22話
その後、その場は解散となった。
もちろん灰で汚したところはお掃除しましたよ。
私がリリーシアの生まれ変わりであるとわかったことで、エイベル殿下は今後の作戦の変化を決めたという。
その作戦の中身とやらは教えてもらえなかったけど、私が部外者というわけではない…というか、殿下と結婚したいなら部外者ではいられないというのが正確な所。
…まぁ間違いなく、ミルドレッド様が関わってくるんでしょう。
そういうわけで、エイベル殿下と側近たちで今後の作戦を練り直し。
決まり次第、連絡してくれると言う。
そしてその時は1週間後におとずれた。
「よく来てくれたな、アリス」
場所は殿下の私室。
執務室では侍女の私がいると不自然ということでこちらに。
私と殿下は対面でソファーに座り、側近たちは横に立っている。
「まず、私がルベアを演じていた理由から説明しよう。目的は…リリーシア殺害の犯人を捕まえるためだ」
「…そうなんですか」
表向きは事故死として処理されているリリーシア。
それは間違いなく他殺によるものだ。
その犯人を15年に渡って追い続けている殿下は、ものすごい執念だ。
「当然だろう?私から愛するリリーシアを奪ったのだ。たとえどこにいようと絶対に追い詰めるさ」
「殿下…」
愛するだなんて言われたら恥ずかしいじゃない!
サラッとそんなことを言う殿下に、頬が熱くなるのが分かる。
「…俺、リリーシア様のことでこんなに嬉しそうに話す殿下、初めて見るよ」
「いつも悲壮感がすごかったからな」
「あれからすごかったもんな。殿下の祝い酒に付き合わされて、俺二日酔いで死にそうになったし」
「そこ、うるさいぞ」
側近の方々の会話を殿下が黙らせた。
祝い酒だなんて、そこまで喜んでくださったのがうれしくてたまらないわ!
「ごほん…それで、目下犯人と疑っているのは、君も知っているだろうアイクオ家のミルドレッド嬢だ。あの家は、公爵家としての権威を取り戻そうと躍起だ。その一つとして私と結婚して王妃になり、アイクオ家は王妃の生家として政治に関わろうとしている。私はルベアとして別人に扮し、ミルドレッド嬢含む高位貴族の令嬢たちから、リリーシア殺害の証言や証拠を集めようとした。…残念ながら、違う事件の証言証拠は集まったが、リリーシア殺害に関する決定的な証拠が得られずにいる」
「そうだったのですね。……では、ルベア様が女性好きというのは?」
「…まぁ、結果的にはそう見えるだろうな。先に言っておくが、私はリリーシア一筋だったし、これまでも誰かを考えたことはない。少なくとも、犯人を捕らえるまでは、誰かと結婚など考えたこともない」
「殿下…」
リリーシアのためにそこまでしてくれた殿下に、嬉しさと……罪悪感。
私のことなんてさっさと忘れてくれれば…とは言わない。
でも、それでも複雑な気持ちになってしまうのは、抑えられなかった。
それが表情に出てしまったのか、殿下は苦笑していた。
「気にすることはない。結果的には、君にまたこうして会えたんだからな」
「…殿下!」
もう!すぐそういうこと言うんだから、恥ずかしくなっちゃうわ!
「…隙あらば惚気るとか勘弁して」
側近の方からぽそっと言われたけど、これって惚気なのかしら?
よく分からないけど、嬉しいから気にしない!
「話を戻すが、一番問題なのはリリーシアの死因が分からないことだ。ありとあらゆる毒の本を探ったが、血を吐いて死ぬ毒の記述はない。それが分かれば、その入手経路と現物所持を確保でき、罪状を確定できる」
「そうですね。私も薬学大全を読んでみましたが、毒で吐血するような記述は無かったと思います。病気ならありうる症状ですが、当時のリリーシアは健康そのものでしたから、その可能性も無いと思います」
「…さすが、君のほうでも調べていたか。そう、だからこそ手詰まりなんだ。作戦を練り直そうと思ったが、いい案が浮かばない」
殿下はソファーに背を預け、疲れたように天を仰ぐ。
そうよね、15年もなかなか進まなければ、疲れるのも仕方ないわ。
そこで私はある策を思いつ、手を叩いた。
「そうだわ!殿下、あの時と同じことをして、罠に仕掛けませんか?」
「罠?」
「はい。リリーシアのときと同じく、王城でお茶会を開くんです。その前にこっそり私が殿下の婚約者候補だという情報を流します。そうすればリリーシアを殺した犯人は、また殺して排除しようとするはずですわ。その時に捕まえるんです」
「ダメに決まっているだろう!危険すぎる。君は何を言っているんだ!?」
あらら、せっかくの名案だと思ったのに、殿下には拒否されてしまいましたわ。
でも、これ以上ない案だと思う。
だって相手は殿下が15年追って尻尾を出さないんですもの。
なら、ここは多少のリスクを負う覚悟も必要ですわ!
「東洋の国にはこんな言葉があるそうですわ、『虎穴に入らずんば虎子を得ず』!危険無くして結果は得られません。それに、犯人を捕まえないと、いつまで経っても殿下と安心して結婚できませんわ!」
「…それは、そうだ、な」
「でしょう?おそらくですが、事件が明るみになってないので犯人は同じ手段をとると思います。15年も前ですし、成功してますから可能性は高いです。罠も張りやすいはずですよ」
「………」
「殿下!」
もうここは押し切ってしまうわ!
私はまだ15歳だけど、殿下はもう27歳。
いつまでも未婚はまずいし、立太子などもある。
「…なぁ。もう殿下とこの娘が結婚するのが当然みたいな流れになってるけど、いいんだよな?」
「逆に、ここから殿下が違う令嬢と結婚すると思うか?」
「思わないな」
「そういうことだ。俺たちは…もう流れに身を任せよう」
相変わらず側近の方々が何か言っておられるようだけど、気にしない。
殿下を見つめる。
殿下も私を見つめてるけど、フイッと目をそらした。
「…君にはかなわないな。わかった、君の案で進めよう」
「ありがとうございます!」
「ただし、準備はこちらで進める。やるからには万全の準備をしないといけないからな。それでいいか?」
「はい!」
なんとか今後の予定が決まり、一安心だわ。
殿下に微笑みかけると、殿下も微笑んでくれる。
やっと殿下の元に戻って来れた…それを強く実感したわ。




