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第二王女に見放された男爵男子は、まもなく第一王女に見初められた

作者: XI
掲載日:2026/03/20

*****


 男爵男子であるわたしは、かねてからの言葉にあったとおり、スカーレット第二王女と結ばれるものだと考えていた。

 なのに、いきなりだ、フラれてしまったのである。

 どういう理由、了見があってのことなのかわからないから、「どういうことでございますか?」と下手に出つつ訊ねた。


「あなたがしょうもないニンゲンだとわかったからよ。ええ、あなたは興味に薄いニンゲンだわ」

「わたしは姫様に気に入られようと身を粉にしてきたつもりです」

「それでも足りなかったのよ。残念ね」

「……わかりました」

「あら、物分かりがいいわね。何がわかったのかしら?」


 わたしはあなたの主人の候補から、潔く身を引きます。


 それは残念ね。

 まるでそう思っていないのだろう、そう感じられた。


「見限られてしまった以上、わたしはわたしが生きたいように生きます」

「好きになさいな。誰もそこに文句を吐こうとは思わないわよ」


 後悔することになるぞ――とは言えなかった。

 だってわたしは、わたしに自信がないのだから。

 そうでなくても、相手はわたしよりずっと立場が上の人物なのだから。


「もう去りなさい。私はもはや、あなたに用がないのですからね」

「わかっています。あなたの前から、一生、いなくなります」

「良い心構えね」

「最後に一言、言わせてください」

「何かしら?」

「あなたはくそったれです」


 悔しまぎれにそれだけ言って、わたしは彼女に背を向け、彼女の前から去った。

 後ろから憎まれ口を叩かれるということはなかった。



*****


 失意の底にあったとは言わない。

 だけど、王女の主人になれないことについては、とりあえず、我が家の家人に悪いと考えた。


 それはそうだ。

 ひょっとしたらわたしのせいで、家のニンゲンは王族から冷遇に晒されるかもしれないのだから。


 それでもわたしは間違ったことはしていないと思う。

 第二王女のほうが、つくづく明らかに、ヒトデナシなのだ。



*****


 第一王女がわたし会いたいのだという、その旨、使いのニンゲンから聞かされた。


 はぁ、なんだ?

 わたしは第二王女に無礼を働いてやったんだぞ?

 そうであるのに、第一王女さまがわたしに会いたいのだと?


 理由はわからないが、とことん謎めいたことだとは感じた。

 はて、いったい、第一王女はわたしになんのようがあるのか――。


 第一王女は第二王女とはまるで違う美しい女性だった。

 特に特徴を語るまでもない、とにかく美麗な女性だった。


「ごめんなさいね、妹が無礼を働いてしまって」


 べつにそんなふうには感じていかったのだけれど、第一王女は丁寧にその旨、伝えてきた。

 べつにそんなことは思っていなかったものだから、「いえ」とだけわたしは答えた。


「ほんとうにべつに。わたしは何も不愉快には感じていません」

「ほんとうに?」

「それくらいのことで怒るようなら、それこそ子どもだと思います」

「大人ね」

「常々、そうありたいと考えています」

「立派だと思うわ」

「ありがとうございます。それで、第一王女さまともあろう御方が、わたしごときになんの御用ですか?」


 第一王女が難しい顔をした、「どうあれ卑下するのは良くないわ」とまったくもってその通りなことを言ってくれた。


「それはそのとおりですね。申し訳ありません」

「いいのよ、べつに。私はとにかくあなたのことを買っているから」

「その理由がわかりません」

「理由なんてナシにしましょう」


 いよいよという段階でわたしをフッてくれた第二王女の名はスカーレット、さすがのわたしも知っている。

 第一王女であるあなたの名前も知っています、アシュリーさま。


 だから?

 ――と、アシュリー第一王女は訊ねてきた。


「第二王女にフラれんぼなんです。だから、第一王女たるあなたとなんて……」

「スカーレットは見る目がなかったのよ。だから彼女はそのうち盛大なるしっぺ返しを食らう」

「だからと言って、わたしがアシュリー王女と結ばれていいといういわれはなくて」

「まあ、いいじゃない。私はあなたのことを愛してしまっているのだから、あなたの子を孕んでみたいの」


 さすがのわたしも、目を白黒させた。

 わたしの子を孕みたいとか、それは突拍子もないイレギュラーでしかない。


「一緒になりましょう、男子男爵のベニチオさん。ベニチオさん? 私はとっくの昔から、あなたのことを愛しているの」


 愛しているの――いかにも重苦しい言葉だ。

 だけど、一緒になってくれると言うのであれば。


 わたしは彼女に尽くそうと思ったわけだ。



*****


 第一王女は騎士を指名する立場だ。


 謙虚?

 奥ゆかしい?

 どうあれわたしは第一王女から騎士の立場を与えられた。


 何があっても王女を守らなければならない役割だ。


 不思議と、わたしには自信があった。

 どんな蛮族からでも彼女を守る自信があった。

 だから左右の肩に順繰りに剣を乗せられたあとも、誓いを求められてからも「御意にございます」との返事ができた。


 わたしはあるいは嫌われているのかもしれない。だけど、第一王女――アシュリーがわたしのことを「これでめでたく私は私の騎士を得たのだ!」と毅然とした大きな声で発すると、途端、あたりに拍手が響き渡った。


 アシュリーは立派なのだ。

 だから、彼女が騎士を迎えたとなると、拍手が湧き、大きな歓声が響く。


 わたしはアシュリーの隣を歩き、それから誰にも文句を言わせないつもりで、胸を張って帰り道を辿った。

 わたしはきみたちがどれだけ愚かであろうと、その旨、謳わない。

 だからこそ――いや、ただ、だからこそ、きみたちはアシュリーとわたしに従うべきだ。


 誰もわたしたちに逆らうな。

 その旨、違えてくれたら、容赦なく、容赦なく――。



*****


 二年後、わたしはアシュリーに子を生ませた。

 かわいすぎるくらいかわいい子で、わたしは涙したくらいだ。


 わたしには、子がそれなりに育つまで、子の面倒を見る必要がある。

 そこにわたしは自身の生涯のモチベーションを見る。


 当該国家のことはどうだっていい。

 ただただ、将来、我が子が運営しやすい国を続けてやろうと思うのだ。


 ありがとう、アシュリー。

 わたしはきみのおかげで、途方もなく前を向くことができた。


 情けないわたしに対して、ほんとうにありがとう。


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