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YAMAGUCHI DEAD END  作者: 遠藤信彦
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鬼神

「うわぁ〜ぁ!、ダメだ!こっちはもう、もたん!」

「堪えろ!おまえ、嫁が食われてもええんか!」

「つ、強すぎる!なんなんだ、こいつは!こんな見た目はジジイなのに20人はやられたぞ!」

「あぁ!ダメだ!コイツら人を食いながら向かってきやがる!」


徳島は簡単に通過できている。相手になっていない。ミノルは着々と奴隷と部下を蓄えながら北西に進んでいく。目指すは香川、高松だった。

ミノルの働きぶりは凄まじかった。お付きの人夫に大きなカゴを持たせ、何本もの木刀を入れている。相手の頭蓋をその木刀で叩き割り、脛を祓った。一度の戦闘で何度も木刀が折れるので、今では彼専用の木刀工夫が二人おり、戦場では足の俊敏なものがミノルの側に付き、木刀を手渡す係になっている。そのあまりの木刀の消費量を見かねた人物がある日、木刀ではなく金属バットを勧めたらその場でミノルに喉仏を潰された。それからは誰も何も言わなくなった。ミノルの木刀に対する愛着と執着が見てとれた場面だった。

香川に近づくにつれて相手の物量が豊富になっているような気がした。もしかしたら香川から食料や物品の支援を受けているのかもしれない。それでも今のミノルたちの敵ではなかったが、油断はできなかった。戦闘や戦術に長けているものはいくらでもいるし、それを支える香川の豊富な食料は侮れなかった。

徳島と香川が特別友好関係にあるとは思えなかったが、どう考えてもこの混乱の時代に他藩国県と仲良くする義務も利益もあるはずがない。小さく強く纏まった方が飯が食えるのであるが。

『我々の存在と侵略に気づいて徳島が香川に頼っているのかもしれんね。』

潮田豪蔵と山本圭一郎がミノルの横で談義している。もしかしたら我々の行動もずっと見張られているのかもしれないと潮田は言った。

『通信が生きているとは思えんが、何かの理由で携帯電話などが生きちょったら厄介じゃね。ワシらぁが何処におるんか筒抜けじゃあね。』

『ラジオ通信、モールス通信かもしれんけどね。発電くらいはできるじゃろうけぇね。まあ、対策は考えんとね。ワシらにとっては久しぶりのしっかりした組織の相手じゃけぇ。』

ミノルは二人の言葉を聞いていた。過去にミノル達は島根と鳥取で跳ね返されている。それが大阪、和歌山に流れた理由でもあった。島根、鳥取、両藩ともしっかりと組織を組んでおり、兵隊も強かった。あの頃と比べてミノル達も組織としては熟練、洗練しており、今では負ける気がしないが、過去の敗戦と向き合って弱点を補っていかないとならないと思っている。

『どれくらい兵隊は増えたんか?』

ミノルが久しぶりに口を開いたので潮田はびっくりしたが、冷静に答えた。

『もともと悪うて根性がないんが1000人くらい、こいつらは殆ど戦わんと軍門に降った。あとは子供や嫁を人質に取られて泣く泣くワシらについたんがやっぱり1000人くらいかね。10日前と比べると2000人くらい増えたんじゃないかね。』

『純粋に昔からおるんはどれくらいかいね?』

白い顎髭を撫でながらミノルは遠くを見ている。

『純粋に広島のモンは100人もおらんじゃろうね。みんな長旅で死んじょるわいね。今側近でおるんも旅の途中で拾うたんが多いわいね。それでも皆ミノルさんに心酔しちょるんが多いけえ、心配いらんよ。ミノルさんと一緒に死んでもええと思うちょるんは300人はおるわいね。』

『この300人を本隊として、烏合の衆が2000か・・・・。』

ミノルは少し気掛かりであった。今は快進撃を続けており、忠誠心のない者達を手なづけられてはいるが、それもいつ裏切られるかわからない。

『心配しちょるん?』

あんならぁ、力で抑え付けちょきゃぁええんじゃ、と山本が笑顔で付け加えた。


この会話の後のミノルの働きぶりは鬼神を思わせた。誰も彼に敵うとは思えなかった。彼に続けば心配ないと思わせた。心無い根性無しも、家族を人質に取られた奴隷達でさえもミノルに従えば今後は大丈夫だと思った。


そして遂に香川との藩境を跨いだ。



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