうあれわたしは第一王女から騎士の立場を与えられた。
何があっても王女を守らなければならない役割だ。
不思議と、わたしには自信があった。
どんな蛮族からでも彼女を守る自信があった。
だから左右の肩に順繰りに剣を乗せられたあとも、誓いを求められてからも「御意にございます」との返事ができた。
わたしはあるいは嫌われているのかもしれない。だけど、第一王女――アシュリーがわたしのことを「これでめでたく私は私の騎士を得たのだ!」と毅然とした大きな声で発すると、途端、あたりに拍手が響き渡った。
アシュリーは立派なのだ。
だから、彼女が騎士を迎えたとなると、拍手が湧き、大きな歓声が響く。
わたしはアシュリーの隣を歩き、それから誰にも文句を言わせないつもりで、胸を張って帰り道を辿った。
わたしはきみたちがどれだけ愚かであろうと、その旨、謳わない。
だからこそ――いや、ただ、だからこそ、きみたちはアシュリーとわたしに従うべきだ。
誰もわたしたちに逆らうな。
その旨、違えてくれたら、容赦なく、容赦なく――。
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二年後、わたしはアシュリーに子を生ませた。
かわいすぎるくらいかわいい子で、わたしは涙したくらいだ。
わたしには、子がそれなりに育つまで、子の面倒を見る必要がある。
そこにわたしは自身の生涯のモチベーションを見る。
当該国家のことはどうだっていい。
ただただ、将来、我が子が運営しやすい国を続けてやろうと思うのだ。
ありがとう、アシュリー。
わたしはきみのおかげで、途方もなく前を向くことができた。
情けないわたしに対して、ほんとうにありがとう。




