第5話 自由への追放と新しい夜明け
窓辺でドガーラ王国の町並みを見ていると、背後のドアの向こうから声がした。
「アリーヤ入ってもいい?」
「どうぞ、お入りください」
部屋に入って来たのは恋人のディエゴだった。
グレム・ディエゴ・ラモス王太子。
この国の次期国王である。
ディエゴは王太子でありながらラモス国王からうとまれていた。非道な行いを何度も諫言するので王太子を廃嫡して二男を跡継ぎにする話が進められていた。
私はそれがこの国の未来に最悪の結果をもたらすと思った。だから、ディエゴにアプローチしたのだ。私の計画に驚きながら、この国の進むべき正しい方向だと協力してくれたのだ。
今回の事態でラモス国王と反王太子の一派は、アルゴ王国辺境の流刑地おくりとなった。
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じりじりと皮膚がただれそうな炎天下。ラクダのキャラバン隊が砂漠の地平線から姿を現した。目的地の日干し煉瓦の白い建物がようやく見えてきた。
長い旅路の果ての到着点だ。
ラモス国王は、ラクダから降ろされた。側近の5名とともに目の前に広がったオアシスの泉とみすぼらしい隊商宿に目を向けた。
「ようこそ、ラモス国王。ここが新しいあなたの王宮です」
出迎えたのは、この監獄の所長だった。
「ここが王宮だと、ふざけんな! ワシは帰るぞ」
「どうぞ、お帰りになってください。止めはしません」
「何だと」
「ここは砂漠の孤島です。周囲300キロには、井戸も宿もありません。徒歩での移動は不可能です。キャラバン隊に紛れて逃げようとしてもオアシスで身体検査をされます。ここのキャラバン隊員は腕に細かな入れ墨をしていますが、それが通行手形になっておりますので、もし見つかればその場で処刑されます。そしてラモス国王の首に多大な報奨金がかけられていますので、周辺の族長たちが舌舐めずりして、脱出を心待ちにしていることをお伝えいたします。あしからず」
「ちきしょー。ワシはここで一生囚われの身になるのか!」
「いいえ、ここには牢屋がありません。どこに行こうが何をやろうとかまいません。みんな平等です。あなたは王族の枷を外れて自由を手に入れたのです」
「うぎぁぁぁ──!」
泣き喚いたラモス国王が、ふと我に返った。
「そうか、わかったぞ。あまりにも手際が良すぎる。仕組んだな。いったい誰が? もしや……すべての災いはあの女がわが王国にやって来て始まった」
ラモス国王の脳裏に、アリーヤの美しい顔が浮かんだ。
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ディエゴは私の手をとって爪の状態を確かめた。10本の指の爪がすべて剥がされていた。爪のない醜い傷跡に顔をしかめた。
「だいぶ良くなったけど……完治には程遠いですね」
私は肩をすくめた。背中にはムチで打たれた痕が残っているし、首を締めつけられた痣もある。打撲は数十箇所あった。よくぞ生きていたなと思う。
拷問はアクシデントだった。
買収した拷問官が病気になって急遽別の人物が務めることになった。これで“フェイク”の拷問はなくなった。
私は歯を食いしばってひたすら耐え忍んだ。
ネグレクトの母が連れて来た男の顔が目に浮かんだ。子どもをいたぶることに快感を得るサディストだった。そんな奴らに私は負けない。転生した世界でも負けたら、私の存在意義はどこにある。私はこの世界で強く生きる道を選んだのだ。
「こんな醜い体の女でも愛してくれますか?」
私はディエゴの目を見ながら言った。少し不安だった。
ディエゴは黙って指先の傷跡にキスをした。
私はディエゴの首に両手をかけて背伸びをした。
ディエゴは私の背中にやさしく手をまわした。
唇へのキスは情熱的だった。
「会わせたい人がいるんだ」
ディエゴは宮殿の控えの間に私を連れて行った。
そこには貧民街で会った3歳の女の子カミーラがいた。隣にいる女性はひと目で母親だとわかった。
「カミーラの母でアイラともうします。グレム王太子様とアリーヤ王女様の尽力によって娘と再会できました。ありがとうございました」
「本当によかったですね」
私は言った。
「ディエゴがグレム王太子? アリーヤが王女? なんで、変なの」
カミーラが首をかしげた。
「これ! 呼びすてなんてとんでもない」
私とディエゴはお互いの顔を見合わせて吹き出した。
「かまわないですよ。僕らとカミーラは友だちですから」
カミーラと最初に出会ってから何度も一緒に遊んだ。この子と一緒に人形遊びをするのは楽しいひとときだった。
二人が帰ったあとディエゴが言った。
「いつかカミーラみたいな子供が欲しいな」
「そうね」
私はドレスの上からそっと下腹部を押さえた。
──もう誰にも、私の人生を踏みにじらせはしない。
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