表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

第6話 怒られるのも“セット”です

【Aパート:沙良】


(“振り子のイメージ”……)


朝、自室の鏡の前。

私は何度もフォームの確認をしていた。


(葛城くんの言う通り。自然に脚を振る動きが、ストライド改善につながるはず)


(正しい努力。正しいやり方。

間違いはない……はず)


【Bパート:グラウンド】


放課後。

人気の少ないトラック。


“振り子フォーム”を意識して走り出す。


1周目、違和感。

2周目、痛み。


(……えっ? 太ももの付け根……痛い)


ペースを落としても、痛みは残った。


顧問が走路の端から近づいてきた。


「佐伯。止まれ」


私は素直に説明した。


「……葛城くんのアドバイスで、“振り子のイメージ”を試して……」


顧問は深くため息をついた。


「葛城を呼んでこい」


【Cパート:監督室】


葛城と私は、並んで立たされていた。


顧問は葛城をじっと見た。


「お前が選手にアドバイス?

知識も実績もないのにか?」


葛城はうつむいた。


「……すみません」


今度は私に視線が向く。

顧問は腕を組んだまま、淡々と語った。


「……いいか、佐伯。お前の走りに“正解の型”なんてない。体格も筋力も感覚も人それぞれだ」


「人の意見を鵜呑みにするな。

必要なのは、自分の体に合うものを“選ぶ力”だ。

誰もそれは教えてやれない。自分で探せ。それが選手だ。わかったか?」


私は息をのんだ。


「……はい」


(答えは自分の中にしかない。

誰も教えてはくれない……)


顧問は淡々と続けた。


「佐伯は帰れ。無理するな」


「……え?」


「葛城。お前は練習を続けろ」


「……はい」


監督室を出た私は、葛城くんに小さく会釈してその場を去った。


葛城は何も言わず、ただ背中で黙ってそれを受け止めた。


冬の風が昇降口を吹き抜ける。

私は静かに、自分のフォームについて考えながら校庭を後にした。


(“正しい走り”は自分で作る……

それが、アスリートなんだ)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ