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平民でも王子様と結婚します!~転生公爵令嬢は手段を選ばない~   作者: 蒼黒せい


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21話

 殿下の寝室に入ってきたルベア様は、部屋を見渡した。

 殿下?と、それにつかみかかって号泣している私。

 脱ぎ置かれた仮面に、灰で汚れた寝室。

 そしてもう一度私へと視線を戻した。


「なぜ君がここに……」


 驚くルベア様に、私も驚くしかない。

 どうしてここにルベア様がいるのか。

 まるで部屋の主でもあるかのような振る舞いに、疑問しかない。


「ルベア…様?こそ、どうして…ぐすっ」

「……もう誤魔化せないな。仕方あるまい」


 額に手を当て、しばし悩んだ様子だったルベア様は、絞り出すようにそう言った。

 誤魔化す?

 何を?

 そして何より、今目の前にいるルベア様が、普段とは全然違う雰囲気を纏っていることに戸惑いが隠せない。


「…アリス、そろそろその手を放してやれ。気の毒だ」

「あっ…うっ、す、すみません……」

「いえ……」


 その後、寝室から部屋のほうに移動し、私とルベア様は向かい合わせにソファーに座った。

 側近たちと殿下?はルベア様の背後に控えている。

 この状況に、既に頭には一つの仮説が浮かんでいるけど、それが本当なのか迷いがあった。

 側近の方から濡れタオルが渡され、顔を拭く。


「泣き止んだか?」

「はい…見苦しいものを見せてしまい、すみません…」

「気にしなくていい。さて……」


 ルベア様は足を組んで、後ろを見やる。

 それに側近たちはビクッと体を震わせた。


「ずいぶんと気が抜けていたようだな。確認を怠るとは」

「…申し訳ございません」

「……だが、まぁいい。いい加減、化かし合いにも疲れてきたところだ。そろそろ決着をつけるべきだろう」


 ルベア様と側近とで行われている会話の内容は意味が分からなかった。

 化かし合い、決着?

 もう何もかも聞きたくなるのをぐっとこらえ、待つことにした。


「さて、どこから話したらいいものか」


 ルベア様がこちらを見やる。

 その雰囲気は、昔何度も傍で感じたことがあるもの。

 それだけで、仮説がどんどん確信に変わっていった。

 この雰囲気は、そう簡単に他人が真似することなんてできるものじゃない、まさに王族だけが持つものだから。


「まずは、そうだな……私が、本物のエイベルだ。エイベル・チェットアメン。この国の第一王子にして、王位継承権第一位である」

「本物……」


 似すぎてはいると思った。

 でも、雰囲気や性格が違いすぎて、別人だと思っていたのに。

 それなのに、今本物だと言われると、それが嘘だと感じない。

 こんなにも変わるなんて、まるで劇団員のようだわ。


「ルベアは私の仮の姿だ。第一王子のままでは動きにくいからな。そのために影武者を置いていた。私の不在を悟らせないようにな」

「殿下……」


 やっと目の前に、焦がれたエイベル殿下がいる。

 その事実にだんだん心臓が激しく動き出す。

 ダメなのに、もうそんなことをしていい歳じゃない。

 でも、もう抑えられなかった。


「殿下ぁ!」

「っ!?」


 気付いた時には殿下に飛び掛かっていた。

 殿下の背中に手を回し、その胸に顔をうずめ、力いっぱい抱き締める。

 15年前と違って、たくましくなった胸板。

 低くなった声。

 使う香水を変えたのか、柑橘系のすっきりした香りがする。

 時の変化を感じ、その時を一緒に過ごせなかった悔しさがこみあげてくる。

 でもそれも、今こうしていられることを思えば我慢できそうだ。


「殿下!」


 側近が声を上げる。

 それを殿下は手で制した。


「大丈夫だ」


 殿下の手が私の背中に回り、抱きしめ返してくれる。

 それが今は嬉しかった。


「ずっと…ずっとお会いしたかったです」

「……そうか」

「気付けず、申し訳ございません」

「…いや、気付かれては困るのだがな」


 その通りだ。

 違う人を演じていたのに、気づいてしまっては元も子もない。

 そうなるとやはり、どうして別人を演じていたのかが気になる。

 わざわざ影武者を置いてまで。


「んん……さて、そろそろ離れてもらえるか?このままでは話しづらい」

「あっ、えっと、そう…ですね」


 渋々離れることにした。

 本当は抱きしめたまま話してほしかったけど、今はまだだものね。


「…だが、その前に答えてもらうことがある。正直に答えないなら、これ以上は教えられないし、君もただではこの部屋から出さない」

「はい!なんでも聞いてください!」

「そ、そうか…」


 もう殿下には何でも答えちゃうわ!

 そのつもりで返事したのに、なぜか殿下がちょっと引き気味なのはどうして?

 さぁ、何を答えないといけないのかしら。


「ならば答えてもらおう。私の侍女になった目的は何だ?」

「殿下と結婚するためです!」

「…君も、王妃になりたいのか?」

「結果的にはそうなるかもしれませんが、殿下が王位を継がなくても結婚したいのは変わりません!」

「………」


 聞かれたことに答えたのに、殿下は頭を抱えて黙ってしまったわ。

 どうしたのかしら?

 もう聞きたいことが終わった?


「…君はどうしてそこまで私との結婚にこだわる?」

「殿下が好きだからです!」

「…………」


 鼻息荒く、声高らかに宣言!

 ああ、言っちゃった!

 私の告白に殿下は変わらず頭を抱えたまま。

 でも、耳がちょっぴり赤くなってる。

 昔から殿下は、好きだって言うとちょっとだけ耳を赤くするのよね。

 表面上はなんてことのないように受け止めてらっしゃったけど、ちゃんと反応してるのは昔と一緒。


「……なぁ、嘘言ってると思う?」

「ありえないですね。あんなにまっすぐな目、見たことないです」


 側近の方々が何か言ってますが、よく聞こえないわね。

 まぁひそひそ話もあるでしょうし、今は気にしないでおきましょう。

 黙ったままだった殿下がようやく顔を上げ、私を見やる。

 表情はちょっとうつろっぽいかしら?


「…何故だ?私がいつ、君にそこまで好かれるようなことをしたんだ?」

「昔からです!」

「いやだから……」

「リリーシアのときから、ずっとです!」


 その瞬間、空気が凍った…気がする。

 あ、勢い任せに言っちゃった。

 でも、殿下にはいつか言うことになるかもしれなかったもの。

 言っちゃったものは仕方ないわ。

 殿下の目が驚きに見開かれ、じっと私を見る。

 驚いちゃうわよね、そんなこと言ったら。


「…君が、リリーシア……だと?」

「はい!」

「…証拠は?」

「ありません!」


 その瞬間、側近の方々が崩れ落ちた。

 どうしたのかしら?


「それ自信満々に言うことじゃないだろ…」

「でも、なんか殿下が言ってたリリーシア嬢そのままって感じではあると思う」


 崩れ落ちた方向から何か聞こえるけど、やっぱりはっきり聞こえないわ。

 それはさておき、証拠はないもの。

 最悪、信じてもらえなくても構わない。

 だって、リリーシアだから結婚したいんじゃないもの。

『私』が結婚したいんだから。

 だから、どっちでもいい。


「……くくっ、ははっ」

「…殿下?」


 突然殿下が笑いだした。

 それに私も、後ろで立ち上がった側近の方々もどうしたんだろうと殿下を見る。


「なんだか、似ている気はしたんだ。まさか、本人とはな」

「信じてくれるんですか?」

「にわかには信じがたいが…生まれ変わりという概念が教会にあったな。そうか……」


 殿下が私を見る。

 その目は、リリーシアのときと同じ優しいまなざしだった。

 その目でまた見てもらえている。

 それが嬉しくて、私は目の前のテーブルを足蹴にして、また殿下に抱き着いた。


「殿下ぁ!」


 そんな私を、殿下は優しく受け止めてくれる。


「ははっ。ああ…間違いないな。この後先考えない感じは、リリーシアそのものだ」


 そう言って、優しく抱きしめ、髪を梳いてくれた。


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