友ヶ島
彼の武器は木刀だった。なんの変哲もないお土産屋さんで見かける木刀だ。やんちゃな高校生でも買わないだろう。その木刀を自在に操る。見る者を魅了するほどの美しい剣技だった。
彼には剣道や居合術などの心得があったわけではない。完全なる独学だ。基礎はあった。格闘技の基礎だ。彼はレスリングと柔道で日本のトップクラスだったのだ。鍛えに鍛えられたその体躯は重たい木刀をまるで小枝のように振り回す。
彼の振るった木刀は正確に相手の喉を射抜き、目を抉った。時にはその木刀を反対に持ち、持ち手の太い部分を棍棒のように使い、相手の頭蓋を粉砕した。決して力任せではない。表情にも余裕があり、まるでオーケストラの指揮者の指揮棒にしか見えなかった。
「いつ見ても惚れ惚れするねぇ。」
「絶対に3年以内に抜いてやる!」
潮田豪蔵は感嘆を、山本圭一郎は嫉妬を隠しきれないでいる。両者ともミノルを尊敬して止まなかった。
友ヶ島への運行は困難を極めた。地元の漁師を十分に集めることができず、素人の船頭の船が数隻いた。案の定、ついてこれない船があり、逸れてしまった。不思議な事についてこれなかった船に乗っていた男たちは皆笑っていた。笑顔でミノルたちに手を振り、別れを大声で伝えた。きっと殺戮の毎日から解放されたかったのだろう。自死への渇望がそうさせたのかもしれない。
約100名ほどで友ヶ島に上陸したミノルたちだった。戦争前は無人島であった友ヶ島であったが、今では大阪からの避難民や、都市部を避けたい人たちが点々と自給自足の集落を構えていた。
島の男たちは家族を守るために必死で戦ったが、もともと団結して戦う意識も少なく、訓練も受けていない。ミノルたちの格好の餌食となった。
『ヒャッハー!!バカだぜこいつら!!なんでこんなにも無防備なんだ!!』
『子供がいるぜ!!久しぶりだ!うまそうだ!!』
『広島じゃぁ!!観念せぇや!!』
ミノルが木刀を持って走り抜ける。目の前に立ち塞がる男の眉間に木刀を突き立てる。一瞬である。遅れてやってきた男たちが割れ先にと肝臓を取り出して食う。ミノルの横には大金槌を振り回している山本圭一郎がいた。ミノルに引けをとらないくらいに、軽々とその大金槌を振り回す。相手にあたればかならず吹き飛ばしている。潮田豪蔵は両手にナイフを持っていた。派手さはないが静かに相手の喉を切り裂き、手首を切り落とし、アキレス腱を切っていった。一番殺戮に長けているのはこの潮田かもしれない。
我が子を守ろうと必死になって鍬を振り回している男がいた。猟銃で戦っている男がいた。幼い子供と一緒に海へ飛び込んだ女がいた。殺される前に自決する人も少なくなかった。農作物は根こそぎ取られ、女子供は食われ、男は奴隷となって作業している。この男たちもゆくゆくは食べられるのだろう。
『どれくらいここに滞在できるじゃろうか?』
食料係の潮田はミノルに聞かれて3週間程度と答え、
『これから西か南に行きますが、そこにも集落があるかもしれんけぇ、そうすればもっと長くなりますいね。』
と足した。
ミノルはじっと考えた。普段から喋る方でもないし、表情をあまり変えない。周りの男たちは今ではもう慣れてしまって、気長に答えが出るのを待っている。
『今すぐ出よう。』
『出ますか?』
『ありったけを船に積んで徳島に入ろう。士気が高いうちに徳島に入ってそこでゆっくりしよう。』
『男たちはどうします?』
『血を抜いてバラしたら船に乗るじゃろ。内臓は今から食う。』
潮田は部下に男たちを吊るすように指示をした。




