表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
YAMAGUCHI DEAD END  作者: 遠藤信彦
25/25

攻める 2  ミノル

笑顔のままの山本が膝から崩れ落ちた。眉間には赤い穴が穿かれていた。後頭部には眉間よりも大きな穴が開き。そこから脳みそが見える。

その瞬間、100名の広島鬼道が動いた。皆一斉に香川に向けて走り出した。だれしもが山本みたいになりたいと思った。山本の肝臓を食いたいと思った。山本の意思を注ぐのは俺だと思った。香川の人間と戦うよりも、山本の亡骸を欲しいと思った。

『来いや!!くそ外道!!!』

香川からも勇敢なものから前に出始めた。ここを突破されたら奥にいる自分たちの家族に被害が出てしまう。親族が皆、広島に喰われてしまうかもしれない。明らかに老齢だと思われる男達が率先して前へ出た。自分が死ねば若い子供達に優先して食糧が回るし、これから先に介護などで迷惑をかけることもなくなる。可愛い孫のために死ねるのだという強い喜びが老兵の体を奮い起こした。

新村新太という60を過ぎた香川の老兵は、鉄製の鋤を何本も括り付けた原付で突っ込んだ。そのホンダの原付は先頭を走っていた広島人を突き刺したあと、前のめりに転倒した。体を強くアスファルトに打ちつけた新村ではあったが、雄叫びと共に立ち上がり、2本の鎌でミノルのいる本陣に向かっていった。

吉田康二という40代後半の両足の無い男性は、電動車椅子にダイナマイトをくくりつけて突撃した。生まれつき体の不自由な自分を何不自由なく育ててくれた両親に、そして博士号を得るまで地域ぐるみで自分を支援してくれた自治体に対しての恩返しを、最後の孝行をしたいと自ら志願したのだ。吉田は一斗缶いっぱいの灯油と共に自分を爆破させ、少なく無い数の広島人を巻き込んだ。そしてその炎は橋の半分を焼き、人が通れる場所を制限し、香川側の狙撃手の仕事を容易にした。ひとり、またひとりと広島人が倒れる。香川側からは銃声に負けないほどの泣き声が聞こえる。


『分が悪いな。』

ミノルは冷静だった。もともと死んでも良いと思っているので慌てることもない。目視で仲間が20人は倒れている。たぶん死んでいるだろう。70人であの砦を獲れるだろうか?木刀を振り回しながら考えている。

『考えろ。考えろ。考えろ。』

自分に言い聞かせながら木刀で相手の頭を撃ち抜く。血や脳漿が飛沫のように飛び散る間を走り抜け、次の一撃を加える。

『10人ほど連れて裏にまわってくれ。たぶんそれで落ちると思う。』

近くにいた仲間に指示を出す。ありったけの銃火器を持たせた。

『時計を持っている奴は聞け!1時間後に総攻撃だ!』

何人かが頷いた。みな信じられないほど落ち着いた顔をしている。

『死にたい奴だけ俺に続け!!』

ミノルはそう叫ぶと相手の大将がいるであろう丘の上に向かって走り出した。



1時間後、ミノル達本隊と裏に廻った搦手が一斉に突撃しようとした時、大きな音と共に飛行機が見えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ